検証 Install AI
では続いての検証は……っと
そういえば、こういった異世界モノで、ステータス値が存在する物語なら〈ステータス表示〉が出来るんだったね。
「ステータスオン」
「ステータス確認」
「ステータス表示」
「能力値オン」
「能力値表示」
「能力値確認」
「カモン、ステータス」
うーん、出ない。
もしかしたら、何か出せる方法があるかもしれない。
だが、俺的には出ないというよりは、そもそも存在しないと思っている。
リアル世界においては、ゲーム的なステータス表記なんて出来るはずもない。
出来るにしても、脳内イメージや網膜、瞼の裏に表示される事なんて考えられない。
何か、身体検査や適性検査を受けて、その結果を教えてもらうのが精々だろう。
正直、これらに関して俺は【システムナビゲーション】が関わっていると考えているが……
まぁ、【システムナビゲーション】を検証する前に【無限アイテムボックス】を先に検証しておきたい。
接頭に付いた〈無限〉は、アイテムボックスの容量の事を指していると思われるので、容量の検証は後回しになってしまうけど……
まず、手ごろな小石に手を触れ、
「【アイテムボックス】オン」
と言った途端に手に触れていた小石が消え去った。
今度は
「【アイテムボックス】オン」
と言ったら小石が出現した。
えーっと、同一ワードでも結果が異なるという事は、つまりはどういう事になるんだろうか?
次は、目を瞑ってそこらにある物に適当に触れて試したが、同じように収納し、出現させることも出来た。
嫌な予感がしたが、気にせず小石を複数手して色々試してみた。
……
……
…
……結果は、手に一定以上の密度を持つ物質が触れていると収納になり、何も触れていなければ、収納している物を出現させた。
だが、小石は一つずつしか収納できないし、出現させられなかった。
さらには、いくらやっても収納させた順番通りにしか出現させられなかったのである。
つ、使えねぇー!!
いや、多分なんでも収納出来て便利っちゃあ便利だけど、こうも融通が利かないと有効に活用する手段が限られそうだ。
予想していた事ではあるが……
そこに真打登場!
ここでステータスの時にも言った【システムナビゲーション】の出番になるんですよ!!
俺の予想通りなら、【システムナビゲーション】を介すれば、こういったシステム周りを補助してもらえるはずなのだ!
では、張り切って【システムナビゲーション】の検証、行ってみよう!
「【システムナビゲーション】オン!」
……
…
…あれ?何も起きないぞ??
「【システムナビゲーション】作動」
「【システムナビゲーション】起動」
「【システムナビゲーション】アクテ
『【システムナビゲーション】起動シーケンスを開始します』
おおっ!脳内?か解らないけど直接、頭の内側から女性的な声が聞こえてくる。しかも、機械的な音声じゃない!
声質は、17歳っぽい年齢をそこはかとなく醸し出しているようだ、っておいおい。
『【システムナビゲーション】起動に際し
既存のプリセットされたシステムAIの
インストールシーケンスを開始します』
『システムAIをインストールしますか?
*警告!インストールしなければ、容量確保のためプリセットは削除されます』
うんっ!?ちょっと待てよ。
冗談を頭の中で繰り広げているうちに、【シスナビ】さんが妙なことを口走ったな。
〔容量確保のため〕の容量ってのは、多分俺の脳みその容量て事だよな。
で、この声自体の出処は兎も角としても、システムAIは俺の脳を使って創るっぽいぞ。
これも多分だが、既存のプリセットされているAIは、どうも以前試した〈タルパ〉の事だろう。
成功はしていなかったが、その残滓を有効活用するってことだと思う。
ただ、残滓を利用するという点は不安要素となるが。
まぁ、要するにシステムAIってのは、俺自身なワケだ……
更に、この【シスナビ】さんが俺の脳内で完結している、と考えるなら色々合点も行く。
この加速空間においても【システムナビゲーション】が正常に作動しているのは、俺の能力値を用いての出来事であるからだと思われる。
ただ、一つ疑問もまた生じる。
この一万倍の加速空間の中で正常に作動しているというのに、容量確保を目的として扱っている点だ。
つまりこの事から導き出される可能性としては二つ。
考えたくはないが、〈チートコード〉を駆使し、全能力値が〈Immortal〉である俺の脳みその容量が有限か、若しくは全能力値が〈Immortal〉でない可能性。
または、容量確保というセリフがテンプレートだという可能性。
だが、どちらの場合にしても何かが変わるわけでは無い。
そう、重要な事は変わらない。
それは【システムナビゲーション】がこの加速空間において俺と対話できる唯一の存在である事実だ。
俺は今まで考えないようにしていた……
ここではっきりさせておいた方が良いのかもしれない。
未だ、どのような原理で不変などという可笑しな現象が現実に起きているかは不明である。
だがもしも、全能力値【Immortal】が解除できない場合、俺は不死者になる筈なのだ。
その上【思考加速】や【思考減速】を用いていけば
もはや俺についてこれる存在は皆無だろう。
これからの永遠ともいえる人生において
俺は一人孤独に耐えられるだろうか?
正常な判断能力は維持できるのか?
まともな思考能力を保てるのか?
自殺を選択できるのか?
殺戮兵器になるのか?
人でなくなるのか?
俺は……何だ?
