十一話 100年前は孤独だった元爺
ここはわしの寝室。
この寝室に警備をしてるのは護衛騎士の剣聖を筆頭とした騎士団達じゃ
常に、1人か2人も付きまとっているので、非常に鬱々しい存在がいる
そんな中でさらに鬱々しい存在が増えてしまった
帝国から追放されたジーニアス皇太子。
わしの寝室にも忍び込んで甘えてきおる。
なんじゃ? わしは母上ではないぞ!
甘えたいなら、さっさと帝都に帰るのじゃ!
……まあ、追放処分されたのじゃから、当分は帝都に近寄れなくなってしまったのじゃったな。
餓鬼の世話なんぞ、一生の独身だったわしには縁のない話じゃったのだがのう……
まだ、父上との雑談のほうが好きじゃな。
さらには父上に抱き着いてしまいたくなるほどの衝動まで襲ってくるのじゃ。
これは生前のエリー王女は父上が大好きじゃったのだろう。
ここまでわしにまで影響してしまうとか……恐ろしい王女じゃ。
決してわしがあの国王が大好きになったわけじゃないぞ!
そして、ジーニアスはそのままわしの寝室で眠ってしまった。
まあ、わしもジーニアスの気持ちはわかるがのう。
強すぎる魔力で周りから恐れられ、親からも甘やかさせて貰えずに見放された存在。
そう……過去のわしじゃ。
それは……100年前に遡る。
僕は要らない存在。
お母さんはボクを魔力に当てられた影響で病気になってしまったらしい。
その後はお母さんが病気で死んでしまって
お父さんもお母さんを殺した原因だったから、そのまま孤児院に捨てられた。
孤児院に引き取られてからも変わらない。
みんな僕を恐れている。
なんで?
魔力が暴走してしまったのがいけないの?
たまに暴走する魔力でみんなが倒れてしまう。
僕はみんなから避けられている。
僕に居場所なんてどこにも無い。
ずっと一人だ。
そんないらない存在に手を差し伸べてくれたのが僕の師である魔女。
僕が一番尊敬して、一番大好きだった人だ。
彼女はボクに魔術を教えてくれた。
魔女の魔術を後世に伝える為に僕が継承者に選ばれたらしい。
上達も早く、魔力のコントロールが上手くなって暴走をしなくなった。
魔女も僕をよく褒めてくれた。
空間を操る魔術の会得はとても難しくてつらかったけど
とっても充実とした日々を送れた。
魔女と一緒に生活してからの僕はとっても幸せだ。
だけどそんな幸せは長くは続かなかった。
魔女は病気になった。
現在の治療魔術では決して治らない重い病
魔術は万能じゃなかったの?
誰か魔女を助けてよ!!
そんな願いもむなしく、必死に看病をしても魔女は日に日に衰弱していった。
治療魔術を行うためには光属性に適正がないと駄目らしい。
だけど……僕には光属性に対する適正が無かったから
魔女を救えない。
僕は無力だ。
「ユリス。貴方はきっと有名になれるほどの大魔術師になれる。だからもういいの。そんな悲しい顔はしないで。」
「嫌だよ! 僕は魔女が居ない世界なんて生きていけないよ!死なないでよ!」
そう言った僕に、魔女は最後の遺言のごとく呟く
「ごめんね。私もずっと一緒に居たかったけど……もう無理そう……。」
もう僕の顔は涙でボロボロだ。
こんな悲しみは今までなかった。
孤独だった時よりも苦しい。
「いい、最後の約束よ。幸せに生きなさい。」
そう言って魔女は息を引き取った。
僕の大好きだった魔女は死んでしまった。
こんな悲しみを背負うなら、僕は一人のほうがよかった。
だけど強くならなくちゃ、魔女から継承した魔術をもっと研究してもっと強くなろう。
仲間なんていらない。
たった一人で、どこまでも強くなって、魔女に教えてもらった魔術で僕を世界中に名を広めてやる!
「そうじゃったな。あれから随分と時が経ってしまったのう……」
そんな懐かしい記憶をふと思い出したエリー王女は
すやすやと気持ちよさそうに眠っているジーニアスの頭を易しく撫でた。
「皮肉なものじゃ。今のほうが幸せを感じるとは」
今では信頼できる仲間と家族が居る。
過去では仲間も、家族も居なかった。
女性としての肉体を得てしまった王女。
そして……決して魔術を唱える事が出来なかった光属性までもが唱えられるようになっていた。
「わしも……魔女のように上手く教育できるかのう?」
ジーニアス元皇太子を過去の自分に面影を積み重ね。
少しだけやさしくしてあげようと決意するエリー王女だった。




