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十九話 覚悟を決めたロリババア

 ここは、パラミア王国の王城……

 グレンと仲良く稽古をしているライネス

 かれらは、永遠のライバル的な存在である。


「へへ、また腕を上げたな……この俺がここまで負けるなんて、生まれて初めてだぜ」

「グレンもかなりの上達をしていますね。僕もここまで苦戦させる騎士は、貴方が初めてですよ」


 グレンとライネスは、ほぼ互角に近い実力を持っていた

 毎日彼らは、それを競い合い、さらなる高みへと突き進む筈だった。


「こら! ライネス!こんな所でなにをしてるのじゃ! さっさとトーラを倒しに行くのじゃー!」


 そう言いながら、怒鳴りながら怒っているエリー王女に無理やり連れ去られてしまう。

 平和だった王城での生活よりも……エリー王女と一緒に波乱万丈な生活を送るのも悪くない。

 ライネスは、そう感じながら、永遠に平和な時代が続く世界からの決別を決意した。



 ここはガイア大陸で最大の領土をもつ帝国

 ジーニアスの大活躍によって、セリウス帝国は絶頂の最盛期へと向かっていた。


「父さん! また、小さな小国を攻め滅ぼしてやったぜ!」

「流石は、私の息子だ……私が隠居して、ジーニアスが皇帝へと即位する日が近いかもしれるな」


 ユーラス皇帝もジーニアスの電撃的な活躍にすっかりと上機嫌になっている。

 それほどまでに、ジーニアス皇太子の活躍が凄まじい。


「よし、次はパラミア王国のあの王女をやっつけてやるぜ!」


 ジーニアス皇太子が超えなくては行けない存在

 その壁を乗り越えた暁には、彼女を……


「誰を……やっつけるっていうのじゃ?」


 乗り越えなくてはならない壁が、突如として向こうから現れていた。

 あまりの出来事に、ジーニアス皇太子もあたふたと驚いている。

 疑念に満ちた表情のエリー王女はそのままライネスを引き連れながらジーニアスに近づき

 余計な事を発言してしまった事に対する制裁を受ける雰囲気が辺りに漂っていた。

 今までは、都合のよい展開が続いていただけに、まさに想定外の出来事である。


「し、師匠! じょ……冗談に決まっているじゃないかー」

「エリー王女を超えるには、まだまだ実力が足りないようですね」

「うむ、わしがみっちりと鍛えてやるわい。ジーニアスはまだまだ伸びしろがあるのじゃ。じゃがのぅ……わしらは今、それよりも高い壁を相手にしなければならない」


 都合よく忘れていた記録の中から、トラウマなっていた出来事を一つ思い出す。

 ジーニアスも、トーラの凄まじい魔力を肌で感じていた。

 内心は、恐怖で怯え、逃げ出しそうになっていたが、顔では強気の表情を保ち、平常心の姿を装っていた。

 本当なら今すぐにでも逃げたい、だがそれはもう不可能だ。

 信頼を寄せている仲間を見捨てたくない。


「やってやるよ……神が相手だろうと、俺様は、絶対に負けない!」


 恐怖は消え……そこからは、決意を固めた、ジーニアスの姿がそこにいた。

 弱かった心は、仲間と差さえ合う事で、強靭な心をまとう事が出来る。

 大切な人に自分を必要とされている事が、これほどにうれしいと感じた事はジーニアスには初めてだった。

 今だからこそわかる。

 かつては孤立し、信頼できる友がいなかった自分を救ってくれた彼女。

 彼女を助ける行為がどんなに危険な場所であったとしても、手助けに向かうだろう。

 それほどまでに、エリー王女は大切な人なのだから……






「さて……そろそろ限界か?」


 ルビアは、既に限界に近い。

 力を使い果たしたルビアは既に虫の息となっていた


「ふふふ、やっと、帰ってきたのね。遅いじゃない……バカ」

「なんだ? 幻想でも見たのか?」


 トーラはルビアが不気味にほほ笑んでいる視線の先を覗く

 そこには、トーラが存在を抹消させた筈の旧型達が光の柱から降りて来ていた。


「馬鹿な……旧型如きが、あの世界から抜け出しただと!?」


 理想の世界を拒絶する事は不可能

 それを拒絶すると言う事は、理想よりも現実を選ぶ事を意味しているからだ。

 自分の都合の良い世界……そんな世界を拒否する旧型……新型の魔王ですら脱出 出来ていない、永遠の監獄から、エリー王女達は見事に脱出を成功させた。


「残念じゃったな。わしは、今の世界のほうが好きなのじゃ。」



 ルビアは既に倒れているが……辛うじて生きている。

