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最終話 世界を救った元爺

 辺りは、床もまわりも空も白い空間に囲まれて何も無い。

 私の意識が少しずつ無くなっているのを感じる。

 ふふふ、今頃私がはじめから死ぬ気だと知ったら、エリーはなんて思うのでしょうね。

 もう私は疲れた。 それほどまでに長く生きながらえて来たのだから、そろそろ潮時なのかもしれないわ。

 トーラが神の命令で私を処分するのも丁度いいタイミングだったかもしれないわね。

 神は思惑通りにエリーに女神へと覚醒させたし、後は私が死ぬのを待つだけ。

 そう、あとは安らかに眠りを……


「何処へ行く気だ? ルビアよ。 貴様が歩むロードはそっちではないぞ。」

「あら、貴方がここにいるって事は、どうやらエリーが勝利したのね! ふふ……流石は私が加護を与えた聖女だわ!」


 トーラが私の眠りを妨げる。

 ここは冥界の入口。死後の世界と生の世界の境界線……ここにトーラも来たって事は、トーラは死亡した事が確定したも同然。

 その事実に安泰し、私は死の世界へと向かう。


「貴様……勝者の特権を無駄にする気か!」


 だが、トーラは怒鳴りながら私の手を掴み、動きを封じる。


「何よ? 神のお望み通りで死んでやるだけよ。 何で貴方がそれを拒否するの? そもそも貴方の行動は不可解なのよ! なんで私達をじわじわと追い詰める回りくどい方法をとったの? その気になれば、直ぐに殺せた筈よ!」


 そう……魔界で戦っていた時のトーラは余力を残しながら私をじわじわと追い詰める戦いをしていた。 ホームタウンだったトーラの世界もそう……私達の攻撃を避けずに、全てを受け止めて、反撃も致命傷にはならない攻撃だった。

戦いを楽しむ理由だとしても、限度があるわ!


「……俺が転生する前の生前はお前が住んでいた集落に居たエルフだった。」

「…っ!?」


 あまりの驚愕な発言に、私は思わず手を口でふさぐ。

 つまりは、同族の生き残りが居たから、私を殺す事に躊躇していたって事になる。


「生前の俺は、人間の増援が来なかったお蔭で、俺はなすすべなく魔族に殺された。 今思えば、あの時で既に裏切られていたのだろうな。 そして俺は、奇跡的に神によって転生して、俺は新しい世界を創造する権利と引き換えに、神が不要となった様々な世界を滅ぼした。」


「じゃあ何? 同族の生き残りがいたから、手加減をしていたって事!? ふざけるんじゃないわよ! 私はそこまで落ちぶれてはいない!」


 胸が熱くなり、私は怒りが込み上げてくるのを感じる。

 絶滅したエルフは、私ただ一人。 今更になって、そのエルフを滅ぼすのが忍びなくなったのなら、とんだ屈辱的な話だわね。


「只のエルフだったら、直ぐに決着を付けていたさ……我が娘ではなかったらな。」

「なんですって……」

「神から授かった情報を頂いた時は心底驚愕したものだ。まさか俺の娘が未だに存命中だったとはな……しかも神は俺が育ての親だと知って居ながら、俺に処分を任命した。 とんだ茶番だとは思わないか? 」


 確かに父は自信過剰のプライドの高い父親だった。

 私が魔力を殆ど無い出来そこないのに、無理やり厳しく鍛錬され続けられた大嫌いな父とトールの性格は、まさにそっくりだった。

 だけど……その正体が真実だとしても、今更にそんな事実を知られても困るわよ……


「何よ、仮に貴方が私のお父さんの生まれ変わりだとしても……もう遅すぎるのよ! 私が孤独なのは変わらない。 もう私は神に縛られるのは嫌よ!」

「泣き言をほざく暇があるならば、今はこの冥界から脱出する事を考えろ!」


 トーラは私を意地でも生き返らせるつもりようだ。

 過去の記憶が戻った今では、もうあの世界は私にとっては全てが汚物でしかない。

 汚物達が愚かな行動をすれば……また私は暴走してしまうだろう。

 そんな予感が心の中で渦巻いている。

 だからやめて、私をほっといてよ!


