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十五話 行き当たりばったりの旅立ち

 わしらは今……魔界に広がる森の中で、魔王の住まうガルア魔国へ討伐するまでの長い道のりである旅を、どうやって乗り切るのかを考えるために作戦会議を開始している。


「……で、ルビアよ、その魔王が住まうガルア魔国とやらは、何処じゃ?」

「知らないわ!」

「……」


 あまりの言葉に、わしは唖然とした。

 そんな行き当たりばったりで魔界へ攻めこもうとしたのか……


「ガルア魔国って俺の帝国みたいに大きい国なんだろ? 魔族に聞けばすぐに場所を特定できるじゃん!」

「それは無理かもしれません。魔族と人間は数千年前に敵対してます。僕らが魔族の住む街へ出向けば、たちまち袋叩きにされるでしょう。」

「そんなの簡単よ! 魔族を脅して聞き出せば解決出来るわ!」


 ルビアは何故そこまで物騒な解決法へと導きだそうとするのじゃ

 本当にこやつは女神なのか?

 いくらなんでも脳筋すぎるわ!


「今目立ってしまっては、わしらはこの世界から一斉に魔族が襲ってしまうのじゃ。それだけは避けたいのお……」


 何よりも魔界がどれほどの広さを持つ世界なのかも分かずに

 いったいどうやって辿り着けばいいのじゃ……

 いや……まてよ、

 魔剣ジラートは魔界出身じゃったな。

 ちょっと聞いてみようかの

 わしはマジックポケットに保管されている魔剣ジラートを空間の穴から取り出した。


「……と言う訳じゃ。おぬしは心当たりはあるかのう?」

「いくら我でも数千年前に無かった魔国を発見する事は無理だ。」


 むう……これでは魔王を討伐するまでかなり時間が掛かってしまうぞい

 どうしたものか……


「だが、その魔国が最大の勢力を持つ国ならば……強力な魔族と魔王の魔力を感じ取れる事は可能だ。」

「それは本当?もし嘘をついてたら……その魔剣をへし折ってやるわ!」

「ま……待つのだ!もう少し待てば、魔族の魔力が一番集まっている場所を特定できる!」


 まさかジラートにそんな機能があったとはのう……

 世界のどこかに居る人物を探索するにはかなり便利じゃの!

 まあ、強い魔力をもつ人物限定の機能じゃろうがな。


「むむむ!? ここから大陸の東へ200キロに……かなりの魔力の波動が3つ感じるぞ! 特に一体だけは、桁違いの魔力を持っておるな……」

「200キロ……そこまで遠くではなくて一安心ですね。」

「数日はかかるじゃねーか!遠すぎ!」


 ふむ……200キロか、意外と近いのお……別の大陸じゃったら、危険な海路も必要となって数千キロ以上は旅をしなければならない。

 それに比べれば、徒歩で数日で着ける距離ならば十分ラッキーじゃな。

 じゃが、魔王の住む城から距離が離れてないと言う事は、ガルス魔国の領域に入ってる可能性もある……慎重に行動しなければならぬな。

 人間だとバレぬように、ある程度は変装もしなくてはならぬ。


「徒歩とかだるいわ! ここは私の魔術である激流移動術で一気に進みましょう!

高速で流れる水の激流に身をゆだねて一気に進めるわよ!」

「そんな激流に飲まれてしまったら、わしらは溺れてしまうのではないか?」

「確かに人間だと溺れる可能性があるわね……数千年前で一緒に旅をした勇者も溺れ死にそうになっていたわ」

「却下じゃ!」


 ルビアはわしの拒否に納得がいかないようじゃ。

 じゃが……それって、人外である女神限定の移動魔術じゃろ……

 わしらじゃったら溺死してしまうわ!

