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システムナビゲーションと一緒!  作者: ハヤニイサン
第一章SYSTEM NAVIGATION
5/29

シスナビとの語らい Her name is...



『これより高次元システムAIを起動します』



 そうシステムメッセージが聞こえ、

 幾許もしないうちに彼女は(・・・)今までそこに居たのが当然の様に、突如として現れた。




『初めまして、ノボリバタケンタロウ様。

 私は、システムを司る高次元生命体です。

 貴方様の脳を依代として契約し、

 【システムナビゲーション】の代替をする事に依って

 こちらの世界に顕現しました。

 若輩の身ではありますが、これから宜しくお願いしますね。』



 と言いながら、微笑みかけてくる。


 突然の事に若干戸惑いを覚えながらも、先程決意をしていた事もあり、動揺とまではいかなかった。なので、いくつか疑問に思った点を尋ねてみることにする。

 ただ、ここまで面と向かって女性の笑みを見たのが、中学生の時以来だから、その点に関しては酷く動揺しているのだけれども……



「こちらこそ、よろしくお願いします。

 その…いくつか君の言葉で得心のいかない事があるんですけど…

 訊いてもいいですか?」


『勿論、構いません。

 それと、私に対してもっと気安い感じでも構いませんよ。

 私たちは対等の関係として契約していますから。』


「…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね。

 早速だけど、その契約の事について説明してもらえるかな?

 いつ契約したとか、どういった手段で、とかさ。

 あっ!

 大前提として、俺の事情については把握してる?

 この世界の人間じゃないとか、

 異常な能力値に関してとか。」


『はい。

 そう言った事情に関しては、言語と同様に

【システムナビゲーション】に関する認識(・・)の摺り合わせとして済んでいます。

 では、契約に関して説明しますね。

 通常、私たち高次元生命体は、この次元に存在していません。

 例外として、存在している者も居るには居るのですけど…

 そういった者たちもこれと言って、稀な存在というわけでもなく…

 そうですねぇ…

 済みません。

 まず、契約について説明する前に高次元生命体について説明してもいいでしょうか?』


「うん、説明することで解りやすくなるなら、此方としても願ったり叶ったりだよ。」


『はい。

 それでは、私たち高次元生命体についてですね。

 ケンタロウ様達が居る次元の言葉で簡単に言うなら、

 神や天使、精霊といった存在。

 果ては如来や菩薩、明王、等を複合した存在と言えます。

 その中で、私たち高次元生命体は其々役割を受け持っています。

 私を例にするなら、

 私はシステムを司る新米の高次元生命体なので、

 位としては…いささか語弊が生じますけど、

 菩薩相当になるでしょうか。

 勿論その位の中においても新米なので、新米の新米になりますね。

 ここまでは良いですか?』


「うーん…

 もしかして、高次元生命体っていうのは、

 輪廻転生の輪から解脱、涅槃に至った(悟りを開いた)人の事を言うのかな?

 菩薩は悟りをまだ開いていない段階だけど、位階として考えるならそうなんだよね?

 凄く妙な言い方をすれば、

 悟りを開かなくても涅槃(高次元)に至れてしまう、って感じかな。

 それなら、君が新米新米って自分を卑下するのも解る気がするな。」


『そうです。

 その認識で合っています。

 但し、その意味合いで言うなら、涅槃に至るのは人だけではありません。

 比較的至りやすいのが人というだけであって、

 動物さんも虫さんも皆其々に至る可能性を内包しているのです。

 また、そういった人以外の生き物で涅槃に至った存在が

 この次元に多く留まることが多いのも事実です。』


「あぁー なる程、だからこの世界に居るけど稀とまではいかないって言ってたのか。

 …じゃあ本題に戻るけど、君が俺と契約したってのも

 君がシステムを司っている関係から…

 【システムナビゲーション】が鍵って事だよね?」


『はい、その通りです。

 【システムナビゲーション】を介して契約を交わしました。

 具体的な流れとしましては、

 まず、外部、高次元からケンタロウ様の【システムナビゲーション】にハッキングを掛け、

 ケンタロウ様の脳を私の依代にするために、私自身と直接パスを繋げました。

 その後、システムAIをインストールするという形をとって顕現した次第です。』


「うん?ちょっと待って。

 君がどういう手段で、俺の脳を依代に顕現したかは解った。

 けど、俺は君といつ契約を交わしたんだ?」


『そ、それはですね…

 ケンタロウ様は既存の霊体の様なモノ(・・・・・・・)を出現させようとしていましたよね?』


「あー プリセットされたシステムAIの事かな?

