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システムナビゲーションと一緒!  作者: ハヤニイサン
第一章SYSTEM NAVIGATION
6/29

シスナビとの語らい Talking is pleasant

「じゃあ、お互いのしこりが取れたところで、

 今度は、これからの会話に支障をきたすと不味いから、

 俺の脳にどれだけ干渉出来るか教えてくれるかな?」


『勿論です。

 今回はシステムに関わる事象はなるべく省きますけど、

 良いですか?』


「うん、そうだね。

 システム周りに関しては、今話しても複雑になるだけだから、

 その時に話してくれればいいよ。」


『それでは、私の出来ることは総じて二つです。

 一つは、先程も言った、感情の読み取り、

 二つは、記憶の共有です。』


「うん?

 さっきの会話だと、記憶は読み取れないって言ってたような?」


『では、まず記憶の共有からお話しますね。

 結論から言えば、記憶を共有すると言いましたけど、

 正確には共有するのは映像記憶です。』


「映像記憶?

 あー なんとなく解ったかも。

 要は、これから一緒だから、

 映像としての記憶だけは共有する…と?」


『それで大体のところは合っています。

 もう少し私の出来ることに言及するなら、

 私は【システム(・・・・)ナビゲーション(・・・・・・・)の役割として(・・・・・・)

 ケンタロウ君の脳から様々な情報を引き出すことが出来ます。

 けど、引き出せるだけで、高度に(・・・)関連付けることは(・・・・・・・・)出来ない(・・・・)のです。

 つまり、記憶を構成する複雑で雑多な情報を上手く統合出来ません。

 これは、ケンタロウ君の思考を読めない理由にも関係しています。』


「ほー なる程ね…

 シスターシャは俺の過去を知らないから、エピソードとして構築出来ないんだ。

 で、これからの事なら、一緒に体験していくから構築可能……

 しかも、思考の方は、知識やその場の感情とかを

 それこそリアルタイムで観測して統合しなければいけないから記憶以上に難しいんだね。

 そういう事かな?」


『はい、ケンタロウ君の言う通りです。

 では、次に感情の読み取りです。

 これも記憶と同じように、情報として感情の起伏を

 大まかに喜怒哀楽に分けて引き出し、

 私がそれを推測するという方法を執っています。』


「へぇー 推測な訳だから、一応正確な所は解らないんだね。

 あっ!そうか。

 情報を引き出せるから、俺と話が出来ているんだ。」


『ケンタロウ君とお話が出来ている理由は、少し違います。

 お話し出来ているのは、

 【システムナビゲーション】として起動した際に

 多少の認識の摺り合わせを行い、

 2分程のインストール時間中、高度に摺り合わせた(・・・・・・・・・)おかげです。』


「うーん…

 情報と認識の違いがよく解らないな…」


『ほぼ同じと考えてもらって問題ないです。

 敢えて言えば、私は情報を引き出せはしますけど、

 ケンタロウ君と知識(・・)を共有できません。

 できないので、このようにお話しをする必要があります。

 …それよりも、

 後々システムに関して説明する時に改めて説明しますので、

 今は覚えておくだけでいいですよ。』


「解った。

 それじゃあ、

 次はそのシステム関連について訊いていく事になるけど、

 小休止の意味合いも兼ねて、訊きたい内容をまとめる為に

 少し時間をくれるかな?

 ちょっとその間、

 シスターシャが手持無沙汰になっちゃうのが心苦しいけどさ。」


『そうですね…

 私が顕現してから、ずっとお話しし通しでしたからね。

 私の事は気にしないでください。

 いい機会なので、

 この辺りをケンタロウ君の目の届く範囲で見てますから。

 といっても、

 私の行動限界はケンタロウ君の視界の届く範囲ですけどね。』



 そう言って、楽しそうに微笑みを浮かべながら、辺りの木々や花々を見ている。

 時折、止まっているゴブリン君ちゃんの事を気にしている様子であるが、それでもこの世界に顕現できたことが嬉しいのか、彼女の弾むような感情がこちらまで伝わってくるようである。


 今は楽しそうに周囲を見てるけど、俺との会話はどうだったんだろう?

