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十六話 魔砲少女

 魔剣ジラートの証言を頼りに、魔王が住まう城へ向かっていたわしらじゃったが、凶暴な魔物に襲撃されたぐらいで、まだ、魔族とは、遭遇していない。

 出来るだけ集落や街は立ち寄らないようにしている影響じゃな。

 お蔭で、道なき道を歩かねばならぬが、魔族に遭遇するよりはマシなのじゃ。

 獣道ですらないので、進行速度が遅く、魔王城へたどり着くには、数日以上はかかりそうじゃわい


「ふむう……100キロは歩いたとは思うのじゃが……流石に道がないと疲れるのじゃー」

「腹も減ってきた事だし、そろそろ休憩しようぜー! 」

「この程度で疲れてしまうなんて……所詮は子どもね!」


 ルビアは全く疲れていないようじゃ。

 流石は女神と云われるだけはある。

まあ、ライネスも疲れた表情を見せておらぬし、こやつも、かなりの体力馬鹿じゃの。


「ふむう……そうじゃのう。そろそろ夕食にしようかのう。」


 魔界は一日中薄暗く、昼と夜の区別がつかない。

 光を浴びないこの一帯の植物は、光を養分にはせずに、辺りに充満した魔素を餌にしている。

 魔素は人間界では殆ど存在しない。

 これだけ多くの魔素が地上にあふれているのは初めての体験じゃの。

 わしは、空間を開けて、マジックポケットから保存されている保存食の定番であるクラの実の袋を取り出した。

 クラの実はわしの隠れ家で大量に植えてあった木の実じゃ。

 乾燥させれば、腐りもせず、栄養も満点。大量に実るので、非常食として、マジックポットに大量に保管しておる。


「げえ!またそれかよー もっといい食べ物はないのかよー!」

「腐っている食べ物を食べるよりはマシなのじゃ。それとも……魔界に広がる植物の実や魔物の肉を食べる気なのかのう?」

「食べられそうなら、食べてみたいぜ」

「魔界の食べ物も結構おいしいわよ」

「なんじゃ?ルビアは魔界の食べ物に詳しく……って、そうじゃったな、たしか、ルビアは、数千年前に魔界で暴れておったのじゃったな。」


 たしか、ルビアは勇者と一緒に魔界で暴れて、大魔王を倒したのじゃ。

 食糧事情も魔界で現地調達しておったのじゃろう。


「僕も魔界の食べものは食べてみたいですね。クラの実だけでは、苦味があっていて不味いです。」

「じゃが、わしらには、魔界の通貨は所有しておらぬ。それに、魔族の住まう街じゃと、変装していたとしてもじゃ……人間とバレるリスクがあるじゃろ? とてもじゃないが、魔界で調理されている食べ物は諦めた方がよいじゃろう。」

「何よ!略奪すればいいじゃない!」

「何故ルビアはいつも物騒な事に突っ込もうとするのじゃ……そんなことをすれば暗殺が難しくなるじゃろ!」


 魔王の暗殺。出来るだけ穏便に殺すことが出来れば楽なのじゃが……

 まあ、無理じゃろうな。


「そんな事より、飯だ! 飯―!」


 クラの実を食べたわしらは、そのまま休息し、一夜を過ごした。

 睡眠の最中に、わしの結界を素通り出来るほどの、凶悪な魔獣も出現するハプニングもあったが、襲撃に気付いたジーニアスが唱えた風の刃で、あっさりと魔獣は、両断された。

 ジーニアスの成長が凄まじい。

 わしの子供時代よりも強いのではないか?

 そして薄暗い空を眺めながら目を覚まして、起き上がったわしは、ぐっすりと気持ちよさそうに眠っているジーニアスの頭を蹴る。


「ほら、さっさと起きるのじゃ! おぬしだけじゃぞ! 眠っているのは!」

「痛ってーー! 蹴る事はないだろーー!」

「さっきまで寝ていたエリーに云われても説得力がないわよ!」

「こら! 余計なことを言うのではない! ルビアよ!」


 そんな騒がしい朝を迎えたわしらは、また長い旅へと出発する。

 ちなみに、わしの服装は、ドレスではない。

 流石に、こんな悪路では、動きずらいのじゃ。

 なので、魔術師の普段着と黒のロープを身に包んでいる。

 あの白いドレスは、お嬢様のような振る舞いを強制されるときがある。

 特に礼儀作法の教育は地獄なのじゃ……

 やはり、わしは、魔術師の服装が一番落ち着く。

 王城では、着れる暇がないだけに、とても悲しいのじゃー……

 魔族の街へ潜入するのを諦め、ひたすら道なき道へと進んで行き、途中で、巨大な魔獣に遭遇したのじゃが、ルビアに瞬殺されてしまい、おいしい肉としてご馳走した。

 もう、あやつ一人で魔王を倒せばいいのじゃないかのう?


 そして、数日間は道なき道を歩き、ついに魔王の城が見える距離まで近づいて行った。

 森から開けた辺りは平原で見晴しがよい。

 城や砦から不審者を発見しやすいようにしているのじゃろうか?


