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1・さよなら平穏、こんにちは混沌

初めての方、初めまして。そして、お久しぶりです。今作品は、女性を主役にし、男性を脇に固めた構成となっています。冒頭部分では世界観や遺産の説明、恋愛要素はありますがバトル描写もあることから、はたしてそれで需要があるのか、疑問があったので、ためしにWeb公開してみたいとおもい、投稿しました。必殺技も各キャラによって言語が違うという要素もいれてみました。なお、本文中はカタカナ表示です。なぜかというと、読みにくい、わかりづらい、文字化けするかもしれないので怖くてそのまま載せられなかった、といった点からです。

よろしければ、感想をお願いします。

自己進化小説(笑)として、Web掲載、更新していきたいと思います。

 惑星ガイアには超高度な科学力を誇っていた古代文明があった。

 超人的な力を得られる。

 重傷者を一瞬にして癒す。

 膨大な情報を他者に受け継がせる。

 などという夢や魔法のような超常現象を引き起こせたという。

 そんなすごい文明がどうして滅んでしまったのか。大きな隕石によって破滅した、氷河期によって星が凍結したなどと諸説あるが、定かではない。

 遺産ひとつの力で、常識ががらりと変わるのも稀ではない世界。

 奇跡のような力を得るために世界各国は多額の予算を遺産発掘と調査につぎ込み、探している。

 だが、物事にはルールがあるように、遺産を扱うにいもいくつかのルールがある。

 その一つが、遺産を発動させるには、その遺産との適合率の良さ、扱う物の遺産キャパシティが高くなければならないということ。

 適応者の音声も必要らしくのだが、古代語をベーシックにした独特な発音のため、適応者以外の頭では理解できなく、感じ取れるだけである。

 人々は遺産を動かす音がメロディーのように聞こえるので、神音しんいんと名付けた。

 神音の音が複雑であればあるほど遺産の価値が上がる。そんな強力な遺産の中で、特に名高いのはファナティックスーツだ。

 適応者がいない休止状態のときはメモリーと呼ばれる結晶体へと形態を変わるという摩訶不思議な遺産。形はものにもよるが、見た感じは豆粒からピンポン玉ぐらいの大きさのクリスタルであるという。

 メモリーは適応者を見つけると、即座に休止を解除、起動。本来の形態、ファナティックスーツへと戻り、適応者の体に装着。歴史に転機をもたらすほどの力を適応者、もとい装着者に与えるという。

 装着者たちは、時を超えるなどといった不可能を可能にする力さえも持っている。そのためその起源を正確に知る者はほとんどいない。

 ただ、装着者たちは幾多のパラレル世界を股にかけ、絶対的にて圧倒的な力で運命さえも打ち砕く、ということははっきりとしている。

 地域によっては神ではなく悪魔のような描写もされるが、神音を奏で、人々の希望を叶えてきた伝説の戦士。

 人々は神に匹敵する能力もつ装着者に称賛と畏怖の念をこめて「時を渡り歩くほどの強力な遺産を操る英雄、それ、ワルキューレである」と称え、生きる伝説として語り継いでいる。

 今もまた、そんなワルキューレたちの伝説が紡がれる。

 希望へとつながる、一人のワルキューレの誕生とともに……。


1・さよなら平穏、こんにちは混沌


 グリゴレウス暦二〇二五年。

 ジャパート国相模県八幡山町、小田原城の特設ステージ。

 その日、近年大量発生している地域密着型のご当地ヒーローの一人である、風魔ふうまグリーンが立っていた。

 風魔グリーンのスーツアクターは、忍者をモチーフにした派手な衣装を着込み、背中についている風車手裏剣をプロペラのように旋廻させ、風魔出陣(創作ダンス)をちびっ子たちの前で披露している。

 至って普通のヒーローショーである。

 ただ、いつもと違うところがあるとしたら、中の人がいつもより身長が低いことと、さらしやごついアーマーで体形をごまかしているものの、丸みを帯びていること。

 それもそのはず、代役で風魔グリーンに女性アルバイトが入り込んでいるからだ。

(それでも何とかなるものね)

 中の人、小田原おだわら羽津姫はづきは仮面の奥でのほほんと深く考えずにバイトに勤しんでいた。

(それに一度はやってみたかったのよね、風魔グリーン)

 羽津姫はノリノリでポーズを決め、戦闘員役のアルバイト相手取り、殺陣を披露する。

 いつもより切れのいい動きをする風魔グリーンにお子様の声援もヒートアップ。

「風魔回転キック!」

 収録されている必殺技の掛け声がスピーカーから流れると同時に、緑色のヒーローは宙に舞い、敵役の白熊の着ぐるみ怪人を蹴り上げるフリをする。

 観客席のお子様がハラハラと見守っている場所からは必殺技が当たったように見える絶妙なアングルである。

「ウロロロォオオ~ン」

 怪人役の周りにショッキングピンクの煙幕が大量噴出。断末魔の叫びを合図に、煙にまかれながらも敵サイドは全員、舞台外へとすばやく走り去っていく。

 必然的に最後にステージに立つのはヒーローだけ。

「わが、義。遂行した!」

 物語は風魔グリーンの決め台詞で終焉した。

「ありがとう、風魔グリーン!」

 後は人質にされていたお子様へと前もって用意されているサイン色紙を渡して、無事ヒーローショーの幕は下りたのだった。


☆☆★☆☆


 ──ヒーローショーの控え室。

「男勝りでかっこよかったぜ、羽津姫」

 こ生意気な口癖があるが、羽津姫にかまってほしいオーラをかもし出すのは、先ほどコテンパンにやられ、色鮮やかな煙に巻かれた白熊型の怪人……もとい、幼馴染のイワン・サトゥールン。

 彼は着ぐるみを着たまま椅子に座ってくつろいでいた。

「ありがとう、イワン。それはそうと、頭ぐらい脱いだら。結構蒸すでしょ」

 そんな彼には慣れたものだと、あっさりと羽津姫は談笑しだす。

 幼馴染スキルを会得している羽津姫にしてみれば、イワンのこれぐらいの物言いはいつものことである。

「それもそうだな。次の公演まではリラックスしたいし」

 ぬいぐるみ怪人の頭をとると、イワンのくるくると跳ねるヒヤシンスブルーの差したプラチナブロンドがあらわになる。切れ長のアイスグリーンの瞳も相まって、氷の芸術のような美しさが彼には備わっている。

「ふぅ、暑いな」

 イワンは猫族特有の三角形の柔らかそうな猫耳を右左にピコピコと揺らし、ぬいぐるみで押さえ込まれていた熱を開放する。

 なお、惑星ガイアでは亜人はそんなに珍しくない。

 たしかに種族によってはレアな者もいるが、猫族は比較的メジャーな種族である。

「ほら、ポカリ」

「ひゃ、冷てぇ!」

 イワンが素顔をさらした瞬間、羽津姫はペットボトルを差し出し、着ぐるみの中で蒸して火照っている頬に当てる。

 ビクッと猫耳を立てて、驚いている。

「でも、気持ちいい。あんがと、羽津姫」

 心地よい涼しさに猫耳をフルフルと震わせ、うっとりと恍惚な顔で、飲料水を受け取る、イワン。

 普段は毒舌を吐くことに特化した口が、こういうときばかりはかわいいものへと変わる。羽津姫は少しドキリとした。

(び、びっくりした……)

 ロシアンブルーのような愛らしさをもつ幼馴染は、愛想を少しよくするだけでもてるだろうに、もったいないと思った。

(……まだ胸がドキドキする。暑いからかな)

 羽津姫も風魔グリーンのマスクを取り、リラックスモードに入る。

 栗色のセミロングの髪がクーラーの風に沿って舞う。

「あふ、冷たい風が気持ちいい」

 ここで羽津姫が風魔グリーンを演じるまでに至った経緯を簡潔に説明しよう。

 大学のアルバイト募集の掲示板にあった【風魔グリーンショーの公演アルバイト】。

 一人では寂しいとイワンに誘われて、受け、面接に合格し、夏休みを利用して勤務すること数日。

 当初、羽津姫は風魔グリーンのスポンサーである、商店街のチラシを配る係りに回されていたのだが、予定されていた風魔グリーンの中の人が盲腸となり、入院。

 戦闘員役の誰かを回せばいいはずだったのだが、よりにもよってみな他県出身者ばかりで、風魔グリーンをよく知らなかった。必殺技名とそのポーズが決まらないのは、ヒーローショーとしては成り立たない。

 男性陣唯一相模県に長期滞在しているのは、イワンだけだったのだが、スピードスケートで鍛えられた脚では──長靴(バードウォッチング用)三千九百八十円 アクリルの宝石(緑)千二百八十円 加工費(役所の手の器用な人物・北条ソーウン氏による手作り) プレイスレス──合計五千二百六十円の風魔グリーンブーツを履くことができなかった。

 で、仕方がなく、風魔グリーンを幼いころから見ていて、一時期熱烈なファンであったゆえに、ほとんどのポーズを覚えていた羽津姫が、急遽風魔グリーンのスーツアクターに抜擢されたのだ。

 大半の声は事前に吹き込んでいるので、風魔グリーンとしての体型と動きさえカバーできれば、たいした違和感もなく順調にヒーローショーを行えた。

 現にヒーローショーの観客であるお子様は中の人の気苦労も関係なしに、はしゃいでいる。

「この調子で後半の公演もがんばろう!」

 お客様のため、時給のため。

 なにより、子供のころ楽しませてくれた風魔グリーンの恩返しもできるこの機会。気合を入れずにいられない!

 羽津姫は心の底からうれしくいらしく、とてもいい笑顔を浮かべている。

「本当、こういうノリが好きだな、羽津姫」

「ジャパートの子供のほとんどは特撮もので、人生を教えられるものなのよ」

 若干、独断と偏見が入っているが、大体あっている。

 喉を潤わせて、熱中症対策を十分とったら、休憩時間が終わり、午後の公演が始まる。

「すべては義のために。風魔グリーン、参上!」

 音声に合わせて、口パクしつつ、風魔グリーンは午前と同じように華麗にステージを舞う。

 公演中、虚空の彼方から、キラリと何かが光ったようだが、そんなことどうでもよかった。

 その光が屋外ステージに向かってくるようだったが、演技に集中している羽津姫は気がつかなかった。

 ヒュルルルルルゥゥゥゥ。

 風魔グリーンの常套文句を述べるシーンで大きな口をあけたそのとき、豆粒大の何かが、口の中に入り込んだ。

 ごっくん。

 思わず唾液とともに飲んでしまった。

 この飲み込みこそが、羽津姫の運命を決定的に変えた。

 よりにもよって、一飲みである。

 歴代史上、もっとも平凡であっけないワルキューレの成りかたとして記録されている。

 しかし、このファナティックスーツの特性上それもありだろうという議論もある。

 絶対フォーチュン。

 羽津姫が飲み込んだ、遺産の名である。

 名の通り、幸運が舞い込む能力を有している。

 その幸運の力で羽津姫は、大切なものを守りきれなかった、得られなかった悲劇的な結末を迎えていたワルキューレ達の希望となったのだ。

 幸運と希望の申し子となった直後、本人の意思とは関係なしに、いきなり遺産は作動する。

 ──シャンシャン。

 鈴の音のような神音が鳴るとともに、空間がグニャリと曲がった。

「へ?」

 羽津姫は今、時を越える。

 すべてのワルキューレたちの物語を嘆きのままで終わらせないために!



☆☆☆☆★☆☆☆☆



 ──???

 羽津姫は風魔グリーンの衣装を着込んだまま、正義の特撮ヒーローのノリを維持しているとき、いきなり、どこかわからない雑木林に放り込まれた。

「ふわわぁああっ!」

 とっさに羽津姫が思ったことは、ステージから転げ落ちたわけでもないのになぜこんなところにいるのか、だった。

 たとえ転げ落ちたとしても、近くにゴルフ場もなければ、自然公園もないのに、ブナやらナラの木が生い茂る場所に来たら、誰だってそう思うだろう。

「……ここ、どこ?」

 羽津姫は大きな茶水晶の瞳をきょろきょろさせ、出した言葉だ。

 あからさまに風景が違う。

 太陽がさんさんと輝いていた屋外ステージと、月が浮かんでいる雑木林では、ガラリと変わりすぎである。

「何がどうなっているの。って?」

 羽津姫に向かっていきなり強い風が時折吹きつけ、葉をざわざわと揺らしている。しかも木漏れの中から刀身の光が見えるではないか。

 いやな予感しかしない。

「くっ!」

 ブォンッ。

 案の定重量を感じる攻撃的な一撃をとっさに避ける、羽津姫。

 さらに羽津姫に向かって、時代錯誤な西洋系の全身鎧を着た屈強な男たちが茂みの中からボコボコと現れ、襲い掛かってくる。

「うわ、何をするの!」

 わけのわからないところに放り込まれ、次はわけのわからない戦いを強いられるのか。

 羽津姫は理不尽なことばかりで苛立つ。が、目の前の現実は変わらない。

 しかも相手の敵意と殺気からして、話なんか通じない……やらなければやられるのみと本能でそう感じ取ってしまった。

「もう。しょうがないな!」

 羽津姫がとった行動は、女性にしては珍しいだろう。

 迎え撃ったのだ。

「手加減なんかしないからね!」

 ゴフッ。

 腹めがけて、先ほど金属状のものを振舞わしてきた男に強烈な蹴りをまずはおみまいした。

 長物を持つ相手が距離を縮めてきたのだから、チャンスとばかりに一気に叩く。

「グアッ!」

 悲鳴とともに、膝をつく音がする。

 戦闘不能までにさせられなかったが、一撃目としては十分。暗がりでよく見えないが、敵意を持って襲い掛かろうとする人影は、まだ五つもある。

「この手のバカは中学ぐらいで一通りしめたはずだけどな。やはりここは、八幡山町じゃないようだな」

 話してわかるような相手ではないなら、物理的に黙らせるしかないと、羽津姫は構えを取る。凛とした、好戦的でも落ち着いた姿勢は彼女がただならぬ者だとヒシヒシと感じられる。

「さぁ……かかってきなさい」

 実は、羽津姫は八幡山町で風魔流武術(風魔流でも武に特化した一門)の流れを受け継ぐ小田原道場の娘である。幼いころから武術を嗜み、腕っ節に自信もあり、流血沙汰の喧嘩もしたことがある。

 どうしてそんな攻撃的な性格になってしまったのかというと、中学時代、学生の本分である勉学を忘れ、『ばんちょう』という中二病的な遊戯に興じられ、陣取り合戦があったのが、きっかけだった。

 羽津姫は直接関わりたくなかったが、そんな電波たちの遊びに幼馴染のイワンとともに偶然巻き込まれてしまい、自身と平和な八幡山町を不良から守るために、一時期喧嘩に明け暮れる日々をすごしていた。

 人の山をいくつも築いたころには、八幡山町を陣取ろうとするものはいなくなり、『ばんちょう』の陣取りゲームから完全に独立することになった。

 その『ばんちょう』自体は、羽津姫が高校にあがるころにはなりを潜め、今となっては不良たちの都市伝説となって消えていったはずである。

 で、話を現在に戻す。

 その経験から、羽津姫はこの襲い掛かってくる兵士たちを話が通じる相手ではないと判断し、言うことを聞かせるために殴ることにしたのだ。

「一方的に傷つけられても、へらへらしてられるほどのお人よりはそうそういないってこと、教えてあげる!」

 羽津姫は腹パンでよろめいた男の腕をつかむと、一本背負い。さらに殺気立つ男たちに向けて投げ飛ばし、ボーリングよろしく、でストライクさせる。

「あれ?」

 羽津姫は少し目をパチクリさせる。

 たしかに、兵士を投げようとはしたが、投げた瞬間相手の重みが全く感じられなかった。まるで羽のように軽かったのだ。

 それゆえに勢いあまって、つい投げ飛ばしてしまった。しかも運よく固まって動いていた男たちに当たったのだ。

 偶然にしては出来のよすぎる快進撃に、繰り出した本人は困惑。受けた甲冑姿の男たちがいっせいに震えだした。

「ま、まさか……」

「ほ、本物なのか」

「いや、まて。あのペリセウルの村は幻術が得意といっていたではないか」

「しかし、この怪力まで再現できるのか」

 言語はわかるが、内容はさっぱりである。

 しかし、動揺しているなら、好都合。ここはこいつらの台詞にそれなりに合わせてみるかと、羽津姫は口を開いた。

「ああ~。本物とか、偽者とか何を言っているの。私は本物に決まっているでしょ!」

 羽津姫としては本物か偽者かと問われれば、公式舞台で代役とはいえ風魔グリーンを演じているゆえに、本物と言い張る。

 状況はわからなくても、脅して逃げさせばいい。

 ソレが今の勝利条件なので、兵士たちの異様なおびえぶりを特に気にしていなかった。

「ひぃ、ひい……!」

「緑、緑の……」

 認識の違いはあるが、緑色の面妖な人物に怒鳴り散らされた男たちはさらに腰を引かせ、体を大きく震わせた。

 このまま一気に畳み掛ければ、逃げ出してくれそうだ。

 羽津姫はマスクに覆われていない、むき出しの口を大きく歪ませた。

「さぁ、まだやる気なの? もう一度言うけど、私は手加減なんかしないからな!」

 ボキボキと腕を鳴らし、お前たちごときが束になっても敵うことがない、好戦的な化け物がいることをアピールする。

 ハッタリ以外の何者でもないのだが、小次郎としてはこれ以上話にもならない相手をする気がないのだ。あと一声で退散して欲しい。

「それでもいいなら、かかってきなさい! おしおきしてあげる!」

 羽津姫の怒鳴り声とともに、緑色のオーラが発せられる。

「!」

(何だ、この緑色の光?)

 自身の手から湧き上がるように発せられる光。ここでようやく羽津姫は、何かがおかしいと感じた。自分自身の何か得体の知れない力が宿っているようだ。

 新たに出た疑問に思考が奪われる前に、ここで、兵士たちは顔を青くさせ、いっせいに後ろを向き、

「うわぁあああ!」

「化け物だ!」

「ちがう、緑のワルキューレだ!」

「どっちにしろ、俺たちでは相手になるか!」

「なるわけがない!」

「逃げろぉおおおお!」

 当初の思わく通り一斉にクモの子を散らすように逃げていった。

「まったく、何だよ。人のことを化け物呼ばわりするなんて、勝手な人たちね。あと、緑のワルキューレって何よ。確かに緑だけど……わけわからないわ」

 服装緑、発光色も緑なら、緑としか言いようがない。

「いや、逃げた人たちのことは忘れよう。あんなやつらのことよりも、このなぞの発光よりも、ここがどこなのかってことが重要よね」

 羽津姫は軽いデモンストレーションですんでよかった、と思考を切り替え、状況を冷静に分析しだした。

 風魔グリーンとして舞台に立っていたわけで、携帯電話や財布といった必所品を持っていない。もっとも、まだ羽津姫は認識していないが、時間跳躍したわけなので、携帯電話が使えるわけがない。

 標識を見つけたいところだが、この場そういったものがあるのだろうか?