 会話と言っても確認事項ばかりだから、楽しいはずないか……けど、楽しく思ってくれてたらいいな。



 って 何考えてんだ、俺は。

 シスターシャに訊くべきことはまだ多いんだから。集中集中…っと。



 さて、システムに関しては、【能力値】の〈Immortal〉についての詳細。【思考加減速】の倍率変更ができるかどうか。【無限アイテムボックス】の管理を委任できるかどうか。

 ぐらいかな。


 後は、ゴブリン君ちゃんを久しぶりに見て思ったことだが、彼奴らの種族が、この世界の圧倒的多数の人種である可能性に俺は思い至ってなかった。

 その理由は、ゲーム世界を下敷きにしていると勝手に勘違いしていたというのもあるが、それ以上に、言葉が理解できなかった事に起因する。


 言語の問題。これはかなり不味いのではないだろうか。

 シスターシャの場合は、俺と認識(・・)をインストール中に摺り合わせて、会話を可能にしたと言っていたが、

 この世界の住人に対して俺たちの様な真似は出来ないだろう。もし可能であっても、手段としては迂遠に過ぎる。


 懸念事項としては、言語機能もシステムの内に収まるのか?という疑問だ。まぁ、これも訊くリストに入れておけばいいだろう。

 最悪の場合はたとえ迂遠だとしても、この加速空間を利用して乗り切るしかないだろうな…



 うーん、今はこんなトコか。

 他に何か疑問が出た時にまた訊いていくって事で良いな。


 よし!話し掛けよう。うん、話し掛けるぞ…

 あーなんか緊張するな…こんなに人に話し掛ける事が怖いなんて久しぶりの感覚だ。


 今のシスターシャは嬉しそうで、それでいて楽しそうだ。



 この現在いる場所は、森が開けており、ちょっとした広場になっている。といっても直径5メートル程の空間だ。

 森の木々は鬱蒼と生い茂ってはいるが、木々の隙間からは微かに木漏れ日が漏れている。

 対する広場は、この一角だけ光で満ちている。


 その中で、彼女の存在感は圧倒的だ。光の女神と表現しても言い過ぎではない。当然、俺のフィルターが掛かっている。

 そう、彼女は光なのだ、希望に満ち溢れた存在なのだ。

 それに引き換え俺はどうだ?……まさしく闇だ。絶望を体現したかの如き顔の醜さ。心の様相が顔に現れやすいというが果たして俺はどうだろうか。


 そんな俺が話し掛けた途端に、現在の彼女のポジティブな雰囲気を…輝きを失わせてしまったら?急に冷めた表情を俺に向けてきたら?

 そう考えるだけで、恐怖で足が竦みそうになってしまう。勿論感情に出すヘマはしないが……



 本当にどうしたのだろう。こんなにもドギマギする事になろうとは…

 ただ、そんな気持ちとは裏腹に、彼女と…シスターシャともっと話したい自分が居る事実。


 故に、話し掛けないという選択肢など端から存在し得ないのだ。


 それに、そもそも……



「シスターシャ!

 お待たせ。

 訊きたい内容が纏まったよ。」


『はい!

 全然待ってませんでしたよ。

 楽しく見てましたから。

 今度は、止まってない風景も見てみたいですね♪』



 何時と変わらない(・・・・・)超然とした笑顔を浮かべながら、俺に返答するのである。



 そうなのだ。

 俺の内に秘められた常闇は、彼女という希望の光に照らされて、ただの陰りでしかなくなった。

 俺は変われる。俺は彼女と一緒なら…変われるんだと信じることが出来る。そんな笑顔。



「そうだね。

 俺もこっちに来てすぐにこの加速空間を発動したから、

 もっと景色…世界を君と見て回りたいな。

 世界の事なんかは、知らないワケでしょ?」


『世界ですか…

 私はシステム…世界の仕組み以外の事は知りません。

 地域其々の風景、風土、風習…

 知りたい事は沢山ありますけど、

 きっとケンタロウ君となら楽しく見て廻れますね♪』


「それじゃあ、ちゃっちゃと訊いていきますか!

 準備は良いよね?

