外伝 ジーニアス皇太子の決意
俺様は魔剣に乗っ取られたにもかからわず
周りの風景は目を瞑る事も出来ずに無理やり見せ続けられていた。
こんな筈ではなかった。
魔剣の圧倒的存在感でみんなを驚かせようとしただけだ。
それがこんな……
こんな事態になるなんて予想できるかよ……
そして俺がいつも遊んでいた鮮やかな宮殿の周りはすっかりと氷の宮殿の姿へと変わっていた。
やめろ……あいつは俺様とは関係ないだろ……やめろ!
魔剣は容赦なく宮殿で逃げ惑う人達まで氷の姿へと変えていった。
なんだよこれ……なんなんだよ!!
俺が悪かったからもうやめろよ!
もう嫌だ! こんなのみたくない!
そして、辺りは次々と氷の氷像へと変えながら
魔剣はとうとう親父の所まで来てしまった。
親父と剣聖が必至になって抗うも全く戦いになっていない。
魔剣の圧勝だ。
そう……親父や剣聖ですら相手にならないほどに俺様は強くなっていた。
ははは……乗っ取られたほうが強いなんて笑えないぜ……
親父も今頃になって謝っても遅えよ!
もう俺は取り返しのつかないことまでしてしまったんだぞ!
謝るのは俺のほうだよ……ちくしょう!!
俺の心の中はボロボロだった。
あれだけ最強だと思っていた筈の俺には、最強の矛が抜け落ちて
ぽっかりと穴が開いていた。
そしてエリー王女までもが駆けつけて来てしまう。
ばかやろう……せっかく助かった命を無駄にしやがって……
なんでここへ来た!死にたいのかよ!
だか、エリー王女は変り果てた俺に恐怖すら感じず
余裕の表情で、まっすぐと俺の顔を見ながら黒い剣を構えていた。
どうしたら、あんなふうに、堂々と戦える?
どうしたら、あんなふうに、強くなれる?
わからない。
もともと強い魔力だけが取り柄だった俺には
彼女のような強い心はなかった。
そうさ、俺の心は、もともと弱かったんだ。
最強なんて、本当は心の弱さを隠す鎧でしかなかった。
遅すぎるよな……
今更になって今までの行いに後悔がにじみ出るなんてよ。
だけど……もう手遅れだ。
魔剣に乗っ取られた俺はきっと救い出されない。
そうさ、その黒い剣で俺を……
頭に激痛がはしりながら、俺は目が覚めた。
身体は後頭部の激痛を除いて、あちこちに痛みはあるけど、黒い剣に切られた傷がない。
まさか自分が生き残れるなんて思いもしていなかった。
ははは……乗っ取った魔剣だけを消し去るなんてよ……反則すぎるぜ。
これが聖女か
これが本当の強者なのか
全く……完敗だよ。
それから俺は親父にお願いした。
俺を王国へ追放処分にしてくれと。
親父は今までの俺に対する行いを悔やんでいたが
もう俺は気にしていない。
今度は俺が親孝行をしなくちゃいけない。
だからエリー王女に鍛えてもらって
もっともっと強くなって、今度は俺が親父を助けてやるよ!
だから……それまでは、待っててくれ!




