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システムナビゲーションと一緒!  作者: ハヤニイサン
第三章いんふろんとおぶ聖女ちゃん
19/29

晩餐で万歳




 今俺は、狩人君とゴブ子の待つ家へ帰って来た事にモーレツな後悔をしている最中だ。


 別に食事内容が気に入らないわけでは無い。

 酒もワインビネガーの様な物を出してもらっているし、鹿肉であろうステーキも健在だ。今回は其れ等に加えてシチューや生野菜まであるときた。

 酒は、ビネガーっぽい事に目を瞑れば、そう悪い酒でもなさそうだ。シチューは、小麦粉とミルクが入っている…かもしれない。

 まぁ、歓待を受けている身なので、如何とでも言って良いのだろうが、ここは一先ず腹が満ちればそれでいいだろう。


 そのような食卓事情を余所に、お腹が膨れてしまうような事が繰り広げられている。



 何故なら……此奴らのいちゃつきっぷりが留まる事を知らないからだ!!



 は?此奴ら喧嘩売ってんの?……いーでしょう、買っちゃいましょう。こちとら何されても痛くも痒くもありませんから。伊達に能力値が振り切れていませんよ?

 お?やんのか?来いよ……来てみろよ……



 ……お願いだから、ね?お願いしますから、二人だけの世界を作らないで頂けませんかねぇ?



 ……ハァ



 これだから、リア充は……ケッ!!



 先程の言葉は撤回させてもらおう。

 何されても痛くも痒くもないと言ったが、あれは嘘だ。

 俺の彼女いない歴=年齢という圧倒的童貞力の所為で、ゴリゴリと何かが削れていってます。


 お願いしますから戻ってきてください。後生ですから、頼むから戻ってきてください!!



 と必死の祈りが通じたのか、漸くゲストに配慮する気になったようで…



「ケント、今回の晩餐はどうだ?

 丁度、アンタに依頼していた期間の満了日だからな。

 オレとゴブ子で用意してみたんだ。

 どうだ?

 ゴブ子が作ったドレッシングは美味いだろう?

 シチューもゴブ子が作ったからな。

 昔作ってもらった時は酷いもんだったが、

 今日のは天と地がひっくり返ってしまう程だ。

 うん?

 ゴブ子、昔は昔だ。

 前にも言っただろう?

 オレはオマエの過去は気にしないと。

 大切なのは今だ。現在だ。未来だ。

 オレは料理もそうだと言っているのだ。

 勿論、昔のシチューの味は忘却の彼方に置き去ったさ。

 今あるのは、このシチューの美味しさだけだよ。

 …ゴブ子、判ってくれたのか。

 ありがとう。

 ハハッ 気が早いな。

 よしっ 明日になったら直にでも代表役に報告に行こうか。

 俺達は孤児だし、

 あれでいて、オレ達の事を心配していたようだしな…

 …おいおい、

 オレ以上にオマエを心配しているヤツなど居て堪るモノか。

 …ゴブ子。


 あぁ、因みに

 肉は俺が焼いたからな。」



 ホスト様が宣った。



 ハァア 相思相愛カップルはいいですねぇ!こちとら、絶賛片思い中の身ですから!!


 ……といっても、どうしてもこの癖(・・・)だけは抜けないなぁ。


 そうです。今も、絶賛ニヤけ中です。通報モノのニヤけ顔ですよー


 いいもんですなぁ。仲睦まじいカップルは、こうも幸せを御裾分けしてくれるのですからねぇ。

 うーん 幸せオーラというのでしょうか……この二人の、過去を払拭して希望に溢れた未来を夢見ている姿が堪らなくイイ。


 以前は、苛立ちが先立ったが現在進行形の俺は、希望を胸に秘めているのですよ!!

 だから、いつか俺もシスターシャと……


 うん?シスターシャと?


