八話 宿敵に執着する皇太子
パルミア王国の国王であるコルキス王は心身と共に疲弊していた。
だが、それでも、唯一生き残ったエリー王女の為にも、そして王族の務めも果たすために政務に没頭している。
家族の殆どを失ってしまった影響で、コルキス王は実の娘であるエリー王女にかなり依存していた。
そして、現在もコルキス王は周りが倒れている中で、エリー王女だけが平然と食べている姿を見て思わず微笑んでしまった。
「また我が息子がやらかしてしまったか。迷惑をかけてすまない。だが、流石はエリー王女。息子の魔力に全く怯まないとは、聖女と云われるだけはある。」
そんな、申し訳なさそうに話すユーラス皇帝は、国王の娘を呼び寄せた張本人である。
当然だ。国を救い。神殿に現れた竜も成敗し。
今や我が王国では希望の光となっているのだから
「当然だ。わしの娘だからな。」
「これなら、息子の更生は期待できそうだ。これに懲りて、少しは大人しくなってほしいものだが……」
そんな期待に満ちた表情の皇帝は、エリー王女の評価をさらに上げていた。
「娘はやらんぞ!」
大切な娘が、皇太子の毒牙にかかる危機感はコルキス国王にも感じていた。
もちろん、縁談の誘いは帝国からはなかったが、仲が良くなれば、必然的に婚約は成立してしまうだろう。
だが、今のところはその心配はない。
娘もまだまだ子どもで、恋愛には興味も示さず、ジーニアス皇太子も我が娘に敵対しているようだ。
「確かに、今の我が息子では厳しいですね。」
そんな、息子の不甲斐なさに思わず苦笑いするユーラス皇帝であった。
あれから、皇太子はわしへ積極的に接触してきている。
よほど、わしに負けたのが悔しかったのか、ある時はジーニアス皇太子が大きな風の嵐を生み出す魔術を出して自慢して来たので、わしはジーニアス皇太子が作り出したのと同じ魔術を唱え、それよりも一回り大きい風の嵐を生み出した。
ジーニアス皇太子は負けを認めずに、そのまま風の嵐をわしにぶつけようとしたが、わしが魔術で発動させた光の障壁で飛散した。
それ以外にも襲撃して来たのを返り討ちにしてやったりと、この一日だけで、かなり遭遇しておる。
そして現在も、背後からジーニアス皇太子が隠れ潜んでいる気配が感じておるのじゃ。
「流石にもう、あやつの相手をするのは疲れるのじゃ。」
そんなため息を吐くわしに、ここぞとばかりに隠れていたジーニアス皇太子が登場した。
「やっと、負けを認めたんだな!ざまあ見やがれ!」
ここまでわしを付きまとうとか……負けず嫌いにも程があるじゃろ……
流石のわしも……もう勘弁してほしいわい。
「はいはい。負けを認めるから、さっさと去るのじゃ。」
じゃが、わしの言葉が気に食わなかったのか、またジーニアス皇太子は不機嫌になっていた。
「なんだよ!その俺様をナメた態度は!」
「はっきり言って相手をするのはもうこりごりなのじゃ。負けを認めてやるから、もうわしの所には来なくてもよい。」
どう教育すれば皇太子はこれほどにわがままになるのじゃろう?
わしをここまで心身ともに疲弊させるとは
いくら子どもでも、限度というものがあるのじゃ。
「認めないぞ!こんな勝利じゃ俺様が満足できない! 今度こそお前にとっておき
のをお見舞してやるから、覚悟しろよ!」
そんな事を言ってジーニアス皇太子は怒りながら立ち去って行った。
なんなのじゃ。
せっかく負けを認めてやったのに……
プライドの高い餓鬼じゃのう。
そして、わしはジーニアス皇太子の襲撃を警戒しながら、宮殿の客室で休息をした。
俺様は、生まれた頃から、魔力が異常に強かったらしく、たまに暴走する魔力を抑えられずに、使用人やメイドを失神させてしまっていた。
おかげで俺様は化け物と呼ばれてるらしい。
周囲からも恐怖や怯えが肌に感じてしまい、本当に居心地が悪い場所だ。
唯一、親父は、俺様には全く怯えないが、きっと影では俺様を化け物だと思っているだろうな。
いいさ、俺様が最強なのを嫉妬している奴らなんてどうでもいい存在さ。
なんたって、俺は皇帝に選ばれる存在だ!
だが、そんな俺様の最強に立ちふさがる存在が王国からやってきた。
なんでも、王国を救ったとか、竜を倒したとか、明らかに水増しした噂がある奴で、俺様と歳がそんなに変わらないエリー王女だ。
そんなキナ臭い王女が、俺様に全く怯えないどころか、逆に俺様が怯んでしまった。
こんな経験は初めてだ。
同世代の奴らは俺様に近づいて、出世を狙う奴や、明らかに恐怖を感じて避ける奴らばっかりだ。
俺様も初めて何度も屈辱的な敗北を屈してしまい、悔しかった。
だが、何故か俺様は内心では喜んでいた。
何故だろう?
そして、すぐにその理由がわかった。
そう、やっと待ちに待った宿敵が登場したって事だ!
「エリー王女め……今に見てろよ!お前を絶対に倒してやるからな!」
そして、ジーニアス皇太子はある宝石を宝物から取り出した。
俺様が密かに探検した時に謎の人物から貰ったこの青白く輝く宝石。
これは俺様が宝石に魔力を込めれば魔剣へと変化するらしい。
実際ににその人物が宝石を魔剣に変化させるのを見てもらったし
俺様にもそれができると話してくれた。
魔剣だとバレたら、没収される危険があったので、秘密兵器として今まで使わな かったが……今がこれを使う時だ。
打倒エリー王女を誓うジーニアス皇太子が所有していた魔剣。
――――後に、この魔剣が帝国の宮殿で大きな災いを引き起こす事になってしまう などとは、この時のジーニアス皇太子は全く予想していなかった。