第3話 3年前の複雑な事情。
―――――3年前。
「お母さん!お母さんお母さんお母さん!!」
「何よ〜頭悪いオウムみたいに〜」
「オーディション!オーディション受かった!!」
「何の〜?」
「やったぁ受かった!受かったんだよお母さん!」
「なんのだっつってんだろがいボケ娘」
「モデルだよ!」
神崎ゆりあは、某化粧品のイメージモデルに100人の中から見事抜擢された。
「あたしモデルになったんだよ、これでワンランク高い醤油が買えるよ」
「そうねぇ、お父さんとゆりあと2回給料日があるから、給料日直前の『日本人は米を食べる のよ、肉なんてもともと食べなかったの、だから今夜は米オンリーよ』の夕食がなくなるわ ねぇ」
「ただいまぁ」
「あっ、慎帰ってきた」
神崎慎13歳が帰宅。ゆりあの弟。
「慎っ、あたしね、モデルのオーディションに受かったんだよ!」
「え、マジ?」
「元気と書いてマジだよ!」
「本気じゃね?」
「んなこたぁどーでもいいの!明日初仕事なんだ〜♪」
―翌日―
「ゆりあ、38度5分よ」
「アホだな姉ちゃん、昨日喜んで遅くまで野外ファッションショーなんてしてたから・・・」
「今日仕事なのにぃ〜・・・・・・」
「そーねぇ、ニート脱出の晴れ舞台だったのに」
「ニートじゃなくて学生だよぅ〜・・・」
「今日は安静にしてなさいね」
「だ、だめだよ〜、休んじゃダメって言われてたのに」
「だってあんたそれで行けるの?」
「いげない〜」
「も〜、じゃ、慎行きなさい」
「そーだね、オレが行くわ。・・・って、は!?」
「慎がゆりあのフリしてけばいいでしょ?あんた可愛いんだから」
基本的に母親は変人だった。
しかし彼女の命令は絶対なので、慎はカツラをかぶり女装し、撮影会場へ向かった・・・。
「あれ!?オーディションの時より綺麗じゃない!?」
「(マジかよっ)あぁ〜・・そうですか?ありがとうございます・・・・・」
・・・・・・とそんなこんなでスタッフは『神崎ゆりあ』ならぬ『神崎慎』をとっても気に入ってしまった。
本当の神崎ゆりあは、後日の撮影にウキウキと向かったところ偽者だと言われ追い返されてしまった、という悲しい結末を迎えたお姉さんなのであった。