 俺は、彼女の名前で我に返った。返らざる負えなかった。

 ニヤけた顔のまま…若干引き攣りながら、シスターシャを横目で窺う。


 だが、彼女は俺が想像した最悪の表情をしていなかった。


 寧ろ、彼女は微笑みを浮かべながら、俺の事を見ている。いや、彼女は俺の表情を見ながら、幸せそうに微笑みを浮かべているようだ。

 俺は、その点が気になったので思い切って尋ねてみる事にする。



「シスターシャ。」


『はい♪

 何ですか?ケンタロウ君♪』



 一応狩人君達を簡単に確認すると、止まっている(・・・・・・)

 うん、やっぱりシスターシャの心配りは有り難い。



「いや…その

 シスターシャが楽しそうだったから、

 どうしたのかなぁ と思ってさ。」


『フフッ

 先程のケンタロウ君の表情が

 初めて見た表情だと思ったらつい…

 それに、ケンタロウ君が凄く幸せそうで、

 私も幸せな気分になってしまいました♪』



 う、うおーーーーーーーーーーー


 俺はモーレツに感動している!!


 ナニ?この愛されっぷりは?ねぇ これってさぁ 俺、確実に愛されてるよね?間違いないよね?つーか、これって愛の告白みたいなもんじゃんねぇ?違う?違わないよね?



 ……いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや



 冷静になれ、健太郎。お前は、己のニヤけ顔を見られたのに、彼女が笑顔で居てくれた事で衝撃を受けているのだ。その為、有り得ない妄想に憑り付かれているに過ぎない。しかも、意中の女性がそうだった為に、不幸な誤解を生じさせてしまっている。うん、そうだ。冷静に思考すれば、彼女は幸せだとしか言っていないぞ。ただ、俺が笑顔で幸せそうだから私は微笑んでますよ、というレベルの話じゃないか。俺に置き換えてみろ。俺自身が狩人君達を見てニヤついているじゃないか。俺は彼奴等の事を愛しているのか?いないだろう?つまりはそういう事だ。うんうん、よし、冷静になれたな。



 ふぅ…危ない危ない。少し前の俺なら、直ぐ様気付きそうなトラップだった筈だ。

 少しばかりシスターシャと良い関係を築けているからといって調子に乗っていると足元を掬われてしまう。

 けどまぁ、シスターシャの言った事は、嬉しい。非常に嬉しい事には変わりない。



「俺も君が笑顔だと嬉しい気持ちに…幸せな気分になるよ。」


『あー 私の真似してませんか?』


「ハハッ

 するわけないじゃないか。

 確か、前にも言った気がするんだけどなぁ。

 君には笑った顔が似合うって。

 だから、君の笑顔には

 俺を幸せにする力があるって事を忘れないでおくれよ?」


『フフフフッ』


「ハハッ…ハハッ」



 ……何だこれ?この遣り取りって本当に現実か?夢じゃないよね?というか、これだけの遣り取りをしていて彼女は俺の事を好きじゃないのか?俺は期待していけないのだろうか?其処の処が全く以って判らない。



 彼女の…シスターシャの気持ちが知りたい。シスターシャが俺の事をどう思っているのか…俺に対して恋愛感情というモノを持っているのかを知りたい!!



 知るにはどうすればいい?思い切って訊いてみるのか?それよりもまず先に俺の気持ちを伝えるべきじゃないのか?俺の気持ちを彼女に届けるべきじゃないのか?

 だがしかし、もしも仮に彼女が俺に気が無かったとしたら…そう考えるだけで目の前が真っ暗になりそうだ、谷底に…海溝に…宇宙の果てに…ブラックホールに…深淵に吸い込まれてそのまま消えてしまいそうだ。


 怖い。彼女の気持ちを知りたい以上に、もしもの彼女の返答が怖い…この現在の信頼関係に基づく楽しい雰囲気の喪失が怖い。


 今は気を紛らわす。それしか道は無い。…何かないか……そうだ!



「シスターシャ。

 そういえば、

 〈SE〉操作って一人では絶対出来ないモノなのかな?

 介助人が必ずしも必要ないなら、

 俺、一回でいいから試してみたいな。」


『……そうですねぇ。

 一人でもやろうと思えばやれます。

 ……そうですね!

 ケンタロウ君なら案外出来ちゃうかもしれません。

 コツとしては、ただ感じる事。

 魔素…〈SE〉をただ只管に感じて下さい。』


「おっし。じゃあやってみるね。」


『フフッ

 応援してますからね!