「状況把握、状況把握、と」

 羽津姫はとりあえず、あたりを見渡す。当たり前のことだが、木しか目に映らない。

「困ったね……ん?」

 木の根元に、だろうか。

 小さな影がうごめくのが見えた。

「……ふぁあ、羽津姫のサイン~」

 ズサッ!

 いきなり、SFを意識したロボット耳に宇宙人コスチュームを着たショートヘアの同じ年ぐらいの青年が、顔面スライディングしながら登場した。

 喜び勇んできたのはいいが、足元をよく見ていなかったので木の根っこにつまずいたらしい。

「え、あなた、誰?」「え、誰?」

 名を呼ばれ、ぎょっとする羽津姫。

(こんな派手な知り合いがいたかしら。とりあえず顔を見るまでわからないな。様子を見よう)

 羽津姫は思わず動きをとめ、呆然と見守ることにした。

「あう。リアクション薄いよ、なにやっているの。それとも、もしかして、このタイミングが、羽津姫にとってミーとのファーストコンタクト!」

 地べたから起き上がって、照れ笑いを浮かべた金髪の青年。むっくりと立ち上がると全貌をあらわにする。

 残念な登場の仕方をしたが、すらりとした背の高く、男性アイドルか美形の俳優のような整った顔の持ち主だ。氷のような怜悧な美貌のイワンと違い、こちらはホワホワとした、暖かい感じがする。

 そんな愛らしい美青年が頬をピンク色に染め、目を輝かせ、熱っぽい視線を向け、羽津姫の名を呼んでくる。

 雑木林で出会っていなければ、警戒心なく普通に挨拶を交わしていただろう。

「ナイス・トゥ・ミー・ユゥ、羽津姫。ミーのことは、ホッシーと呼んでくださいな☆」

 ホッシーはキラッとお星様が浮かぶような挨拶をする。

「羽津姫は時間跳躍、初☆体☆験だから、いろいろ不安なことがあるだろうけど、ミーはユーに何でもキャンしちゃう。もちろん、聞きたいことあったら、ド~ンとアンサーするよ☆」

 なぜ、ルー語なのだろうか。

 ただ、先ほど何も言わずに襲い掛かってきた男とは違い、ホッシーは友好的な態度をとっているので、緊迫している羽津姫の心を緩めていった。

「ん~。これじゃわかりにくいかな。なら、ミーのことランプの精霊とか、そんな感じだと思ってくれるとわかりやすいかな。うん、ランプの精ってことにしよ☆ 願いをかなえるとき、対価が必要なこともあるし☆」

 まだ困惑している羽津姫を尻目に、自称ランプの精と名乗るホッシーはマシンガントークを炸裂させていた。

「え、じゃあ……ここどこ?」

 ホッシーの目がキラリと輝く。

 どんなに長話しようが、羽津姫の質問はきちんと聞こえる気らしい。

「よくぞ聞いてくれました~。今はグリゴレウス暦でいうと、一二〇六年。中世真只中。で、ここはフラリパ連合国とアラブア国との国境近くの辺境の村ペリセウルのミサク雑木林。ちなみに、羽津姫がスルーちゃったのはフラリパ連合国のソルジャーだよ」

 ホッシーは目をキラキラさせて、無邪気に答える。

「は?」

 フラリパ連合国とは、中世ヨーロッパ一帯を治めていたという、強大な国の名前である。強力な遺産を所持し、栄華を誇っていたという。だが羽津姫の知っている限りでは、内戦、分裂、独立という歴史の流れとともに弱体化し、最終的には革命によって連合国ではなくなり、貴族制や王室は事実上終焉となったらしい。

 フラリパという国名は現代も残っていて、歴史と伝統ある国として有名である。

 現代のフラリパにも行ったことがないのに、タイムスリップしてこんな遠くまで来てしまったなんて、すぐ納得できるものではない。

「うんうん。初めてだとそうなるよね。戸惑ってもいいよ、ファーストコンタクトだもの」

 誰もが通った道だと、昔を懐かしむように目を細め、うんうんとホッシーは頷いている。

「……もしかして、私、不思議パワーなんかに目覚めて時を越えて、海外にいるってこと」

 さもありなん。

「うん。大体あっているよ、羽津姫。正確には、羽津姫は遺産ファナティックスーツを飲み込んで、ワルキューレになってこんな体験をする羽目になったって、ミー、聴いたことがあるヨ☆」

「そっか……遺産のせいなのね……」

「イエス!」

「……ついに私の不運もここまできたのね……」

 妙にあっさりと羽津姫は納得していた。

 取り乱して、SAN値がグングン下がる、下がると予想した方もいらっしゃると思うが、あいにく羽津姫には耐性があった。

「バイトがあっさり決まって、風魔グリーンにまでなったからね……。そろそろ、私の不運が発動すると思っていたのよ、うん」

 巻き込まれ体質だということは、中学生の黒歴史『ばんちょう』戦で実感済み。こうなれば、なんらかしらの決着をつけない限りは平和な日常へと戻れないのだと、そういう星の下にでも生まれていると羽津姫は確信している。

「ふふふ……時まで越えるとは想定外だったけど。本当に、何でこんな期待は外れないのよ、私~。神様がもしいたら絶対、訴えているところよ!」

「そういうわりには、あまりパニッてないよね、羽津姫」

「こんな漫画なんかによくあるパターンで驚いたら、私がもたないわ!」

 たとえタイムスリップして中世にいるという信じがたい現実を押し付けられても、だ。

 ただ力が強い、頭が良いでは生き残れない。情報を得て、この場に適応することがすべてなのだ、という風魔忍術の訓示にもあるのだから……腹をくくるしかない。

「それよりも、まずはあれね……人の話をまったく聞かずに襲い掛かってくるのがうろついていること! なんであんな」

「ペリセウル村でハプニングが、ナウだからだよ」

「ハプニングって……やばいの?」

 国境近くで好戦的な兵士がうろうろしているという状況から、お察しくださいレベルだけど。

「イエス。激ヤバだゾ☆ ちょっとサーチしたら、ペリセウル村がどうやらリボルト(反乱)おこしたらしいデース。で、ルーズしちゃった村人をキャッチナウ」

「……ここは逃げるしかないってことなのね」

 こうして、無計画であるが、羽津姫はホッシーと走りながら、現状把握に努めることとなった。とりあえず走り続ければ死なないといった安直な考え方ではあるが、いいのかこれで。

「まずは、私がこんな目にあうきっかけになった、飲み込んだファナティックスーツっていうのは何? 名前と能力を教えて」

 そもそもの原因である遺産について言及してみた。

 一飲みで運命が変わるなんて、話には聞いていたけど改めて遺産の理不尽な力に羽津姫は驚いている。

 ホッシーの様子からすると、これから一生遺産の超常現象に付き合うことになるようなので、知っておくべきであろう。

「わお! さっそく羽津姫からクエッションいただきマシた~。なんやかんやいっても、すぐ適応するよね、羽津姫」

「ワルキューレになっちゃったのなら、これからのこと考えるしかないでしょ。手荒い洗礼はもう受けたのだし」

出会いがしらにフラリパの兵士と戦う羽目に合ったのだから。

「一応、念のために聞くけど、ホッシー、あなたじゃ時を任意で越えることができないのでしょ」

「うん。リグレタボゥ~(残念)ながら。ナウの状態では無理☆」

 ホッシーの力だけではタイムスリップはできない。

「その点は予想済みだから、問題ないわ。だいたい、未来予知という便利スキルがないのに、私のことを知っていたってことは、私はこれから何度も時を越えることになるのでしょ」

「イエス。判断能力高いね、羽津姫。話がぽんぽん進むから、ミーはベリー楽チンだよ」

 言葉にしたことで、頭の中も整理できた。

「落ち込む時間があるくらいなら、情報を得るために使うのが当然じゃない。と、いうわけで、私が飲み込んだ遺産の話に戻って、ホッシー」

「あう。ちょいっと話が脱線しちゃったのはソーリーね。では、改めて……羽津姫が飲み込んだのは、絶対フォーチュン。ファナティックスーツは目に見えるものじゃありまセーン」

「透明なの、ソレ?」

「効果を引き出すために容量がすべて埋めてしまったため、形態維持ができなくなったそうデース。だから、スーツもウェポンもこれといった形はありまセーン」

 コストの問題らしい。

「で、気になる特性は体質依存系で、装着者にハッピーを呼び込むマース。一つ一つを見るとアンハッピーの連続にしか見えなくても、最終的には必ずプラスになっているから、信じて、ドーンと身を任しちゃったほうがラッキ~、らしいゾ!」

 防具名・希望への架け橋。効果、幸運体質。ラッキーカムカム。スーツは自前でお願いします。

「付属武器はKIAIキアイ。オーラ発生器みたいなものデース。イメージでバトれだって、いってマシたぁ~♪」

 武器名・KIAI。効果、少年漫画のような戦い方ができるようになる。イメージは自前(以下略)。

「ようするに、運と気合で戦え、ってことなの?」

 ゲーム脳を駆使すると、こうなった。付属武器KIAIの持ち味で、強いような気がしないでもないが、イメージで戦うというあいまいな表現では、うまく使いこなせるのかとなると自信がない。

 素人にはハードルが高いファナティックスーツだということがわかった。

 説明書が欲しくなる。

「ザッツゥ、ライトォ~!」

 ドンドンパフ~☆

 どこから取り出したのか、ホッシーはおもちゃのラッパを吹く。ゲームのレベルアップのようなアクションをしたいようだ。

「……あ、うん」

 羽津姫はここでホッシーの性格がお調子者であることを理解した。

 そして、走ればいいと言い切った理由もわかった。絶対フォーチュンの導きがあるから、兵士たちと運悪く鉢合わせになることもないのだろう。

「いや~、羽津姫がミーたちと同じワルキューレになってくれた瞬間ってこんなにウブだったとは……。うふふ。ちょっと得した気分☆」

 ニコニコと笑う彼もまたファナティックスーツの装着者か。

 ワルキューレになって、絶対フォーチュンの加護を得たばかりの羽津姫。多少、巻き込まれ体質で荒事に慣れているとはいえ、理解して飲み込むまではまだ心の準備が必要だ。

 同じ境遇だというホッシーのことも知ったほうがいい。

「ねぇ、ホッシーもワルキューレなら、遺産の名と能力は何なの。私もある程度は知っているけど、ホッシーという名のワルキューレはメジャーじゃないのよ」

 羽津姫にとって、ワルキューレの伝説の大半は海外発祥のものである。ジャパートでワルキューレに関しての見解は、一昔前のオカルトブームや、漫画、アニメ、ゲームといったサブカルチャーに拠るところが大きい。

「そりゃ、ミーはメジャーじゃないよ。いつも誰かと一緒にいるから、ミーの存在は吸収されるのが、常だし。ミーの能力も理解しづらいものだし。羽津姫で、ぎりぎりかも~」

「随分もったいをつけるのね。で、二〇〇〇年ぐらいにならないと理解してもらいない能力って何」

「ほいほい~。ミーのファナティックスーツの名は、閑静な星嵐。付属武器は、このラッパ……」

「え? おもちゃじゃないの」

「等を、作ることができるこのスタービット君たちだよ」

 そういえば、ホッシーの周りはぞろぞろと星型のビットが浮かんでくる。羽津姫は林の中で走りながら、説明を聞いていたものだから、注意力が散漫になっていたので気がつかなかったのだ。

「スタービット?」

「スタービットじゃないよ、スタービット君、までが正式名称!」

 君をつけるとつけないとでは、ホッシーの中ではかなり違うらしい。

「スタービット君たちは、大雑把に言うと受信機。この空の遠くにある、衛星の、スーパースタービット君・レザーつきとリンクすることによって閑静な星嵐の真価が問われるよ」

「衛星!」

「古代遺産の、がつくけどね。スペースダストにミミクリー(擬態)っているのもあるから、まずロストはないね」

「その前に大気圏を突破するという発想があるの、この時代に?」

「あれ、まだないっけ?」

「翼人以外、自由に空も飛べないよ! 遺産にもそういった能力を持つものがまだ発掘されていないらしいし」

 羽津姫が世界史の教科書で学んだとおりの中世ならば、実用性のある飛行機や宇宙船は誕生していない。

「ジャパートじゃ鎌倉時代に入ってからそんなに経ってないぐらいだし……」

「鎌倉時代? よくわからないけど、ジャパートのことだよね。ジャパートの位置なら知っているから、すぐに計測可能だよ。チンチンポーン、っと。転送完了」

 ホッシーは次に、もぐもぐと草やら花やら木屑を飲み込んでいる星型のビットを呼び出す。

「適当にフォットってみたけど、こういう人たちがいるような時代でいい?」

 星型ビットから、プリントアウトされた一枚の写真が取り出される。

 教科書で見たことがある、武家屋敷に、鎌倉時代に代表されているよろい姿の侍が写っていた。

「あー、そんな感じ……って、こんなこともできるの?」

「うん。物質凝固機能がインストールされているスタービット君に、写真の材料と色彩の材料となりえる、その辺の草とか木を詰め込めば、衛星から取り出したデータをこうして紙媒体にできるよ。ちなみに3Dプリントもできるから立体もポッシブル~☆ ここじゃ材料までは再現できないから、相応のものは必要だけど」

「衛星、怖いな」

 しかも、移動しながらでも情報がキャッチできるとは。

 遺産の力に驚くばかりだ。

「贋金も材料さえそろえば、テンド・トゥ・メイク~☆」

「うわぁ……。凶悪だな、スタービット君。あ、だから願いによっては、対価が必要とか言っていたの」

 何気に万能な遺産に羽津姫は冷や汗をかいた。

「うん。質量保存の法則は絶対だよ☆ それでもいかにもファナティックスーツらしいナイスな機能でしょ。でも、ミーとしては羽津姫の能力のほうがグッドだよ」

「運だけなのに?」

「そう、運。これはベリ~・インポータント。ミーはアビリティこそあるけど、使い道とか、これといった目的がないの。そもそも、ミー自身、スタービット君たちと同じで機械だし。正式名称は機械生命体だったかな~。イメージしやすいところで、ロボットだね☆」

「何を言っているの……」

「このキャラクタ~的なイヤーポットだけでも十分ロボットらしいと思うけど。百聞は一見にしかず。ミーのここ、よぉ~くぅみて」

 バッと、ファナティックスーツの上半身を脱ぐ、ホッシー。

「キャッ! いきなりそんなって……マジ」

「生体部品を使っていないから、わかりやすいと思うけど」

 ホッシーの体の中は、配線だらけだった。

 間接などには相応のギミックがなされているようだが、あいにく機械工学に疎い羽津姫には理解できない。

「ミー自身もインヘリタンス……遺産だよ。コアとメモリーを直結させることで、ファナティックスーツ用オンリーに生み出された、ハートを持ったロボット」

 ホッシーは古代文明の遺産そのものだった。

 驚愕な事実に、羽津姫は目を丸くする。

「ミーをメイクしたシヴィライゼーション(文明)が滅んじゃったから、自動的に目的も存在意義もロストしている。ただ生きるだけなら、こんな人型にならずに、メモリー形態で休止すればいい。おんぼろインヘリタンスとして、調査されるまで眠っていても、別段かまわなかった」

 淡々と自分の存在を否定するように言うホッシー。

 羽津姫はものすごく違和感をあった。

「そんな何もしないってことは魂が死んだと同じじゃない! そりゃ、目的を持って行動するって大変だけど、せっかく動ける体があるなら動かさないでどうするのよ! もったいないじゃない!」

 思ったことをそのままホッシーに向けてぶつける。

 羽津姫の言葉を聞いて、ホッシーは目をぱちくりさせる。サファイアのように透き通った緑色の瞳が、照れたように微笑む。

「ファーストコンタクトでも羽津姫はそういってくれるのか。ベリ~・グラッドだヨ☆」

 軽く小首を傾けて、喜びをあらわにする。

「うれしい?」

「イエス。そういうユーだからこそ、ミーはなんでもしたくなる、くらいにはね☆」

 親鴨に無邪気に寄り添ってくる小鴨のようなホッシー。愛くるしい見た目もあって、羽津姫もまんざらではない感じになる。

 ワルキューレを始めて数分。ちょっと幸せな気分になった。

「で、私はこれからどうすればいいのかしら。何か……例えば、敵の親玉倒せば終わるとか、都合のいい展開にならない?」

「ん~。ミーは未来予知つう、便利スキルがないからノット・アンダァ~スタンドだよ。けど、ユーはユーなりにベストを尽くせば、道が開けるはずだよ」

「そういう答えが一番厄介なのよね。こんなことなら、さっきのやつらをしめて、財布でも抜き取ればよかった。今の私、無一文だから」

「わお! さっそく、サバイバル精神が目覚めているね」

「当分中世エイリアンしなくちゃならないなら、ね。こうなったら、目標は、元の時代に戻ること。だけど、なんか、いいアイデアない。今の状態ではお手上げだけど、このガイアに眠る遺産の中にはあるよね、絶対」

 羽津姫自身、自分で言ったのもなんだが、ずいぶん都合がいいと思った。

「イエス、あるヨ」

 物語は……思った以上にご都合主義でした。

「だけど地中深くにスリープしているから、取り出すか、復元するかしかないよ」

「あ、復元できるの」

 あっさりと目的の物の情報が手に入った。

 早くもとの時代に戻りたい羽津姫の思いを汲み取れなかったのは、ホッシーにはその必要性を感じられなかったからなのだろうか。たしかに元の時代に戻る、という考えだけなら、このまま潜伏するか、スリープ状態で長い間待てばいずれはグリゴレウス暦二〇二五年にたどり着ける。

