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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
偶像崇拝
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01 プロローグ

 キャットミント・ネペタ。愛称ミント。

 盗賊課専攻のジュニアクラス1。


 身体能力が非常に高く、単純な実技能力ではランカークラスを凌駕する。

 ただし、複雑な実技と筆記試験は一切対応できない。


 読み書きができず、授業もほとんど聞いていない。

 シロが絵本を使って楽しませながら読み書きを身につけさせようとしているようだが、成果はあがっていない。


 ポニーテールの髪留めはマジックアイテム。その影響でポニーテールが猫の尻尾のように、本人の感情を反映して動く。


 シロミミ・ナグサ。愛称シロ。

 僧侶課専攻のミドルクラス2。


 パーティ内では最も年上だが、気が弱く引っ込み思案なので一番頼りない。

 ミントとは逆で実技は苦手だが、筆記試験では優秀な成績をおさめている。


 頭は良いと思われるが、人を疑うことを知らない純真な性格。

 人に奉仕することを喜びとしているようなので他人にそれにつけこまれないようフォローする必要あり。


 回復魔法はかなり優秀だが実戦に弱く、想定外の事態への対応能力は低い。

 また回復魔法以外の戦闘関連技能は皆無に近い。


 クロコスミア・エンバーグロウ。愛称クロ。

 魔法使い課専攻のジュニアクラス6。


 年下だが、パーティでは一番落ち着いている。……というか、何を考えているのかわからない。

 不愛想というか、それすらも感じさせない無表情の持ち主。


 痛みや疲労などでもほとんど表情が変化しないので、状態把握に苦労する。

 どんな時でも冷静で取り乱すことはないが、暗所が苦手なようで明りのない洞窟などではパニックに陥る。


 炎の精霊魔法を操り、パーティ内の魔法攻撃を一手に担う。

 さらには魔法使いらしい豊富な知識で冒険中はアドバイザー的存在として仲間から頼りにされている。


 最後に、リリーム・ルベルム。愛称リリー。

 勇者課専攻のミドルクラス1。


 パーティのリーダー。

 楽天的でポジティブなところがあり、それを起因とした人を惹きつける力を持つ。

 優柔不断であるが決めるときは決め、沈みやすいが決してくじけない心がある。


 子供の頃、一ヶ月くらいだったがリリーと一緒に暮らしたことがあった。

 退屈だった暮らしが一変したその日々の楽しさは今でも忘れられない。


 ツヴィートーク女学院に入学を決めたのも、母親と同じ学校を卒業したいからなんて言ったけど、本当の理由はリリーとまた会えると思ったからだ。


 伝説の戦人「姫騎士」。その隣には必ずパートナーとなる勇者がいる。

 アタシ……イヴォンヌ・ラヴィエの夢はいつか姫騎士になって、リリーとずっとずっと一緒に冒険することだ。



「ふぅ」


 ひと息ついて、イスの背もたれに寄りかかる。


 宿題「自分の所属するパーティメンバーの分析」。

 アタシにかかれば1時間程度で終わってしまう簡単なものだ。


 リリーだったら三日はかかるんじゃないかしら。

 しかも最後は「助けてえぇ~イヴちゃぁぁん、宿題みせてぇぇ~」って泣きつくのよね。


 アタシはもちろん見せてやらない。

 そしたら「イヴちゃんのケチーっ!」って言うのよね。宿題をやってないのはアンタのせいなのになんでアタシがケチ呼ばわりされなきゃいけないのかしら。