 頑張り過ぎないように頑張ってください!』



 そう、この手の話だと瞑想してれば簡単に未知のエネルギーを感じ取れてしまうのが常道。

 更に、俺の場合は、器用値を信じて居さえいれば簡単に出来てしまうだろうな。

 更に更に、シスターシャが傍に居れば勝手に発動する、リア充パゥワァで楽勝間違いナシや!!


 よしっ。まずは目を瞑り心を静めて……無をイメージする。無無無無無無無夢……って、途中で寝そうになってるじゃねぇか!


 つーかできねー いや、焦るな、そもそも丹田に意識を集中させる方法もあった筈だ。


 丹田とは臍の下辺り。丹田丹田丹田丹田丹田……駄目だ、ギャグが思いつかない……って、そういう問題じゃねぇ!


 まぁさ、こんな都合良く出来る方が可笑しいんだよ。

 ぶっちゃけさぁ 〈SE〉ってなによ?いやね、エネルギーって事は解ってるのよ。ただ、そのエネルギーつーのが怪し過ぎてイメージが沸かないワケ。

 だってさぁ 電気エネルギーなら簡単に想像できる。実物を視覚で捉えた事もあるし、静電気であればこの身で体験したこともあるから、神経が微弱な電気で遣り取りしていると言われたって想像できるのだ。


 そこへいくと……ねぇ?

 いやいや、今回はシスターシャの期待も掛かっている重要な案件だ。成功させたい。彼女の喜んだ顔が見たい。

 そう思うだけで俺のやる気はフルスロットル。


 そうだ、彼女の事を思うだけで俺は万能感に包まれるのだから、彼女を起点に考えてみよう。

 シスターシャは高次元生命体で、【システムナビゲーション】を司っている。その立場を上手く利用して俺と契約を結んだ。それから……


 ちょっと待てよ。彼女と契約を結んでいるという事は、何かしら俺と彼女の間に繋がりが無ければオカシイ筈だ。

 書類で契約を交わした訳でもなく、俺の覚えている範囲では口頭による契約だ。それだけで俺の脳を依代に顕現しているとは考え難い。


 だとすれば……



 俺とシスターシャとの間には何かがある……

 感じろ、感じ取れ、何かが、何かがある筈なんだ……

 こう…回路の様な…いや、細い線の様な物かもしれない……


 うん?見える、見えるぞ!目を閉じていても感じることが出来る!!




 これは!糸だ!しかも赤い!真っ赤だ!それに俺はこの糸の名称を知っているぞ!


 これは正しく…運命の赤い糸というヤツではないか!!


 バンザイ!バンザイ!!バンザイ!!!万歳!!!!



 そうかそうか、俺とシスターシャはやっぱり赤い糸で結ばれていたか……って、悲しすぎるわ!!妄想もそこまで行き着くと犯罪臭くなっちまうわ!!

 ……ハァ、妄想も大概に 


 え?本当にあるぞ!見える、感じる、感じ取れる!!


 残念ながら色は付いていない――そもそも色を感じ取れない――が、シスターシャとの間に確かな繋がりを感じる。


 か細くも力強い、生命力と言って良いかわからないが、温かい何か血液では無いモノが俺の中からシスターシャに流れ込んでいる。ゴクリ……いえ、変な妄想はしてないです。



 へぇ これが〈SE〉か。感じ取れてしまえば、余り感慨は無い。恐らく、〈SE〉が彼女へと流れる事に因って、通常であれば俺にも何かしらの喪失感の様なモノを感じる筈なのであろうが、俺にも過不足なく供給されているお蔭で異常は無いみたいだ。


 感じ取れたことに感慨は無いが、感じ取れた手法が何よりも感慨深い。

 だって、彼女の事を思い浮かべたら、直ぐに出来てしまったのだから。これはもう、愛の力と言っても過言ではありませんね。



 感じ取れたことを報告するために目を開ける。


 そこには、物凄く吃驚した表情をさせながら、俺をマジマジと見つめるシスターシャが居た。



「?

 シスターシャ、感じ取れたよ。

 というか、どうかしたのかな?」


『……凄いです

 凄いです…凄いです!…凄すぎます!!

 ケンタロウ君!

