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システムナビゲーションと一緒!  作者: ハヤニイサン
第三章いんふろんとおぶ聖女ちゃん
26/29

Love is over




 俺とシスターシャは落ち着きを取り戻してから、互いの顔を飽きる事無く見続けている。

 此のままずっーーーーと見続けても飽きが来ないと思える己が恐い。きっと彼女も同じ思いであろう事が判ってしまう。それが堪らなく嬉しい。

 その上、彼女と目線が合えば、互いに示し合わせた様に笑い合う。それもまた楽しい。意味も無く喜ばしい。


 何時までも……何処までも……何度でも




『貴方に溺れてしまいそうで恐ろしいです。

 けど、ケンタロウ君なら

 私が溺れてしまっても

 当然助けてくれますよね?』


「君は存外、意地悪だね。

 君が溺れたら大変なんだよ?

 俺は君に触れられないのにさ…

 もしそうなってしまったら

 今度は俺がもがき苦しむ番になってしまうんだ。」


『フフフッ

 そうなっても一緒に苦しみましょう?

 きっと楽しいですよ?

 あっ!

 でもでも、触れ合えずとも

 キチンと気持ちは伝えて下さいね?』


「…君って奴は

 本当に酷な事を言ってくれる。

 勿論伝えるさ。

 今回は君に伝える事を躊躇ったから

 こんなにも拗れてしまったんだ。

 何度だって言うよ。

 君が好きだ、大好きだ、愛してるよ。」


『……ケンタロウ君

 私も貴方が好き…

 大好き…愛してます。』


「ハハハッ」『ウフフフッ』



 こんな感じでかなりの時間、大体同じ様な遣り取りでイチャイチャしている。


 だが其れも唐突に潮流が変わる。無論、悪い意味では無く単純に収束に向けて変化しただけだと思われるが。



『そういえば、ケンタロウ君は

 狩人君達との最後の晩餐から

 可笑しかったですよね?』


「うっ……

 思い返せばそうだと思うけど…

 そんなに可笑しかったかな?

 君を心配させまいと

 配慮を怠らなかった筈なんだけどなぁ。」


『フフッ

 私がケンタロウ君の事で

 気付かない事なんてないですよー

 あの時から、

 ふとした拍子に感情を押し殺しているんですもの。

 貴方の事を

 何時でも知りたいと思っている私にとっては

 造作もない事なんですよ?』


「君は……

 遠慮が無くなったと思ったら、

 結構過激な事を言うね。

 もしかして、その時から俺の事を?」


『フフフッ

 内緒です!

 でも、此処に在る像を初めて見た時…

 私は自分の生前の事なんかより

 貴方の気持ちを知りたかったぐらいですけどね。』


「それは……

 本当に嬉しいな。

 自分の事が二の次で良いなんて、

 面と向かって言われると面映ゆいよ。」


『何を言ってるんですか?

 もっと面映ゆい事なんか幾らでもあるじゃないですか。』


「あーっ

 言ったな?コイツめー!」


『フフフフッ


 …けど、聖女ちゃんのお姉さんから

 直接私の生前の行いの事を聞いた時は、

 寧ろ…

 貴方の…ケンタロウ君の気持ちを知る事が恐かったんですよ。

 …………

 ケンタロウ君は……どう思っていますか?』



 来た……遂に来てしまった。この問掛けは何時か来るであろうと思っていたが、遂に。

 だがしかし、俺は正直に言うつもりだ。おべっかや当たり障りのない言葉では修飾しない。



「……正直に言うね。

 腸が煮えくり返る思いだったよ。

 けど、勘違いしないでおくれ。

 さっきも君は勘違いしていたようだったから。

 俺の怒りは、君と…

 生前の君と肌を重ねたであろう奴らに対してなんだ。

 ……そう、醜い嫉妬だよ。

 今でも、その事を考えるだけで、

 君を壊れるほど抱きしめたくなる。

 だけど……触れ合えない。

 その事も嫉妬以上に切なくて…

 俺の心を掻き毟る。

 だから……

 いや、それでも君を愛し抜くと決めた。

 つまりは…君は安心して俺に愛されればいいんだよ。」


『ケンタロウ君……

 私は……貴方以外の人と肌を重ねるなんて

 絶対に考えたくもありません。

 勿論私は、生前の自分を信じて居ます。

 だけど…だからこそ、その事に関してだけは、

 私は生前の自分を――――』


「シスターシャ!!

