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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
ふたりの勇者
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31

 族長の娘とともに獣神の使いに乗って戻った私たちに、村の人たちは温かく接してくれた。

 本当の悪人でない限りラオンが人を襲うことはないそうだけど、それでも心配だったらしい。


 あとから来た族長さんに改めて事情を説明し、賞金首の取り消し手続きをしてもらった。

 わずかな時間ではあったが、私たちの手配者人生は終わりを告げた。


 それだけではなく族長さんのはからいで、腕輪を悪魔から取り戻してくれた英雄として村をあげて持てなしてくれることになった。


 今の時期、この村はムイラ様に感謝を捧げるための祭りを連日やるらしい。

 せっかくなので参加させてもらおうと、私たちは設営や料理を手伝った。


 当日は遺跡の中で見たごちそうと同じものが振る舞われた。

 広場中央にあるムイラ様の像には大きな肉のカタマリが供えらたあと、村人全員でそれを食べた。

 お供えされた肉を食べれば、一年間は虎のように強く生きていけるらしい。


 催しモノでは村の人たちの演武があり、子供たちがそろって型を披露してくれたり、噂の大ばばさまが頭突きと蹴りで岩を粉砕するところも見れた。


 メインイベントは村の外、クレーターの端っこから坂を転がり落ちて、広場中央まで行くというものだった。

 以前ベルちゃんから聞いた記憶がある。彼女の故郷には笑いながら坂道を転げ落ちる祭りがあるって……それがこれか。


 坂の頂点に集まったすべての村人たち。族長さんを筆頭として次々と横になって傾斜を転がり落ちていく。

 落ちていく人々は皆笑顔で、爆笑といえるほどに大笑いしている。


 ……異様な光景だ。祭りにあわせてせっかくキレイな衣装を身に着けてるのに、それを土埃まみれにしてなにがそんなにおかしいんだろう。

 なんて思っていたら私たちの番がやってきた。いままで良くしてくれたまわりの人たちが勧めてくるので、嫌ですとも言い辛い。


 ええい、ままよ! とばかりに坂に飛び込む。

 想像してたよりは痛くない。痛くないけど……砂埃がすごい。


 マスタードのような色の地面と、森林に囲まれた湖のような澄んだ空がぐるぐると回る。

 速度があがってくると色がぐにゃりと歪みだし、とうとう混ざり合った。


 な、なんだろう、よくわからないけどその光景を瞳に映しているうちに……なんだか色んな思い出が蘇ってきて、それらまでが空と大地と同じみたいに混ざるような気分になった。