 遺産ロボットであるホッシーならともかく、人間種の羽津姫は悠長に八百年近くも待っていられるわけがないので、なんとしてでも時間跳躍したいのだが……。

「イエス、タイムマシンのデータは入手済み」

「それならそうと早く言ってよ……。あ、そっか、材料がないとスタービット君がコピーできないっけ」

 それとも物事を順番どおりに説明しようとしただけか。

 なんにせよ、時間を自由に越えられる遺産があってよかった。

「イエス。それと、ノーリスクで時を越えるのは、デフィカルトだよ。いくらラッキーがあっても、ある程度のプロシージャ(手順)を踏まないと、歪んじゃうから」

「何が、歪むの?」

「オムニバス、だね。口で説明するのはつらいな~。ひどいのになると、タイムパラドックスによって、宇宙の地平線に激突して、惑星ガイアがドッカーンすることになる」

「マジでか」

「うん。ミーのメジャメント(測定)からすると、羽津姫が元の時代にゴー・トゥ・バックするには、レベル十以上の遺産をスタービット君で取り込んで、改造するのがベストネ」

「レベル十って……」

「安心して、ミーなら、遺産のレベルをジャッジできるから。なお、これは、羽津姫が絶対フォーチュンを飲み込んでいるからこその最低レベルであって、本来ならベリ~・ディフィカルトだヨ」

「本来なら、どうなっているの?」

「一応、地中深く……距離にして一万キロぐらい掘ればタイムマシンをイクスカベーションできるよ。ミーの能力で改造なら、レベル五十ぐらいの遺産かな。リファレンスにいうけど、ファナティックスーツのレベルは五十だよ」

 地中をそんなに長く掘れるわけがないし、ファナティックスーツ同様のレアな遺産を発掘するのも現実的には厳しいだろう。

「よくわかったよ。今の状況でもイージーモードだってことが」

 時間を越えてすぐにもとの時代に戻れる方法を聞き出せたのだから、幸運なのだろう。

 見切り発車とはいえ、これからの方針が決まったのだ。後は適応するだけである。

「まぁ、この場はとりあえず、話を聞かずに急に襲い掛かってくるようなのに絡まられなければいいわ。どこか広い場所で休めそうな場所がない?」

 いくら兵士と運悪くエンカウトしないとはいえ、走りながらの応答に、疲れてきた。

 この風魔グリーンの衣装が動きやすいように細工されているとはいえ、体力には限界がある。

「オッケ~、羽津姫。衛星で探らせてみる」

 ホッシーはバッと、いくつかのスタービット君たちを周辺に散るように飛ばし、

「ん~、ソルジャーの数自体は減ってきているね……」

 キュンキュンと小さな神音を鳴らし、状況を細かく分析しだす。

「なんでまた?」

「国境線からファ~しちゃっているから、のようだよ」

「遠くなったから? あ、そうか。国境越えられたら、手出しできなくなるからね」

 逃げられないようにするなら必然的に、国境近くに兵士を多く配置するだろう。

「ミーたちは当面のターゲットはレベル十以上の遺産をゲットする。だから、遺跡や、発掘した遺産が並びやすい街とか研究所のほうに用があるし……ん? 羽津姫ストップ!」

 ホッシーは急ブレーキをかける。

「どうしたの、ホッシー」

「ミーたちにはノウ・ノーティスだけど、近くに兵士と……村の生き残りがいる」

「!」

 ホッシーの言うとおりに足を止める、羽津姫。

 耳を澄ましてみると、怒声が聞こえてきた。

 状況を把握するために、身を潜め、木陰に隠れながら、ソッと声がするほうを覗き込む。


☆☆★☆☆


 西洋甲冑姿の屈強な男たちと、二人の年の少し離れた少年たちがにらみ合っていた。

「くっ、先回りされていたか!」

「兄上!」

 どうやら、少年たちは兄弟らしい。

 年上のほうは、弟と思われるほうを後ろに隠し、右手に握り締めたナイフを兵士に向かって突き出している。隙でも見せれば、このナイフは容赦なく、兵士に向かって突き刺されるだろう。

 兵士のほうも、少年たちに向けて槍や剣といった武器の矛先を向けている。

 まさに一触即発の状態だ。

「ほう、これは、これは村長の息子たちではないか。実に運がいい」

「そうだな。ザンギス将軍が所有を強く希望しているからな」

「多少手荒なことになろうとも、間違っても殺すな、生け捕りにしろよ」

 兵士たちの下種な笑いが響き渡る。

「お前らは、俺たちから父を奪い、ファラウラを浚っておきながら……さらにネムルにまで手をつける気か!」

「まぁ、もともと払いきれないような税額を要求したのは、お前らを奪うためだったからな」

「な、なんだって!」

「あんな寂れた村じゃ、あの金額を納めきれるわけがないだろうが。合法的にお前らを買い取るために決まっているだろうが」

「知っているか、小僧ども。お前たちの種族は、商品として高く評価されているってこと。あの娘なんかも、愛玩にも、遺産のエネルギー素体にも、最適な奴隷になるからな!」

 少年たちを絶望に追いやるためだろう、柄の悪い兵士たちは指を差しながら、誰もがあざ笑い、心にもない言葉を少年たちに浴びせる。

「あ、姉上のことか!」

「そうだ、おちびちゃぁん。お前もお姉ちゃんとともに死ぬまで将軍のために働く奴隷になるのだ。調教中に、ちょっとイタズラされちまうかもしれないがなぁ!」

「くそ、下種どもが……!」

 諦めろ。非情な運命を受け入れろ。

 そうすれば、楽になると、教え込むように。

 悪意のある言葉を容赦なく浴びせた。「お前たちは黙って、国のため、将軍のため、その身をささげればいいのだ」

「そうだ。奴隷は奴隷らしく従えばいいのだ」

「将軍に引き渡す前にお前のその口の悪さは矯正せねばならないな。体で覚えさせるか」

「それはいいな。少々小汚いが、よくよく見れば整っているな」

「ちくわ大明神」

「そうだな。まずは我々で奉仕させることを覚えさせるか。なに、将軍は生きていればいいといっていたのだ……て」

「誰だ、今の?」

「私だ。この変態どもがぁ、風魔回転キキィイイイイィクゥウウウ!」

 ドクシャ!

 だが、少年たちの心が打ちのめされる、その前に、突如現れた緑色の面妖な人物によって兵士の顔を蹴り飛ばした。

「アンギャァアアァ!」

 口汚くののしる声は強制終了。

 代わりに、鈴のような美しく澄んだ音が鳴り響き、独特な雰囲気をかもし出す神音に占拠される。

「こんな非道なことしているなら……」

 巨大な十字の物体を背負い、やたらに光沢の放つ衣装を身にまとった人物が、仁王立ちで前に出る。

 林の中では擬態のように一体化していたのだが、兵士を足蹴にするという派手なアクションとともに現れると、一気に存在感が増し、目をひきつける。

「ぶっ飛ばされる覚悟は、当然できているよな!」

 顔の大半はマスクで遮られているので表情は見られないが、鬼気迫る形相に違いない。

 湧き上がる怒り。

 緑色の面妖な人物は嫌悪感丸出しで、兵士たちに拳を向ける。

 ガサガサガサ!

 さらに周囲の茂みが突然揺らぎ、木の葉を散らして、星型のビットが飛び出す。

「さすが、風魔グリーン! ナイス・クイック!」

 ブワッと最後に飛び出したのは、金髪の少年。彼も、面妖な派手な衣をまとっている。

 無邪気な笑みを湛えた瞳をクリクリさせ、緑色の謎の人物に寄り添っていく。

「バッドなやつらを殴るとハートで決めた時、すでにアクションを起こしている、なんて、通常運転だね☆」

「蹴ったけどね。……て、いつも、こうなるの!」

「うん、オ~ルウェイズ。み~んな、知っている」

 これが村の生き残りである少年たちにとってのワルキューレと出会いだった──。


☆☆★☆☆


 羽津姫は目の前の誘拐未遂を無視できなくて、ついつい足を出してしまい、トラブルを招いた。

 今は不意打ちの攻撃もあって、兵士たちは陣形が乱れ、オタオタと慌てているが、訓練されている彼らが元の体制に戻るのはそんなに遅くないだろう。

「くっ、ついつい見過ごせずに足を出してしまった……」

 羽津姫は拳を兵士に向けながらも少し悔いていた。

「どうしたデスか、落ち込むなんて風魔グリーンらしくないヨ」

 面倒ごとに巻き込んでしまったはすなのに、ホッシーはニコニコと笑っている。M属性持ちなのか?

「で、なんでホッシー、そんなににやける?」

「風魔グリーンらしくって。ミー、インプレッシブ(感動)している☆」

 悟りを開かせる程度に、よくやっていることらしい。

「……苦労かけているのね……」

  困っている人を見捨てずに足を出したことに対して、嫌味一つも言い出さず、忠犬のように付いてきているのだから、つまり、そういうことなのだろう。

 羽津姫は軽く自己嫌悪に陥る。

「風魔グリーンをフォロ~するなら、それぐらいディタ~ミンド(覚悟)しちゃっているよ☆」

 通常運転って認識しているものね。

「しかし……歴史を変えていいのかな。理不尽だけど……この時代ではよくあることらしいし……」

「歴史がチェンジする、デスか。確かそれはありマース」

 ホッシーは神妙な顔つきになって、真摯のまなざしを羽津姫に向ける。

「羽津姫は、タイムパラドックスやバタフライ・エフィクトに陥らないか、恐れてマスね」

「あ~、なんか、そんな感じなの」

 専門用語はわからないが、些細な過去の改変によって世界に不都合が起きないか、気になる。

「バァ~ト、羽津姫が来た次点で、時間軸が分岐し元の世界と並行した別の世界が生まれてマース。無からヨっこらセっと生まれた出来立てほやほやのパラレル・ユニバースデース」

「宇宙が多重発生しているの!」

「イエス。なので、ワールドの流れ的にはノープロブレムデース」

 ドヤ顔で、ホッシーは親指を立て、羽津姫の不安を払拭しだす。

「そう、このシチュエーションはチェンジをアスパイヤ(熱望)しちゃっているワールドのパワーによるものデース」

「世界が、改変を望んでいるの?」

「イエス。今ここはパラレルワールドデース。そのうち収縮して消滅しマースが、そのエネルギーを使って、ここで起きたイイことを取り込んで、ワールドは理想の自分にチェンジしたーいのデース」

「なに、その自己啓発でよくある発想は?」

 羽津姫の疑問を軽くスルーしてホッシーは話し続ける。

「で、その理想を形作るためにお助けするのが、ミーたちワルキューレ」

「そうなの!」

「……だったら、いいなと思ってマース」

「うわ、希望系!」

 詐欺の常套手段かよ。

「でもでも、いつだって過去の改変が行われて、ワールドは素粒子レベルで何度も組み替えられているのは事実デース。そして今、ワールドはものすぅご~くぅチェンジしたいのは間違いないデスよ。だからこそ絶対フォーチュンを飲み込んだ、風魔グリーンをここに呼び出しマシたぁ。そう、このシチュエーションこそが、ユーのディスティニーであり、ネセシティなのデース」

「ん~。たしかにホッシーのいうのも一理あるわね。もし変えちゃいけないなら、私がこの時代に来られるわけないか」

 前向きに考えたら、こうなった。

「イエス。それにワールドの歴史が大きくチェンジすることはほとんどないゾ。時の権力者が誰になろうと、結局進むべき道順はそうチェンジしないものだからデース。あったとしても、どんなにビックなチェンジしても人口が数人増えるだけデース。減ることはないデース。だって、歴史の修正力はそんなにフレイル(脆い)じゃないからデース」

「それもそうね」

「ただひとつ欠点があるとしたら、巡回の輪から外れ、出来事すべての記憶を持ち越し、体験することになるので、元の時代にバックしたときミーたちがコンフュージョン(混乱)してしまうかも、ってことデスね」

「まぁ、人が増えるなら……全く知らない他人が従来からのクラスメイトになっているってこともあるわけだよな」

「そのとおりデース。あいさつするたび、友達ふえるね、デース。バタフライ・エフィクトの効果発動デース」

 ポポポポ~ンっと。

「まぁ~。そのくらいなら、いいかな~」

 これで人を助けられない理由はなくなった。

 目の前に困っている人がいれば助ける。その当たり前のことを当たり前にしていいなら、何も問題ないではないか。

 羽津姫の憂いは完全に晴れた。

「だから、とっとと、バッドなやつらを蹴散らそうか!」

 ホッシーはいくつかの星型のビットに村長の息子たちを守るようにと、ブンッと神音を立てさせ、陣取らせる。

「ミーのビットのデフェンスはパ~フェクトだよ、風魔グリーン!」

「そう。なら、背中は任せたよ、ホッシー!」

 羽津姫は駆け出すとほぼ同時に、体内から神音が自動的に鳴る。

 湧き上がる力。

(すごいっ、これがKIAIの力なの!)

 少年漫画の【気】のようなものなのだろう。

 緑色のすさまじいオーラが羽津姫の右手に宿る。

 先ほどのキックでも尋常ではありえない力を発揮していたが、付属武器であるKIAIが作動したからなのだろう。

「いくよ、風魔パンチ!」

 風魔グリーンの必殺技がCGなしで、再現される。

「ぐはっ!」

 緑色の光を放つパンチを受け、ぶっ飛ぶ。受けた兵士はやられた戦闘員のアクションそっくりにコテンパンになっていた。

「うわ、イメージ通り。これが、遺産の力なの、ホッシー!」

「うん。風魔グリーンの必殺技ならすべて発動できるよ!」

「マジなの? 遺産パネェ。なら、これもできるってこと……」

 試しに、羽津姫はオーラを十字手裏剣のように形づくらせ、右手に構える。

「風魔の風は、今、義のため、吹き上がる!」

 風魔グリーンを中心に緑色の風が舞い上がる。

「風魔忍術・雷神十字手裏剣らいじんじゅうじしゅりけん!」

 一枚、投げただけの手裏剣が、兵士の数にあわせて、分身。一斉に飛び掛る!

 ズバッ、ビュ!

 風を切る音が木霊し、少しでも手裏剣がかすった兵士はすべて倒れこむ。

 劇中では風魔グリーンが手にしている手裏剣には雷神の加護あるという設定で、受けた者たちを失神させる程度の電流を流す。

 KIAIのオーラでできた手裏剣もそれに近い形にするためか、バチバチと電撃を放つような光と音を鳴らしながら、兵士たちを痺れさせていった。

「クオリティ、高!」

 ホッシーの言うことを信じていなかったわけではないが、ここまで設定に忠実な力を出せるとは思わなかった。

 羽津姫は驚きとともに、少し感動した。

 幼いときに夢見ていた、風魔グリーンの技を出せたのだ。

 胸、ときめかずにはいられない!

「この力、間違いない、本物のワルキューレだ」

 豪華な装飾がなされている鎧を着ている兵士、おそらく一般兵士より位の高い指揮官クラスぐらいの騎士たちが声を荒げた。おそらく、彼らは身につけていると思われるなんらかしらの遺産の加護により、雷神の電流による失神を免れたのだろう。

「間違いないって……いまさらデスか」

 ここまであからさまにワルキューレじゃなければ出せない威力の大技を出させておいて、それ以外何があるのか。

 羽津姫たちは知らない。

「さっきも本物とか偽者とか言われたわね。まぁ、虎の威を借りるのは常套手段だし。認知されにくい状況じゃなぁ~」

 しかも、メジャーじゃない方だから。

 ワルキューレの認知格差に涙目。

「ならば、なぜわれわれは攻撃を受けている。われわれは国のため正義のために村から徴収し、軍事力を高め、聖地奪還を目指しているのだぞ、緑のワルキューレ!」

 しかし、確定したら反応が濃くなった。必死に自分たちの正当性を訴えてくる。

「あ、うん。そうね」

 この時代ではソレが増税の主な理由だ。

 平和ボケジャパートの民である羽津姫だって戦争に莫大なお金がかかることぐらいは知っている。

「その発想はわかるけどさぁ~」

 軍資金を得るために、非人道的な行為をすることはよくあることだ。

 だが、そんなことを目の前で行われているのを見過ごしていいものか。いいや、よくないはずだ。

「この兄弟を手に入れるために重税をかけていたっていうのがすごく気に食わない。私の義のためにこの兄弟を守る。守ってみせる!」

 希望を呼び起こす風魔グリーンに賛同するように風が当たり一面をざわめいた。

 その光景に、

「キャー! 風魔グリーン、イカす~、抱いてー☆」

 ホッシーは大興奮。好評だ。

 反比例して西洋甲冑の男たちの動きが鈍る。

「くっ。伝説どおりやっかいなワルキューレだ」

「まだだ。緑のワルキューレは、まだ、あれらの本当の姿を知らないはずだ。だから、我々の正当性がわからないだけだ」

「……あれら?」

 ピクリと羽津姫の顔に大きな#が浮かび上がる。

「人をものとか、奴隷とか、言っているあんたたちとこれ以上話すことなどないわ!」

 羽津姫にとって、こんな悲劇を見過ごすわけにはいかないのだ。

「風の泣き声を聞きつけ、風魔の里からやってきた義の忍者風魔グリーンとして、風の涙を止めるため、我が義のために、戦い抜いてみせる!」

 ヒーローショーではないが、テンションが上がっていた羽津姫はこう言い切ってしまう。そして言い終えた後、あ、と心の中で冷や汗が流れた。

 素で返してしまった、台詞。ヒーロー熱が収まっていなかったからといってこれはちょっと、あれだ。

 はしゃいで、何てことをしてしまったか。恥ずかしいとしか言いようがない。

 いや、この兄弟たちの力になりたいっていう気持ちはある。

 浚われたっていうファラウラさん、だっけ、を助けに行ってもいいとか、思っている。

 あと、私利私欲を肥やしている、下種な将軍に正義の鉄拳パンチをお見舞いしたい。

 将軍というぐらいだから、相当の遺産も所持しているだろうから、ドサクサ紛れと迷惑料代わりにレベル十以上の遺産をかっぱらってもいいかな、とか個人的な事情もあるにはある。

 用は……この風魔グリーンのかっこいい台詞そのままが、今の羽津姫にはしっくりきてしまったのだ。

(いやぁあああ! 中世の外国で、何をやっているの、私。何を口走っているのよ、私。周りの視線が痛い! すっごく、痛い! 絶対、なにわけのわからない台詞いっているの、バカなの、死ぬのって思われているよ!)

 冷静に考えたら、自分でもかなり痛い。

 なぜ、ここまでやってしまったのか。誰もそこまでやれとは言っていないだろうに……。

「ミーはホッシー。ワルキューレの一人で~、風魔グリーンのサポート。よろしぴくねぇ~☆」

 羽津姫のそんな心情なんか知らず、追い討ちをかけるホッシー。

(うわー、ノリがいいよ、ホッシー。ノリよすぎて、私、涙が出てきそうですけど! はずか死ぬ!)