 やっぱ、あれってタルパで、しかもあやふやな存在だったかー

 で、それがどうしたの?」


『その…私はシステムを司っているので

 必然的に【システムナビゲーション】を担当しているのですけど…

 その霊体を出現させる過程で、

 ケンタロウ様からとても素敵な言葉を掛けてもらって…

 それがそのまま契約を交わした事になってしまった…というか

 私の気持ちを抑えきれずに無理矢理交わした…といいますか…』



 はぁ?何かこの高次元生命体さんは、滅茶苦茶な事を言っている気がするのだが、気のせいか?

 要するに、俺のあの恥ずかしいセリフを聞いて勝手に契約して、顕現したって意味だぞ?

 それって世間では、押し掛け女房って言いませんかね?無い?自信過剰過ぎる?自分の顔を見て冗談を言え?はいはい、解ってますよ。己の身は嫌っていう程弁えてますからね。


 それより、この高次元生命体さんは、モジモジして此方をチラチラと伺いながら言っているので、非常にキュートだ。

 まぁ、自身の失敗談(・・・)を語る程嫌な事はないからね。その上、新米っぽいしな。うん、フォローしてあげよう。けど、妙に人間染みてる(・・・・・・)な…これも新米だからか?



「要するに、契約内容は俺の傍に居る事…なんだね。

 しょうがないよ。

 誰にだってこういう事は起きるよ。

 俺だって、誰かに聞かれてるとは思ってもみなかったんだから…

 普通はあんな面映ゆいセリフを、それこそ面と向かってなんか言えないよ。

 君が自分から契約を切れないなら、何なら俺の方から…」

『待ってください!

 ケンタロウ様は何か勘違いしているのでは!?

 私は契約したことを後悔していません!

 私が恥じているのは、自分の衝動を制御できなかったことです。』


「そ、そうなんだ…

 てっきり、俺なんかと契約した愚かしさからかと思ったんだけど。

 いやぁー それにしても、あんな出鱈目(・・・)に言ったセリフでも、

 こんな綺麗な人が俺みたいな変な奴とコロッと契約を交わしちゃうなんてさ、」


 傑作だよね。と空気を入れ替えるため、茶化そうとしたら…


『そんな!あの言葉は出鱈目なんかじゃありませんでした!

 少し言い出し難かった事ですが…


 …この際だから言います。

 私はケンタロウ様の脳を依代にしていると言いました。

 それがどういう事なのか、

 ケンタロウ様も薄々気が付いている筈です。』



 その言葉で、冗談染みた思考から、瞬時に冷静な思考に、これまでのやり取りで多少浮ついた心持ちが霧散した。


 …そうだ。今俺は、この目の前に居る人為らざるモノに、己の内に侵入されている状態なんだ。

 もう既に操られているかもしれない。何か致命的な思考誘導を施されているのかもしれない……



『私は、ケンタロウ様の感情の起伏が解ります。

 推量では無く、詳細に脳を介在して伝わってくる、といった方がより正確ですけど。

 ですからこの場で、これだけはハッキリと伝えておきます。

 私は、ケンタロウ様の思考を読むことが出来ませんし、

 思い通りに操ったりなんて出来ません。

 それ以上に過去の記憶も伺ったりなども出来ません。』 



 嗚呼、この彼女の告白は不毛だ。正直、彼女の気持ちは楽になるかもしれないが…俺にとっては証明なんて出来ない、単に可能性の話でしかない。しかも低い確率の。

 だから俺は、素っ気無い態度で冷淡に言い放ってしまう。



「じゃあ、一体どういったことが出来るんだ?

 勿論、感情を読み取る以外でだけど。」


『信じていただけないのは、状況からいって無理もありません。

 それでも!

