十二話 魔王の作戦
ここは魔界。
幾つもの小国が覇を競い合い
多くの魔王が消え、新しい魔王が誕生する。
その中で最大の勢力を誇るガルア魔国。
この魔王は魔界の支配だけでは満足せずに
人間が住まう人間界にも侵略しようと考えていた。
だが、軍団規模では送れない。
世界の境界線は狭く……下手をすれば聖女ルビアに気づかれる可能性がある。
この魔王は、まだ小さい頃、魔界に現れた聖女ルビアが魔族を虐殺している姿を見て恐怖した。
きっかけは数千年前の人間界への侵攻。
人間達は魔族よりも寿命が短く、戦闘力も低い貧弱な生き物なので
簡単に人間界を征服できるだろうと、当時の大魔王は楽観視していた。
だが……人間界へ侵攻した軍団は聖女と名乗っていた聖女ルビアと勇者の二人よって全滅してしまった。
さらには、報復として……聖女と勇者は魔界に侵攻する。
青い髪の巫女衣装を着ている美しい姿の聖女。
聖剣エックスカリバーを装備した黒髪の若い青年男性であった勇者。
この二人によって、魔界は
恐怖の虐殺が始まった。
「ヒャッハーーー! 人間界を侵略した愚かな汚物達は消毒よーーーーーー!!」
「ちょっとやりすぎじゃね?ルビアさん。」
まさに悪夢。
聖女が放った巨大な激流は、それだけで魔族は抵抗もできずに溺死してしまい。
勇者が放ったエックスカリバーは、たった一振りで魔族の軍団が壊滅されていた。
たった二人に蹂躙され……なすすべなく滅ぼされる魔族。
当時の魔界はこの壊滅的な大敗で大打撃受け、人間界を侵攻した大国は大魔王が 倒されたことで滅亡。
また小国どうしがひしめき合う戦乱の時代へ逆戻りしていた。
それほどの恐怖を感じたが、魔王ハデスは人間界への侵略を諦めていない。
何故なのかはわからない。
まるで本能がそう告げられているのが如くに人間界にこだわる。
そして要注意人物である聖女ルビアに気づかれてはならない。
聖女ルビアは人間ではない。
未だに現世で生きている予感が魔王では感じていたのだ。
そのため、慎重に……じわじわと人間界へ侵略する事にした。
まずは手始めに魔剣アイスセイバーで人間の大国の王を乗っ取る事で
人間の国を戦火の渦に巻き込んで疲弊させようと考えていた。
魔剣アイスセイバーは乗り移った人物の視点からの映像を魔界でも観覧できる能力が備わっている。
それを利用して、魔界でも敵対者の国に忍び込ませて、内部情報を探るのに最適だった。
そして、無事にガイア大陸で最大の勢力を持っていたセリウス帝国に魔剣アイス セイバーを送り込む事に成功したが……
送り込んでからは数日も経たずに……魔剣アイスセイバーとの連絡は途絶え……行方不明になっていた。
そんな行方不明になった魔剣アイスセイバーから待ち続けていた魔王に
慌てて駆け寄る部下が扉から開けて飛び出した。
「報告です!魔剣アイスセイバーが聖女と名乗るエリー王女に倒されました!」
その速報を聞いて魔王は驚く。
「馬鹿な!魔剣アイスセイバーは吾輩の四天王で最弱の実力を持つ幹部だぞ!」
グレン魔国の最高戦力として抜擢された四天王……魔王には及ばないももの
恐ろしいほどの強さをもつ実力者達。
四天王で最弱の魔剣アイスセイバーは魔剣を破壊する事が不可能で
倒してもまた、次の宿り主に乗り移る能力があり、四天王の中で一番汚い戦法をとる有名な存在だ。
「そのエリー王女とは何者だ? まさか聖女ルビアが王女に化けているのではないだろうな?」
魔王はそれを危惧していた。
万が一、聖女ルビアに気づかれてしまえば、今までの計画が水の泡だ。
「その可能性は低いです。まずはこちらの映像をご覧ください。」
魔剣アイスセイバーは乗り移った人物の視点からの映像を魔界でも観覧できる能力が備わっている。
その行方不明になっていたアイスセイバーからの映像を魔王は最後まで隅々まで視聴した。
映像から見た聖女の姿は銀髪の少女で、明らかに聖女ルビアとは違っている。
そして、魔王はエリー王女が装備している黒い魔剣が
魔界出身である事を見抜いた。
しかもあの魔剣は、魔界で唯一……魔剣から上級魔族へ進化し、数千年前に人間界へ侵略してからは、ご無沙汰がなかった魔剣だ。
何故たかが人間如きが魔族を従えさせているのだ?
それほどに強力な人間なのか?
聖女と名乗っているだけに油断はできない。
だが、数千年前のような悲劇は繰り返させない。
対聖女用の兵器を開発したのだから……
「奴を送れ。聖女エリーに………この兵器をお見舞いしてやるのだ!」
「ついに奴を人間界に送るのですね!」
奴……我が四天王で暗殺を得意とする魔族。
四天王で最弱だったアイスセイバーよりも慎重で確実に暗殺を遂行していた幹部だ。
「くくく、これで聖女と名乗る王女は、これでお終いよ。吾輩に目を付けられた事を後悔させてやる!」
魔界へ最強の刺客が送り込まれたエリー王女。
……だが、魔王は知らない。
エリー王女には既に聖女ルビアと同一人物である
女神ルビアの加護が授けられていた事を。
一方その頃……
わしは今、王城の室内で王族の英才教育をうけておる。
例のクーデタで王族が皆殺しされた影響で
今はわししか王位継承者を所有する王族が居ない
なので早急に教育を受けなければならぬと父上に云われてしまったのじゃ……
いかん……このままでは本当にこの国の王女になってしまう……
内政やら政治なんぞの貴族との駆け引きなんてめんどくさすぎるわい。
それよりも魔術の研究をもっとやらせるのじゃ!
そんなわしの数少ない魔術を研究する時間もジーニアスと遊ぶ時間に奪われてしまった。
そして、この英才教育にはジーニアスも同席している。
まあ、追放されたとはいえ……将来は皇帝になるかもしれんからのお。
王族の英才教育を学ぶのも良い勉強になるじゃろう。
じゃが、はっきりいって難しい。
当然じゃ。わしは魔術の研究しか取り柄の無かった大魔術師でしかない。
内政や政治の話なんぞさっぱりなのじゃー!
思わず筆が止まり苦心してしまう。
そんなわしの苦悩をあざ笑うかのようにジーニアスは的確に答えを正解していた。
わしが悔しい表情を浮かべているのを見て、すっかりとドヤ顔になっておる!
ぐぬぬ……何故じゃ! 何故わしがジーニアスに負けてしまうのじゃ!
……こんな事はありえぬ! わしのプライドが絶対に許さない!
その後、わしの必死の努力もむなしく、ジーニアスに大敗してしまったのじゃ……。