 それ以上の事を

 君は思っていても言ってはいけない。

 自分自身を否定することは無いんだ。


 それに、ごめん!!

 俺の言葉足らずだった。

 シスターシャと生前の君とは違う。

 同一人物だとしても俺にとっては違うんだ。

 だけど、たとい同一人物だとしても

 俺は君を愛し抜こう。

 愛し抜いて果てまで突き抜けよう。

 だから、君は生前の君を否定してはいけない。

 否定する必要はないんだよ。

 だからこそ、安心しておくれ。

 俺は君の総てを愛し抜くと誓うから。」

 

『…ケンタロウ君…ケンタロウ君…ケンタロウ君

 私も貴方に触れられない事が切ない…

 貴方と肌を触れ合わせられない事がもどかしい…

 だけど、こんなにも私の事を想ってくれている

 貴方が留め処なく愛おしい。

 私は、生前の私を信じ抜く

 其れだけで善いんですよね。

 私も貴方の総てを愛し抜くと誓えますから。』



 彼女はそう宣言して、静かに…厳かに…

 それでいて貞淑に…汪然でもあり毅然でもある。


 そんな美しくも気高い涙を滔々と流した。



 彼女はやっぱり待っていてくれたのだ。

 俺が彼女に好きだと伝える事を。

 彼女は待ち望んでいた。

 彼女も懸命だったのだ。

 彼女も溢れ出る想いと戦っていた。


 俺だけじゃない。


 彼女も俺と同じように想い人に対して…

 抑えられない衝動を孕みながら接していたのだ。


 本当に俺は馬鹿だ。


 何故自分だけだと思ってしまったのだろう。

 何故早くこの気持ちを伝えなかったのだろう。

 …本当に馬鹿だ、大馬鹿者だ。

 俺は、大馬鹿者で大阿呆者で……


 大果報者だ。


 嗚呼 そうだ。


 この幸せを伝えなければ…

 報告しなければ(・・・・・・・)ならない(・・・・)人達が居たのだった。


 だとすれば、次の俺の目標は決まったようなものだ。


 ともすれば、何年も掛かってしまうかもしれないが、


 彼女と一緒であれば、どんな困難にも打ち克ってみせよう。




 その彼女は現在、光り輝いている。

 出会った当初から変わらない印象。


 彼女の光は

 俺の心を光で照らし

 光で満ち満ちさせ

 光を俺から溢れ出させてくれた。


 次に齎してくれるモノは何なのだろうか

 そんなの決まっている。


 俺自身が光と交ざり合うのだ。


 朱に交われば赤くなる。



 シスターシャに交われば光になる


 闇から陰へ 陰から日向へ


 そして―――俺は光と成る




 ……

 …




 またもやシスターシャと見つめ合い続けた後…

 不意に我に返った。


 俺はシスターシャと共に仲良く泣いていたと認識しているが、

 聖女ちゃんには、俺だけが男泣きしているように見えた筈だ。


 非常に気まずいぞ…考えても見てくれ、二人きり…しかも目の前で男の泣き顔を見なければならないんだぞ。その上、思いっ切り不細工な男であれば尚の事。


 だから、確認する。どれだけの時間シスターシャとイチャイチャしていたのかを。

 俺のマイ時計で確認すると、測り始めが判らないから正確な事は言えないが、

 現実時間で十秒か五秒。……たったそれだけだとしても半日から一日以上イチャついていたっぽいです。本当に有難うございました。



「シスターシャ。

 君と何時までもこうして居たいけど、

 目の前に居る聖女ちゃんを解放しよう。」


『フフフフッ

 彼女は私の事が知覚出来ていないので

 きっと、貴方が変な人だと思われてますよ。』


「…ハァァ

 君の言う通りでございますよ。

 だから、この場はお開きにしよう。

 君とはずっと一緒なんだからさ。」


『はい!ケンタロウ君♪

 私は何時でもいいので、

 解除は任せますね。』



 先程の涙は何処へやら。

 彼女は朗らかに…天高く笑顔が突き抜けるようだった。



 嗚呼、何度でも思う。やっぱり彼女には笑顔が一番だ。

 だから、気になる点も一つ残っている。



 俺は【思考加速】を解除する前に、一息吹いて(・・・・・)最後の心残りを吹き飛ばした。



「【思考加速】オフ」


 バゴン!!