 そんな羽津姫の心の中の慟哭なんか、聞こえてこないだろう。

 現にホッシーはとてつもなくいい顔である。

 テレテレと頬を赤らめながらも、うれしそうに言っていた。もう、これはいつものことです、といわんばかりだ。

(……ホッシーがそういう顔をしているってことは。私はワルキューレとして活動しているとき、常に風魔グリーンと名乗っているってことなの!)

 ここまでやるのが日常茶飯事だというのが、ショックだが、この際、望むものもいるし、このまま突っ走ってしまおうかと、興奮気味の頭は考えてしまった。

 心の平穏のために、仮面をかぶり、風魔グリーンという創作の地域密着型ご当地ヒーローを演じたほうがいいのかもしれない。

(もう、行き着くところまで行ってやるよ!)

 道化でも。

 目的を果たすことができるならば、それでいいのではないか。

 謎の助っ人キャラクターとしてこの場に推参したことにしよう。あ、いかにもワルキューレらしいや☆

 ホッシーのお調子者スキルが伝染してしまったようだと、羽津姫は空気を読んでこのまま風魔グリーンとして突っ走ってしまうことにした。

「そういうことだ。いけ、雷神十字手裏剣!」

 同時に何十という雷神十字手裏剣を現出させ、打ち付ける。

 数を多くすることで前に繰り出したものよりも、綿密に張り巡らされた強力な電流。捕らえられるものもいたが、電流から逃れるものもいる。

 どうやら、電流を無効化する遺産をつけているようだ。

「なぜ、三つ目族をかばう、緑のワルキューレ! 三つ目族は、絶対悪なのだぞ! われわれが管理しなければ、災厄を呼びだすというのに」

 非難する声が上がる。

 ネムルの小さな体がその言葉に震えるが、

「何それ。知らん? あと、どこに三つ目族がいるの? まぁ、いても子どもをさらおうとするあんたらとは戦うしかないじゃない」

 羽津姫は憮然とした態度で、騎士に向かって手裏剣を打つ。

 見解の相違がありそうだが、戦いの真只中ではそこまで考えつくわけがない。

 それでなくとも、あれだけかっこいいけど恥ずかしい台詞をベラベラとしゃべってしまった後なのだ。もういろんな意味で後には引けない。

「く。緑のワルキューレは異端者なのか。それとも……われわれのほうが……」

「そんなわけがない。晴天のワルキューレはわれらの味方なのだぞ。われらのほうにこそ、正義がある」

「そうだ。いかに緑のワルキューレといえども、間違いはあるはずだ。それとも、われらの力を試しているのかもしれないぞ!」

 緑のワルキューレに自分たちの常識が通じないことを悟った騎士たちは、羽津姫に襲い掛かる。

「くらえ、遺産・シーニョ!」

 白い大きな翼を持つ鳥が羽ばたき、風魔の風をかき消す。

「っ、なに、これ。白鳥?」

「白鳥なのはイメージデース。羽ばたくようなそぶりで、あらゆる粒子を拡散しマース。ソレによって遺産のパワーでメイクしたイメージ攻撃をすべて無効化するゾ☆」

「せっかくヒーローらしかったのになぁ。なら、これでいくか!」

 羽津姫は持ち前の風魔流武術の構えをとった。

(風魔流武術・静林つき)

 風魔の武の力が光る。

 羽津姫は真正面にいる白鳥を取り出したナイトに狙いを定め、踏み込んだ。

 彼女の素早く動きに、対応できる西洋甲冑なんかいない。あっという間に風魔グリーンの拳を胸や腹に打ち付けられ、木々や草むらへと吹き飛んでいった。

「ワォ。KIAIのオーラがなくても、ストロングデース。さすが風魔グリーン!」

「幸運体質だから、かな。通常攻撃でもいけるな」

 普通に攻撃してもすべてがクリティカルヒットする。

 門下生として鍛えられている羽津姫の腕ならば、当たり所が良ければ相手を容易に沈められるのだ。

「シーニョがやられたぞ。無効化ぐらいでは、進撃は止められないのか……」

「ならば、今度は私の遺産だ。遺産・オートリュシュ、突進せよ。狙いは、まぬけそうな金髪の男の方だ。あいつは遺産のことを知りすぎている」

 情報源を断つことを選択してきた。

 戦術的には間違いじゃない。

「え、ミーに……ウキャー!」

 大きな音を鳴らし、地面とほぼ平行にホッシーに向かって突進してきたのはダチョウだった。

 高速に迫る巨体を回避することは不可能にみえたが、

「どっこい。な~んて、だゾ☆」

 星型ビットがキラリと輝いた。

「スタービット君、カモン!」

 ホッシーは指を鳴らし、テクノミュージックのような神音を奏でる。

「トランスフォーム! ミーが考えた、最強のザ・ストロンゲスト・ガン!」

 神音に共鳴した星々は、カートゥーンアニメでおなじみの竜巻のように回転し、よく小学生ぐらいの子供がチラシ裏か、落書き帳に描く、ゴテゴテのわけのわからない部品が多く、時々光ったりもする、筒状の銃身であることから、とりあえず『銃』であることだけがわかるモノへと一瞬で変化した。

 いや、大きさからいえば重火器か。TDS M72 LAWあたりに似ている。ともかく使い捨てロケットランチャーのようなものに変わった。

 自称最強の銃へと変化した星々を、ホッシーは自分の肩に乗らせ、迫り来るダチョウの真正面に銃口を向ける。

「ファイヤー!」

 ドッカカカカァアアアン!

 ホッシーのかけ声と共に予想外の、いやある意味では予想通りの破壊力をもって、ダチョウを爆撃した。

「ふぅ。ちょっと危なかったデース」

 そして、撃退。

 でたらめな銃ででたらめなこの出力。

 遺産同士の戦いを目にし、どの顔にも狐につままれたような表情が浮かんでいる。そこに在る者すべてがただ呆然となってしまったのだ。

「こ、これがワルキューレなのか」

「なんということだ……」

 騎士たちの言い分もわかる。

 だが、この理不尽なくらいに強いのが遺産なのだ。

「あんっ。お久なので、ちょっとパワーを間違えマシたぁ~」

 ビリビリリリィィイ!

 ホッシーのSFチックなファナティックスーツが破けだした。どうやら、至近距離で撃った反動までは吸収し切れなかったようだ。

「あう。ミーのファナティックスーツはビーム兵器にはストロングだけぢ、物理攻撃にはウィークなのネ~。気をつけないといけないネ」

 胸部のメタリックな装甲板の一部が剥がれ落ちる。

「うわぁあああ!」

 大声を上げて驚いたのは、羽津姫だった。

 では、なぜそんなに驚いているのか。それはホッシーの容姿にある。

 たしかにあらゆるところにロボットらしいギミックが施されていた。脚もまさしく機械といった見た目だった。だが、人型であるゆえ、全体的に妙に匠の技が光っていた。

 形のいい雄っぱいからこぼれでそうなのは、間違いなくピンク色の突起物。見えそうで見えないが、あと少しで見えそうというシュチエーションこそがまずかった。羽津姫の妄想力に火がついてしまったのだ。

 もっとよく見てみたい。

 その悲しくも当たり前のヨコシマな欲望が頭の中でよぎってしまう、それこそがオォ、モーレツな風が噴き上がるスイッチだったのだ。

「あぅ、スタービット君が、ワントニングでシタか?」

 バチバチと大砲から嫌な予感しかしない電流とモクモクした煙が出てきている。

 爆破五秒前と表示されていてもおかしくない。

「それとも、風魔グリーンのラッキーによるもの、デスか?」

「へ? 私の、幸運体質のせい……だと?」

「イエス。エロちぃことを常に考えるのは人の性。そんな正直なリビドーに呼応して、いや~ん、まいっちんぐなセクシ~ハプニングを引き起こす幸運技なのデスよ。あ、風魔グリーンは悪くないデスよ。これは絶対フォーチュンの幸運な事故を起こすためのオートマティックオペレーションシステムで、本人のマインドとは無関係にアクションしマース。あんっ、そこは、らめぇえっ! 熱でぇ、バーストッ、しちゃうぅん……あんっ、もう、もたないぃいんっ!」

 ホッシーは大砲を星型ビットに戻して、爆発物を強制解除、考えられる事態を収束しようとした。が、最強の銃は分解されつつも、一気に膨れ上がったのだ。

 これはエロの神様が光臨する数秒前の出来事だった。

「きゃあああっんぅう!」

 ドカカァアァアアアアン!

 大砲が木っ端微塵に爆発した。

 爆風によってワーギャーと男たちの野太い悲鳴もある。

 ちょっと見渡せばわかるが、敵は爆発にのまれ、吐き出され、みんな仲良く、木に激突し、呻いて悶絶。

 この場でたっているのは、『運よく』爆発から逃れた風魔グリーン、ただ一人だったという。

「え、お、終わりなの。これで……」

 あたりは静まり返っている。

 爆発オチとはなんとも締まらない終わり方だが……勝てた、よかった。

 コレがゲームなら、敵は全滅したというテロップが出てきて、小気味のいい音楽とともにこの戦闘で獲得した経験値と金額が表示するのだろうが、そんなオプションはない。

 代わりにあったのは、ホッシーの苦笑だった。

「激しすぎデース」

 爆発によってところどころ破けた服がさらに引き裂き、より扇情的な姿をさらさせるホッシー。

 ロボットゆえ、その鋼鉄に等しい体には傷一つついていない。が、破けた服の中からたくましい胸板などが今にもこぼれでてきそうだ。

「うわぁああ。私のせいなの! ご、ごめん!」

 意識的にしたことではないが。

 どうやら絶対フォーチュンによる幸運は、ラッキースケベも発動させる仕組みも備わっているらしい。

 だから、この状況をうみだした遺産は装着者の欲望を忠実に応えただけだ。原因は羽津姫(の無意識な欲望)にある。

 ならば、謝るしかない。

「もう! 大好きな羽津姫が望むなら、ミーはいつでもキャモ~ンだけど。時間と場所はわきまえてほしいゾ☆」

 プンプンとほほを膨らませながらも、まんざらではない顔。

「あわわわわ……」

 羽津姫は混乱したように目を泳がせる。こんな強くてかわいいアイドル系美青年に慕われているというのに、うれしいと思うよりも、なぜと思ってしまう。

 それについてはさまざまな理由があるのだが、一番は同年代の子に直接的な告白をされたことがないので、慌てているからである。

(う、うれしいはずなのに……。頭も胸もドキドキが止まらない。こんなんじゃ、何も考えられないよ!)

 甘酸っぱい青春の香りというものがあるなら、まさしくこれのことをさすのか。

 羽津姫の思考は混乱し、ぐるぐると渦巻く。ナルトになって、ラーメンの上をプカプカと浮くぐらいしかできなくなる一歩手前だ。

「む~。羽津姫、ミーのこと、嫌いデスか?」

「いや、それはない。でも、ちょっと、そういうことは……社会人になってからで! 大学生の私には、まだ荷が重いよ」

 ひとまず保留で。

(そうだよ。だいたいホッシーが好きになったのは未来の私であって、今じゃないし……)

 ホッシーは物足りなそうな瞳で見ているが、このままラブコメを続行はできない。

 なぜなら……。

「あ、あなた方がワルキューレ……」

 少年の声で現実に引き戻される。

 そうだ、ここはヒーローショーではないのだ。

 周りにいた兵士すべてを倒しても、終わりではない。

 むしろこれからが本番のだ。

「ワルキューレ……まさか、あんたたちが!」

 お兄さん、反応濃い。この時代この国だとワルキューレの知名度が高いほうなのか。

「ところで、まだ聞いていないのだが、あなたたちの名は?」

 勤めて、ヒーローらしい声を出している羽津姫。ホッシーのほうはスタービット君を使ってファナティックスーツを再製させている。

「俺の名は、サクル。サクル・キレスタールだ」

「ぼ、ぼくは……ネムル・キレスタールです」

 兄の背に隠れている弟は憎しみと悲しみが入り混じった瞳で、恨めしそうに零す。

「なら……なんで、村が反乱する前に来てくれなかったの……」

「ネムル……」

「お前たちが来ていたら、父上だって殺されなかった……姉上だって……」

 グスン、グスンと涙を流す、ネムル。

 反乱を起こすことになった経緯については、羽津姫とホッシーは完全に部外者だ。

 そもそも、この時代、この場所に降り立ったのはつい数分前。

 その前に反乱が起き、この兄弟に悲劇が降りかかっていただろう。

「やめないか、ネムル、失礼だぞ」

 弟の理不尽な八つ当たりを戒めたのは、サクルだった。

「ワルキューレが来たということはもう、俺たちの手では負えないということだけだ。本来は俺たちの手で、何とかするべきことだぞ。この場にいる俺たちの手で……な……」

「ふえ! ごめんなさい。どうしても言いたくて……」

「出会うということだけでも、幸運だぞ」

(お兄さん……カッコよす)

 弟をたしなめる兄の姿に思わず羽津姫は惚ける。

 そうだよね、一期一会って大事だよ。なら、ここにきた理由はもうわかったものじゃないか。

(私はこの兄弟たちを救うために、来たに違いない)

 絶対フォーチュンの力がどのようなものかわからないが、助けたい人が目の前にいることに、心が震えた。

「それに、謝る相手は俺じゃなくて、彼らだろ」

「あう。ごめんなさい、ごめんなさい!」

 ネムルは涙をポロポロとこぼしながら、謝っている。惚けている暇がなかったと羽津姫は泣いている少年の頭を軽く撫でる。

「……っ」

 ビクッと小動物のように震えてきた。そうか……この子は……。

「もう、いい」

 羽津姫だってなんとなくだがわかるような気がする。

 八つ当たりとは、『自分を守るための行動』だ。

 人は問題が起きたとき、負の感情を抱いたときに、それを自分の中だけに抱えておくことはできない。

 抱え続けると、精神のバランスを崩してしまうからだ。しかし、『問題の対象に直接感情をぶつける』ことが、可能であるとは限らない。というか、現状では無理だ。

 それでなくとも、この少年は理不尽にも、父親を殺されたばかりなのだ。気が動転しているのが道理。

 そしてこの子は心の奥底から優しい人間を求め、助けを呼んでいる。

 ここは周りが大人の対応と包容力でカバーするしかない。

「……ともかくこの場は危ない。ホッシー、安全なところに案内してくれない?」

「アイッサー! これだけスパーキングしちゃったから、当分は追ってもこないようだし。ばっちり、見晴らしのいいポイントもみぃ~つけたよぉ~!」

 ホッシーはスタービット君とともにちゃっかり昏倒している兵士から食料や小銭を抜き取りながら、返事をする。

「すまない、ネムルが……」

「積もる話は安全圏内に行ってからでいいわ。あなたの弟はまだこんなに幼いのだから、感情が爆発するのが当然。それは、今まで幸せでいい家庭に健全に育ってきた証拠。謝ったのだから、この話は終わりにしよう。大体、そんなことぐらいで目くじら立てるほど、私たちが大人気ないと思われるほうが心外だわ」

 たしかに、本音を言うとちょっと心が傷ついたよ。大人になりきれてないガラスのハートはズッキズッキだよ。

 ナイーブな心の持ち主だったら、ネムル君の言葉はクリティカルヒットに違いないけど、義のヒーロー風魔グリーンならこうかっこいいこと言うよ。言うに決まっているからね!

(私としてもこれ以上そういう暗い話を掘り下げるのは、ごめんだし、ね)

 羽津姫としても、これ以上気にしないことにしている。

「すまない……そして、ありがとう」

 村長の息子たちの育ちのよさに、胸キュンプライスレス。

「これからよろしく、サクル、ネムル」

 感謝される……これだけで、羽津姫、風魔グリーンと名乗ってこの二人を助けてよかったと改めて思った。


☆☆★☆☆


 今はともかく兵士に追われる現状の打破だと、一行はホッシーのナビで、雑木林をそのまま突き進み、入山。

 人気のない場所で古びた山小屋を見つけると、そのままそこに入り込んだ。

「こんなところに、こんな場所が……」

 都合よく、雨風しのげる場所が見つかるとは。

 運がいいということは、都合がいいと同じ意味なのか?