 そしてアイツは「宿題見せてぇ~シロちゃんクロちゃぁぁぁん」って他のヤツにすがりに行く。


 シロはあんなだからともかくとして、クロなんて冷めた言動のわりにはリリーに甘い。

 「宿題は自己の能力のみで解決しなければ不正となる」くらい言ってやればいいのに。


 アタシは少し考えたあと、宿題を書いていたノートの最終ページを破り捨てた。

 まっさらになったところに再びペンを走らせる。



 最後に、リリームルベルム。愛称リリー。

 勇者課専攻のミドルクラス1。


 一応パーティのリーダーだが、頼りない。

 そのうえバカでドジでオッチョコチョイだから失敗ばかりしている。


 やる気だけはあるようだが、それが空回りして事態を深刻にすることがよくある。

 アタシがフォローしてやらなければいまごろ落第してるか本当に死んでいることだろう。


 戦闘では剣と盾、そして魔法も使うようだがどれもいまいち。探索でもリーダーとしての統率力や判断力はなく、カリスマ性も平凡。

 もうパーティになったから仕方なく最後まで面倒は見てやるつもりだが、貧乏クジを引かされた気分だ。



 「ふぅ」


 また息を漏らして、アタシは腕組みする。


 ……まったく、理解できない。

 好きという気持ちを何の臆面もなく「好き」と表せるヤツのことが。


 たとえばそう、ユリーみたいな。

 あんなふうに嫁とか平気で言うようなヤツは頭の中がどうにかなってるんじゃないかと思う。正直なところひっぱたいてやりたいくらいだ。


 だけど……ほんの少し羨ましい。


 アタシはいつもリリーに冷たい態度をとって、この自室で毎晩後悔してる。

 もう少し素直になれたら、もっと仲良くなれるかもしれないのに。


 このままじゃ本当にアイツは嫁に行きかねない。その前になんとかしないと。

 ただ、ティアみたいなやりかたはお断りだ。ああいう気持ち悪いのはひっぱたいてやりたいっていうか、ブン殴ってやりたい。


 それ以上に厄介なのはリリー本人。

 アイツ、ちょっとしたことに気づく洞察力があるクセに人の好意とかそういうのに対しては恐ろしく鈍感なのよね。

 たまにひっぱたいてやりたくなることがある。


 しかも、しかも、しかも腹立たしいことに、アイツは三日前から行方不明。

 学校にも来ないし、部屋にもいない。書き置きとかそういうのもない。


「いったいあのバカはどこをほっつき歩いてんのよ」


 思わず口をついて出てしまった。


 もちろんアタシだってじっとしてたわけじゃない。まわりをだいぶ探した。

 ツヴィートークは隅々まで歩き回ったし、北はツルーフ、南はラカノンまで行った。だけど手がかりすら見つからなかった。


 少し考えただけなのに脳内がアイツの顔でいっぱいになる。ノンキな笑顔がひときわ大きく浮かんできて、思わず頭をかきむしる。


 不意に玄関扉のほうから、トントンと控えめな音がした。

 こんな叩く扉のことまで気づかっているようなノックをするのは、シロしかいない。


「なによ?」


「あの、イヴさん、シロミミ・ナグサです。今よろしいでしょうか?」


 扉の外からまたしても控えめな声がした。

 主人をたずねる召使いじゃあるまいし、わざわざそんなコト聞かなくてもとっとと入ってくればいいのに。


「いいわよ」


「すみません、失礼いたします」


 ゆっくりと扉が開き、静かに入ってくる。

 扉といえばサッと開けるアタシとは正反対の所作だ。


 玄関先でシロはぺこりと一礼。

 腰まで伸びた艶のある黒髪が、おろしたてみたいな純白のローブの上で揺れた。


 頭をあげると、丸眼鏡越しのおっとりした感じの垂れ目と視線があった。困り眉も手伝って、いつも何かを心配しているように見える。

 

