十三話 師匠になったロリババア
「なあなあ? あの一瞬で別の場所にワープする魔術を教えてくれよ!」
ジーニアスは、わしが尊敬する魔女から継承された魔術をしつこく教わろうとしておる。
冗談ではない。空間魔術が使えるのは、わしと魔女だけで十分じゃ。
あの血と汗と涙の結晶で会得した魔女との絆をそう簡単に教えてやるものか!
「嫌じゃ。あれはわしのとっておきの魔術じゃからな。」
そんなわしの拒絶にすっかりとしょんぼりするジーニアス。
最近は色々な方法でわしに甘えて、魔術を教わろうとしておる。
なんなのじゃ? 何故そこまで強くなりたいのじゃ?
「ジーニアス、何故そこまでわしの魔術にこだわる?わし以外にも魔術を教えるの
が得意な大魔術師がおるじゃろうが」
そんな言葉にジーニアスは全く動じない。
その瞳は、わしへ真っ直ぐと見つめておる。
「俺はエリー王女だからこそ教わりたい。俺が唯一……魔力でも、実力でも完敗した尊敬する大魔術師、そんな存在に教えてもらった方が、強くなれるじゃん!」
なるほどのう……確かにわしは、魔術師として最強を自負する自信はある。
じゃが、そこまで到達するまでは長く険しく辛い道のりじゃぞ?
「わしは今まで魔術を他人へ教えた経験はない。それでも良いのか?」
最近はジーニアスには空間魔術以外なら教えてもいいと思っておる。
それほどにジーニアスの熱意が凄まじいのじゃ。
「かまわない。どんなに教えが下手でも、俺は天才だから直ぐに会得してみせるぜ!」
こやつめ……自ら天才と名乗るとは、調子にのりおって!
「ふふん、そこまで言うのならば、難易度の高い魔術を教えてやるわい!わしの魔術を学ぼうとした事を後悔させてやるわ! じゃから……決してわしがジーニアスに心を許した訳ではないぞ? 熱意に負けて、仕方なく教えてやるのじゃ!」
「よっしゃーーー!!」
そんなわしのハードモードのキツイ修行を待ち受けておるのに
ジーニアスはここぞとばかりに喜んでガッツポーズじゃった。
本当にそこだけは、若い頃のわしにそっくりじゃな。
いいじゃろう……喜んでいられるのも今のうちよ!
わしらは王城に広がる大きな庭でジーニアスを鍛える事にした。
そして一時間後
「はあ…はあ……」
「そこ! 魔力が乱れておるぞ! もっと魔術の詠唱を維持するのじゃ!」
ふふん、いくら生まれながら、魔力が膨大にあろうとも、コントロールできなければ意味が無い。
わしは、魔女から一番初めに教わった基礎中の基礎が出来ていない疲労困憊のジーニアスを見て思わずニヤリとしてしまった。
「なんなんだよ、魔力をコントロールする事なんて必要なのかよ……」
「必要じゃ、おぬしが莫大な魔力を放つ技を使っておるが、あれも周りに魔力が飛散しておったぞ?そういうのは無駄に魔力を消費していると言う事じゃ。飛散してなければ魔力の節約にもなるじゃろうし、一点集中で魔力を高めれば、魔術の詠唱を大きく短縮する事が可能なのじゃ。」
わしが普通の魔術師よりも素早く魔術を発動できるのもこれのおかげじゃ。
今では、この方法と聖石のおかげで、戦略級の大規模魔術以外なら、ほぼ無詠唱で唱える事も可能なのじゃ
「わかった。がんばってみる!」
ジーニアスは諦めない。ふむ、こういう教え子を持つとうれしくなるのう。
魔女も同じ気持ちじゃったのだろうか?
「ふん、所有者様と修行をさせて貰える事を光栄に思うがいい!」
この魔剣ジーラスは定期的に外に出してやっている。
マジックポケットの空間がトラウマになっているようじゃった。
光輝く魔剣と同じ場所に貯蔵してからは、仲間の魔剣が出来て大人しくなりおったが
未だにあの空間を嫌っておる。
偉そうな口ぶりじゃのに、かなり寂しがり屋の魔剣じゃな。
「いいなー俺もしゃべる魔剣がほしいぜ!」
魔剣に乗っ取られた事があるのに、よくそんな事が言えるものじゃわい。
まあ、そこまで強くなりたいんじゃろうな。
「我のような話せる魔剣は魔界でも少ない。貴様が装備できる可能性は無に等しいわ!ふはははは!!」
そんな他愛もない日常を王城で過ごし続けているエリー王女。
そして、順調に修行で鍛えられているジーニアス。
「さて……ねずみが潜んでおるが……どうやって始末しようかのう」
わしは誰かに監視をされている視線を数日前から感じていた。
十中八九……わしが標的じゃろうな
襲撃は、一人で旅をしていた時に何度も遭遇している。
すでに襲撃が来るのとわかっているならば、色々と対策もしやすい。
来たるべき襲撃へと備えるために……いろいろと準備をしようかのう。