 間に合った。 心からそれを安泰し、トーラを倒す決意を固める。


「ふうん、安らかに死なせてやろうとしたと言うのに、それを踏みにじるとは、ここで死ぬのがお望みのようだな。」

「逆じゃよ、わしは、おぬしを倒す!」

「そうだぜ! 俺たち人間をなめるなよ!」


 トーラはわしらの登場に驚いておったが、直ぐにいつもの自信の満ちた表情へと変わっている。

 舐められておるのお……


「馬鹿が! 旧型如きの遠吠えをいくら叫んでも、俺を倒す事は不可能だ!」


 そうじゃ……只の人間では倒せない。

 だからわしは……


「それはどうかのう……ルビアに出来て、わしに出来ない道理がなかろう……」


 わしは、エリー王女の魂から幼少の頃に、とある信託を授かっていたようじゃ。

『時を待て……さすれば、女神への道は開かれるであろう……』

 神はルビアを捨てた。

 じゃが……その代用品の存在は、どうやらワシが候補に選ばれていたようなのじゃ。

 現にこうして……



『やあ、何の用かな? 女神として覚醒するのは、まだ先だよ。』


 祈りを捧げたわしが目を覚ました場所は辺りが真っ白の空白の世界が広がっていた

 この場所はルビアに拉致された世界に似ている。

 そして、わしの目の前にはぼやけて姿が見えない謎の人物が一人たたずんでおる

となると……こやつの正体は……


「トーラを倒す為に女神の力が必要じゃ、一時的でもいい、どうか力を貸してくれ」

『ルビアがまだ生存しているし、それは出来ない相談だね、でもこのままだと、君もトーラに殺されてしまいそうだね、今回は流石に死を回避出来そうにないな……うーん、どうしようかなー』


 神はルビアを処分する事を決定している。

 それを知っていながら、ルビアを助けようとするわしは、神にとっては寝耳に水じゃろう

 じゃが、女神の因子を生みこまれているわしが、トーラに殺されるのは不味い筈なのじゃ。

 不安要素は、他に女神候補が居る場合も有り得る。

 もしも女神候補が複数もいれば、わしの願いは聞き取れない可能性が高い

 そうだとしても、今はその微かな希望に懸けるしかないのじゃ。

 そして、数秒間は思考を巡らませて沈黙を保っていた謎の人物は口を開く


『まあ、トーラが圧勝するのもつまらない。ここで、ハプニングを起こすのも悪くないね。いいよ、女神の力を貸して上げよう……ただし、負けた場合はその代償を支払ってもらうよ』

「代償じゃと……!?」

『神の管理が失われた世界なんて必要ないでしょ? 人間界と魔界を消滅させるよ。』


 言葉を失う。つまりは、世界の命運はわしが握ったようなものじゃ

 女神が神の代行として管理をしていた世界……

 代行者すら消え失せた世界なんぞ必要ないと言う事なのじゃろう


『どうする? トーラに泣きながら女神候補だと自白して命乞いすれば、見逃される可能性に懸けるかい? まあ、トーラの性格だと逆効果になるだろうけどね、女神を滅ぼさないと大変な事になるし、命乞いなんて、彼の逆鱗に触れてしまうね』

「もう答えは一つしかないじゃろう……わしは女神になるのじゃ!」


 こうなったら、もうヤケじゃ、後先の事なんぞ気にしていられぬわ!

 ルビアを助ける。 別にあの悲劇に同情した訳じゃない

 振り回されてばかりじゃったが

 ルビアを精神的に追いやり……わしらの仲間を殺そうとしたトーラは絶対に許してはいけない

 どのみち、わしが魔界へ拉致された時点で、退路は無かったのじゃ

 もう、玉砕覚悟で粉砕してやるのじゃ! 

 生き残るついでにルビアを助けてやるだけじゃ

 別にルビアを助けたい訳ではないぞい


『わかった。特例を認めてあげるよ、ふふふ……精々がんばってね、トーラはかなり強いよ、神が創造した中では強い分類に入るぐらいにね』


 その言葉を聞いた途端に、わしは、元の居場所へと舞い戻った。

 あの空間に居てからの時間はこの世界では殆ど経過していない

 どうやら時は止まっていたようじゃな

 今なら、いけるはずじゃ……

 決意に満ちた表情で、わしは仲間に命じる。


「女神エリーが命じる! 勇者ライネス! 大魔術師のジーニアス! そなたらに加護を与える!」


 わしは今までに感じたこともない神秘的な魔力を身に包み、ライネスとジーニアスに特別な強化魔術を送り込む。

 神の力は想像以上にわしの精神を浸食しようとしている。

 これが、神の絶対領域なのか……じゃが、わしには、二つに繋がった魂が融合している。

 わしは、ルビアのようには、ならん! わしの記憶を封印なんぞされてたまるか!

