二話 聖女の姿を見た剣聖
パラミア王国の王城に一人の男が王座に座っている。
彼の名はグレン・シュレイダー
王都で副団長の地位を得て
あの剣聖ライネスに唯一対抗出来る実力を持つ魔剣士だ。
「くくく・・・・・・まさか、こんな簡単に王城を制圧出来るとは思わなかったな。やはり、この魔剣は素晴らしいな!」
この魔剣は、王城で厳重に封印されていた禁断の魔剣だ。
魔剣の効果は絶大で王城の騎士は抵抗も出来ずに殺されてしまった。
コルキス王は国王の命と引き換えに王子と王女を生かしてほしいと言いやがったから
オレはコルキス王の命だけを生かし、王族達を国王の目の前で殺した。
あの国王が醜い顔で涙をうかべながら嘆き声を聞いてオレは思わず笑っちまったぜ。
「そうさ、俺が一番強いのさ、あの剣聖よりもな!」
実力を認めなかった奴らは、全て魔剣の贄となったのだ。
そして、忌々しい剣聖もここへ向かって来るだろう……
「なんだこれは……」
周りの街は普段と変わり無い、だが人が住んでいる気配は全く無い。
王都に辿り着いたライネスの一団達は王都の変り果てた姿に唖然としていた。
「ライネス伯爵殿……住民どころか敵兵すら見かけません。」
争った痕跡が無い。
だが住民達は王都から逃げ出した可能性は低い
何故なら王都へ向かう途中で旅人や商人すらすれ違わなかったのだ。
「下級兵の君たちは住民の生き残りを引き続き探して下さい。僕はグレン・シュレイダーが隠れ住んでいる可能性が高い王城へ向かいます!」
不気味なほどに、静かな街へ変貌しているが
ライネスには王城に逆賊のグレンが居る可能性が高いのは確信していた。
あまりにも隠し切れない魔力が漏れ出していたからだ。
「まさかここまで簡単に入城出来るとは……どこまでも舐めた真似をしてくれる……!」
ここまで侵入を許しているのに敵からの襲撃は襲ってこない。
全く人影が見えない現状で……はたしてコルキス王は無事なのか?
最悪の事態を想定してしまっている自分が嫌になってしまう。
そして、ついに王座の間へ到着した。
「ようこそ、変り果てた王城へ……歓迎するよ。剣聖殿」
王座床には両手足を縛られて身動きが取れないコルキス王が横たわっていた。
そしてその王座に座り込んでいるグレンがコルキス王を踏みつけた。
「貴様―!」
一人の魔術師が、怒りに任せてアイスニードル唱えてグレンに襲い掛かる。
だが、グレンに直撃する瞬間、氷の刃は消失してしまった。
「おいおい、いきなり襲い掛かるって酷くない?お前の兵士は教育がなってないじゃないか?あまり余計な事をしちまうと……王様を踏み潰しちまうぜ!」
「グレン……!」
不気味に笑っていたグレンはさらにケラケラと笑い続けている。
「まあ、安心しろよ。人質なんて卑怯な手は使わないぜ。
なんたって俺は王様を守る騎士様だからな。ほらよ、王様をしっかりと受け止めな!」
コルキス王の首を掴んだグレンは、そのまま投げ飛ばした。
咄嗟の出来事に、急いでかけつけた兵士達がそのまま受け止めようとすぐが……
「な……っ!動けん!?」
投げ飛ばされたコルキス王はそのまま床に叩きつけられてうずくまってしまった。
「おいおい……国王様を見捨てるなんてひっでえ奴だな」
動けなくなった原因……ライネスはグレンの黒い魔剣から広がって伸びている影が原因だと推測した。
「なるほど……動きを封じる魔剣だったのか。」
簡単に見破られたグレンだが、未だに笑顔は崩さない。
「そうさ、お蔭で王城に住む生贄達を殺すのは楽勝だったぜ。」
何故そこまで……今まで同僚だった仲間を簡単に殺せるのか
ライネスには理解できない。
「何故こんな事をした。王国でトップクラスの実力者で将軍の息子であるお前が何故!?」
グレンはその言葉を聞くと顔が歪むほどに不機嫌になっていた。
「実力者ね……俺はなあ、いつだってナンバー1じゃなきゃいけなかった……。それを貴様が……!!」
グレンは幼少の頃から戦闘訓練を行っていた。虐待ともいえるほどの厳しい鍛錬。
将軍の息子として周囲から期待された彼は、みるみると頭角を現して、王都では敵なしとなっていた。
だが……そんな彼をも凌ぐ才能をもった人物に敗北した結果……グレンの人生が狂い始める。
グレンに憧れていた王都の人たちは手のひらを反してその人物に移ってしまった。
実の父である将軍もグレンを褒めずに、勝利した人物を褒め称えた。
それからの人生は常にその人物が付きまとい、ナンバー2としてのレッテルを貼られていた。
「俺はお前を殺す為にこの魔剣を手に入れた。国も…親父も…みんな俺を認めなかったから殺した。お前だけは簡単に殺させねえ……俺の受けた屈辱を思う存分に味わらせてやる!!」
憎しみのこもったグレンの勢いは凄まじく、身動きの取れない兵士は殺されて、死体となった兵士は消滅し、ライネスの必死の抵抗もむなしく、ついに黒い影に捉えられ……身動きが取れなくなっていた。
このままではグレンを止められない。その事実を痛感して、屈辱と悔しさが滲み出る。
「実に気分がいい……お前のその表情が見たかったんだ……もっと見させてもらうぞ!」
その言葉は公開処刑にも等しい。グレンによる非道な拷問が始まる。
そして、何度も殴られたライネスが意識を失いかけた瞬間、突然に辺りが光りだし……光の中心に黒いロープを着た銀髪の少女が出現する。
「聖女……様……?」
その言葉を呟いて……ライネスは意識を失った。