「どっちにしろ……もう私は手遅れよ。 女神の力をエリーに分け与えた時点でこうなる事は予想していたわ。 冥界の入口に辿り着いた時点で私の運命は決まっている。」

「ふうん、何故俺に頼ろうともしない?」


 トーラはそう言いながら、私を強く抱きしめる。


「ちょっと! やめなさいよ!」

「俺の力を全て捧げてやる……ルビアよ、貴様には俺の世界を与える権利をくれてやる!

世界を管理する継承者が居れば、俺の世界が崩壊せずに済むだろう。 だから貴様は生き延びろ! これは親としての命令だ!」

「嫌よ! 放しなさいよ!」


 私は必死に抵抗するものの、私はトーラに抗う事が出来ない。

 それほどまでに、私を現世へと返す気のようだ。


「ルビアを待っている仲間を見捨てる気か? もうお前は一人ではない。」

「っ!?」


 その言葉を聞いた私は、思わず抵抗を辞めてしまう……

 仲間なんて……私にとっては、利用するだけの使い捨てだった存在。

 いつ裏切るかわからない仲間なんて、私には必要なかった。

 だけど、今ではエリー達がかけがえのない存在になっているのを感じている。


「たった一人では、いずれ限界が来くる。 だが、仲間が支え合う事で、負担を軽減し、困難な道を切り開く事を俺に証明したのではないのか? そのための勇者と聖女が存在しているのではないのか!」


 たった一人でトーラと戦っているとき、私は仲間が帰還するのを微かに期待していた。

 本来ならば、絶対に帰る事は不可能な永遠の世界。

 その期待を応えるかのように、私を救いだしたエリー達。

 普段の私なら、絶対にここまで信頼を寄せていない。


 そう、いつもエリーは私の期待に応えてくれた。

 幼い少女とは思えないほどに戦闘力を持っていた王女

 彼女たちとの会話はとても楽しかった。

 そして、気が付いたら、閉ざされていた心が開かれいたのを感じる。

 過去の思い出も、仲間が居なければ発狂していただろう……

 私は女神だ。 仲間がいる目の前で惨めな恰好は出来ない。

 だから……私の目の前で勝手に死ぬことは許さない。

 私が力を分け与えるほどに信用している友なのだから……


「……そうね。 確かに私には帰る場所がる。 そうよ……私は仲間の期待を裏切る事なんて出来ない。 この世界を救う女神なんだから!」

「ふっ……昔は泣き虫だったお前がここまで心が強くなっていたとはな。」


 今まで表情をまるで崩していなかったトーラは微笑んでいた。

 ここまで心が温まる思いは久しぶりに味わった気がする……まるで遠い昔に家族と楽しく暮らしていた時を思い出すかのような、そんな安らぎを感じる。


「神には気を付けろ……奴は気まぐれだ。俺が敗北した事で、当分は刺客が襲って来る事はないだろう……だが、今まで以上に厄介な命令を押し付けるに違いない。」


 トーラは私に神からの厄介ごとな命令が激増すると忠告される。

 安心して、父さん。 もう私は弱音を吐かない。 私が守るべき世界がある限りはきっと大丈夫。


「望むところだわ! 私は女神ルビア。どんな困難が待っていようとも、私は負けない!仲間と共に、汚物なんて消毒してやるんだから!」


 私が決意して話した言葉を聞いた父さんは、ますます身体が透けていく。

 父の生まれ変わりであるトーラが消えてしまうだけなのに、私は涙を流している事に気が付く。

 涙は古の時代から既に枯れていたはずなのに……。


「さよなら……父さん。 絶対に転生後の肉体を見つけてやるわ!」

「ふふふ……また転生される保証など何処にもないのだがな……まあいい。 娘の成長を実感出来て満足だ。生き続けろ……それが、最後の生き残りとしての務めだ!」


 トーラの力が全身に私へと流れているのを感じる。

 もうすぐで私は目を覚ます。

 父から与えられたこの力は無駄にしない

 もう私は一人じゃない。

 これから始まるのよ

 私達の戦いが!




