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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
ふたりの勇者
81/315

24

 占い館に取り残された私たち。

 結局、依頼人がいなくなってしまったので私たちの冒険も……ここで終わり?


 これからどうしようか考えるにしてもいまは真夜中だし、残り香を嗅いでいたらなんだかまた眠くなってきたのでとりあえず寝ることにした。

 いくらサキュバスがいなくなったとはいえ、あまりにも不用心な行動な気もしたけど……いまから野宿というのもイヤだったので再びベッドに入る。


 クロちゃんがくっついたままだったので、一緒に寝た。


 次の日、目を覚ますとお昼前だった。

 こんな状況であるというのに、よく眠れてしまった。


 シロちゃんはサキュバスに見せられた夢のせいでドキドキしてあまり眠れなかったらしい。

 そういえばみんなどんな夢みたの? と聞くとミントちゃんが「リリーちゃんとハダカになってくすぐりあいっこするゆめ~」と教えてくれた。


 やっぱり夢の中では裸だったか。私の場合は総出演だったけどみんなの夢では私だけが出てきたようだ。

 しかし内容についてはミントちゃん以外のメンバーは一様に顔を赤くするばかりでいくら聞いても教えてくれなかった。


「そんなことより腹へったからメシにしようぜ!」


 ユリーちゃんから提案されて、たしかにお腹も空いていたので食事を取りながら今後の予定を立てようということになった。

 占い館を出た私たちは、お昼ごはんを求めて街中へと向かった。


 ユリーちゃんは大きな酒場を選んで「ここにするか」と言った。


「えっ、酒場に入るの!?」


「そうだよ。冒険者の腹ごしらえといえば酒場だろ!」


 躊躇する私に拳を振り上げながら熱弁する我らがリーダー。


 たしかに酒場といえば冒険者の食事処ってイメージがあるけど……。

 私はカフェしか入ったことなくて、酒場なんて初めてだ。お酒も飲んだことないし……ちょっと怯む。


 みんなはどうだろうと思ったが特に気にしている様子はなさそうだった。

 ただシロちゃんだけはかなり緊張していたので「大丈夫?」と尋ねると、


「はっ、はいっ。私は皆さまの判断に従わせていただきます。それに……何事も経験だと思っておりますので大丈夫です」


 気丈な答えを返してきた。

 酒場という施設に興味はあるようで、怖いもの見たさのような感情が垣間見える。


 それにたしかに彼女の言うとおり何事も経験……ならば、答えはひとつしかない。

 私が大きく頷くと「決まりだな」とユリーちゃんは歩き出した。


 テラスのテーブルをぬって進む。テラス席は満員で、タンクトップ一枚の筋肉質の男の人たちが大きなジョッキを傾け、盛り上がっている。

 昼間なのにこんなに賑やかだなんて……今日は休みなのかな?


