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二十話  トーラの世界

 地上が無い、わしは暗い空間に浮いている。

 辺りは無数の星が光輝くだけの暗闇

 テレキネスの魔術が無ければ自由に動く事は不可能じゃろうな。

 この地表のない世界も、人間の場合は死亡する可能性が高い。

 本来は感じる筈の重力も空気も感じていない。

 女神の力が無ければ、わしは呼吸が出来ずに死んでおったのじゃろうな。


『目が覚めたか? 新しき小さな女神よ。ここが最後の決戦を開始する舞台だ。褒めてやるぞ……ルビアですらこの領域まで俺を追い詰める事を出来なかった。』


 わしは、重力を感じないこの世界を慣れるのに一苦労な状態じゃというのに

 トーラは腕を組みながら、自信に満ちた表情でわしを眺めておるのぅ


『なるほどのぅ……この領域は、おぬしが創りだした世界じゃったのじゃな?』

『そうだ。人間界や魔界のような狭い世界ではない……無限に広がる宇宙……もはや俺ですら把握できない速度で、この世界は拡張を続けている。』


 トーラですら把握できない程の拡張……

 いったいどれ程までにこの世界は広がっているのじゃろうか?

 ここは、どうやら言葉を発する事が不可能な世界のようじゃ

 なのでわしらは、念話で会話を行っている。

 だが今は、それを気にしている場合ではない

 目の前にいる敵を倒すのに集中しなければならいのじゃ!


『くくく……神は俺の管轄外だった人間界の女神を処分しなければ、俺の創りだした世界を滅ぼすと信託を下さった。その意味がわかるか? 俺がいくつもの時を重ねながら築き上げたこの世界を滅ぼされる屈辱を……』

『滅ぼすじゃと!? 神はそこまでしてルビアを処分する気なのか!?』

『違うな。その気になれば神は、いつでもルビアを処分できる。それをしなかったのは、単なる暇つぶしだ。 神は俺たちのような存在なんぞ、駒でしかない。 これはゲームだ。

女神が守護する世界が滅ぼされるか……俺が守護する世界が滅ぼされるのかを決める戦いだ!』


 気がくるっている……つまりは、これは単なるゲームで、その気になればわしらの世界は簡単に滅ぼされる事を意味している。


『それが……おぬしの動機じゃったのか……』

『ふうん、俺も所詮は神の道化にすぎん……だがそれは貴様も同じだ。新しき女神よ。』


 トーラはそう言って腕を組んでいたのを解き、わしに向かって指をさす。

 世界を懸けた戦い、その神話の存在をはるかに超越した存在の神

 わしは、とんでもない存在に女神の力を授かってしまったのかもしれないのじゃ。

 この力を一歩間違えれば、古にルビアが引き起こした暴走へ向かってしまうじゃろうな。


『俺はこの世界を未来へのロードへ突き進む! それを邪魔する貴様を今ここで、成敗してくれるわ!』

『わしも負けるわけにはいかん……あの世界は、わしの大切な仲間達が暮らしておる世界を滅ぼさせはしないのじゃ!』


 この世界は敵の領域……トーラからすれば、ホームタウンのようなモノじゃ。

 時間がかかるほど、わしが不利になるのは間違いないじゃろう。

 わしが支配している空間転移でさっさとケリを付けねば……


『一つだけ忠告してやろう……この世界は空間転移が使えない。』

『なんじゃと!?』

『俺がそういう設定にしてあるからな……貴様の世界では空間転移を利用する許可はされていたが、この世界では違う。』


 となれば、空間転移で不意打ちを使う事が出来ない。

 わしの得意技が封じられたようなものなのじゃ

 これは、かなりの厳しい戦いとなるわい

 だが、そんな慌てているわしに突如として乱入者が訪れる。


『私を仲間外れにするなんて酷くない?』

『ルビア! 何故おぬしがここへ来ておるのじゃ!』


 そこには、いつもと変わりのない自信に満ちた表情のルビアが駆けつけていた。

 身体の傷は消え失せているが、魔力の消費は完全に回復はしていないじゃろうな。

 これ以上、身体に無理をすれば……本当に死んでしまうぞい!