 解除したと同時に、像の頭部が吹き飛ぶ。


 計算づくではあるが、上手くいって良かった。

 本当にあの表情だけは許せなかったからな。まぁ、聖女ちゃんには悪いけどね。



「ケントさん?

 何やら急速に表情が見えなくなったかと思えば、

 晴れやかなお顔になってますね。

 って 其れ所じゃないです。

 もしかしなくとも、像を壊したのはケントさんですね?」


「いやー

 あの像の顔…表情が如何しても気に食わなくてね。

 悪いとは思ったんだけど、衝動的にやってしまいました。

 ごめんなさい。」



 そう素直に謝ると、聖女ちゃんも怒る気力が湧かないようで…



「…まぁいいでしょう。

 貴方には姉様も説得して頂きましたし。

 其れに、良い機会でもありました。

 仮面を計画の中心に据えて素顔の問題提起をしているのに

 綺麗な顔をした像が

 この建物内に建っているのも可笑しな事でしたから。」



 うーん、この彼女の優しさが身に沁みる。

 ホンに聖女ちゃんはエエ子やね。タマちゃんも可愛いいモフモフだし。



「其れにしても、

 ケントさんは憂いが無くなったのですね。

 …付かぬ事をお訊きしますが、

 シスターシャ様と何か…進展があったのですか?」


「…わかっちゃうかな?

 俺の溢れ出る幸せオーラって言うの?

 あーわかっちゃうかー

 うんうん、そうなんだよ。

 彼女と上手くいっちゃってさー

 互いに好きですって言っちゃったわけなのさ。」


「いえ、オーラというか熱気に当てられたというか

 この部屋全体が先程よりも暖かいんですよね。

 ですが、そうですか……

 それは……

 おめでとう御座います

 と言った方が宜しいのですね…

 でも……

 そうですか……」



 おや?何やら聖女ちゃんの様子が変だ。何か懸念を抱えている感じでもある。ってか、やっぱこの部屋の温度が上昇してたか。まぁ、爆発しなかっただけ良しとしよう。

 にしても、彼女には少し突っ込んで訊いてみるか……



「聖女ちゃん。

 何か気掛かりでもあるのかな?」


「……差し出がましいようですが

 この際です、言って仕舞いましょう。

 ケントさん、

 貴方は人の身(・・・)です。

 人の身ではシスターシャ様に触れられないどころか

 添い遂げる事もできませんよ?

 それでもいいんですか?


 ……何でしたら、

 私がシスターシャ様の代わりになっても――」

 

「それ以上の言葉は必要ないよ。

 それは論外だろう。

 君は高次元に至りたかったんじゃなかったのか?

 もし俺とそんな関係になってしまえば…

 貞操を捧げてしまえばもう至れないんだぞ?」


「フフフッ

 解っていますよ。

 冗談じゃないですか…

 貴方の覚悟を試してみたくなったのですよ。」

 

「お生憎様。

 俺は今更覚悟なんて決めなくても

 もうシスターシャに骨抜きにされているからね。

 シスターシャに支えて貰わなきゃ

 一人で歩くことだって出来やしないんだ。

 あっ!そうだ…

 …君には言っておこうかな。

 そうだなぁ…二十…いや、

 あと三十年後ぐらいにまたこの街に来るよ。

 其れまでに

 ここの制度を揺ぎ無い物にしておいてくれ。

 もし君が壮健であるなら、

 その時に俺の秘密を明かそう。」


「…何なんですか?

 激励のつもりですか?

 しかも秘密をその時に明かすって何ですか?

 …今教えてくれないんですか?

 ……本当に何なんですか……」



 表情を徐々に俯かせていきながら、彼女の呟きは其れに比例するかの様に小さくなった。

 その様は、意気消沈では無い。

 まるで感情を…憤りを必死で溜め込んでいるよう。


 だから……次に繋がる言葉は



「やってやりますよ…

 やればいいんでしょう!?

 わたし…この街を…

 貴方が度肝を抜くほどに

 変革させて見せますから!!

 だから……

 …ちゃんと見に来て下さいよ……」



 彼女の発言は…宣誓は

 その小さな身に、大いなる憤りを抱え込みながらも

 此れからの奮起を大いに予感させるモノだった。



「ああ。楽しみにしているよ。」


「……

 ケントさん、彼女の半生を色々言い募りましたが

 後の半分を言ってませんでしたよね?