「衛星からキャッチした情報によると、かなり人里から離れているから、迷い人でもない限りこないよ」

 ホッシーも、ここなら当分は大丈夫だと、胸を張って言う。

 中世の人にはちんぷんかんぷんな内容だが、

「ホッシーの言うことはわからないが……たしかにこのホコリのたまり方から予測すると、最低でも三年ぐらいは放置されていると考えられるな」

 サクルは独自の視点から、結論をつけ、納得していた。

「走り回ったし、そろそろお腹すいているでしょ。さっきちょろまかした食料を食べながら、作戦会議しようよ」

 ホッシーは、スタービット君から布を取り出し、机の上などを軽く拭く。

「念のために、トラップでも仕掛ければいいわよね……風魔・警戒線けいかいせん!」

 風魔グリーンは忍者という設定があるため、仕掛け罠をかける技も存在する。

 掛け声とともに、オーラは変化し、山小屋を守るようにたくさん罠が張り巡らされる。

 もっとも、羽津姫の幸運があるので、強襲されることはなさそうだ。が、安心して食卓に着くためならば、用心に越したことはない。

 兵士たちから奪い取った麻袋に入っていた食料は、何の肉かわからないが、干した肉と、硬くぼそぼそしたパンだった。

「ん~、この時代だとこういうものが携帯食料なのか……」

 羽津姫はクチャクチャと味気ないが、かみ応えがある食べ物に、軽くカルチャーショックを受けていた。

「時代がデファ~だと食べ物や文化も大きくデファ~だからね☆」

 この時代の人である村長の息子たちは何気なく食べているところから察すれば、ホッシーのいう通り、見解と志向の違いが浮き彫りになる。

「ん~、時を越えるって大変ね」

 まず食べ物で躓くとは……。結構重要な食の文化。

 これからは、もしものことを考えて、軽いお菓子などは持ち歩いたほうがいいのかもしれない。

 ワルキューレになって、初心者マークどころか教習一日目の羽津姫は肝に銘じた。

「ファラウラの子と聞く前に、クエッションデース。サクルとネムルはまやかしの宝玉をユーズしてまで何を隠しているの?」

 ホッシーは何気なく、気になったことを述べた。

「ぶっ!」

 むせる、サクル。

 ネムルもぱちくりと大きく目を見開いている。

「まやかしの宝玉って、何?」

「風魔グリーンは知らないか。まやかしの宝玉っていうのは、遺産の一つで、効果は種族を隠し、ただ人と偽る。エイシェントでは戦闘用に配合したキメラを敵陣にアタックするときや、スパイ活動にユーズしていたよ☆」

「意表をつくためのアイテムってことね」

 変化の術みたいなものかと、羽津姫は解釈した。

「でも、何でそんな遺産を使っているの? 普段行動する分には種族なんか隠さなくてもいいじゃない?」

 イワンが猫耳を普通にさらしているように、ジャパートでは、いかなる種族もそのままの姿で暮らしている。

「ん~、ミーもそこらへんがノット・アンダースタンドだよ。アイカメラにノイズが走って付加がかかるだけだから。正体がバレバレだから、別にしなくてもいいのに、と」

「あ、わかるの」

「そりゃ、肉体がチェンジしているわけじゃないからね。光の反射を利用して姿をディシーブ(変化)っているだけだもん☆」

 ホッシーのアイカメラの機能では通用しないらしい。

「……ワルキューレにはやはり、通じないか」

 サクルは、おもむろに、とび色のブレスレットを外す。

「兄上……」

「さっきの兵士たちも俺たちの種族をわかっていたようだからな。きっと、まやかしの宝玉が効かない遺産を身につけていたのだろう」

 サクルに体に変化が起きる。

 いや、その表現は正しくない。まやかしの宝玉が流していた映像が切れ、本当のサクルの姿があらわになっただけだ。

「あ、翼人だ」

 サクルは背に大きな羽を持つ、翼人の少年。

 薄茶色の髪と同じ色の翼は、猛禽類のように猛々しく、好男子として魅力的な姿だった。

「じゃ、ぼくも……」

 ネムルも水色のブレスレットを外す。

 仲良し兄弟の色違いのお揃いアクセサリーだと思っていたが、このブレスレットこそが、まやかしの宝玉だったのだ。

 兄と同じように本当の姿が晒される。

 サイドのツートンカラーの髪を二つお下げにし、

「え、こっちは三つ目族?」

 額に三つ目の瞳がある稀有な一族の少年が目の前にあらわれる。

「じゃあ、これから救い出そうと思っているファラウラは……どっちに似ているの」

 羽津姫はファラウラについて名前しか知らない。

 しかも翼人と三つ目族の兄弟とつながっているのだ。

 十中八九かっこいいだろうが、どんな容姿の少年なのかまでは想像がつかない。

「サクルみたいに鳥の血のほうが濃いのか、それともネムルみたいに三つ目族なの? それとも両方の遺伝子がうまくくっついているのか……もしかして、隠れ天狗だとか!」

「あ、あの……おかしくないですか。種族が混じっているって普通は……それと、最後のほうの隠れ天狗って何ですか?」

 サクルは羽津姫の意見にタジタジする。

「え、おかしいかしら。種族の混血児って片方の親に似ているときもあるけど、両方交じり合っている、とか、ちょうど両方の特徴が打ち消しあって人間種になるとかあるじゃないか。ちなみに私は両親どころか、親族が混血だらけだけど、何の特徴もない人間タイプに落ち着いたし。それと、隠れ天狗っていうのは、狐族、狸族といった化け科の血を引いた混血児で、今までの合わさった種族に変化することができる特異的な種族とされているけど、従兄弟にいるし……もしかして、海外じゃ名称が違うの?」

 文化と時代の違いの壁が展開されていた。

「あ、いえ……緑のワルキューレさんには、混血は珍しくもないということで、いいのでしょうか」

 サクルはおずおずとではあるが、羽津姫との考えの違いについて確信めいた言葉を言う。

「ほへ、当たり前じゃないか」

 一方、羽津姫はまだ気がついていない。異文化知識ゼロなのでこの違和感がわからない。

「そうですか。ならば種族差別も……」

「?」

 それには羽津姫とホッシーはいっせいに首をかしげる。本気でわかっていない様子である。

 それでなくても、羽津姫郎の時代のジャパートでは幼馴染のイワンが猫耳を普通にさらしているように、いかなる種族もそのままの姿で暮らしているので、サクルの懸念に無頓着なのである。

「いえ。こちらの話です」

「実はぼくと兄上は血のつながりがないです。兄上のもともといた集落は、川の洪水によって流されたらしくて……。孤児になった兄を父が養子として迎えたそうです」

 話が思った以上にヘビーだったとき、どんな顔をすればいいのか。

 風魔グリーンの仮面かぶったままでよかった、なんて心の中で思ってしまう、羽津姫だった。

「だけど、ぼくは兄上を本当の兄弟のように慕っています!」

「うん、このまま仲のいい兄弟でいてね」

 思わず、強い意志で発言をしたネムルの頭をポフポフとなでる羽津姫。

「え……はい!」

 ネムルはあどけない頬をほんのりと赤らめ、羽津姫のナデナデを受けいれる。

(う……やだ。この子、すっごく、かわいい)

 よくよく見れば、ネムルは褐色肌の凛々しい顔立ちの美少年で、手足もスラリと長い。

 漆黒の瞳には三つ目族にふさわしい神秘的な深い輝きをたたえている。このままうまく成長すれば、数年後には義兄のサクルとは方向性は違うが、匹敵するぐらいの綺麗な美男子に開花するだろう。

(それに、三つ目族って美形が多いっていうけど……)

 だから狙われたのかと、羽津姫は思った。

 確かにこの兄弟の容姿を見る限り、この子達を得るために、全力で人道から外れてしまう不埒な輩が出てきてしまうかもしれない。この時代のこの国では、人身販売が平気で行われているようだから、要注意だ。

(こういうシチュエーションは成人向けの商業誌や薄い本といった、フィクションやイマジネーションの世界だからこそ映えるのであって、リアルにやられると引くわぁ~)

 時代によって考えかたが違うとはいえ、こんな非人道的なことを見過ごしたらいけない。

 なんとしてでも、ネムルの姉、ファラウラ嬢を手遅れになる前に救い出さないと、風魔グリーンの名が廃る、というものだ。

「ホッシー、ファラウラの行方、つかめない?」

 非常食で腹を満たした羽津姫は、くるりと回転して、ホッシーに人探しをするように命じる。

「わかっているって、風魔グリーン」

 ビシッと敬礼ポーズをとり、ノリノリで答えるホッシー。こういう展開を待っていたようだ。

 特撮でよく出てくる情報通キャラにあこがれているのか。

 インテリタイプが多いから、あこがれる気持ちはよくわかるけどね。

「念のために聞くけど、ファラウラという人はネムルとは、血がつながっているよね」

「うん、そうだよ」

「なら、イージーだよ☆ さぁって、出番だよ、スーパースタービット君・レーザーつき!」

 ホッシーはキュンキュンとテクノミュージックのような神音を鳴らし、検索しだす。

「この近辺にいる三つ目族はネムル以外に数人……で、そこはことなくネムルの生体情報と似ている若い娘は……キャッチ!」

 写真を現像するため、むしゃむしゃと草木を取り込んでいた星型のビットを取り寄せ、スキャン開始。

「ファラウラっていう娘はセイ、ナウ?」

 写真に映し出されているのは、ネムルの少女版といって差し支えのない、鼻筋がすっきりとした愛らしく、これまた将来が楽しみな美少女である。

「ああ……ファラウラだ」

 サクルはホッシーから写真受け取ると、握り締め、両肩を震わせた。

 今まで押し込めていた感情が一気にあふれ出ているようだ。義弟のネムルがいる前だからこそ、強気に、泣きたいなるほどの不安を押し殺していただけなのだろう。

 その緊迫が、義妹の顔を見て一瞬和らいでしまった。

「……兄上」

「すまない、ネムル。少し、動揺してしまって。もう、大丈夫だ」

 そこをぐっと我慢する兄の姿を見て、熱いものを感じたのは何も弟だけではない、ずっと静観していた羽津姫もそうだった。

(絶対、助ける……風魔グリーンとしてだけではなく、私の信念で)

 羽津姫がホッシーから目を離したのがいけなかったのか、ホッシーの口から、

「やっと遺産キャパシティが高い娘を浚ったぞ。小さい息子のほうも惜しいが、まずはこの娘を魔眼処置し、体のいい操り人形にしてくれるわ」

 大音量で不吉な言葉が飛び掛った。

「え、何それ、ホッシー!」

「ちょうど、ファラウラの側にいるザンギス将軍本人のランゲージだよ」

「まさかの現在進行形!」

 諜報能力舐めていたわ、ごめん。

「魔眼処置って……まさか、あいつら……」

 サクルの顔がこわばる。

 ネムルにいたっては顔を青くさせ、かわいそうなぐらい震えている。

「えっと……、魔眼処置って、何? ホッシー知っている?」

 思った疑問を言葉にして、この場で一番聞きやすい者に回答を求める、羽津姫だった。

「魔眼処置というのは、イージーにいうと遺産を使った洗脳だね。でも、そんな遺産を使いこなせる人間がいるのかなぁ。ベリーレアだけど……あ、ザンギス将軍、思ったより遺産キャパシティが高い! 使えるわ、こりゃ」

「使えちゃうの!」

「でも、ミーに任せて。妨害電波発生ジャミングしておくから、そぉおおい!」

 ホッシーはウィンウィンウィンと、先ほどとは違う神音を鳴らし、レーダー波に対する妨害を試みる。

「ふう、これで当分は、レベル40以下の遺産の能力をほとんど無力にしたゾ~☆」

「うわ、フィールド魔法の特殊効果!」

 カードゲームあるあるを素で展開させる遺産に驚くしかない。

「イエス、だいたいあってマース。ミー、がんばりマシたぁ~。だから、羽津姫、なでて、なでて~。ネムルにしたみたいに~。ミー、すぅっごくうらやましかったゾ!」

 ほめて、ほめて~と、尻尾をぶんぶん振る大型犬となった。

「便利な能力だね……」

 羽津姫は犬属性ロボットの金髪頭を気が済むまで撫で回す。

「えへへ~。でも、この妨害電波発生ジャミング、魔眼処置遺産の無力化はあと六十時間しかないから、イミディエット(早急)な対策が必要だよ」

「六十時間ね……善は急げというけど、ここはいったん一眠りしたほうがいいね」

「なんで、て、あ~」

 気力と体力の限界が着たのか、うとうととしているネムル。

「ぼ、ぼく……」

「ゆっくり休め、ネムル。休めるうちに休むのもまた、兵には必要なことよ」

 羽津姫はごねるネムルをあやす。

 その後ろで、ホッシーはてきぱきと、寝台を用意しだす。

「サクル、すまないが、奪還計画に移る前に疲労を回復させておきたい。いいかな」

就寝の支度をしつつも、念を入れてサクルに諭す。ネムルを寝かしつけるには、兄の説得も必要なのだ。

「……俺もグリーンの意見に賛成だ」

 ファラウラを一刻も早く救い出したいとは思う。だが、失敗が許されない。疲れきってヘトヘトな状態で、敵陣に乗り込むのは危険だ。

 サクルは感情よりも合理性を重視し、羽津姫の意見に合意し、ホッシーが作り出した毛布に体をくるめた。

 程なくして、寝息が聞こえてくる。

「兄上がそうおっしゃるのでしたら……」

 カクンと糸が切れたかのように、眠りにつくネムル。

 あれだけの距離を走りぬき、ストレスや緊張が続いたのだ。小さなこの体でよくがんばったものだ。

「その、がんばり。けして無駄にはさせない」

 スウスウと寝息を立て、深い眠りに入ったネムルの髪を掻き分け、羽津姫は立ち上がる。

「で、ホッシー」

「わかっているって、ファラウラの現在位置でしょ。ここから南に約十六キロメートル。周りは林だけど、要塞があるだけだからまず、間違えることはないね。それと……」

「追っ手がきているってことでしょ」

「推理早いね。さすが風魔グリーン、察しよすぎ☆」

「そりゃ……。遺産を停止できるくせに、やけにもったいをつけるな、とは思っていたからね。このまやかしの宝玉があったからでしょ。いきなり、遺産の効果が打ち消されたら、周りは大混乱におちるだろうし」

 テーブルの上に置かれている、色違いの二つのブレスレットを指差し、ホッシーが使いたくても使えなかった状況を推測する。

「ザッツ・ライト~。羽津姫の察しの通りミーの妨害電波発生ジャミングは、ミーが所持している遺産以外の一定区域のレベル四十五以下の遺産をすべてストップさせるよ。で、レベルが高い順にリリース。魔眼処置のレベルは二十四。この宝玉は大体三ってところだから、ね~。シチュエーションは言わなくてもわかるでしょ」

 宝玉はかなりの時間効果がなくなるということか。

「ふ~ん。話はこれぐらいにして、と。肩慣らしに喧嘩してきていい?」

 こちらに向かってきていたしつこい団体は、急に遺産が使えなくなったから、混乱しているはずだ。

 まずはそこを完膚なきまでにたたく。

「え~。ミーはお留守番デスか? 羽津姫と離れたくないデース」

「そういわないでよ、ホッシー。この兄弟を守ってもらいたいのもあるけど、ほら、その……」

 目のやり場に困ったラッキースケベ事件は記憶に新しい。

(ホッシーがいると、あぁ~なるだろうからね……)

 うれしいけど、なんか違う。

 しかし、爆発オチを指摘しても、羽津姫なら見せてもいいよ、と言ってホッシーはついてきそうだ。ならば……。

「私、このKIAIの操作に慣れたいから。ね、頼むよ、ホッシー」

 考えられるもっともらしい理由で、頼み込むことにした。

「ん~、風魔グリーンのホープなら、不本意だけどミーお留守番しマス。風魔グリーンがストロングじゃないと、ミーも困りマスし」

 しぶしぶだが、ホッシーの説得完了。

「ごめんね、ホッシー」

「風魔グリーンがそう望むなら。ミーはガードに勤めるよ。で、スポットまではこのスタービット君たちが案内するね☆」

 ホッシーはひょいっと星型ビットを三つほど羽津姫の周りに飛びまわさせる。

「あー、あー、ただいまマイクのテスト中、テスト中」

 一つのビットからホッシーの音声が出てくる。

「うん、良好。もしリクエストがあったら、何なりとこれに言ってね。できることならなんでもするよ。ちなみに、この星たちのチームは受信機と転送機とミーの愛だよ☆」

「愛っていうのもちょっと気になるけど、て、一つ一つ役割が違っていたの!」

「イエス。ウッドの中では説明を省いたけど、スタービット君たちのベーシック・ストラクチャーは大差ないけど、メモリーの容量の関係で一体につき一つか二つの機能しかインストールできない。といっても、状況によって、そのつど書き換えるし、明確な違いは操作するミーぐらいしかわからないから、無理に覚えなくてもいいよ☆」

 人間じゃ無理だと、遺産ロボット(稼動年数不明)の貴重な意見でした。

「ファナティックスーツはそれぞれ能力が違うからね。遺産キャパシティが高いことは前提であって、ミーみたいなロボットじゃないと扱えないものや、超能力者専用、特定の種族でないと装着さえできない、と適性のある者も異なっている。ファナティックスーツの性能に合わせて、装着者を選んだのか。装着者に合わせて、ファナティックスーツをメイクしたのか。両方あるかもしれないけど、そこらへんは、ミーもよくわからない」

 それこそ、遺産を作った人に聞いてくれといったところか。

「そんで、羽津姫は絶対フォーチュンの力をうまく使いこなすには、こういったバトルの中がベストだって☆」

 確かにそれは言いそうだ。しかし、気味が悪い。

「……私の知らない、私を知っているって、ちょっと変な感じ」

「時間跳躍すると、よくあることだから。ユーもいつかはまったく知らないミーを予め知っている立場になるよ」

 頬を少し膨らませるホッシーを見ると、彼も彼なりで気恥ずかしい時期があったのだろう。

「……お互い様か。なら、ずるくもなんでもないね」

 風が舞う。

「じゃ、いっちょ、派手に捕り物帳でもしてくるよ!」

 羽津姫は緑の疾風となって、夕日にかげりができ始めた空を一番星とともに木々を駆け抜ける。



☆☆☆☆★☆☆☆☆



 羽津姫のよみどおり、山の中でうろたえている一団があった。ザンギス将軍が放った子飼いの遺産使用能力者たちだ。兵士たちが電撃でしびれ倒れているところから、村長の息子たちは強力な遺産を所持し、撃退したと考えたのだろう。

 そのまま野ばらしにしているのは危険だと考え、遺産キャパシティに長けた者たちを編成し、山狩りを行わせていた。

 探査機とほぼ同じ能力の遺産を使い、息子たちの気配を頼りに、小屋からそう遠くはないが、近くもない場所まで一団は向かっていたのが……。

「な!」

 ホッシーの妨害電波発生ジャミングにより、手持ちの遺産が一切使えなくなってしまった。

「永久機関であるはずの遺産が使えなくなった、だと……」

「この能力は……まさか、兵士たちが言っていたことは本当だったのか!」

 緑色の面妖な人物によって襲われたという報告はあった。

 だが、まやかしの宝玉を所持していた村だ。かの有名なワルキューレ伝説を模していると可能性もあった。

「……緑のワルキューレが、いるというのか!」

 バサバサバサバサ──カラスたちが一斉に飛び去る音。

「緑って……。たしかに緑だけど、さ。風魔グリーンって名乗ったはずだけどぉ~」

 鳥の羽ばたく音をバックミュージックに、風が舞い降りるは、緑色の面妖な人物。

「じゃ、改めて……安眠妨害許さない。よい子の味方、風魔グリーン! 木の葉とともにパパッと参上!」

 口上を述べると、羽津姫は背中の風車手裏剣を手にし、鈴のような神音を鳴らしながら、追ってきた集団に放つ。

「風魔の風は、今、義のため、吹き上がる! いけ、風魔忍術・風神風車手裏剣ふうじんふうしゃしゅりけん!」

 劇中では風魔グリーンが背に背負っている巨大手裏剣には風神の加護あるという設定で、大木をもなぎ倒す威力がある、必殺の技である。

 設定どおりの力が付属武器KIAIによって与えられた今、ただのプラスチック製の風車手裏剣が、強力な武器となって、綺麗な放射線を描きつつ、森の中を駆け巡る。

「わー!」

 バキバキバキ、ドッスン。

 無作為になぎ倒される木の下敷きになる、敵集団。

 絶対フォーチュンの力により、木に当たらない羽津姫以外は、みんな木と仲良くねっころがっていった。

「う~ん。すごいな、ワルキューレって」

 戻ってきた風車手裏剣を背負い、あたりを見渡す。

「ホッシー、縄とか、縛れるものなら何でもいいから、転送してくれない?」

「オッケー」

 完全に静まった森。倒れてくる木がなくなったようなので、これから一人ひとり縛り上げ、兄弟たちがぐっすり眠れる時間を稼ごうと、羽津姫はスタービット君から縄状のものを受け取る。

「思ったよりも丈夫そうね。それに長い。これなら発動できるわね」

 羽津姫はオーラで、十字手裏剣を再び出現させる。

「風魔忍術・捕縛クモ《ほばくくも》!」

 雷神の加護を持つ十字手裏剣を先端に結び、一気に押し寄せてくる戦闘員をがんじがらめにする技である。

 ただし、この技を発動させるには、捕縛対象者がある程度消耗していることと、ロープになるものがなければならない。劇中では、縄はもちろんのこと、ケーブルやら、ビニール紐、ゴム紐、蔓、中には縄跳びや綱引きの縄など多彩なバリエーションで、行われている。

 技名を叫び、打つとともに、稲妻のようにジグザグと十字手裏剣は動き、気絶している追っ手をクモの巣に引っかかった昆虫のようにグルグルに縛り上げ、木々を縫って、同心円状につるし上げる。

「この技の効果は半日。死ななきゃ安いわけだし、このぐらいは耐えてね」

 山狩りに来た面子だから、多少無体を働いても平気だろうし。

 風魔グリーンの技はすべて、物はある程度壊しても……敵の命を奪うものはない。

 技の仕様と羽津姫の幸運により、死者はまずでないだろう。現に、あれだけの被害を受けたというのに、誰一人息をしていないものはいない。

「さぁって、これで終わりかな。じゃぁ、何とか将軍をぶっ飛ばす前に私も一休み……」

 ジー。

 どこからか、視線を感じる。

「おかしいね。まだ残っているのかな」

 背中の風車手裏剣を手にして、攻撃態勢をとる。

「私もついていって正解だったようですね。さすがはザンギス様。一手先もお読みになる方だ」

 バッサバサ。

 大きな羽ばたく音がする。

「風魔グリーン、上!」

 ホッシーの声で、羽津姫は最悪な事態から逃れることができた。

 ブォンッ!