 過去を糧に、わしは、もっと先の未来へと飛び立つのじゃ!

 ライネスの魔剣は神秘的な剣へと変化し、ジーニアスは、莫大な聖石を身に包んでいた


「これは……まさか伝説のエックスカリバー!?」

「すげえ……魔力が溢れ返っていやがる……これが、聖石と女神の力なのかよ」


 わしにも、今までにない魔力の高まりを感じる。

 人の身では背負う事が出来ないであろう魔力。

 わしが人として保てる限界はわかない。

 だが、これならいける……同じ神の使いであるトーラと互角には渡り合える!


「これは驚いた……まさか、次の女神候補が、旧型だったとはな…… 面白い。見事にこの俺を打ち負かし、ルビアを救ってみせろ!」


 トーラが消える、転移魔術を使ったのじゃろう

 だが、それはもう、わしの領域じゃ


「ライネス! 北東の30メート先で剣を構えるのじゃ!」

「むっ! 転移した場所が違うぞ!」


 トーラが転移した先は、予想とは違う場所じゃ。

 当たり前なのじゃ。わしが、そこへ誘導する為に異空間で細工を施したのじゃから……


「食らえ!トーラ!」


 ライネスの斬撃、不意打ちをしたのは、トーラではなく、ライネス。

 まともに聖剣の斬撃を受けたトーラは胴体を真っ二つにされてしまう。

 だが、それではまだ、倒せない。


「ふうん、これは一本を取られてしまったな」


 トーラが詠唱をなしで唱えた魔術で瞬時に肉体を再生させる。

 致命傷ともいえる斬撃すらも、瞬時に回復させる魔術

 まさに驚異的な能力じゃな。


「何度も回復をさせてたまるかよ!」


 ライネスと戦っているトーラに向けて、ジーニアスは光輝く光線をトーラに放つ。


「無駄だ!」


 だが、その光線は跳ね返り、ジーニアスへ向かっていた。

 攻撃が失敗した? いや、違う、この程度の事なら、ジーニアスも予想をしていた筈じゃ

 光線を自ら受けたジーニアスは体を貫かれずに、光を吸収していた。

 なるほど……トーラを油断させるための囮を放ち、本命はこれからという訳か。

 ジーニアスがわしに顔を向ける、どうやら、とっておきの一撃をお見舞いする準備は整ったようじゃ。


「食らえ! これが……俺の力だーーーー!」


 巨大な風の刃をまとった嵐がトーラとライネスに出現させた。

 ライネスはこの風の影響を受けない。

 これは、わしの女神の加護を授かった者同士での攻撃は傷をつけることが出来ないのじゃ。

 実に都合のよい加護じゃわい

 そして、わしは永遠の世界に閉じ込められていた魔剣ジラートを無理やり空間を こじ開けて、ジラートを呼び出した。


「ぐお! ……まさか我が夢を見ていたとはな、初めての体験であったわ」

「無駄口を叩く暇はないのじゃ、おぬしはわしの愛剣の一つ……敵を倒すために、また力を貸してもらうぞい」


 両手で柄をしっかりと握り締めた魔剣ジラートは、今までと雰囲気が変わっていた。

 禍々しさは消え、神聖な黒いオーラを放っている。

 女神の力がジラートにも授かったのじゃろう

 呪われた魔剣がここまで頼もしい武器になるとは、当時のわしでは想像もしていなかったわい。


「魔剣ジラート……いや、聖剣ジラートよ……行くぞ!」

「我に任せよ!」


 トドメを刺す為に、わしも空間転移で嵐の中へと突っ込む

 よし、この嵐の中なら、トーラも無事では済まない筈じゃ。


「これで最後じゃ!」


 嵐の中でライネスの斬撃を防いでいたトーラを、肉体を叩ききる!

 手ごたえはある。トーラの魂を切り裂き、動きも止まった。

 決まったのじゃ……トーラの魂は無事に消失し、肉体も消滅していく


「やった……のですか?」


 激しい戦いで、身体を疲労しているライネスも

 わしがトールを叩ききった現場を見ておる。

 ふふふ、決まったな。


「勝ったな。 やっとトーラを倒したのじゃー!」

「……とでも思ったか?」

「っ!?」


 突如としてトーラの奇襲で閃光を浴びたわしは

 そこで暗転してしまう。


 そして次に視界から現れた場所は……

 床の無い暗闇で、辺りは星々の光が広がっていた。

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