 折角、加速空間の話題になったから、

 まず【思考加減速】の事について訊くけど、

 この倍率ってシスターシャの方で調節出来るのかな?」


『私の方で倍率を細かく変更して発動する事は可能です。

 但し、ケンタロウ君の方での調節は難しいです。

 ですので、倍率を変更したい場合は私に相談してくださいね。』


「やっぱそうか。

 それなら、その時は頼むね。

 あと、もしもシスターシャが必要だと思ったら、

 遠慮なく【思考加速】を任意で発動してもらっていいから。

 倍率も最高値でいいし。

 ただ、【思考減速】は本当に必要だと思った時以外はやめて欲しい。」


『はい、解りました。

 【思考減速】は私たちが時間に取り残される可能性が高いですからね。

 もし発動しなければならなくなっても、十分に考えて発動しますね。』


「よろしくね。

 次は、【アイテムボックス】だけど、

 君に管理を委任する事って出来るのかな?

 もし大変そうなら委任せずに俺の方で何か考えるけど。」


『出来ます。

 それに関しては、

 【システムナビゲーション】に標準で搭載されている機能なので

 私の負担にはなりません。

 高次元に専用の亜空間が創造されていますし、

 ケンタロウ君は気にせずにいっぱい物を収納してください。

 私がちゃんと管理しますので、

 出す時に言ってもらえれば、任意の物を選んで出せますから、

 安心して私に任せて下さいね。』


「うん、管理はお願いします。

 それにしても、標準搭載されている機能か…

 もしかして、スクリプト…プログラムみたいなモノを組めるのかな?」


『プログラム…かどうかは解りませんけど、

 一から作るのは難しいですね。

 出来ないことは無いと思いますけど…

 既存の…【システムナビゲーション】に既にある機能を

 お互いに関連付けて実行する事は比較的容易に出来ますね。』


「それ、それだよ。

 簡易スクリプト的な事は出来るんだね。

 じゃあさ、【システムナビゲーション】で出来る事って

 機能別に教えてもらえるかな?」


『ごめんなさい。

 原則として、

 出来る事は、具体的に言ってもらわないと詳細が解らないのです。

 これも先程言っていた、認識の問題になるのですけど…』


「ちょっと待って。

 認識っていうのは、

 ある概念、物事を知覚するって意味合いでいいのかな?」


『…はい。

 曖昧でも機能名が知覚出来ていないと詳細が不明になります。

 そうですね…この場合(・・・・)の認識は、認知(・・)の方がより適切になりますね。』


「なる程ね…

 違う場合(・・・・)の事も気になるけど、

 先に解決しなければならない事があるんだ。

 俺たちは認識を摺り合わせて意思の疎通がスムーズに行っているけど、

 この世界の人との意思疎通は、

 【システムナビゲーション】でどうにか出来るかな?

 要は、翻訳機能みたいなものがあればいいんだけどさ。」


『…丁度【システムナビゲーション】には翻訳機能が備わっていますね。

 機能としては、他者の言語を文字として翻訳し、

 文字に起こされた文章を読み上げるだけの機能みたいです。

 この場合だと私ですね。

 但し、読み上げる必要上、会話のテンポを崩すことに繋がりかねません。

 その上、ケンタロウ君がしゃべる時に他言語に翻訳はされますけど、

 翻訳されたものを私からケンタロウ君へ伝え、

 ケンタロウ君が口に出すという工程が必要ですし、

 また、固有名詞の翻訳に難があるのも問題です。

 私たちの場合は、

 ケンタロウ君の脳を介在した契約に依って上手く行きましたけど、

 私たち以外の人達には…うーん…』


「さっき話題にした、

 簡易スクリプトで、使えそうな機能を連結してやれないかな?」


『それです!

 私たちの様に高度な(・・・)認識の摺り合わせ(・・・・・・・・)というのは、

 契約の副次的な効果(・・・・・・・・・)なので出来ませんけど、

 【システムナビゲーション】起動時に使用(・・・・・・)した

 簡易的な(・・・・)認識を摺り合わせる(・・・・・・・・・)機能と

 ケンタロウ君の脳から情報を引き出す機能を用いれば…

 何とか出来そうですね。』


「そっか、出来そうなんだね。

 これって、シスターシャが居てくれなかったら

 物凄く面倒な事になってたよね。

 本当に有り難い事です。」


『ケンタロウ君……

 はい、このようにケンタロウ君のお役に立てて

 私も嬉しいです♪』



 おっ…おうふ…

 なんてエエ子なんやろう…


 それに引き換え、俺なんか…この後に待ち受けている事にビビり始めているというのに……


 そう、まだ一番重要な事(・・・・・・)が残っている。


 ただ、それは俺にとっては重要な事であるが、

 高次元生命体の彼女(・・・・・・・・・)にとっては些末な事(・・・・・・・・・)なのかもしれない。



「ふぅ…

 具体的な翻訳機能の検証は

 その時が来てから、という事にして次に進めようか。」


『ケンタロウ君…?