 大きく風を切る音ともに頭上から振ってきた刃。

 西洋の剣らしく、重みで脳天を打ち砕く勢いで振り落としてきたのだ。だが、羽津姫の身軽な体は刃が落下するよりも早く、回避した。

「うわ、危ない。て、口上もなしで襲ってくるなんて……ヒーローらしくないじゃない!」

 一触即発な状態のはずだが、羽津姫はなんだかんだといって余裕である。

「すみませんね。あなたのことをワルキューレの名を語る下種な偽者かと思ったのですが、どうやら、本物みたいですね」

 バッサバッサと舞降りる音。

 大きな剣を右手に持って、降り立ってきたのは、藍色の動きやすいように加工された法衣の上に、白銀の鎧を身にまとった翼人の少年。

 鮮やかな金髪、エメラルドに似た碧眼、天使のような美貌が眩しかった。

「ファナティックスーツにはこのようにクリスタルついているはずなのに、なぜ、あなたにはないのでしょうね」

 羽津姫はハッとする。

 サブカルチャーでお馴染みのワルキューレにはクリスタルがついている。

 右手や、かんざしとキャラクターによってついている部位は違うが、キラキラと輝く色とりどりの宝石が彼らを彩らせている。

 現に、目の前の天使の胸元には、晴天のような青いクリスタルがついている。

「私は飲み込んだからだと思うけど……」

 ホッシーに至っては、あの内部のコードの奥にあると思われるコアに直結していそうだ。

「そっか、クリスタルか~。ワルキューレはクリスタルがあるかないかが基準か。あ、でも、ここら辺の、肩パットについている緑の手裏剣型のやつなんか、クリスタルっぽくない? 遺産じゃないから、見る人によってはバレバレか~」

「……緑のワルキューレのクリスタルがあるといわれている場所に確かにそれっぽい装飾がなされていますね。何の金属かわかりませんが」

「アクリル素材だからね。中世には影も形もないか」

「……本物の緑のワルキューレでしたら、なぜ、あなたほどの方が、ザンギス様にあだなすのですか!」

「そりゃ~。そいつの行いに腹が立ったから」

 単純に怒りを覚えた、ただそれだけである。

「そ、そんな簡単な理由ですか。十字架を背負いし使徒としての誇りはないのですか!」

 天使の言い分に、心当たりがあるようなないような羽津姫は首をかしげながら、記憶の奥底にあるものをつついて、思い返してみる。

「そういえば、ワルキューレの中に十字架背負っている緑色がいたような……もしかして、あれが、私なの!」

 サブカルチャーとして有名なワルキューレは、もっぱら目の前の西洋鎧の白銀の翼の天使と、軍服姿の赤い翼の天使。

 他にも冷徹な氷の死神、水晶を操る占い師……そして十字架を背負い安然を望む、緑。

 緑は、ワルキューレとしては、派手な戦闘シーンや逸話が少ないためか、いまひとつインパクトがいまいちだ。

「そっか。この時代の人が風車手裏剣を知っているわけないか」

 羽津姫は豆電球を飛び出されて、ポンッと手をたたく。

 忍者の起源は研究によると飛鳥時代からといわれるが、手裏剣を使用するようになったのはいつの時代かわからない。

 それに極東のコマンダーがこの時代の西洋に伝承されているわけがない。

 風魔グリーンが使用している手裏剣はすべて十字の形だ。神の使いとあがめられているのであれば、十字架として脚色されていてもおかしくはない。

「でもさ、緑って、裕福で強欲な者たちの宝を盗み、貧しい人たちに分け与えるような義賊的な立場もあるよ。私がザンなんとかに敵対するのも、ありがち間違っていないと思うけど?」

「ザンギス様です! あなたという方は、名前もろくに覚えないのですか!」

「聞き覚えがない名前を速攻で覚えてスラスラと言えるわけがないでしょ!」

 極東の島国ジャパート在住の羽津姫には聞き覚えがないタイプの名前なのである。

「え、ザンギス様の名を初めて聞いた、だと……」

「そうよ。風が私に教えたのだ。払いきれないような税金要求し、翼人と三つ目族をドナドナし囲い込もうとする不埒なものの名を、な!」

 ババンッ!

 ……と、ヒーローショーなら、ここで効果音が出るところだが、代わりに聞こえるのはホッシーの絶賛。

「キャー! 風魔グリーン、超かっこいいデース!」

 星型ビットは景気よく発光する。

「な、何を言っている! 翼人と三つ目族がいるなら、国に献上するのが当然のこと! 特に三つ目族は我々が管理しなければならないのに!」

「無理やり親から引き離すのが当然だと! そんな過ごしてきた日々のすべてを否定するなんて、許されることじゃないわ! あと管理って何、管理って! 洗脳することをさしているの! 人のこと物としてしか見てないの!」

 オラクルと羽津姫の見解がぶつかり合う。

「三つ目族は遺産キャパシティが高いですが、その力を有効に使うということを知らない種族だ。彼らはいつも災厄を呼び、世界を破滅へと導いてきた……」

「なにそれ、知らん! 妄想か!」

 そういえば、サクルがぽつりと言った種族差別。

 それのことを指しているのか。

「な、何を言っている、緑のワルキューレ。三つ目族は絶対奴隷なのだと神がお認めに……」

「だから、その妄言を誰が言ったのよ! もしくは絶対解釈間違っているわ! 都合がいいように改ざんしたでしょ、一節を!」

 神の名を借りて、権力者の都合のいいように歪曲されるのはよくあることだ。

 羽津姫はそんな他人を貶めるような説法を信じないことにしている。

「そもそも、人を差別するのは、神ではない。いつだって、必ず人! それ以上の存在がわざわざ差別するわけない!」

 風が、大きく吹き上がる。

「そう、人。差別される側を作るのは、都合がいいから。社会のため、正義のためなどと、口ではいいこといっているが、結局はあなたたちの勝手な都合と保身。指導力不足を補うため、差別される側を作ることで容易に人の見も心も操るシステムをつくる。そんなシステムのことを知らないバカは便乗し、図に乗って、差別される側を簡単に見下し、彼ら彼女らの人格を全否定する……」

 ソレが受けさせられた相手をどんなに傷つけるか。考えていないやつに言っても無駄なのはわかっているが、それでも羽津姫は心の底から叫ぶ。

「だから、何で恨まれるか、想像できない。おばかさん!」

 緑色のオーラが炸裂する。

「いい、よく聞きなさい! ちっぽけな満足感と自尊心のために、他者を容易に傷つける、貶めるのは何も知らないバカがすることよ。そんなバカに関わりたい物好きなんてそうそういるわけない。だけど、大切なモン踏み握られたら、反撃するに決まっているでしょ。三つ目族が災厄を呼ぶのではなくて、傲慢なあんたらが、災厄を呼ばせているの。順番を間違えないでよね!」

 それぐらい気づけよと、いいたいが。

 この時代のこの場所で通じるかと問われれば、通じないだろうな。語り合う時間もないし、わかるようにビシッと表現するにはコレしかない。

 羽津姫は黙って右手を強く握り締め、天使に向けて突き出す。

「風が嘆くわけがわからないのなら、ぶん殴ってでもわからせるしかない。きなよ、風の導きを教えてあげる!」

 風魔グリーンの仮面をかぶっているが、羽津姫自身の義が色あせることはない。むしろノリノリで出している。

 そして……。

(フフフ……。また、やっちゃったよ……恥ずかしい……)

 かっこいいけど恥ずかしい台詞を大音量で叫んだため、ほほを赤らめ、自分と葛藤する羽津姫。顔半分がマスクで隠れていることに感謝する。

 ハイテンションで恐ろしいぐらいに湧き上がる、黄金伝説ゴールド・レジェンドは、これからも続く。

「無礼な! 本物であろうと構いません! かの英雄も誤りというものがあるのでしょうし。ならば、僕、オラクルの名において、ファナティックスーツ晴天の聖歌の前で懺悔せよ!」

 白銀の翼が舞い上がる。

「こういう真面目で正義感がある人と戦うのは気が進まないけど、今の私には守りたいものがあるから、手加減なんかしないよ!」

 あの兄弟のための戦うって決めたから、羽津姫は立ち向かう。

 伊達にアウェイの空気を振り切って、あえて困難に立ち向かっているわけじゃないのだ。若葉マークの初心者ワルキューレにだって意地がある。

「風魔忍術……」

 羽津姫は鈴の音のような神音を奏で、付属武器KIAIの力を解放する。

 背中の風車手裏剣からいったん手を引いて、

「雷神十字手裏剣!」

 稲妻の力を宿す手のひらサイズの手裏剣の後部を指先から出し、上段構えから、天使に向かって打ちこむ。

(風神は障害物もろとも、敵をぶっ飛ばす。この天使とやりあうなら、障害物が多くて、小回りが利くほうが有利。なら、雷神で様子を見ながら、戦うほうがいい)

 雷神の光が、木々をかいくぐり、天使を捕らえようと動きだす。

 林という障害物がある状態では、羽津姫の小刻みな動きのほうが優位だ。

「くっ!」

 雷神が空気中に放つ、稲妻が天使の羽根や鎧に細かい傷と焦げ目をつけていく。

 オラクルは格好の的となっている。

「小ざかしいまねを!」

 オラクルは剣を振りかざし、天に向かって叫ぶ。

「天の裁きを《ジュージュモン・セレスト》!」

 ハープの音色に似た神音が鳴る。

 同時に、十字手裏剣が上から降り注いできた白銀の棒状の光り輝く何かによって叩き落される。

「げ、何あれ」

「あれは、ファナティックスーツ晴天の聖歌の付属武器、剣の調べによる間接攻撃だよ」

 星型ビットが羽津姫の耳元まで近づいて、ささやくように答える。

「といっても、この時代のオラクルは青臭すぎデース。遺産の操作がまるでなっていないデース」

「何で、そんなことがわかるの?」

「本来の威力は、こんなイージーモードじゃないからさ。だいたい、天の裁きを《ジュージュモン・セレスト》は発動時、動いているものを感知して、アタックするタイプ。言い換えれば、そのとき、ドゥしていないものにはまったく当たらない。羽津姫がストップいるときに使ってどうするの? オーラでできた手裏剣だけアタックして何になるのネ?」

 容赦なく、オラクルを非難するホッシー。

 遺産の使いかたをマスターしていない天使に辛らつである。

「ず、ずいぶん感情的ね、ホッシー。オラクルに恨みでもあるの?」

「しかも、ソードを天に掲げているから、その間ディフェンスレスだよ。こっちはそのスペアタイムをつけばいいじゃないか。ゴォー、スタービット君!」

 スタービット君一体(おそらく愛)が、天使の無防備な右肩に向かって突進。

 銃にならずとも、それなりの質量のある物体が加速しているからか、風を切る音を奏でる。

「うっ!」

 剣を掲げているオラクルは防御する暇もなく、直撃を受けるしかなかった。

 当たったスタービット君は小型の竜巻となって、肩アーマーを破壊。パリンとガラスが砕けるような音を鳴らすと、羽津姫のそばに戻ってきた。

「ま、こんな感じデース」

 ドヤ顔を見せているわけではないが、ドヤ顔になっているぐらい騒ぐ星型ビットは羽津姫の周りを飛び交う。

 一方、粉々に砕かれた肩アーマーの残骸を見ていたオラクルは悔しそうに顔をゆがませていた。

「……く、なぜ、あなたは天の裁きを《ジュージュモン・セレスト》を受けなかった……」

「……」

 オラクルは欠点さえ知らないようだ。

 遺産不祥事案件で言うところの、道具の特性をちゃんと知っておかないと、本番で失敗する、を引き起こしている。

「えっと……そんなの、私は天からの使命でここに来たからだ!」

 事実を述べると、オラクルがあまりにもかわいそうな気がしたので、とっさにヒーローらしい言葉で言いくるめることにした、羽津姫だった。

「そ、そんな馬鹿な……。認めない、そんなの認めるわけにはいかない!」

(あ……プライド高い子だったのか。やっちゃったか……)

 燃料投下。

 しかし、元から引くつもりはない。相手を激高させ、冷静な判断力を奪わせるという戦術的な意味で、オッケーかな~と思うことにした。

「これは、何かの間違いです。もう一度……天の裁きを《ジュージュモン・セレスト》!」

「!」

 白銀の光に貫かれたのは、風に揺らされた葉っぱ。

 串刺しにされ、地面に縫い付けられる。当たったら、痛い、だけでは済まされない威力なのだが、

「……ようは、ダルマさんが転んだ、と同じ要領で近づけばいいってわけね」

 当たらなければ意味がない。

「そういうこと☆」

 羽津姫は天の裁きを《ジュージュモン・セレスト》の攻略法を編み出した。

「なぜです……。なぜ!」

 あ~、あ。かわいそうに。

 悲痛な叫びを上げるオラクルに少し同情。しかし、戦って勝つと決めたからには、手加減はしない。

 羽津姫は晴天の聖歌の神音が鳴る前に一歩、一歩前に進み、

「天の裁きを《ジュージュモン・セレスト》!」

 剣の調べの発動キーを言うころで、立ち止まる。

 子どものときのお遊戯がこんなところで役に立つとはと、思いつつも、ジリジリと天使との距離を縮める。

「そんなことが……」

 あ~、泣いちゃったよ、この人。

 かろうじて、涙はこぼれていないが、目をウルウルさせているよ。打ち捨てられた子どもみたいな目でこっちを見ているよ。

 羽津姫は胸を針でチクチクさせられるような、精神的なダメージを受けつつも、前に進む。

(そう、私にもプライドがある。八幡山町幼稚園時、だるまさん転んだ、のチャンプだったからな!)

 実にしょうもないものだが、立ち止まるわけにはいかない羽津姫は慎重に、だけど大胆にオラクルの懐へと潜り込む。

「すまん、風魔パンチ!」

 せめてもの情けと、一撃で沈める気で、天使の甲冑部位がない比較的無防備な腹を、思いっきり殴った。

「ぐっ!」

 ズザザザァアア!

 オラクルは反動で近くの木まで吹っ飛ばされる。

 しかし、彼は羽津姫が思っていた以上に頑丈だった。

 意識を失わずに睨む。

「あなたに、天の裁きを《ジュージュモン・セレスト》が効かないことはわかりました。この一撃は私の戒め。これから私は、天の使命を忘れ、ザンギス様のために剣を振るいます」

 オラクルは大剣を振るい、八双の構えをとる。

(そうきちゃったの、この子!)

 感じたことがない、圧倒的な気迫に羽津姫も身構えた。

 ザンッ!

 両者の神音が鳴り響く。

 羽津姫は風車手裏剣を片手に、オラクルの剣の調べに応戦。

 キン、キン、と神音を鳴らし、武器と武器がぶつかり合う。

「っ、重い……」

 オラクルは踏み込んだ足を軸にして遠心力で体に回転をつかせる。その回転により天使が手にする大剣の重みを増させ、きりつかれるたびに羽津姫の風車手裏剣にのしかかってくる。

「だけど、この程度じゃ、私はまいらないよ」

 それでも幸運体質かKIAIの仕様か、巨大手裏剣は傷一つつかずに、天使の太刀を受け止め続ける。

 互いの神音で強化されている付属武器を振るい、激しく打ち合い、火花を散らさせる。

 打ち合いは、お互い一歩も譲らず繰り返されている。

 いや、一歩も譲らないというのは少し御幣がある。

 羽津姫はもともと打ち合う気はまったくない。ただ、目の前の天使の様子を観察しているだけだ。相手の出方を見極めようとし、相手の弱点を、隙を根気よく探っている。

「くっ、なんて強固な……。しかし、私はザンギス様のため、負けるわけにはいかないのです!」

 うなる剛剣。

 オラクルの言うことは立派だ。

 しかし、焦りで、剣さばきが雑になっていく。

 どうやら天使がまともにやりあったのはおそらく羽津姫が初めてだからだろう。この雑な動きは、いままで同じ力量の相手と戦ったことがなかったからに違いない。

 それに戦いに慣れていない……それについては神音を鳴らしていたころから感じていた。歴戦のワルキューレであったなら、天の裁きを《ジュージュモン・セレスト》の特性と欠点を把握していないわけがない。

 たしかにファナティックスーツを装着しているので、力押しだけでも十分強い。大概の敵は圧倒できる。

 羽津姫とてKIAIのオーラがなかったら、まず一撃を受け止めきれずに吹き飛ばされるか、切り倒されていたはずだ。

 現に、風車手裏剣を握る手がビリビリとしびれてきている。

(この程度にすんでいる私も十分化け物みたいなものだけど。戦ってわかった。オラクルの動きは素人。そして、ワルキューレとしての力量は私と同じまっさらな新人と見て間違いない)

 先に出会ったワルキューレだというホッシーは、風魔グリーンの正体が羽津姫のことを知っている。時間移動しているのだから、時間系列に誤差が生じているのは当たり前の感覚で、人懐っこい大型犬のようについてきている。

 そして、何より、羽津姫のことを緑のワルキューレとは言わなかった。

(本当に私は運がいいのね……)

 ただ、同じ初心者であっても、度胸があって、喧嘩慣れをしていて、適切なアドバイスがもらえる羽津姫のほうが優位だ。

 オラクルには残念でどじっこ属性持ちであるようだが、その心意気は、見た目どおりの高潔さがある。

(私にとっては、サンギスってやつは村一つつぶしてまで翼人や三つ目族の兄弟を手にしようとした、極悪非道な人物としか思えないけど……)

 ガキィイイイン!