そう
もはや俺という存在は人の道からはみ出してしまったImmortalな存在なのだ。
だからこそ
それが自分自身だとしても、何時でもどんな場合においても対等に対話できる存在というのは、望外の存在であるはずだ。
だからこそ
システムAIをインストールするという選択肢は、俺の人生にとっての分水嶺、延いては運命の選択であるはずだ。
インストールするのは間違いないが、運命の選択であるからして、少しセリフを凝ったものにしたいのが現在の心情なのだ!!
俺は、以前からこういった機会があれば言いたかったセリフを温めていた。
そのセリフはぶっちゃけ好きな作品のオマージュというか、パロディというか……そのまんまなセリフだ。
しかも、お誂え向きにこの【シスナビ】さんの声はその作品に出てくるキャラの声にかなり似ていると来た。
これはもう、俺に言えという神のお告げだ!!
一擲乾坤を賭すべき時がきたのだ!!
フゥ……よし!!いい感じにテンションも上がったし、腹は決まった!!
「君の様なシステムナビゲーションにずっと傍にいて欲しい」
おし!言ってやったぞ!別にシチュエーション的にもそんなに可笑しくないしな!
我の念願叶ったりぃ!!
……
…
…うん?やっぱりこのセリフじゃあ認識されなかったかな?
「じゃあ、インスと…」
『外部からの強制Accessを確認…』
『Error!
外部からの強制Accessの際
インストールシーケンスが中断されました』
『高次元システムAIをダウンロード開始します
終了まで10…9…8…7…6…5…4…3…2…1』
『ダウンロードの完了を確認
高次元システムAIのインストールシーケンスを開始します』
『インストール要請が自動承認されました』
『インストールを開始します
終了まで120…119…118…117…116…115…』
って、おいおいおいおいおい
これは流石に俺でも予想外も予想外ですわ。
今も終了までのカウントダウンは進んでいる。
が、まず考えるべきことは〔外部からのアクセス〕という部分だ。
今までも、俺を異世界に転移させたり、脳に【システムナビゲーション】を介在させた存在がいた事は確かだった。
だが、直接しかも、リアルタイムで接触はしてこなかった。
外部から、直接接触を図られている現況。
その外部存在が俺に対して敵性であるかどうかが問題だろう。
しかし、それを無視すれば、これは俺にとってチャンスになる。
『…87…86…』
何故なら、インストールされるはずだったシステムAIは、何処まで行っても俺自身でしかなかった筈なのだ。
それが今現在、外部からのシステムAIをインストールしている。
そう、インストールが終了すれば、これからの人生において俺に付き添ってくれる、俺じゃない他者が存在する事に他ならない。
『79…78…』
だが果たして、俺はこのチャンスに飛び込めるのか?俺はもう、こういったチャンスを見限ったのではなかったか?
その上、外部存在が俺の脳に侵入するんだぞ?乗っ取られる危険性は?その危険性に目を瞑るのか?
冴えた…賢い選択なのは、インストールを強制終了する事なんだ。
そうだよ、プリセットされたシステムAIをインストールし直そう…そっちの方が危険性は低い…筈だ…
『…69…68…67…66…65』
……いや、違う。
俺は今日一日だけで、他者からの善意やチャンスを一体どれだけふいにした?
街コンに誘ってくれた、中井の善意。そりゃあ、俺を利用する気もあったのだろうが、俺に対する善意が無かったわけでは無い筈だ。
それに、もし街コンへ行っていたら、本当に…本当に天文学的に低い確率かもしれないが、良い人と出会えたかもしれない。
俺の趣味を見当外れであったかもしれないが、認めてくれた中古屋の店員。趣向は多少違ったかもしれないが、趣味としては合っていた可能性だってあった。
しかも、コミュニティに誘ってくれたのに、俺は会話を強制的に打ち切り、すげなく断ってしまった。
あの店員とは趣味が合わなかったかもしれないが、そのコミュニティでは、もしかしたら何かしらのチャンスだって転がっていたかもしれない。
『42…41…』
今日だけじゃない、俺は数多くのチャンスを今まで歩んできた人生で棒に振ってきたかもしれない。
だからといって俺は隠遁生活を送っているわけでは無いし、他者との関わりを拒んでいるつもりもない。
ただ……ただ怖いのだ。チャンスだと思ってやった事がチャンスでもなんでもなかった時が。
ただ……及び腰になっているだけなのだ。これまでの経験の所為で…いや、単純に俺が臆病になっただけなのだろう。
何かと理由を付けて、断る理由ややらない理由を…チャンスに飛び込まない理由を論っていただけなんだ。
『19…18…17…16…15…』
だから、だからこそ……
今度こそ 俺は……このチャンスに掛けてみたい、いや、俺は俺じゃない他者を望みたいんだ。
さっきのセリフは憧れもあったけど、
それ以上に俺自身の心からの言葉なんだ。
もしかしたら、気が置ける犬猿の仲になるかもしれない。
もしかしたら、気が置けない会心の友となるかもしれない。
もしかしたら、――――――――――
どうなるにせよ
俺は俺以外の他者を…一緒に添い遂げられる存在を求める。
『5…4…』
だから、もう一度。
相手に…今度は直接、はっきり伝えたい
『…3…2…1』
『インストールの完了を確認
インストールシーケンスを完了しました』
『これより高次元システムAIを起動します……』