 ケンタロウ様があの言葉に乗せた感情は

 決して出鱈目で言っているのではありませんでした。

 私は、あの言葉は元より、

 あの言葉に込められたケンタロウ様の強い思いに…

 切なくも力強い、渇望染みた願い…

 それこそ生涯を掛けた愛の告白の様に感じました。

 私は、そんな思いを内に秘めている貴方だからこそ、

 傍に居たいと思ったのです。』



 やめろ…そんな綺麗ごとはウンザリだ…例えそんな様な事をあのセリフに込めていたとしても、俺があのセリフを言ったのは冗談でしかなかった……

 …だから…そんな歯が浮いた様な事を言うのはやめてくれ…

 恥ずかしいのもあるが、あのセリフは君の様な良い子を呼んではいけない、只の適当な…言葉を借りただけのセリフだったんだ…俺のセリフじゃないんだ……



『ケンタロウ様…

 今も落ち込んでいる感情を読み取れます。

 私の言葉は信じなくていいです。

 けど!

 あの言葉を言った、

 あなたの気持ちは信じてもらえませんか?

 私が素敵に思い、感情を…衝動を抑えきれなくなったのは…

 誰でもない、あなた自身の内側から出た、思いの強さなのですから。』



 そう言って、彼女は極上の、それこそ今までとは次元の違う笑顔を俺に向かって見せた。


 ……こんなの反則だろ!その笑顔、高次元生命体の面目躍如ってか!?うっさいわ!


 

 しかし……まずい事になった……


 彼女は未だ俺に向かって、常闇をも照らす、輝かんばかりの笑顔を浮かべている。

 俺は彼女の笑顔から顔を俯かせながら、そんな彼女の事を子細に、頭の中で焼き付けるように思い描いていく。



 彼女の髪は、初夏の風に揺れる麦穂の様な黄金色。その穂の流れは清らかに、何ものにも遮られることなく腰の頂まで流れゆく。


 まずい


 瞳は、新緑の季節を想起させる程力強く、希望に満ちた若葉色。目線は俺と同じ高さなのに、その瞳に映る景色は光と影で対照的だ。


 まずい…


 肌は、身がほっそりとした、産卵を終えた白魚の如く肌理細やか。清流の様な色合いのトルコの民族衣装、カフタンに似た衣を身に纏っている。


 マズイ……


 母性を象徴する頂は、エベレストまではいかないが、巨峰であることは間違いない。スタイルは俗に言う、ボンッキュッポンッぐらい。


 ヤバイ……!


 彼女の顔を直視することが出来ない。


 胸は動悸が激しく、咽喉の奥で何かが蠕動し、今にも口から出て来そうだ。だが、出て来るどころかその衝動は、徐々に上へと昇って行き、顔や耳、もはや頭全体に行き渡ってしまう。

 視界は端が黒くなって狭まり、耳はドクンドクンという音と共に耳鳴りが止まない。

 落ち着くために息をゆっくり吸っても、胸の衝動に因り空気が吸いずらい。苦心して取り入れた湿った空気と共に微かに匂う、恐らくは甘酸っぱい花の薫り…どうやら鼻も利きづらくなって来たようだ。

 このままでは、顔を上げるどころか立ってさえいられなくなってしまう。


 情けない!!


 こんなにも俺は純情だったのか!?


 落ち着け!落ち着け!落ち着け!


 と必死に思っていると、不意にそれまで感じていた諸々が治まり、心地の良い心臓のトクン、トクンと、余韻が身体全体に広がっていくのを感じながらも、落ち着きを取り戻した。



『ケンタロウ様?

 大丈夫ですか?

 何か急に焦ったような感情が伝わって来たのですが…』



 不審げ…というより不安げだ。もしかして心配させてしまっただろうか?

 そうだった。俺が動揺すれば動揺するほど、彼女に俺の感情が伝わってしまうのだから、このように心配させてしまう事になる。


 だが、それが俺を騙す演技じゃないと言い切れるか?

 否、言い切れない…


 しかし、ここまで来たのならどうせ一蓮托生。

 もうどうにでもなれ、だ。

 騙すなら騙してくれ。



 俺は、覚悟を決めた。腹を括った。

 俺は、彼女を信じてみることにする。いや、信じたい。


 違う……もっと彼女の事が知りたい。彼女に近づきたい。彼女に俺の事を知って欲しい。彼女に近づいてきて欲しい。



 認めよう…俺は…彼女に、彼女の若葉色の瞳に、心の内に差し込む木洩れ日めいた笑顔に当てられて、蕾が綻んでしまったのだ。


 

『ケンタロウ様?本当に大丈夫ですか?』



 認めよう。さっき迄の身体の不調は、その蕾の綻びからくる生命の激情だという事を。


 蕾が花開いた心地良さを身体全体で感じながら、彼女の不安を和らげるべく俺は口を開く。



「あぁ、ごめん。

 心配させちゃったよね?