 オラクルはまた大きく振りかぶって、切り込んできた。

 しかし、勢いだけ。いのししが突っ込んでくるような単純な動作しかしていないものだから、風車手裏剣を盾代わりにしている羽津姫には当たらない。

 剣筋が確かなだけに、非常に残念である。

「ザンギス様は、孤児だった僕を引き取り、ここまで育ててくださった方なのです! ザンギス様のためならば、この命惜しくはない!」

 ギリギリギリギリ……。

 剣の威圧が増加させていくのを風車手裏剣越しで感じる。

 どうやら晴天の聖歌は天使の想いに応えるように、放出している神音のエネルギーを加速させ倍増させ、剣の調べの力を高めているようだ。

 このまま高まれば、たとえ剣先を防御でしのいでも、無事では済まされないぐらいの破壊力になる。

(だが、貫通ダメージは受けてもらうって、ことか)

 直撃が当たらないなら、その余波で羽津姫を潰しにかかる気か。

 緑色のマスクに隠されている額から汗が流れた。

「恩人だから、あなたは彼の命じるままにここに来て、私と対峙しているというわけか」

「そうです!」

「よくわかった。あなたの義が。だが……」

 羽津姫は、左足に大きく力を込め、腰を大きく捻り、反動をつけてオラクルの剣を押し上げる。

「!」

 あまりの勢いに、オラクルはよろける。

 その隙を突いて、羽津姫は、間合いを取るために、右足で地面を蹴り、後ろへと跳躍。手裏剣を打ちつけるのには絶好のポイントへと移動する。

(よし、今ならあの技が通用しそうだ)

 まだバランスを崩し、足元がおぼつかない天使は無防備だ。

 羽津姫は好機を逃すまいと、KIAIのオーラを高める。

「私は、オラクル、あなたのような恩義を重んじる人を敵にまわしても、ザンギスと戦う決意をした!」

 風車手裏剣を大きく振りかぶって、天使に向けて打つ。

「なっ!」

 キンッ。

 剣の調べの神音と彼自身の腕力により、風車手裏剣は弾かれる。

 ほとんど、条件反射だったのだろう。一難を去らせた天使自身驚いている。

 だが、一息つく余裕なんか与えない。

 ビュビュビュ!

 強大な手裏剣の影から、雷神の加護を受けている小型手裏剣が飛び出てきた。

「残念、こっちが本命」

 羽津姫は二段構えで手裏剣を打っていた。

 やり過ごせたと安堵したその隙を狙っていたのだ。KIAIのオーラによって現出する電流のオリは天使を囲い込み、風魔グリーンの必殺技の掛け声を待つ。

「風魔忍術・雷神十字手裏剣!」

 バリバリバリバリバリィィイイイ!

 黄色と黒のコントラストが碧眼の前で激しく点滅する。

「うわぁあぁあぁぁあああ!」

 晴天の聖歌の防御力をもってしてでも、この高圧電流からは逃れられない。

 白銀の鎧の一部が焦げ落ち、四散。焼き切れた箇所はボロボロと崩れ落ち、

「……申し訳、ありません……ザンギス様……」

 どこか香ばしいにおいと音とともに、扇情的な姿になった天使はひざをつき、ドサッと大きな音を立てて地面へと倒れこんだ。

 オラクル、昏倒。

 羽津姫の勝利だった。


 戦いが終わり、周辺は虫の鳴き声が聞こえるまでの静寂と戻った。

 そんな中で勝者は、地面に伏した敗者の処遇をどうすべきか、悩んでいた。

「さぁ、ここで上の宙ぶらりんとともに、仲良くお縄についてもらおうかしら」

 羽津姫はオラクルをザンギスに忠誠心をもっているからという理由で、ぐるぐる巻きにして森に放置しようとしている。

 オラクルについては共感もある。同情する。だが、囚われているファラウラを解放し、あの兄弟たちと妹を再会させてあげたいという譲れない思いがある限り、敵対したものとして、責をとろう。

 事件が終わった後、オラクルをはじめとするザンギスに忠誠を持つものは、緑のワルキューレである羽津姫のことを存分にののしって、恨んでもかまわない。

 その覚悟は、戦うと決めたときからできているからだ。

「ごめんね、オラクル」

 畏敬の念は忘れない。

「さぁってと、ホッシー……」

 羽津姫は電撃により、プスプスと音を立てて倒れているオラクルを目視しながら、星型のビットを手招きする。

 ホッシーにオラクルを縛り上げるためのロープの追加を頼もうとした、そのときだった。

「少々予定とは違うが、まぁいい。オラクル、お前はもう用済み……」

 低い声だった。

 どす黒い気配がすると第六感が、羽津姫にささやく。

 先手必勝と。

「ていや!」

 十字手裏剣を出現させ、声がするほうに迷わず打ったのは当然だった。

「っなぬ!」

 間いれずに攻撃に転じてくるとは、思ってもみなかったのだろう。電撃が周辺を駆け巡り、しびれさせる。

「うぎゃぁあああ!」

 ボム!

 手裏剣が刺さった場所から飛び出てきたのは、おそらく電撃で焼け焦げて、黒くなった箱。

 上手に焼きすぎたか?

「ん~、感じが悪くて、思わず反射的に攻撃してしまったけど……」

 羽津姫は、とりあえず箱を拾い上げる。

「これは、何? 遺産?」

「むむむ。ミーもそう思うけど、これだけブレイクしちゃっていると、アナリストするのに大変ね」

「私的に気になるのは何か不吉な感じがしたことなのだけど……。まぁ、いいや。戦いの最中に横入りするのが、悪いってことで」

 こんがりと上手に焼けてしまった遺産を、この辺に転がし、

「ホッシー、ロープ頂戴」

 何事もなかったかのように羽津姫は、ホッシーに催促するのだった。

 ロープが届くと、オラクルを、クモの巣の仲間にしようと技をかけようとポーズをとろうとする。


「待て、小田原羽津姫!」

 いきなり誰かが、羽津姫の名を叫ぶ。ホッシーとは違う声だ。だけど、どこかで聞いたような声。

「ん、誰?」

 羽津姫の名を知っているということは少なくとも知り合いのはず。だから、羽津姫は声のいうとおりに待つことにした。

「俺の名はイワン。イワン・サトゥールンだ。小田原羽津姫!」

 ガサガサと藪を掻き分けて現れたのは、羽津姫の幼馴染であるイワンだった。

 全身が着ぐるみではなく、黒い円柱のようなマント覆われていること以外は、イベント会場のアルバイトで休憩していたころと、まったく変わっていない。

「え!」

 会うことない過去の世界だというのに、氷の彫刻のように透き通る美しさをもつ幼馴染がいることに、羽津姫は驚く。

「あ、久しぶり~、イワン。鎮星の絆も、よくセフティ~だったね~☆」

 星型ビットはイワンの周りをくるくる回って、能天気にカンラカンラと軽くつつく。

「無事か。その辺はちょっと語弊があるが……」

 どうやら、イワンとホッシーの間に何らかしらの関係があるようだが、今は詳しく語る時間はない。

「……まぁ、いい。それよりも、だ、小田原羽津姫。オラクルをクモの巣でつるさないでくれ」

「イワンがそういうなら……」

 羽津姫はイワンとの長年の付き合いから、何か考えがあるのだろうと、応じる。

「それにしても、絶対フォーチュンを飲み込んだとはいえ……」

 イワンは転がっていた黒ずみに箱を拾い上げる。

「サーチアンドデストロイかよ。小田原羽津姫は、敵泣かせの攻撃をピンポイントで攻めるよな。強運とはいえ、納得いかねぇ」

 不条理なことで眉間に皺を寄せる姿は、イワンそのものであるが、違和感がある。

「あのさ、イワン……さっきからフルネームで言ってくるけど、堅苦しいから、いつもどおりにしてくれない」

 気配がしたからといって、とっさに黒い影に十字手裏剣を打ったからか。警戒して、羽津姫のフルネームを呼びつつ接近してきたのだろう。

 が、済んだことなので、もう名前だけでいいはずだ。

「……いつもどおり、だと?」

 イワンは怪訝そうにさらに眉間に皺を寄せるが、

「あ、もしかして、俺、小田原羽津姫の幼馴染になっているってことか」

 思い当たることがあるという顔をする。

「もしかしてって、何で?」

「フィ~リングしている時間軸がデファーなワルキューレ同士には、よくある見解の違いだよ。うん、ワルキューレだから」

「……説得、はいっている」

 ホッシーのいうこともわかる。羽津姫が思っている疑問に対して、今、答えを求めても、理解しづらいから、無意味だと、論じているのだ。

「ワルキューレならよくあることってことね」

「うん。まぁ、今のところは、ね☆ 詳しくは羽津姫視点の『現代』にリターンしてから、きっちりとクエッション・クローザーしたほうがナイスよ。ね、イワン☆」

 飄々とした態度を崩さない星型ビット。

 徹底したお調子者のキャラクターでい続けるホッシーの裏腹が気になるが、これもまたワルキューレならよくあることなのかもしれない。

 羽津姫はよくあることって言葉の使い勝手のよさをしみじみと感じた。

「ん、スタービット君を使っての通信をしているってことは、お前はこの場にはいないのか?」

 イワンはホッシーがこの場に姿を現していないことに気がついた。

「イエス。今はヒュッテ(山小屋)で、サクルとネムルをガード、ナウ~☆」

「……丁度いい。お前本体はキレスタール兄弟といろ。羽津姫と俺はこのまま一気にザンギスの要塞につっこむ」

「ヒュ~、アクセレレーションだね~☆」

「ちょっと、大丈夫?」

「安心しろ、羽津姫。すでに計画は練ってある。むしろ、早急にファラウラ救出しに、現場にこのまま直行しないとやばい」

「まぁ、イワンがそういうなら、やってやろうじゃない」

 羽津姫は風車手裏剣を背負い、軽く足首を回す。

「む~☆ なんか、羽津姫、イワンのことすぅ~ごぉくリライアンスしてない?」

「そりゃ、イワンは幼馴染だし。頭の回転の速さは身をもって知っているからね」

 羽津姫は、かつて『ばんちょう』という遊びの中で、イワンの機転に何度も助けられたてきたからだ。

「なんか、ジェラシ~」

 ホッシーはぶぅっと頬を膨らませたような声を出し、嫉妬をあらわにする。

「私はホッシーに出会ったばかりなのだから、そこらへんは仕方がないでしょ」

「……」

 イワンのほうは羽津姫に無条件に信頼されているという状況に、くすぐったい思いをしているようで、白い猫耳をピクピクと震わせている。

「ぷ」

 羽津姫としては見慣れたツンデレ幼馴染の態度なだけにほほえましい笑いが止まらない。

「で、その箱拾い上げていたけど、何かあるの?」

 羽津姫が捨てた箱をわざわざ拾い上げた、イワン。

「この箱の能力は使えるから、持ち帰っておきたい。さってと……」

 イワンは両肩を包み込めるぐらいの大きさの黒いマントの円状の装飾品に触れ、ファナティックスーツ鎮星の絆を披露する。

「望みの領域オーブラスチ・ジェラーニャ!」

 円柱マントだったものは、幾層もある大きな輪へと変わる。

リョート!」

 外層にある輪が真下にゆるりと降りていく。イワンの足元にたどり着くと、円の内側を氷結。氷点下の銀色のリングの上に装着者を立たせる。

 よく見るとイワンは黒いスケート靴を履いている。ノアールを主色にした長ズボンやチョッキのような上着には、ところどころに光沢のある生地やスパンコールでできた刺繍みたいなものが施され、極域の宙に揺れるオーロラのようにキラキラと幻想的な光を放つ。猫族特有の猫耳と服の隙間から出ている尻尾は愛らしくも凛々しく見える。

 羽津姫と違い、ワルキューレらしく、襟元のポーラタイには、雪の結晶の形をしたクリスタルが輝いていた。

「で、どうしてごついフラフープつきのフィギュアスケートの選手になるの?」

 腰やおなかの筋肉を鍛える有酸素運動をしそうな氷上のプリンスな幼馴染に、一言。

「そう言うな、羽津姫。俺も、鎮星の絆がこんな形態なのか、気になるところだが、作ったやつらはもうこの世にはいねぇから聞けねぇ」

 動作確認をしているのか、カツンカツンとリングからできた氷の地面を軽く蹴りつつ、イワンは答える。

「ファナティックスーツのほとんどはイロモノ大道芸人の衣装みたいなものだから、気にするな。宇宙は広い」

 コスチュームの形態に関してはこれ以上突っ込んでも意味がないようだ。

「行くぜ、死の欲動!」

 鎮星の絆の付属武器と思われる巨大フラフープ──死の欲動が、氷が割れるような透き通った神音を鳴らし、イワンの音声に沿って、起動しだす。

「氷のリョート・ダローガ!」

 リングの動きと同時に、イワンの脚もすばやく動く。

 リングが通った場所は、空に散布されている水分をかき集め、一瞬で凍らせているのだろう。

 脚の動きに合わせて、氷の道を作り出す。

「羽津姫、すぐ俺の後ろについて来い!」

 これでザンギスのいる場所まで続く一本道を作り出す気なのだ。

 ただし、リングとともに駆け抜けた氷の道は数秒経つと、溶け出し、水となって地面へと流れ落ちている。

 素早く彼の後を追っていかなければならないようだ。

「わかった、とお!」

 ならば、うってつけの技がある。

「風魔忍術・疾風追尾走しっぷうついびそう!」

 風魔グリーンの必殺技の一つで、標的にくっつくように追いかける技である。劇中では、車やバイクなどで、逃走した敵や、目的の場所を教える味方を追うときに使われている。

 羽津姫はその技を使い、イワンの作り出す氷の道が融解される前に駆ける。

「わぁ、スタービット君も忘れずに~~~!」

 ホッシーの星型ビットも続く。といっても、これらはもともと空中に浮かんでいる存在なので、羽津姫やイワンさえ見失わなければ、余裕で追いつける。

 ワルキューレたちは夜空の空中アイススケートという幻想的な演目に興じながら、中世の要塞へと突っ走っていったのだった。



☆☆☆☆★☆☆☆☆



 同じころ──ザンギスの要塞、客間。

 突然遺産が使えなくなるという事態に、城内のもののほとんどが慌てふためいている。

 それを他人事のように、三つ目族の少女は鉄格子で覆われた窓から覗き込んだ。

 地下牢ではないのは、少女はまやかしの宝玉を奪われ、三つ目族という神秘性の高いレア種族が浮き彫りになっているからだ。三つ目族に直接危害を加えると呪われるというジンクスを信じているものが上層部にはいるようだ。

 連れ去られてから、妙に待遇がいいのはそのためだろう。

 だが、そんなことで住んでいた村を焼き払われた少女の心が晴れることはない。少女の目は常に哀しみが帯び、伏せられている。

 そうこの少女こそがファラウラだ。

 ネムルと血のつながった姉ゆえに、顔立ちがよく似ている。

 囚われた三つ目族の末路は、なんらかしらの調節を受け、遺産を操作する道具として愛でられるのが常だ。重宝させられるのは確かだが、人格や個性をすべて否定され、ただただ至高の品として上層階級に愛玩させられるのだ。

 心ある、血の通った人として扱われることがない境遇に、理不尽だと考えられずにはいられない。だが、その心がいつまで保てるのだろうか。

 それに助けが来てくれるとは思えなかった。

 なんとなくであるが、ファラウラはペリセウル村で生き残ったのは自分たち、村長の子供たちしかいないと感づいていた。

 なぜなら、兵士たちが勲章代わりと、村人たちが身に着けている村特製のブレスレットを奪い取り、見せびらかしているのを見てしまったのだ。

「私が、三つ目族であったために……ごめんなさい……」

 三つ目族としての特徴である額の目からも涙がこぼれ落ちる。

 村特製のブレスレットはまやかしの宝玉に似せて作られている。

 村に三つ目族の子が生まれるのは稀ではなかったからだ。親が両方、人であっても隔世遺伝で三つ目族となるものもいる。ファラウラとネムルはまさにそれだった。

 三つ目族の子供たちを隠すために、まやかしの宝玉に似せたブレスレットを村人全員が身に着け、欺いてきたのだ。

 だが、このザンギスの目はごまかせなかった。そのせいで村を滅亡に追い込んでしまったのだ。

「みんな……」

 夕飯のおかず一品をおすそ分けしてくれた親切なおばさんも、大工仕事が得意で何でも作ってくれたおじさんも、村の祭りのとき笑いあっていた人々もすべてすべて、奪われてしまった。

「お父さん……」

 ファラウラは、村長である父のために作った、不器用な形のブレスレットが血まみれになっているのを見て、目の前が真っ暗になった。

 そして、そこで記憶が途切れている。

 頭が少しズキズキするところから、殴られたか、それとも薬を使われたか。

 どちらにしろ、ここに運ばれ、閉じ込められたという非情な現実と比べれば些細なことだ。

「うぅ、うう……」

 ファラウラ一人、この部屋に取り残されているのは、遺産が動かなくなるという緊急事態が発生したから。

 将軍であるザンギスは対応に追われる。

 ドアの向こうに数名の兵士を見張らせるぐらいしかしていない。

 が、村の娘として平凡に生きてきたファラウラにしてみれば、十分脅威である。

途方にくれたショクルはさらに窓に近づき、視線を上に向け夜空を見上げる。星の輝きはどんなに辛いことがあろうともまったく変わっていなかった。

「……お兄ちゃん……ネムル……」

 ファラウラは自分たちが仲よく星を見渡したことを思い出す。

 穏やかな平和を享受し、それが続くと思っていたあの頃。三人で見た流星群はキラキラと輝いていてどんな願いさえも叶えてしまいそうだった。

「そういえば、あの日、ネムルが隣で眠りこけて……私はお兄ちゃんに告白されたわね……」

 あの日は最高の日であった。

 お兄ちゃんのことを、兄としてではなく男として意識したのはいつだったか詳しくは覚えていないが、とても自然なことだった気がする。もともと血がつながっていないことはわかっていたし、お兄ちゃんさえ望んでいればいつだって私はいいよ……と根拠なく考えていたのもある。