「うーん……」

「ルビアよ! 目が覚めたのか!?」


 ルビアは長い眠りから目を覚める。

 既に呼吸が出来る魔界へと帰還していたエリーは、魔王城跡地で土属性の魔術で作られた家の中でルビアが目を覚ますのをじっと待っていた。

 それは、仲間も同じだ。

 魔王ハデスも魔界へ侵入した人間へ襲撃するのを中止したお蔭で、魔族からの襲撃に悩む事はない。

 ルビアはゆっくりと起き上がり、 喜んでいたエリー王女に強く抱き締める。


「ちょ……なにをするのじゃー! 苦しいのじゃー! 」

「覚悟しなさいよ、もう貴女を絶対に手放さないんだから!」


 強く抱きしめているルビアを余所に、気が付けば周りから歓声が浴びている

 今回の騒動で駆け付けた魔族達だ。

 ルビアは、魔界を壊滅状態に追いやった化け物を魔王ハデスと力を合わせて討伐させたと魔王が噂を広めていた。

 あの莫大な魔力は、遠くの彼方からも感じるほどに凶悪な存在。

 魔界は強者が正義の世界。

 既に恐怖の象徴として有名だった超越者であるルビアが称えられるのは、おかしなことではない。


「凄い数だ……まさかこれほどまでに僕達を歓迎しているとは、かつて敵対していたのが嘘のようですね。」

「へへっ! 悪い気分じゃねーな。」


 仁王立ちしながら、心地よい響きを聴くジーニアス。

 ライネスも、聖剣を仕舞い、魔王ハデスと共に観衆の前へ登場していた。

 もはや、魔族に対しての敵対心はない。

 この歓声はそれほどまでに心地よい響きなのだから。


「のぅ……かつてエルフを迫害していた魔族が、今ではこんなにも尊敬される人物へ変わっておるぞい。 これもわしらが結果的に救い出した成果じゃ。」

「そうね……本当に身勝手な奴らよ。 直ぐに手のひらを返す事だけは本当に上手なんだから……。」


 エリー王女はその声援を聞いて、すっかりと上機嫌になっている。

 その声援はルビアにとっても心地よい。 かつては、魔族にも、人間にも否定された種族……今では、人間には拝める存在となり、魔族では英雄として称えられたルビア。

 この時をもって、初めてルビアはこの世界から受け入れられた存在になれたのだと感じるのであった。



数週間後……



「のぅ……女神の力が未だに残っておるのじゃが……これは一体どういう事なのじゃ?」


 わしにとって、強すぎる女神の力が未だに返還されていないのじゃ

 確か……、神は女神の力を貸して上げるだけの筈じゃったし、ルビアが存命ならば、わしは用無しの筈なのじゃが……

 そんな不安を余所に、寝室でくつろぐルビアはドヤ顔をしておった。


「あら、知らないの? 神は正式に貴女を女神として認めたようだわよ。 私もトーラの世界を管理する権利を授かったから、もう私が処分される心配もないわ。」

「つまり……どういう事なのじゃ……!?」

「この世界の管理はエリーにまかせるわ! ふふ……これから長い付き合いになるわね!」


 ルビアの力説を聞いて、わしの目の前が真っ白になる。

 禁断の不老不死の秘術を手に入れたのも同然じゃ。

 しかも、この世界を管理しないといけない押し付けをされてしまったのじゃ。


「わしは、女神にはなりたくなかったのじゃー!」


 これからは、神から面倒な命令が沢山授かるに違いないのじゃ

 実に面倒な事になったわい。

 わしの波乱に満ちた生活は終わらない。

 これからも、永遠に続くのじゃろうな。

 いいじゃろう……もうこれ以上なにが来ようとも、絶対に驚かないのじゃ!


「あっ! 神に反旗を翻した不届きものが現れたらしいわよ! さっさと行くわよー!」

「なん……じゃと……!?」


 ルビアはそのまま気合いを入れて立ち上がり、わしの手を掴みながら別の世界への入口をこじ開ける。

 その命令はわしにも届き、絶句しながら驚いていた。

 いくらなんでも人使いが荒いのじゃー!

 絶対にまた危険な戦いが始まるのに違いない。


「はあ……何処で道を間違えたのじゃろうか。」


 老人から、少女へと乗り移った人物は、これからも長い戦いが始まるだろう。

 気まぐれな神によって翻弄される日々が始まったエリー王女の憂鬱はこれからも続く……



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