 少し君の言葉を自分の中で整理してて。

 漸く答えが出せたよ。

 聞いてくれる?」


『!!

 はい、ケンタロウ様の答えを聞かせて下さい。』



 俺は、俺の気持ちを彼女に伝えることにした。



「俺は、君の事を信じてみようと思う。

 君が言うように俺の心は強い衝動を孕んでるかもしれない。

 ただ、多分同時に荒んでもいる。

 けどさ、君の言うような事はあまり重視してなかった。

 見ようともしていなかった。

 それを君が気付かせてくれた。

 教えてくれた。

 だからってわけでもないけど、

 君の事は信じてみたくなったんだ。

 …疑ってごめんなさい。」



 うん、言えるわけないよね。君の事が好きになったから信じます…なんてさ!

 彼女さ、俺のセリフを素敵な、それこそ愛の告白の様に感じてくれたわけだけどさ…

 それって、比喩だから。譬え事も譬え事、実際にそう思ったわけじゃないのよ。そうだよね?俺間違ってないよね!?


 はぁ…ヘタレですよ…どうせ根性なしですよ…罵ってくれて構いませんよ!!

 ぶっちゃけ、チャンスを掴んだと思ったら、こんな罠が仕掛けてあるとは思いもよらなかったよ!

 少し考えれば、チャンスの後にも試練なんかあって当たり前だというのにな!



『ケンタロウ様……

 私、嬉しいです!信じてもらえたのもそうですけど、

 私の言葉でそのように感じてもらえた事が。』



 そう言って、またもやあの次元の違う笑顔をおつくりになった。


 うっ……



 それはそうと、ちょっと気になるな……



「そういえば今更だけど、

 俺の事ケンタロウ様って呼んでるよね?

 対等な契約なんでしょ?

 だったら、様、なんて呼ばないでよ。」


『そうですか?

 でしたら、ケンタロウ君って呼びますね♪』



 コレマタ嬉しそうに俺をそう呼んだ……

 そこは、ケンタロウさん(・・)じゃないのね…俺的には、さん付けを期待したんだけどなぁ……

 いや、でもこれはこれでありかなぁ…と思い至る。

 まぁ、そんなチンケな事は彼女の笑顔で吹っ飛ぶわ!



 それよりもまだ、彼女の事で重要な事が残っている。



「うん。

 それで、これも今更なんだけどさ。

 君の名前ってまだ教えてもらってないよね?

 だから、教えてもらえたらなー なんて」



 言った途端、彼女は目に見えて落ち込んでしまった。



『…私は、新米と言いましたよね?

 システムを司る高次元生命体と言っても、

 私が司っているのは、ケンタロウ君の【システムナビゲーション】だけなのです。

 しかも、正確に言えば、【システムナビゲーション】と共に生まれた

 と言い換えても過言ではないのです。』



 はぁ!?えっと…つまりは、本当にホントの新参者だったわけだ。



「えーと、

 要は、君は涅槃(高次元)に至って直にシステム担当に回された、

 そういう事かな?」


『おそらく……そうだと思います。』


「おそらくって?」


『私自身正確な事は解らないのです。

 気付いたら、システムを司る存在として、高次元生命体になっていました。

 但し、それがどういった存在だとか、何をすべきなのかは、

 最初から解っていましたから、不都合なことは何もないのですけど……』


「え!?

 じゃあ、君の生前の記憶、況してや何処の誰だったかは覚えてる?」


『覚えていません。

 けど、生前は人間であったことは確かです。

 私の性格は生前の性格が元になっていますし、

 容姿も生前の…それも一番活力が溢れていた時期の姿形をしている、

 と直感ですが解ります。』



 なんてこった……

 この子…かなり行き当たりばったりな行動してるぞ……

 

 一つ確かなのは、彼女は今までかなり不安だったのではないだろうか?