 それ以外の移動法じゃと

 わしが楽に高速移動出来る術であるテレキネスが使える。

 テレキネスは相手の抵抗ですぐに解けられてしまうので

 基本的には、本人以外の生物には使えない。

 じゃが、相手が抵抗をしなければテレキネスで相手を浮かせる事は可能じゃ。

 しかし……ジーニアスと魔力抵抗が高いライネスをテレキネスの魔術で空を飛ばすのは、かなりの魔力が消費してしまう。

 それに、地上に住む魔族から直ぐにわしらを見つけられる危険性が高いじゃろうし、攻撃も狙われやすい。

 やはり徒歩しかないのお……

 じゃが、わしは不安である。

 特に女神ルビアには注意をしなければならぬ。

 絶対に遭遇した魔族を即殺をして、集落に住む魔族を襲撃しそうじゃわい……

 そんな不安を感じさせながら、わしらは魔界での旅が始まった。




 ここはガルス魔国

 魔界で最大の領土をもつ魔王ハデスが収める地である。

 そんな魔王が佇む部屋に、慌てて駆け寄る部下が扉を開けた。


「大変です!エリー王女を暗殺に向かった四天王ニビルが討ち死にいたしました!」

「なんだと!?」


 最強の暗殺者が倒された

 その速報の衝撃は凄まじい。

 たかが人間であるエリー王女が四天王に匹敵する力を持つ事を認めなければならない。


「四天王が二人も敗れてしまった損失は痛い……吾輩が出向くわけにはいかぬし、聖女エリーの寿命が尽きるまでは、人間界への侵攻は中止するしかない。」

「す……すみません……あと一つ……か…かなり悪いお知らせがあります。」

「なんだ? 吾輩に宣戦布告した小国でも現れたか?」


 だが部下の様子がおかしい……

 これほどの震え声を出しながら発している言葉は恐怖……


「せ……聖女ルビアが……エリー王女を引き連れて……我が国に侵攻した模様です……。」

「…………だと……!?」


 魔王は困惑し、額には汗が流れていた。


「…………冗談はよせ。」

「冗談ではありません……人間界では女神のお告げが来たらしく、エリー王女が魔王を討伐しに、魔界へ旅立ったと告げられたようです……それと……魔界へ潜入した聖女の一団は未だに発見出来ていません……」


 やってしまった。

 まさか、人間界に魔族を一人だけを侵入させただけで、聖女ルビアに気づかれてしまうとは……

 とんでもない逆鱗を吾輩は触れてしまっている。

 もはや逃れるすべは無い。

 だが、吾輩はまだ死ぬ訳にはいかない。

 例え……魔界に災いが降り注ごうとも、生き残れる道へ懸ける!


「吾輩はあれを召喚させる儀式の準備を開始する。地下室へ数日は籠らねばならぬ……それまでは残りの四天王が指揮を取り、聖女が発見次第に足止めをするのだ!」

「あれを!?しかし……あれは、大魔王ですら抑える事が出来なかった化け物ですぞ! 当時の災いを忘れてしまったのですか!」


 聖女と勇者が魔界へ侵攻した時代よりも昔の時代……大魔王の侵攻から撃退する為に、とある小国で禁断の召喚魔術を行った。

 だが……召喚された化け物は小国の魔王からの呪縛は直ぐに解かれてしまい、その場で魔王を殺害された事で、小国は何も抵抗すらできずに滅亡。

 さらには、魔界の殆どを更地へと変えるほどに暴れ……多くの国を滅ぼされてしまう。

 それは……聖女と勇者が攻められた時代よりも遥かに酷い暗黒の時代と云われている。

 大魔王の軍団ですら止められない。

 魔族たちは、召喚の期限が切れるまで、ひたすら耐える凌ぐしかなかった。

 そして、召喚の期限が切れる直前に、化け物が大魔王に戦いを挑んだと伝えられる。


「つまらん……弱すぎる! 所詮は出来そこないの新型か……大魔王とは言っても所詮はこの程度か……」

「お前の目的はなんだ……何故そこまでして魔界に住まう魔族を虐殺するのだ!?」


 その化け物は無理やり召喚させた小国を滅ぼした後も虐殺を楽しむかのように暴れ続けていた。

 大魔王も敗北し、もはや……召喚した化け物がこの世界に居られる期限を過ぎるのを待つしかない。


「目的? そうだな…………しいて言うならば、この世界で住むつく新型には、永遠に縛り着かせる呪いをプレゼントしてやる。奴が住まう人間界を攻めなければならない呪いをな。」


 人間界を攻める……それは魔界で、既に禁断の掟として、攻める事は固く禁じられていた。

 既に人間界へ向かう術の技術も無くなり、すっかりと魔界では人間界の存在は忘れ去られていた。


「今から俺が人間界へ侵入する事が出来る魔術を与えてやろう……この呪いは強制だ。

どれだけ貴様らが人間界へ興味がなくとも、魔界を支配する魔王には、この呪いが襲いかかる。それは、貴様が死んだ後に現れる支配者も同じだ。」

「馬鹿な……女神が住まう世界へ攻めるだと!!?」

「女神はもう居ない……そこに住むのは旧型と壊れたガラクタだけだ。まあ……貴様が倒される危険性があるなら、俺を召喚しろ。どうだ? 人間界も支配出来て、悪くない話だろ。」


 化け物の目的がわからない。

 だが……その言葉を言い残して、化け物は召喚の期限切れで消滅する。

 その後、その言葉をきっかけに、大魔王は人間界を攻めたい欲求を抑えられなくなっていた。

 そして、大魔王は魔界に住まう魔族の殆どの土地を完全に支配し、ついに人間界への侵攻を開始する。

 大魔王や魔界で君臨する魔王ハデスが人間界へ攻める動機は、この化け物からの呪いである。

 大魔王はこの化け物を恐れ、そのまま化け物の召喚はされずに、勇者と聖女によって倒されてしまった。だが、魔王ハデスはその化け物に懸けようとしている。


「吾輩が死ぬよりはマシだ。あの化け物が強者を求めているのならば聖女ルビアは丁度いい相手になるだろう……くくく」


 出来れば共倒れしてくれればいい。

 片方だけが倒されたとしても、その一方は既に激戦との傷跡で弱っている。

 吾輩でも弱っていれば、倒すことは可能だ。

 これぞ漁夫の利である。


「そう……吾輩は魔界で最大の勢力を誇る魔王だ。吾輩が負ける筈がない!」


 覚悟を決めた魔王ハデスはそう言いながら地下深くで、数日程度の時間を要する為の準備を整え、召喚の儀式を開始した。


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