 ……シロは非常にかよわい感じのする子だ。

 世間知らずなクセに困ってる人を見たら放っておけないタイプのようなので、何かとあぶなっかしいところがある。


「何の用よ?」


「あの……学長さんがお呼びです」


「学長が?」


 アタシだけで来るように言われたそうなので、途中でシロと別れてひとり学長の間に向かった。

 ノックの返事があったので学長室の扉を勢いよく開けると、すでに先客がいた。が……見覚えのある人物だった。


「おおっ!? イヴォンヌ姫! ご無事で!!」


 アタシを見るなり大声をあげたのは、白銀の鎧に身を包んだ女騎士だった。

 ベリーショートの銀髪に長い睫毛、通った鼻筋としっかりした輪郭はまるで男装の麗人みたいなカンジだ。


「ベニージョガー! そんなでかい声で姫って呼ぶんじゃないわよっ!!」


 あわてて背中で扉を閉める。


 女騎士の名前はベニージョガー・ヒル。

 ミルヴァランス騎士団の総隊長だ。


 アタシはこの学院では本来の身分である妃殿下ということを隠し、貴族の娘ということにしている。

 なぜかというと姫騎士になるのを反対する母親の出した条件が「王女という立場に頼らず、自分だけの力で武勲をたてること」だったからだ。


 アタシが王族ということがバレるとまわりは萎縮してしまう。そうなるとどんな功績をあげても実力かどうかわからない。

 それだったら一般家庭の娘ってことにしとくのが一番いいんだろうけど、あふれる気品と優雅さはいくらアタシでも隠しきれない。


 どう見ても凡人のソレではないオーラを生まれながらに身にまとっているので、名高い貴族の娘ということにしたのだ。


 学院でこのことを知っているのは学長とリリーしかいない。

 だから廊下まで響くようなでかい声で姫とか呼んでほしくないのだ。


「ここには来ないって約束じゃない。一体何の用よ?」


 ソファでじっくり座って話を、なんて気分じゃない。

 アタシは扉に寄りかかったまま尋ねる。


「いやはや! 逆賊どもからイヴォンヌ姫を預かっているという伝書がありましてな! 真実かどうか確かめるべく転送装置をつかって馳せ参じた次第で!」


「はっ? 何言ってんの、アタシはずっとここにいるわよ。アンタ、騙されたんじゃない?」


「いや、まったく! 伝書には身柄の証明として編まれた赤い毛が同封されておりましてな! はて、イヴォンヌ姫の髪は金色だったはず……と思ったもので! だが万が一のことを考えて様子を見に来た次第で! でもやはりこれは担がれたようですな!」


「えっ……?」


 編まれた赤い毛……?

 それを聞いて思い当たる人物は何人かいるが、真っ先に思い浮かんだのはアイツだ。


 アイツはくせのある赤毛をいつも束ねて、一本の三つ編みにしている。

 まさか……アタシのかわりにリリーがさらわれたっていうの?


 一体なにやってんのよアイツは。そんな狼藉者くらい撃退できなかったのかしら。

 アタシならそんな気を起こしたことを後悔するほど叩きのめしてやったのに。


 それと、さらった奴らのセンスが信じられない。何をどうしたらアタシとリリーを間違えられるっていうの。

 クッキーとビスケット。ホットケーキとパンケーキ。パンナコッタとミルクプリンくらい違うじゃないの。


 ……でもこれで突如いなくなった理由がわかった。

 リリーはいま、アタシのかわりに人質になっている。


 間違ってさらわれるアイツが悪いんだけど、ほっとくわけにもいかない。

 何たってアレでも、アタシのパーティのリーダーなんだから。


 さっそくベニージョガーに師団を手配させて、リリー奪還作戦を……。


 ダメだ。そんなことをしたら「王女という立場に頼らない」という母親との約束を果たせなくなってしまう。

 ここはアタシの力、いや、アタシたちパーティの力だけでリリーを救出しないと。


「ベニージョガー、アンタ案外ヒマなのね。アタシは忙しいからもう行くわね。お母様にヨロシク」


「ははっ! 武運長久を!」


 気をつけをして騎士の略式敬礼をするベニージョガー。

 いつもなら敬礼に対しては返礼をしてあげるんだけど、それどころじゃないアタシはすでに学長室を飛び出していた。

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