 思い返してみると、自分で対等な契約と言っていた割に、俺の名前を様付けで呼んだり、かといって尊敬語じゃなくて丁寧語だったり。

 妙にチグハグで、行動の端々に人間臭さを感じさせていた。


 そう思ってみると、やはり彼女は不安だったのだろう。不安定だったのだろう。


 そんな胸中でさえ彼女は、俺の事だけ考えて行動していたではないか。胸襟を開いてくれたではないか。

 翻って俺はどうだ?俺は彼女を疑うばかりで、彼女の身になって考えもしないで……


 仮に、彼女が不安に感じていないにしても、それならそれで彼女の妙な言動は気になる。

 つまり、これ等が全て計算尽くなら、とんでもない悪女だが…流石にここまでくると予断を許さないし、その上考え出せば限が無い。


 俺は彼女を信じると決めたし、何より、惚れた弱みという奴だ。分っておくれ、恋は盲目なのだよ。



「そうか…ごめんよ。

 君の気持ちを斟酌できてなかった。」


『いえ…

 ケンタロウ君のその気持ちだけで充分報われます。

 それに、私は生前の自分の選択を信じていますから。』



 そう言いながら、この世を慈しむように、前世を儚むように、寂しさと侘しさを孕みながらも、何処までも清々しい莞爾とした笑顔を俺に見せつけた。


 こ、この子…何?この純真な様は…これが解脱を経験した生命の神秘ってヤツなのか?

 俺はこんな良い子を俺の傍に縛り付けておいていいのか?いいわけがない。こんな、無様な俺の傍に居るのは、世界の損失でしかないだろう。



 だけど、たとえそうだとしても、俺は……彼女の不安を利用する卑怯な方法であっても


 彼女と何か、縁を結びたい。

 契約以上の、クリティカルでディサイシブな、彼女との関係を決定付ける様な縁を。


 だから……



「その…君の名前さ、

 俺で良ければ考えてみてもいいかな?

 嫌なら、諦めるけど…」


『!!

 その提案は、私としても望外の極みです。

 私の方こそ、頼みたいぐらいでしたから。』


「そっか。

 よし、そうと決まれば、少し待っててね。」


『はい!宜しくお願いしますね。』



 では、まず現在の彼女は、システムを司る【システムナビゲーション】の化身なワケだ。

 そこを起点に考慮すれば…シスナビ、シスナビゲーター、シスター、シスターシャ、ターシャ、ナターシャ

 うん、名前はナターシャが良いかもしれない。

 名字は、シスターとゴータマを捩って、シスターマなんて善さげだ。

 


 ナターシャ=シスターマ 愛称は、シスターシャ



 うん!我ながら良く考えられたと自画自賛ではあるが、どうだろう?

 では、早速訊いてみようか。



「決めたよ!

 君の名前は、ナターシャ=シスターマ

 俺が呼ぶ時は、シスターシャって呼ぶことになると思うけど…

 どうかな?」


『ナターシャ=シスターマ……

 それに、シスターシャ…』



 彼女は、活力に満ちた輝かんばかりの瞳を閉じ、静かに名前を反芻しているようである。


 俺は、この瞬間、今までの夢現の様な気分から醒め、身体が緊張していくのを感じた。



 何せ、この命名は、別段に契約に関する事とはいえないが、

 彼女自身にとっては意義あることだろう。


 対して、俺にとっては、俺の邪な気持ちから端を発しているのが今回の命名だ。

 俺の汚い、浅はかな考えを彼女に見抜かれてしまいそうで、どうしても落ち着かない。

 感情に出すようなことはしていない…が、どうしようもなく


 騒めく…心が…心臓が…

 

 嗚呼、そうか。

 断られたら…彼女にすげなく否定されたら…どうしようか…

 そんな気持ちなのかもしれない。



 そうこう不安を感情に出すまいと努力していると



『ケンタロウ君。

 私の名前は、ナターシャ=シスターマです。

 これからはシスターシャと呼んで下さいね。』



 彼女は決然とした、それも嬉しさを秘めた表情で、言い放った。



「っ!?

 ということは、気に入ってもらえたんだね。

 心の底から嬉しいよ。

 改めてよろしくね。シスターシャ。」


『はい、此方こそお願いします。

 ケンタロウ君。

 素敵な名前をありがとうございます♪』



 楽しげに…嬉しげに…

 やっぱりあの次元の違う笑顔を見せてくれるのである。



 嗚呼…俺がどんな気持ちだって構わないじゃないか。


 これで、彼女と……シスターシャと一緒に歩んで行ける縁を紡げたと思えるのだから。






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