ゴブ子と狩人君
俺は気持ちに区切りを付けるために、狩りを引き上げ、早々に獲物を渡してゴブリンを蹂躙した洞窟へと足を運んだ。
……
…
そこには、殺戮の現場は無かった。それ以前に遺体が食い荒らされていたのである。
俺は目の前の惨状に少し気後れしながらも、心の中でホッとしている自分に気が付いた。
これはこれで、食物連鎖の形でもあったわけだ。無論、俺が殺戮を繰り広げた結果がこの連鎖に繋がっているのではあるが…
時の流れは留まる事を知らない。諸行無常。
常に流転し続けなければ、
物事の本質もまた己の内に転がってはこないのがこの世の常。
確かに俺の身体は不変なのかもしれない。しかし、常にこの時の流れに身を置いてさえいれば、何処か現実を伴わない己の現状も世界と重なる様に、地に足が付く事になるのであろう。
そう思い至り、言い知れぬ解放感に包まれながらも、この場に来た目的を果たすべく、クンチャンのナイフを探す。
……
……
…
ナイフを見つけ洞窟の外へ出る。あの場所は敢えて片付けなかった。それが自然だと思えたからだ。
俺は、洞窟近くの誰も近寄らないであろう木の下の地面にクンチャンのナイフを挿し、卒塔婆を作りゴブリンたちの供養塔にする。
その際、文字の彫られていた柄の部分は破壊した。
【クンチャンここに眠る】
日本語ではあるが、茎に刻み込んだ。この墓は俺の自己満足であるからして、これでいい。
誰も知らない、俺だけが…いや、俺とシスターシャだけが判っている俺の精神的安定を図る為だけの供養塔。
拝みもしない。ただ単にここに建っているだけで良い。そんな墓。
……
……
…
狩りの後の寄り道の所為で辺りは真っ赤に染まっている。
この色はどのようなモノだろうか。
今の俺にとっては、鮮烈な印象は無い。
俺を包んでくれる様な、そんな母性さえも感じさせる生命誕生の色。
さて、俺の帰りを今、家の前で出迎えてくれている二人にとってはどのような色であろうか。
彼らは、どういった憂き目に遭い、何を想いながら今日まで過ごして来たのか。
憶測ならば如何様にも考えられそうだ。確かな証拠や証言は無いのだから。
俺と彼女を縁付かせ、強制的に過去を忘却の彼方へ押しやろうと画策したのかもしれない。
何故彼女の名が刻まれたナイフをクンチャンが持っていたのか。
何故彼女はゴブリンにあそこまで執着していたのか。
何故―――――
実を言えば
そんな粉々に砕けたような欠片を拾い集め、絵合わせをする趣味は無い。
また、努めて探聞しようとも思わない。
然れども そんな中で一片だけ思う
願わくは 彼らもまた黄昏では無く
この色が二人にとって 希望の夜明けでありますように