 彼女は、尊ぶべき…尊敬すべき人です。

 現役を退いた後、 

 この孤児院の黎明期を陰で支えた尽力者でした。

 その時期の孤児院は、

 其れはもう酷い有様だったと聞き及んでいます。

 施しも無く…病が蔓延し…

 希望を無くした者達の巣窟でした。

 彼女はその凡ての人達に対して平等に接し

 遍く愛を与えました。

 博愛めいた愛であったからこそ、

 純愛では無かったのだと私は思います。

 …だからこそ、私は此処にこの像を建てたのです。

 彼女の尊くも日の当たらない博愛染みた偉業を称える為に。」


「……」


「私は彼女を尊敬しています。

 ですが、其れ故に

 同じ場所に並び立ちたいと思うのも当然ですよね?

 フフッ」



 その聖女らしからぬ小悪魔的な笑みを最後に、彼女は去っていく。


 彼女の足取りは憤りと哀愁を綯い交ぜにしながら尚も軽やか。

 宛ら浮足立つ様にも感じられ危うさが伝わってくる。


 だがしかし、たといそうであったとしても

 何よりも、彼女は希望が先立つ様に

 足音を純然と響かせながら去って行ったのだ。


 


 ……俺は、彼女の気持ちが解るとは言わないが、俺に好意を寄せてくれていた事ぐらいは判断が付く。

 けど、その好意の拠り所が解らない。


 去り際に置いていった言葉を分析するならば。


 彼女は、シスターシャを尊敬している。その尊敬の対象であるシスターシャが惚れている男を気にするのは当然の事のように思う。

 つまり、その男をシスターシャから振り向かせてみせる事で、シスターシャに認められると同時に越えられるとでも思ったのかもしれない。

 だから敢えて、シスターシャの孤児院での尽力話を最後まで言わない事で、俺のシスターシャに対する印象を操作したかったのかもしれない。

 他にある可能性としては――――


 だが、こんなのは俺の邪推だ。そうであって欲しいという、俺の願望。彼女を…聖女ちゃんの想いに応えられない事情から来る、身勝手な願望。

 しかも、こう考えていること自体、間違っているかもしれないのだ。


 彼女は本当に冗談で…覚悟を試しただけかもしれない。

 それを俺が得意になって…自惚れてしまって彼女が俺に惚れているなどと尊大な思い違いをしているだけかもしれない。

 寧ろ、その方が誰も傷つかなくて、俺がピエロになって終わるだけで都合がいいのだけれども……



 やはり今般で痛感したのは、想いを口に出して相手に伝えるという行為の重要性だ。

 もし、シスターシャの過去を…生前の事を知らずに…耳を塞いだままだったのならどうなっていた事か。

 タイミングを逸し過ぎて恋愛感情よりも信頼感情が強くなっていたかもしれない。

 信頼が強くなるだけならいいが、今回の場合も変に拗れてしまっていたので、それ以上になってしまう可能性もあった……

 そう考えると、心底ぞっとする。


 心胆寒からしめる。




 だけど、今考えた事は総てが仮定の話。イフ。無限の可能性が存在する。


 そんな中で俺は、勝ち取った。いや、勝手に勝ったと勘違いしているだけ。


 ただ俺は、いみじくもチャンスを掴んだ…チャンスを掴み取っただけなのだ。


 更には、総てを俺の手に依って掴み取ったわけでも無い。


 寧ろ、俺だけであれば、この様な形でチャンスを物に出来なかっただろう。



 俺は 他人に影響を受けながらも


 縁を重ねながらも


 己を変化させながらも この希望を掴んで離さない事が出来たのだ。



 狩人君 ゴブ子 聖女ちゃん 彼女の姉


 他にもいろいろな人に依って俺は変わった。


 変わることが出来た。



 其れに依ってシスターシャという


 天にしか存在し得なかった希望という星の輝きが


 俺の元に降りて来てくれた。




 シスターシャという希望の星が舞い降りた



 宙に瞬く星は 揺れ降りて


 斯くも 希望の華を咲かす


 華は 舞い散ること能わず


 華盛りには その実を宿し


 斯くて 実りは現実と成る






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