 シロちゃんは男の人たちの視線を感じて急に怖くなったのか、縮こまって私の背中に隠れていた。


 両開きのスイングドアを勢いよくあけて入店する。


 外と同じく店内も盛況で、ほぼ満席だった。

 男だらけの場所に現れた私たちはやっぱり珍しいらしく、店内の視線が一斉に注がれた。


 よそ者に対しての視線をまるで英雄に向けられる羨望のように受けながら、ユリーちゃんは悠々と店内を横断する。

 店の一番奥の窓際の席が空いていたので、そこに座った。


 注文を取りに来たおじさんに「なんか食うものくれ!」と大雑把な注文をするユリーちゃん。

 続いて各々飲み物を注文すると、


「そんなジュースみてえなのはウチにゃ置いてねぇな……そん中であるのはミルクだけだ」


 とにべもない対応。シロちゃんが注文したミルクしかないなんて……酒場というのは意外と飲み物は置いてないものなんだろうか。


「しょうがねぇなあ、じゃあミルク6つ!!」


 店じゅうに響く大声のユリーちゃんオーダーに対してどっと笑いが巻き起こった。


「お嬢ちゃんたち、ここは酒場だぜ!」


「帰ってママのおっぱいでも飲んでたほうがいいんじゃねぇか?」


「それとも俺たちにも飲ませてくれるってかぁ?」


 次々に飛ぶヤジと、下品な笑い声。

 ミントちゃんはキョトンとしており、クロちゃんはどこ吹く風といった感じだったが、シロちゃんは完全に怯えていた。


 いくらなんでもひどい。さすがに腹が立ってきた。

 ユリーちゃんも同じようで、ギリギリと歯噛みをしている。


 一言いってやろうと私とユリーちゃんが立ち上がろうとしたとき、イヴちゃんの手が遮った。


「ここはアタシに任せなさい」


 彼女はそれだけ言うと、勢いよく立ち上がった。

 なおも飛んでくるヤジに対してすぅ~っと息を吸い込むと、


「黙りなさいっ!!!!!」


 爆弾が炸裂したかと思うような大音響が轟く。

 あまりの大声に、酒場がしんと静まり返ってしまった。


 さ、さすが闘気術の使い手……爆心地にいた私たちは思わず耳がキーンとなってしまった。

 さらにイヴちゃんは、椅子を踏み台にしてテーブルの上に仁王立ちになる。


「私たちは冒険者よ!! いまもラマールの遺跡から腕輪を取ってきたわ!! 並み居るモンスターや罠を全部なぎ倒してね!!」


 立て板に水が流れるようなイヴちゃんの演説。

 思わず聞き入ってしまったが、このあたりで止めておけばよかった。


「アナタたちも同じ目にあわせてあげましょうか? それともなあに、その筋肉は土を掘り返すしか能がないのかしら?」


 ついには調子に乗って挑発しはじめる。マズい。

 筋肉をバカにされた男の人たちの顔色が変わった。


 聞き捨てならぬと言った表情で、男の人たちが次々と椅子から立ち上がる。

 一触即発状態だったが、入口のドアが乱暴に開いたことで睨み合いは強制中断した。


「おいっ! 新しい賞金首が出たぞ! しかもこの近くだ!!」


 転がり込んできた男の人が手配書を掲げながら叫んだ。


 賞金首とは、依頼者から指定された対象を捕獲すれば賞金がもらえる制度のことだ。犯罪者などにかけられ、一般的に悪いことの度合いが大きいほど報酬の額は大きくなる。


 この店で一番おおきなテーブルに手配書が並べられると、店中の男の人たちがそこに集まった。みんなこぞって覗き込んでいる。

 かなり興味津々なようだから、この街の人たちは賞金首を捕まえるのも生業のひとつにしているのかもしれない。


 客の意識はすっかり賞金首に移っていて、誰もこっちを見る人はいなくなってしまった。

 所在のなくなったイヴちゃんはすごすごと椅子に戻る。


 彼女はつまらなそうにしていたが、私は胸をなでおろす。

 酒場デビューでケンカというのはあまりにも破天荒すぎる。お酒を一滴も飲んでないのに。


 ひと安心したら賞金首というのに興味が湧いてきたので、私もちょっと覗きに行ってみることにする。

 人だかりをかきわけてテーブルに近づくと……6枚の手配書が並べられていた。


 似顔絵らしいイラストが大きく描かれており、その下には1,000,000ゴールドと賞金額が書かれていた。

 見たカンジ、賞金首はほとんど女の子らしい。男の子はひとりだけみたいだ。

 私と同じくらいの年っぽいけど、イラストの表情は恐ろしく凶悪な顔をしている。


 客たちは手配書を見ながらアレコレ話しはじめた。


「6人組のパーティらしいな」


「頭に冠を乗せた女、身長と同じくらいの大剣を持つ女、背の低い女、茶色いローブの女がふたり、あとは男……か」


 ふうん、なんだか親近感を感じなくもないメンバー構成だ。


「なんだ、ほぼ女じゃねぇか。それもまだガキだぜ」


「それなのに賞金首になるたぁ、相当ヤバい奴らに違いねぇぜ」


「いったい何をやらかしたんだ?」


「ラマールの遺跡からムイラ族の腕輪を盗んだらしい。依頼主は族長だ」


 ……遺跡? 腕輪?

 最初は他人事のように聞いていたが、なんだか嫌な予感がしてきた。


「きっと大事な腕輪なんだろうな。ガキひとりに百万ゴールドもかけるってこたぁ」


 私は音をたてないように、しかし足早にテーブルを離れる。


「ん? そういやさっき、腕輪がどうこう言ってるヤツがいなかったか?」


 背後からそんな言葉が聞こえ、私はみんなの元へ駆けた。


「みんなっ! 逃げてっ!!」


「アイツらだ! 捕まえろっ!!」


 私が叫ぶのと背後からの怒声は、ほぼ同時に響いた。

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