『私は女神よ、例え……魔族や人間に見捨てられ……神ですら見捨てられようが、私は私……私の守護する世界を脅かす存在が現れたのなら……それを倒すのみ!』


 トーラはルビアの乱入に驚きもせずに平然とわしらと対峙している

 まるで、この世界へ乱入するのを待っていたかのようじゃ。

 驚いているわしとは大違いじゃわい。


『ふうん、やっと俺が繋げていた道を追って、俺の世界へ辿り着いたか。 貴様の世界へ行く手間が省けるといったものだ……あの世界は、俺が召喚される方法以外では侵入出来ないほどに守りが堅い世界だからな……人間界は俺でも侵入する事は不可能だった。』

『ルビアよ……おぬしの肉体は、大丈夫なのかのう?』

『私は平気よ、それよりも自分の心配をしていなさい!』


 ルビアはいつものように、ドヤ顔を決めて、自身に満ちた表情じゃ。

 無茶をしおって……だがこの救援はありがたい。

 これほどまでに、心強い味方は居ない。


『そうじゃな……これが最後の戦いじゃ!』


 わしは魔法陣に光の刃を無数に作り出して、それをトーラに狙いを定めて襲いかける

 ルビアはわしが魔術を唱えていると最中と同時に大地の無いこの空間でも、巨大 な水を生み出し、極限まで水圧を高めた水の刃をトーラに向けて発射させた。


『ふうん、光の刃と水の刃か……ならば俺は、カッコいい闇の刃で相殺させてやろう!』


 トーラの唱えた魔法陣の中から見た目がカッコいい闇の刃が無数に出現させる。

 どうやら、わしらの刃を防ぐ気らしいのぅ

 トーラは、襲い掛かる無数の光と水の刃を闇の刃で一ミリも狂いもなく相殺させている。

 二人の力を合わせても、傷を一つも付ける事が出来ないとじゃと……!?

 なんという反則じみた能力じゃー!

 だが、相手は、楽しみながら相殺させるのに夢中なのじゃ。

 わしは、この隙を逃すわけにはいかない。

 シャイニングダーク……動きを封じ、無数の光線が襲い掛かる

 黒い竜を倒した魔術じゃ

 あの時よりも、さらに強化された一撃…


『ぬるいわ!』


 わしが放った一撃は、トーラが闇の刃を無数にかき集めて見た目がかなりかっこいい闇の盾を出現させた。

 その闇の盾に闇の影と光線の攻撃を受け止められ、わしの放ったシャイニングダークは完全に消え失せてしまう。

 だが、ルビアはその隙を見逃していない。 背後から光の呪縛をトーラに張り付けて動きを封じる。

 よし、相手は身動きが取れずに焦っておるぞい! 闇の盾も消え失せおったわい!

 わしは高速でトーラに接近し、強化魔術と女神の力で肉体を強化させて聖剣ジラートを両手でしっかりと握りしめ、最後のトドメを刺す。

 だが、わしの斬撃にトーラは慌てていたのが嘘のように、不気味に微笑みだしていた。

 まずい、誘い込まれた!

 既に剣を振った動作を止める事が出来ない

 光の呪縛は一瞬のうちに解かれ、聖剣も紙一重でかわされた!

 いかん、今度はわしが隙を作ってしまった。

 転移魔術は封じられ、ジラートの影にも全く通用していない。


『今度はこちら側の反撃をさせて貰うぞ、新しき女神よ』


 わしは、受けの構えに入る。

 回避は間に合わない、出来るだけダメージを軽減させなければならぬ

 トーラはわしに向けて光輝く拳で、わしを殴りつけた。

 あまりにの激痛に思わず悲鳴を上げる


『ぐっ!』

『一発殴られた程度で怯むとは情けない。その程度では俺は倒せんぞ?』


 トーラの拳によって後方へ殴り飛ばされたわしに何度も拳が襲いかかる。

 光の障壁で必死にガードを行い、高速移動をしながら聖剣で反撃を試みるがかわされてしまうのじゃ

 徐々に追い詰められてしまっている。

 このままでは、まずい……早くなんとかせねば


『私を忘れているんじゃないわよ!』


 ルビアはわし達に向けて、巨大な水柱を発射させる。

 よし、今のうちに一時的に撤退じゃ!