「あれが魔王城ですか……周りは厳重な城壁に囲まれて、かなり守りが堅そうですねえ。」


 ライネスも魔王城がかなり攻めづらい構造になっているのを見抜いているようじゃ。

 城郭都市となっていて、かなりの堅さを持つ城壁に覆われている。

 都市を壊滅させるほどの威力を持つ、戦略級魔術が唱えられる大魔術師ならば、城壁を破壊する事は可能じゃろう。じゃが、城壁塔の周りに広がる4つの塔を中心に、目視でも見分けがつく程の、巨大な結界も貼っておる。

 あれのお蔭で、外敵からの攻城兵器や魔術などの攻撃や侵入を防いでおるのじゃろうな。

 それに、城壁の色が黒い。あの石は、魔力を吸収する不思議な石として、人間界では、貴重品となっておる。吸黒魔石に似ておるのう。

 結界が無い場合も、ある程度の魔術ならば、魔術に対しての攻撃は無力化されそうじゃの。

 攻め辛いのう……。市門に門番も待機しているので、わしらが魔族に気づかれずに、城下町の中へ素通りする事なんて不可能じゃ。


「ふむう……面倒じゃのう……どうやって潜入するか……」

「そんなの俺様の魔術で一気に城壁と結界を壊してやるぜ!」

「そうよ!あんな結界なんて、私たちなら簡単に破壊出来るわ!」

「おぬしらは、なんでいつも……いや、そうじゃ! それを使う手も悪くないのう。」


 一番いい方法が思い浮かばない。

 魔王城まで、魔族との遭遇はせずに、ここまで辿り着いた。

 領主などの軍団が背後から襲われる心配もない。

 魔剣ジラートの情報では、わしらを脅かすほどの力をもった魔族が数百キロの範囲では居ないようじゃ。

 殆どが魔王城に一極集中しておる。

 最前線以外では、攻めと守りが薄い構造になっているらしいのう

 魔王城は、守りが堅いようじゃが、わしの戦略級の威力を持つ魔術を、聖石で増幅させた状態で唱えれば、城下町を守っている結界ごと城を破壊する事が出来そうじゃ。

 幸いにも、わしらが潜んでいるのを、まだ気づいていない。

 既に戦略級魔術を唱えられる準備は整っておる。


「遠距離から魔王城を破壊出来れば、魔王を簡単に倒せそうじゃのう!なんじゃ!実に簡単な方法ではないか!」



 ここは魔王城……魔王ハデスは城の地下深くで、召喚魔術を施す儀式をする為に 籠っているので、魔王は王座に居ない。

 そして、魔王の王座に座っているのは、最強の四天王であるギギル。

 その漆黒の肉体は、鉄よりも頑丈で、魔王ハデス以外では、傷をつけた魔族は居ない。


「まだ見つからないのかよ?」

「申し訳ありません……未だに、魔界へ潜入した人間の潜伏先がわかりません……。」

「全く……足止めしようにも、その侵入者が見つけられないなら、仕留める事も出来ねえよ。」


 ギギルは魔王ハデスからの命令で、魔王の代理として指令を行っている。

 もう一人の四天王は、昨日に、魔王城から旅立ち、敵国が自国の領内に侵入してきた軍団を壊滅させる為に出撃してしまった。


「まあいい、もうすぐで、魔王様が切り札を召喚するらしいからな。」


 魔王が召喚しようとしている切り札。

 その切り札は、遥か昔に、魔界で暴れた化け物らしい。

 そんな存在を操る統べを手に入れたのならば、もはやこの国に対抗できる戦力は現れないだろう。

 だが、そんな思考をしているギルルに、かすかな魔力を感じ取り、その魔力が、かなりの増大な質量をもつものだと感じ取っていた。


「むっ? なんだ? 西の方角から、かなりの魔力を感じるぞ! おい、そこに突っ立っている貴様。さっさと、様子を見て来い!怪しい奴だったら殺せ!」


 翼を広げて、四天王ギルルの命令で慌てて城から飛び出す上級魔族。

 人間が塔の結界を破壊させようとしているのだろうか?

 だがそれは、不可能に近い。

 数々の戦乱から守り抜いた伝説をもつ。難攻不落の結界。

 人間如きでは破る事は不可能だ。

 だが、その目論見は脆くも崩れ去ってしまう。


「ん? なんだ……なぜ城がここまで明る……」



「やったぜ!」

「どうやら、無事に魔王城を破壊出来たのじゃ。」


 魔王城は、エリー王女から放たれた、無数の光線によって、煙と騒音を立てながら、崩れ去っていた。

 聖石での力で増幅された戦略級の魔術。

 途中から飛び出して来た魔族をも一瞬で消滅させ、城壁と結界を簡単に貫かされるほどの威力を誇っていた。


「まさか、城へ突入せずに、魔王を倒すとは……流石はエリー王女様です!」

「私の聖石の力があれば、あれぐらいは当然ね!」


 ライネスは感激した様子じゃが、それほどに感激するほどかのう?

 魔王城に突入して魔王を打ち倒す展開をぶち壊してしまったのじゃが……

 まあ、楽して勝つならば、これが一番じゃし、仕方ないのじゃ。


「……で、ジラートよ、魔王の反応は、どうじゃ?」

「魔王の反応は消えている……だがおかしい……魔王よりも遥かに高い魔力が、崩れた城の地下深くに感じるぞ!?」

「魔王よりも強力な魔力? それは一体……」


 どうやら、魔王は倒したらしい。

 じゃが、それよりも強い魔族じゃと?

 一体どういうことじゃ?

 どれ……わしも魔王城の跡地に漂う魔力を感知してみるかの。

 むむむ……な……こ、これは……!?


「な、……なんじゃと!? 一体なんなのじゃ……魔王城全体を覆うこの巨大な魔力は……」


 あり得ない……感じただけで、わしの胸が苦しくなる。

 これほどまでに禍々しい魔力は見たことがないぞい!


「ルビアよ! これは、どういう事じゃ! 魔王が黒幕ではなかったのか!」

「知らないわよ! 私だって、想定外の事はさっぱりよ!」


 そんなわしの動揺を無視するかのように、次の瞬間。

 魔王の城下町は地下から突如に出現した巨大な光に包まれて往き、城下町は、消滅してしまった。


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