 でも、お兄ちゃんはよく異性に言い寄られていたのだから、気が気ではなかった。

 焦りもあった。しかし、もし、サクルに妹としか見られていなかったと思うと、その関係さえ壊れることを恐れもした。

 そんな不安を拭い去り、背中を押したのは、流れ星だった。

 あの日、ファラウラは三回早口でサクルとの恋愛成授を祈った。

 言い切った後、さっそく告白された。星々が降り注ぐ素敵な夜だったのも功を奏したのか、ファラウラはすぐにうなずき、愛を誓い合った。

 父も賛成してくれた。

 後は適正期が来るまでだったのだが……悲劇は起きてしまった。

「フフ。なんで、かな。楽しい思い出を思い出すかしら……」

 ファラウラ自傷気味に笑うが、このときまでは、の話である。

 今、羽津姫を始めとしたワルキューレたちの時間干渉により、本来の歴史から、大きく異なっている。

 風魔グリーンの活躍によって、兄弟はザンギスによって組織された捕縛部隊の魔の手から逃れたため、時空が大きくゆがみだした。

 因果律の破れが発生したのだ。

 この現象は、本来の歴史に沿うように修復させるために、強大なエネルギーが世界に流れ込むことをさす。

 力によって起こる脅威を押さえ込むことは出来ない。が、強大な力といえ、それは意思のないもの。善意もなければ悪意もない力はうまく利用すれば、真の勝利者に優しい歴史に変え

ることは出来る。

 イワンが急いでザンギスのいる要塞に向かうのは、そこが脅威の出現場所であり、要救出者がいるからだ。

 本番はこれからなのだ。

 歴史を変えないように動きだした力は、ザンギスの要塞に眠る、狂気に照らしあわされる。

☆☆★☆☆


 ──同地、礼拝堂。

 長い蔦が蛇のように絡み合った彫刻の施された重い木の扉を入り口に、伝統的なドーム型天井を有している。

 暗い室内には香油と香炉のかおりが漂い、ステンドグラス越しに月明かりが差し込み、広間の床に薄く淡く、色とりどりの光を投げかけていた。

 内陣障壁の向こうにある説教壇と祭壇に向かって、信者が座るベンチが並ぶ。其れを左右から取り囲む、悪魔や天使の彫刻が施されたアーチ──宗教的観点、美術的価値を鑑みれば、これだけのものを集めるには手間も隙も、もちろん資金もあったに違いない。

 さらに礼拝堂内には、純白のカズラにミトラ、金の豪華な刺繍を施したストラを首から胸に垂らした、この地に派遣されて数年という司教に、黒いぴったりとした神父服の男たちもいる。

 この場を見る限りでも、国境近くを陣取るザンギス将軍の国内での地位と人望は、相当のものだと思い知らされる。

 天使のようなワルキューレであるオラクルが、側に付き従っていることも要因であろう。

 だが、因果律の破れによって、この時代、この場所に乗り込んできた闇は、この場の威光を払拭してしまうぐらい残忍だった。

 キュウウゥゥウウン……・

 十字架を掲げる祭壇のすぐ上にある、ファナティックスーツ、永久水晶とわすいしょうがひとりでに神音を鳴らしだしたことから、始まりだった。

 ワルキューレが奏でる神音は、すべて、精神を揺さぶるような激しく美しい音色なのだが、永久水晶はその中でももっとも、神秘的で高貴な音とされている。

 遺産キャパシティの高い、三つ目族にしか扱うことが出来ないとされる、古代遺産。

 ザンギスはこれを扱うために、三つ目族を捕らえ、魔眼処置を行い自在に使いこなそうとしていたのだ。

 現時点、装着候補者はホッシーの妨害電波発生ジャミングにより、魔眼処置を行えず、部屋に軟禁という形で待機しているはず。

 なのに、永久水晶はメモリー形態を解除し、スーツ形態へと移行。

 装着者がいないというのに起動しだした。

 本来、永久水晶は、名の由来どおり、水晶の純粋な白い光を反射して、強いヒーリングエネルギーを作り出し、すべてを浄化し、清める能力を有する。

 だが、嘆きにまみれた三つ目族の第三の目の涙に、永久水晶は鼓動してしまった。

 純粋な白い光は、失意に満ちた絶望の漆黒へと変わり、呪いを呼び込もうとしている。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ。

 永久水晶は重々しい神音を鳴らしながら、起きるはずだった歴史を変えてしまった殺された未来に呼びかける。

 ガァアアアァ!

 己を消し去った現在に復讐しようするありえた未来は、邪悪な特異点となった永久水晶の誘いに乗り、飛びつくように、入り込んでくる。

 ビジャッ、ガァア!

 現在の狂気と未来の狂気が混ざり合う。

 呪がすべて収まりきり、闇の鼓動にそって、永久水晶はリビングデッドのように、ゆらりと動き、

「わぁぁあああああ!」

「きゃー!」

 この場に立ち会うことになってしまった者たちに恐怖と混乱を与えた。

「……お兄ちゃん、ネムル……」

 ドロドロとした気色の悪いオーラを放つ永久水晶から、兄弟たちの無事を星に祈る少女と同じ音声が出る。

 だが、この異常現象がなぜ起こってしまったのか知っているものは、この場にはいない。異様な遺産に、人々は悲鳴を上げるしかなかった……。


☆☆★☆☆


 再び──ザンギスの要塞、客間(軟禁場所)。

「あ、流れ星……」

 ファラウラの目に小さく、しかしはっきりと光る点が見えた。彼女は慌てて手を組むと、急いで願い事を口にした。星が消える前に三回願い事を言わないといけないのだ。

「お兄ちゃんとネムルが無事でありますように、お兄ちゃんとネムルが無事でありますように、お兄ちゃんとネムルが……」

 願い事の言っている最中に、彼女の前でエメラルド色の星とピカピカ光る星がだんだん大きくなっていく。

「そろそろ、リーチだよ、風魔グリーンって……」

「うわ、滑ったぁああああ!」

「あと少しで外れるのか! ……っはぁ?」

 猛スピードで先行する白くて透明な光の道からエメラルドがコースアウトすると、ガラガラドッシャ~ンと、派手な音を立てて、ファラウラのすぐ隣の窓に激突。

 背中に十字の大きな物体を背負い込む、緑色の面妖な人物が、客間に転がり込んできた。

「あ、あなたは……」

 ファラウラは困惑している。

 流れ星だと思っていたのが、実は人で……いや、ただの人ではない。ただの人が、空を駆け、飛び込んでくるわけがないのだ。

 ダイナミック不法侵入者は顔をマスクで隠し、近くには星型の物体を宙に浮かせている。

 何より気になるのは、緑。

 強きをくじき、弱きを助く、ワルキューレの中でも庶民に愛される存在。

「もしかして……緑のワルキューレ」

 流れ星ではなかったが、流星のように希望の星を携えた幸運の使者が現れた。

「痛たぁ~。何が幸運なの! 危うく三途の川を渡るところだったって……あれ?」

 ファナティックスーツを身に着けていなかったら、死んでいるところだったのでは、と思うぐらいの衝撃を受けた、羽津姫。

 痛みで、悶えることになったので、幸運について小一時間問う気があったが、少女の声にはっとする。

 声をするほう向くと、すぐ目の前に、三つ目族のファラウラがいたので、少し固まった。

 写真で見たそのままの美少女だ。動いているので、魅力がアップしている。

(また、緑っていわれた……もういいや、それで、うん)

 羽津姫としては風魔グリーンと呼ばれたいのだが、世間一般には、緑のワルキューレとしての認知されているのならば、仕方がない。

 風魔グリーンと声援を送ってもらうのは、元の時代に戻ったら、の楽しみにしておこう。

 羽津姫は訂正をほぼあきらめた。

(いや、そんなことは後回しでいいじゃないか)

 あっさりと見つかった今回の最重要目的に、幸運を感じるよりも先に戸惑ったので、反応が遅れてしまった。

 羽津姫は気持ちを切り替えるために咳払いをして、改めて問う。

「ファラウラ……ネムルのお姉さんの……で、いいよね?」

 羽津姫の質問にファラウラは首を縦に振る。

 人探しは実にあっけない結末となったのだった。

「早速、見つかったな」

 軌道修正して、羽津姫がぶち抜けた場所からイワンも客間へと入り込む。

「さっすが、風魔グリーン! ズバット解決だね☆」

「……あ、うん……」

 幼馴染とホッシーに賞賛されているのだが、幸運によるご都合主義に喜んでいいのか、羽津姫はどうも釈然としない。便秘三日目ぐらいの気分だ。

「じゃ、ネクスト、いってみよ~☆」

 ホッシーのこの掛け声で、羽津姫の脳のモヤモヤ感が一瞬にてクリアになった。ウコンの力を絶賛する人たち並みの驚きだ。

「え、次ってあるの!」

「モッチモッチロンロォ~ンだよ、風魔グリーン。だって、ミーたち、フィーチャーをチェンジしたからね~。殺された未来が今から襲い掛かってくるよ! B級ホラー映画みたいに、ドッキドッキのドロロロォ~ンって感じに☆」

 コミカルにいうくせに、なぜだろう、不安しかない。

 とくに、B級ホラー映画というところが。

「ホッシーのいうことは、大体あっている」

 イワンは神妙な顔つきで、右手で、足元の氷のリングを触り、

「形成せよ《フォールマ》、セールプ!」

 氷の鎌を取り寄せる。

「さらに、望みの領域オーブラスチ・ジェラーニャ!」

 リングの一番外側にある層だけ、巨大化。室内いっぱいに広がった。

吹雪メチェーリ!」

 掛け声とともに取り寄せた鎌を大きく振り回す。

 大気と風の摩擦により、凍てつくような残酷なほどに冷たくも美しい神音をリング内いっぱいに鳴り響かせる。

 同時に引き起こるのは遺産による、超常現象。

 演奏者を中心に、猛吹雪が舞う!

「ぷっ、どうして、イワン」

 羽津姫は一瞬にて氷の世界に変わった客間に驚かずにはいられない。

 だが、よくよく見れば、リング外は至って正常の世界である。どうやら、死の欲動の層は伸縮自在で、リング内を氷の世界にする能力があるようだ。

「わぉお。いきなりフィールドを自分に優位になるように持ってきたね~☆」

「そりゃ、そうさ。ホッシー本体はいねぇし、はづ……いや、風魔グリーンは持ち前の幸運があるから、これぐらい、お前らにとってはリスクにならねぇ」

 羽津姫が緑のワルキューレとしてこの場に参上しているときは、仲間はみな、本名ではなく風魔グリーンというリングネームのほうを言うようだ。

 戦いの場だと言い聞かせるように。

 気分を引き締めさせるように。

「むしろ、これからやってくる、ファナティックスーツ、永久水晶の動きを鈍らせるためにも、これぐらいのことやらねぇと、ファラウラを守りきれる自信がねぇ。防衛戦では、俺の能力は本領を発揮できねぇんだからな」

 イワンはヒヤシンスブルーの髪をガシガシとかきながら、ぶっきらぼうに氷点下の世界をフィールド指定にした理由を話し出す。

「気温を下げたわけはそれだけでねぇ、ホッシー。いますぐおまえの便利機能を使え」

「ミーの?」

「ああ。この要塞は古代遺跡をベースにしている。内装はザンギス将軍によって施されているが、遺産自体の形状はそのままだ。おまえのハッキング機能を駆使して、こちらが優位になるように、全面改装しろ」

「イエッサー。ミーの匠の腕をお見せしマース……あ」

 星型ビット一体が床に降りるとテクノミュージックのような神音を奏でるが、タラリと汗のようなものを浮かばせる。

「互換性がないデース」

 要塞はホッシーとは異なる機種だった。

「あ、でもミーにまぁーかせて。ゴウー、スタービット君・愛! 君の基板のターンデース!」

「ええぇえ!」

 星型ビットをめり込ませて、ホッシーは高らかに宣言する。

「互換性がなければ、互換性をつければいいデース。基板を入れて、プログラムを組め! プログラマーの常識デース☆」

「何、その、レベルを上げて物理で殴れ、的な発想は!」

「ハーハハハ、大体あってマース!」

 プログラム対応だけで終わるタイプだったらしい。

 魔王のように高笑いするホッシー。本体は山小屋で要塞制御プログラム製作、受信機に送ってくる。

 受け取った星型ビットはよくわからない数字と記号の羅列を浮かび上がらせると、めり込ませた『愛』に放射。

 送られた電子プログラムを瞬く間に要塞のメインプログラムに叩き込む。

「ふぅ。コレで、この要塞はミーの思い通りにムーブするゾ。いや~、外装はあちこち手を施されてマシたが、メインプログラムには何も手を加えられていなかったのがラッキーだったネ☆」

 制圧完了。

「これで、この要塞の機能が敵に乗っ取られるというケースはなくなったな。あとは俺たちで、永久水晶迎えうつだけだ」

「ファラウラを守るのは賛成。だけど、敵が来るのはわかっているのに、逃げないのは少し変じゃない?」

 ある程度理由はわかったが、急ごしらえで、ここを布陣にするのも変である。

「あ~、永久水晶が狙うのはファラウラ、ただ一人だからだよ。理由は歴史を元に戻すために、な」

「歴史を元に戻すって?」

「ファラウラには、残酷な未来だろうが、よく聞けよ。本来なら、ファラウラは魔眼処置を施され、永久水晶の装着者になる。なんやかんやで晴天の聖歌によって、起動停止に追い込まれるまで殺戮の人形としてボロクソになるまで酷使させられる、というシナリオだった」

「うわ……何その、悲惨な未来」

 羽津姫はどん引きした。

 わざわざ【本来】といっていたことから、起きていたのだろう。

 しかし、羽津姫やホッシーの介入により、歴史に変わろうとしている。それにより時空に大きなゆがみを引き起こし、永久水晶が殺された歴史の影響を受け、暴走しだした。

 それを解消するには、永久水晶がファラウラを取り込み、歴史を本来のものへと戻すか、それとも……。

「で、そんな未来を受け入れられるわけねぇだろ。なら、永久水晶を止めねぇと、な」

「そうね、イワン」

 羽津姫は山小屋に残した兄弟の顔を思い浮かばせた。

 生まれ育った村を壊滅させられ、姉が操られる。そんな未来をあの兄弟に歩ませるなんて、間違っている。

 絶対そんなの許してなるものか。全力で違う未来作ってみせると羽津姫の闘志が、湧き上がった。

「で、具体的にどうすればいいの?」

「ファラウラを取り込まれる前に永久水晶をブレイクさせる、イージーなお仕事だよ☆」

「うん。聞くだけなら簡単だね、ホッシー」

 殺された未来に引導を渡すしかない。

 結局それかい、と武の道を選んだものの宿命を受け入れ、ワルキューレたちはファラウラ防衛戦をすることになったのだ。

「永久水晶か。水晶というから、水晶を操作する占い師か」

 三つ目族のワルキューレで水晶といえば、占い師しかいない。

「半分はあっている」

「半分だけ?」

「ああ。サブカルチャーで有名な方とは別人だからな」

「別人って、ワルキューレってコロコロ代わるのか!」

 羽津姫はてっきり一代限りだと思っていた。

「たしかにワルキューレのメンバーに変更はない。しかし、メモリーに適合し、装着者となるのは何もワルキューレだけとは限ねぇんだよ」

「へ?」

「俺たちをワルキューレと名付けた博士がいる」

 脈絡もなく話がすげ変わったような気がするが、イワンの目が鋭くなっていることから、今は黙って聞いたほうがいいと羽津姫の勘は訴えた。

「うん」

「ワルキューレとは名付け親の博士の元に集ったメモリーの適合者であり、博士の思想に共感した者たちだけを指す」

「へ~。じゃぁファナティックスーツを装着すれば自動的にワルキューレになるわけじゃないのね」

 羽津姫は軽くカルチャーショックを受けた。

「風魔グリーンとホッシーは近い将来博士に絶対会うから。だいたい時間跳躍しているから、起点がどこかといわれても、わけわかんねぇんだよ」

「あぁ~……そうだよね。時間跳躍しているなら、誰が始まりかわからないよね……」

「しかしこのままじゃ不便なので、おれたちは博士を基準点においたわけだ」

「つまり……『君メモリーの適合者だね』と博士が言ったその日はワルキューレ記念日、なのね」

「サラダ記念日みたいだな。……実際そうだけど」

 卵が先か、鶏が先か。わからないが、強いていうなら、といったところか。

「博士は遺産によって引き起こされる悲劇的な結末を変えたくて、遺産に詳しくなったおせっかいさんだ。が、気がいいやつだぜ。兄様や姉様の中には博士によって救われたやつもいるぐらいだしな。永久水晶を巡るこのたびの悲劇を止めるように俺に命じたのも博士だしな」

「兄様? 姉様?」

「ああ。疑似的な兄弟関係だ。もちろん博士と出会った順から番号をふっている」

「そこは芸能システムなの。ん、私のことを姉様と呼ばないことから、もしかして私はイワンより下の番号になる定めなの?」

 特に気にならないが、なんとなく決まっていると、なぜだろう。もやもやするものがある。

「ん、姉様と呼ばれたかったのか、風魔グリーン」

「ん~。姉様か……イワンにね~」

 幼馴染に呼ばれてもあんまりうれしくない気がする。

「やっぱり風魔グリーンのほうがいいわ。番号が下だろうが、私がワルキューレになるのは決定事項なら覆されないものに、ネチネチと考えても仕方がないし。うん、気にしないことにしよう。宇宙は広い」

「ミーは風魔グリーンのすぐ下の番号がいいデース!」

 少し話を脱線したが、これから襲い掛かってくる永久水晶はワルキューレとは別人だということはわかったのだった。



各キャラのベーシックは、以下のとおりです。

羽津姫は日本語。

ホッシーは英語。

オラクルはフランス語。

イワンはロシア語。

なお、幻想世界11ヶ国語ネーミング辞典(笠倉出版社 ISBN978-4-7730-8554-9)を片手に、翻訳サイトをめぐった末に必殺技ができました。ゆえに、解釈によっては間違っている可能性も否定できません。が、そこはご愛嬌で、お願いします。

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