 わしは後方へ飛び、水柱の直撃から逃れる


『小賢しい真似を……』


 トーラはかなりの水圧があるであろう水柱の直撃を受けたが

 ダメージをそこまで受けていない。

 受けたダメージも瞬時に回復されている。

 やはり手強い。今まで遭遇した敵で最大の強敵なのじゃ。

 わしは、かなりのパワーアップを果たしたというのに

 ここまで戦力差があるという事なのか……

 距離をとったわしらに、今度はトーラが巨大な魔法陣を展開し、大小の様々な岩を大量に出現させる。

 中には、数百メートル以上はあるのであろう岩までもが出現されていた。

 黒く頑丈そうな岩じゃ……あれを真面に食らえば致命傷になりかねない。


『俺の世界に漂う流星は強力だ。 一度当たれば無事では済まんぞ』


 トールが指をクイっと動かしただけで、大量の岩がわしらに襲い掛かる。

 なんて速度じゃ……流石にこの数では避けきれない!


『エリー、私の背後に隠れなさい! 最大級の防御魔術を展開させるわ!』


 念話で届いたルビアからの言葉を聞いたわしは、急いでルビアの元へ向かい

 わしが辿り着いたのを確認したルビアは防御魔術を唱え、水のベールを出現させる。

 それだけでは、不安だったわしは、光の障壁を水のベールに覆い、強度を補強させた。

 よし、これほどに強力な壁ならば防ぐ事が出来そうじゃ

 無数に向かって来る岩は、強力な水と光の障壁によって、無事に防ぎきっている。

 だが、これも長くはもたない。

 早くあやつを倒す秘策を思いつかなければならぬ。


『ねえ……エリー。 貴女は、私の加護を授かった二人目の人間よ。』

『こんな時になんなのじゃ、今は一刻も争う事態じゃぞ!』

『私は、人間に裏切られてからは、誰も信用をしていない。記憶を失ってからもその疑念は失っていない、一人目の勇者なんて始めは私が人間界で暴れるのを許可されなかったから、駒になれそうな人間を選んで召喚させた異世界の人間でしかない。』


 つまりは、誰も信用をしていないのに、人間界へ出向くことが出来なかったから、仕方なく人間に勇者の力を与えたって事のようじゃな。

 無理やり異世界へ召喚された勇者の心境は、わしにはわからない。

 歴史の中ではこの世界で暮らしたようじゃし、元の世界へは帰れなかったのじゃろう。

 気の毒な勇者じゃ。


『だけどね、貴女なら信用できる。短い間だったど、今まで卑劣な汚物達とは違う。 だから私の力を全て捧げてあげるわ!』

『何を言っておるのじゃ、わしには、既に女神の力を授かっておる。今更、真の聖女の力を授かったとしても、焼け石に水じゃろう!』


 わしの不安をよそに、ルビアはわしを見つめてほほ笑む。


『違うわ……女神の力を貴女に捧げる。』

『待つのじゃ! そんな事をすればおぬしは死んでしまうぞい!』


 ルビアは、既に限界へ近づいている

 しかも、このトーラが創りだした世界は、人間にも……魔族でも生きてゆくのは困難じゃ。

 とてもじゃないが、トーラの世界で耐えられそうにない。

 だが、そんな心配をよそに、ルビアはニッコリとほほ笑む。


『大丈夫よ、数十秒…いや、数分間は耐えてみせるわ! 貴女はトーラを倒す事に集中しなさい!』

『ルビアよ……それしか方法がないのじゃな?』

『ふふっ……皮肉なものよ、かつて裏切られた人間を頼らないといけになんてね。』


 命の危機が迫っておる現状で笑っていられるとはのぅ……流石はルビアじゃわい。

 わしが、ルビアの命運も握ったようなものじゃ。

 トーラを倒せたとしても、女神の力を返さない可能性だってあるのじゃ。


『全く、よけいなものを背負ってしまったわい……』

『愚痴は後から言いなさい、後は頼んだわよ!』


 わしの覚悟は決まった。

 ルビアの命を背負い、わしの世界を救う為に、絶対に負けられない!

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