 いろんなことがごちゃ混ぜになって、やがて、どうでもよくなってきて……不思議と笑いがこみあげてきた。


「むふっ……うふふっ……ははっ……あははっ、あははははははっ!!」


 坂の中腹に差し掛かるころには、私は他の村人たちと同じように爆笑していた。

 中央広場に到着したあとでも、しばらくお腹を抱えて笑っていた。


 ああ、おかしい。今まで悩んできたことや、悲しかったこととか、メチャクチャに混ざり合うと不幸を通り越して、バカバカしくなってきて、思わず笑っちゃった。


 続けて転がってきた他のみんなも笑っていた。土埃まみれになった姿を見合わせてまた大笑いした。

 クロちゃんは相変わらずクスリともしていなかったけど、シロちゃんなんかは泣き笑いするほど大爆笑していた。

 こんなに破顔させている彼女を見たのは初めてだった。


 生まれてこのかたないくらいに大笑いできて、心の中が洗われたみたいにスッキリとした気分になった。

  最初は「異様だ」なんて思ってたけど……何事も見た目の印象よりも、トライしてみることが大事なんだなぁと認識を改めさせられる。


 ムイラの村の祭を余すとこなく堪能した私たちはすっかり村の人たちとも打ち解けることができた。

 賞金首になったときはどうしようかと思ったけど、こんなに楽しい思い出が残せたんだから……結果オーライだよね。


 祭りが終わった次の日、村の人たちに別れを告げた。娘と離れたがらない族長さんは泣いていたけどベルちゃんは「いつものことだから」とあっさりしたものだった。

 ベルちゃんを加えた私たち一行はケッターでドライトークまで移動し、みんな一緒に転送装置を使ってツヴィートークへ帰還した。


 そして……私たちの今回の冒険は完全に終了し、いつもの日常へと戻った。

 騒がしいけど、楽しい……いつもの学園生活がまた始まったのだ。


 平穏を取り戻してから数日後の週末……放課後にユリーちゃんから校庭に呼び出された。

 赤く染まるレンガの校舎をバックに、腰に手を当て立ちふさがるように彼女は待っていた。


「リリー、俺の留学も終わりだ。今日これからドライトークに帰る」


「えっ!?」


 唐突な宣言に面喰う。

 彼女が来てからまだそんなに経ってないのに……。


「今回の交換留学は試験的なもので短期の予定だって、ソイツの自己紹介のときに先生が言ってたでしょ」


 特に驚いた様子もないイヴちゃんが教えてくれた。


「……そ、そうだっけ?」


 ユリーちゃんが転校してきた衝撃が大きくて、そんな話は全然耳に入ってこなかった。


「そういうこった。……ところでリリー、『ふたりの勇者』の結末は知ってるか?」


 突然話題が変わった。私は左右に首を振る。


「俺もそうだ。お前と読んだ絵本は最後のところが落丁してたよな。ずっとその続きが気になってたんだ」


 気になっていたのは同じだ。子供の頃は落丁していない絵本をずっと探していたし、思い出した今も街の本屋を巡ってみたりした。だけど……見つからなかった。


「結末がわからねぇなら……俺たちでケリ、つけてやろうじゃねぇか」


「えっ」


「二刀の勇者の俺と、剣と盾の勇者のお前……どっちが強いか、今ここで勝負だ!!」


 ビシッと音がしそうなほどの鋭さで、人さし指を突き付けてくる。


「ええっ!?」


「最初に言っただろ? お前をブッ倒すために戻ってきたって。俺にとって、いままでやってきたのはどれも前菜に過ぎねぇ。お前との直接対決が……俺にとってのメインディッシュだ!!」


 ツヴィ女にやって来た早々のユリーちゃんは私に対してライバル心を剥き出しにしていた。

 だけどそれは成長したところを見せ付けて、私を惚れさせて嫁にするためのものだったとわかった。


 ユリーちゃんのことは好きだけど、惚れ直すとか、嫁になるとかの話はおいといて……。

 彼女は自分の実力を私に見せたくてツヴィ女への留学を申し出たんだ。


 実力を示すための方法は、授業でいい成績を取るとか、冒険で活躍するとか、いろいろあって……今まで彼女はそれをやってたんだ。

 そして最後に一番てっとり早くて効果的な方法……「決闘」を申し込んできている。


 幼い頃に交わした約束「最強の勇者になって、お前に会いに行く」を果たすためにドライトークに入学して、通り名がつくまでに成長したユリーちゃん。

 その成果を私に見せるために、いままでがんばってきたんだ。


 決闘を断るということは、彼女のいままでのがんばりを否定するようなものだ。

 もちろん、そんなことをするつもりはない。


 だって……私もユリーちゃんに強くなったところを見せたいからっ!!


「……わかった、ユリーちゃん。勝負だっ!!」


 宣戦布告を受けて立つ。

 私が盾を構えると、ユリーちゃんは素早く後ずさって距離をとった。


 突然始まった決闘にシロちゃんミントちゃんはびっくりして「ひゃっ」と声をあげていたが、イヴちゃんに促されて私たちの側から距離をとってくれた。


 目の前のユリーちゃんは姿勢を低くし、瞬きのスキも惜しむようにこちらを見据えている。

 それは射抜くような眼光だったが、サンタクロースを目にした子供のような期待をたっぷりとはらんでいた。


 殺気に満ちた視線というよりも、ワクワクとドキドキに満ちた視線。

 きっと……私と戦えることが嬉しくてしょうがないんだろう。


 目を合わせているだけで、自然と私の鼓動も高鳴る。

 私はモンスターとの戦闘経験は乏しいほうだと思っているけど、人間との戦闘経験はそれ以上に無く、皆無といっていい。


 さて……慣れない対人戦闘、しかもライバル相手に、私はどう立ち回るべきか。


 そういえばユリーちゃんは事あるごとに自分のことを『ダブルブレードのユリー』と名乗っていた。

 だけど学園生活中も、冒険中であっても、その二刀さばきが披露されることはなかった。


 従って相手の戦法は一切わからない。だけど……初手はわかっている。


 『ふたりの勇者』の最後のページ……雄叫びをあげながら接近する二刀の勇者に対し、剣と盾の勇者が迎え撃つ。

 両者の剣がガキンとぶつかりあって、激しいつばぜり合いをするんだ。


 だからまず、最初の一撃は剣で受ければいい。

 問題はそこからだ。絵本はそこで落丁してたから、後の展開はわからない。


 きっとユリーちゃんならではの攻撃が来るんだろう。

 たぶん性格的にイケイケのタイプだろうからガンガン攻めてくるに違いない。しばらくは盾での守りをメインにして、スキを探すんだ。


 作戦を決めた私は腰の剣を抜いて、構えをとった。

 「いくぞっ!!」と叫ぶユリーちゃん。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!」


 背中の剣の柄に手をかけ、蛮声と共にこちらに向かって突進してくる。


 私とユリーちゃん、幼なじみ同士の決戦。

 その戦いの幕が……ついに切って落とされた。

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