 私は貴方であれば出来そうな気もしていました。

 けど、そうはいってもやっぱり難しいとも思っていました。

 別にケンタロウ君を信じて居なかったわけでは無く、

 介助人が居なければ、

 感じ取れるまでの日数として三か月が見込まれています。

 これは、才能…感受性の豊かな人に対しての日数であって、

 一般においては、もっと掛かる場合や出来ない場合も有り得ます。

 なので、通常は介助人に介助を受けながら行うのです。

 ケンタロウ君は器用値も高いですし、

 出来ると信じて居ましたから、

 敢えて先入観を与えずに応援していました。

 ……だから、嬉しくて。

 凄いです。

 凄い!凄い!

 ケンタロウ君はやっぱり凄いです♪』



 彼女はかなりハイになっている様だ。些か言葉に乱れがあるのも喜んでくれている証拠なのだろう。若干幼さを感じさせる所も可愛らしい。無邪気だ。一緒に小躍りしたい程に。

 彼女を喜ばせる事に依って取り乱せられたので、俺も望外に喜ばしい。

 また、彼女の特別な一面も垣間見れたので、俺も非常に嬉しい。


 彼女の喜び勇んだ雰囲気に当られて、今の俺は鼻高々である。



「君がそこまで喜んでくれたら、頑張った甲斐があったよ。

 君の幼げな雰囲気も始めて見れたから、

 俺は今、最高に幸せだよ。

 いっそ、出来なかった時の自分を許せなかっただろう程にね。

 本当にシスターシャが喜んでくれて幸せだ。

 至福の極みだよ。

 ありがとう、シスターシャ。」


『フフフフッ

 ケンタロウ君に褒められちゃいました♪

 私も貴方の初めての表情を見られましたし

 これもお互いさまでしたね♪』



 ……何この可愛い生き物は?ヤバイ、ダメだ、これは…耐えられない。逃げの一手しかない。



「ハハッ

 ちょっと話し込み過ぎちゃったね。

 続きはまた今度にして、今はこの晩餐を終わらそうか。」


『フフッ

 それもそうですね。

 では切りますよ?』



 ふぅ… 今回もまた危なかった。

 何かある度に俺の彼女への気持ちが抑えられなくなってきた。

 一体どうしたらいいのだろうか……そんなの決ま――


「ケント。

 そういえば、そのシスターシャという呟き。

 もしかしたら、

 アンタは高次元生命体と契約しているのではないか?」



 !?

 おい、狩人君。人が有頂天になっている時にクリティカルな話題を出すなよ。

 さてどうするか……そんなのは決まってる。



「……今まで隠していて済まないが、

 その通りだ。」



 まぁ、狩人君には貸しがあるし、言ってみれば俺は二人の恋のキューピットでもあるワケだからして、ここは情報を集める為に真実を語った方が良いだろう。



「やはりか…

 いや、契約している人物に遇うのは珍しくてな。

 通常、貴族やコミュニティの代表ぐらいなモノだろう?

 その上、秘奥に位置付けられているモノだ。

 だから物珍しくてつい…な。

 あの加速もアンタが魔力を高次元生命体に与えて

 そのシスターシャ様に依る事象であるのなら

 総てにおいて辻褄が合うしな。

 通常は契約している者同士の符丁で遣り取りすると聞いている。

 アンタの出自が気にならないと言えば嘘になるが、

 ここは訊かずに済まそうと思う。」



 あぁ……狩人君、説明ありがとうございます。

 いやー 多分、というか確実に説明してくれたんだろうな。これも彼なりの借りの返し方なのだろう。



「……恩に着るよ。

 ところで、狩りの請負期間も過ぎた事だし

 俺は明日発つ予定だ。

 これ以上邪魔…というより邪険に扱われたくないからな。」


「ハハッ

 それは済まなかったな。

 狩りの方は丁度明日から秋まで休猟になった。

 ゴブリンの偵察は年中無休だがな。

 オレ達狩人は、

 その期間中は手の足りない所の助っ人に回る事になる。

 だからこそ、ケントの旅立ちは此方も有り難いのだ。」


「ッチ

 狩人君も言うじゃないか。

 忘れてるかもしれないが、報酬はキッチリ貰うぞ?」


「ハッハッハ

 無論、忘れはしないさ。

 そうだな……

 ケントはこれから何処へ行く?