 もしかして、無理をしていませんか?』


「えっ!?

 何で急にそんな事を?

 別にそんなことないけど。

 一体どうしたの?」


『いえ…

 私はケンタロウ君とのお話が楽しくてしょうがないのに

 今のケンタロウ君はあまり楽しそうではないので…

 私の勘違いなら済みません…』


「いやいやいや。

 お話って言っても、ほぼ事務的な会話だよね?

 だいたい、楽しくない訳が無いじゃないか!

 君みたいな綺麗な女性とお話しできるなんて、

 これまでは俺の一生涯に有るか無いかの事だったんだからさ。

 因みにだけど、

 君の様な…てか、君と似て非なる感じの子と話すだけでも

 俺ぐらいのキモイ奴だとお金を沢山払わなきゃいけないからね。

 そんなお金を払ってまで似非美女なんかと話すより、

 君と他愛もない会話をする方が…

 万倍、いや一兆倍いやいや、無限大以上に大切な時間だと思ってるから!」


『……』



 ヤ、ヤバイ…

 テンションが上がって変なこと口走っちまった…!

 あー 呆れられたか?いや、呆れられるだけならまだしも、引かれたりキモがられたりしたら……


 マズイマズイマズイマズイマズイ

 

 と思っていたら…



『フフフッ

 ケンタロウ君は面白いですね♪

 それに、ケンタロウ君は気持ち悪くなんてないですよ!』


「えっ!?」



 ちょっと拍子抜けだ。

 別に笑われるだろうと思っていたわけではなく、寧ろ、笑われる程度(・・・・・・)で済んでいるのか、と思ってしまった為だ。


 近頃は、女性に引かれる事や、キモがられる事のほうが圧倒的で、

 最後に面と向かって笑ってもらえた(嘲笑された)のは、記憶を引っ張り出す限り、中学生の時だ。


 しかし今は、そんな嘲笑話などどうでもいい。



 彼女の笑い方は…俺の内を遍く照らし出し、負の感情を追い出す。そんな笑い方。



『私は例え事務的なお話でも他愛もないお話でも

 ケンタロウ君とならどんなお話でも楽しいですよ。

 …こうやって、ケンタロウ君が一生懸命な表情をするのも

 真剣な表情をするのも、納得がいった時の表情、

 考え込んでいる表情、勿論嬉しい時の表情。

 色々な表情をするケンタロウ君とお話しているだけで

 私は楽しく思う事が出来るんです。

 有難うございます。ケンタロウ君♪』



 そう言って見せた笑顔は、怡然として楽しそうで、依然として眩しくて、温かい。


 これらの言葉は、彼女にしてみれば何ら特別ではないのだろう。


 だけど、俺にとっては特別だ。掛け替えのない言葉なのだ。



 …なんか、スッゲー馬鹿みたいだな、俺。

 ただ単にシスターシャは心配してくれただけだ。

 俺が、この後に待っているであろう展開に気後れして、息を詰めてしまったことに。


 ホントに情けない。

 こんなことを素面で言ってしまえる良い子に、俺の覚悟が足りないばかりに気を使わせてしまったことが。



「心配掛けてごめんよ。

 この後の事で少し気後れしただけだったから。

 …そして有難う、シスターシャ。」


『そんな…

 私こそケンタロウ君の気持ちを察する事が出来ずに

 お話の腰を折る事になってしまいました…』


「いいんだよ、シスターシャ。

 俺だって君との会話なら、何だって楽しいんだから。

 それこそ、今のやり取りだって

 後々楽しい思い出として思い返せるだろうしね。

 …それじゃあ、気持ちを切り替えて

 残りの事も済ませてしまおうか。」


『はい♪

 ケンタロウ君。』



 やっぱり、彼女と居れば何もかもが色鮮やかに…光輝いて見えてくる。


 彼女と一緒なら、変われるんだと信じることができる。






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