 迷宮都市であるなら、

 ――――だと価値が下がるだろうから金貨の方がいいか?」



 はぁ?ちょっと待て、この固有名詞は何について言ってるのか正確に予想できないぞ。

 迷宮都市だと価値が下がるって事は、迷宮都市の需要と供給バランスが供給の方に偏っているのだろう。しかも、迷宮都市以外でなら、需要の方が高いようだ。

 つまり、単純に考えれば迷宮都市産の何か。金貨が鉱物資源だとするなら、ここで言う固有名詞も鉱物の様な資源と考えてもいいかもしれない。

 まぁ、何にせよ、当てもない旅で、その迷宮都市を目的地に設定するならば、金貨の方が良いだろうな……

 いや、もう少し頭を働かせてみせろ。街が独自に産出している物を無下に扱うだろうか?いや、扱わない。そもそも既存の価値を食い破ろうとするのが常套手段だ。

 詰まる所、これから行く本拠地であろう迷宮都市で算出される物品の方が何かと情報を得易くなる……か。


 情報を得る為なら迷宮産の物品、カネが欲しいなら金貨。



「…少し考え込んでしまった、済まないな。

 行先はその迷宮都市だが、

 今回、金貨は止めておくよ。」


「ふむ、そうか。

 やはり、ケントは旅人なのだろうな。

 何かと情勢を把握していそうだ。

 これからの時代

 金貨は廃れていくとオレは考えている。

 無くなりはしないが――――はカネの替わりにも使えるし、

 魔力を抽出出来るから、

 御上にとっては非常に優秀な補助エネルギーにも成りうる。

 其れこそ、純度の高い――――は

 金貨の何万倍にも価値が上がるとも聞き及んでいる。

 俺は、伝手を通じて幾らか高い純度の物を数個貰ったのでな。

 その一つを報酬として貰ってくれ。」


「そうか。

 狩人君も色々考えてるんだな。

 御見逸れしました。

 じゃあ、純度が高いみたいだけど遠慮なく貰うよ。」



 俺がそう言うと、彼は直ぐ様懐から子袋を取り出し、中からピンポン玉サイズのビー玉の様な透明な石を一つ取り出した。


 何となくさっきの説明で察しが付いた。要するにこれは、魔素が圧縮して結晶化した【魔晶石】なのだろう。この次元に流入している地点が迷宮都市の様な場所であれば辻褄が合う。迷宮都市だけとは限らないけどね。



「これだけで、今のところ純金貨一枚分といったところだ。

 まぁ、迷宮都市なら半分…

 とまでは行かぬが相当に価値が下がるだろうがな。

 どうする?今なら金貨にしてやってもいいぞ?」


「ハッ!

 男に二言は無い。」



 と言いながら、引っ手繰ってやった。



「よし、これで俺はお暇させてもらうよ。

 明朝に発つつもりだから、

 見送りがしたいなら勝手に来てくれて構わないぞ?」


「勿論、行くに決まっている。

 村長にはアンタが発った後に此方から言っておこう。」


「あぁ、村長には宜しく伝えておいてくれ。

 夕飯御馳走様。

 朝食は……これか。

 じゃあな。」



 明日の朝食である、ナンの様な物に薄切りにした肉とレタスの様な物が挟まっている食べ物を持ち、ゴブ子の家を出て狩人君の家へと退散する。




 外は真っ暗だ。俺にとっては昼間と同じように、よく見える。

 しかし、真っ暗闇。手探りでも解らない程の暗さ。暗中模索。

 だが、俺にはよく見える。器用値が高いのもそうだがそれに加えて、星明りが照らしているのだから。

 勿論実際は、俺以外であっても、各々星明りを頼りにしているに違いないが。



 狩人君の家に辿り着き寝床に入って彼女に睡眠を誘導してもらう。その際には、先程の固有名詞を【魔晶石】と共有する事も忘れない。

 やはり彼女の介助があって俺は歩いていける。

 もし、彼女がいなければこの暗闇で如何すればよいのだろうか?


 わからない。最早彼女が居ないなんて考えられない。


 怖い。失うのが怖い。暗い世界に戻るのが…こわい




 何れにせよ 明日、この村を出発する。






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