08
手招きされるまま、私たちはチタニアさんについていった。二階にあがったところにある広い部屋に通されて、中にはキングサイズのベッドをふたつくっつけたような大きなベッドがあった。
「ミランダ姉さんが帰ってきたときに使ってる部屋だよ。あのひと、身体がでかいうえに寝ぐせが悪いから、このくらいのベッドじゃないとダメなんだよ」
私たちが十人くらい余裕で寝れそうな大きなベッド。その上で寝相の悪さを発揮するミランダさんを想像してちょっとおかしくなってしまった。
「わぁーい!」
ミントちゃんはベッドめがけて飛び込んで、トランポリンみたいに跳ねはじめた。
「あ、こら! ダメよ、ミントちゃん!」
あわてて制止しようとして、私もベッドに飛びこんだ。止めるつもりだったがもつれあってしまい、なんだかじゃれあってるみたいになってしまった。その様を見ていたチタニアさんは愉快そうに笑うと、
「あはは、いいよいいよ、じゃあ、夕食になったら呼ぶから、それまで寛いでて」
そう言って、部屋から出ていった。扉が閉まった瞬間、イヴちゃんがいたずらっ子みたいな表情をしたかと思うと、
「えいっ!」
シロちゃんをベッドに突き飛ばした。
「きゃあっ!」
バランスを崩したシロちゃんがベッドにうつぶせに滑りこんでくる。
「もういっちょ!」
さらにクロちゃんを突き飛ばす。
「…………」
無表情のクロちゃんが飛んできた。
「あっはっはっはっは!」
ベッドでもつれあう姿を見て楽しそうに笑うイヴちゃん。
私たちは顔を見合わせて頷きあうと、息のあった動きで彼女をベッドに引っ張り込んだ。
「はっは…ひゃあ!」
高笑いが裏返った悲鳴に変わる。そのまま押さえつけようとすると、両足を暴れさせて抵抗してきた。
みんなの中ではいちばん力が強いイヴちゃん。はねのけられそうになったが、ミントちゃんがワキの下をサワサワすると、
「やめてやめて、それダメっ!」
捕まったウナギみたいに激しく身体をうねらせ、ワキの下攻撃から逃れようとする。その反応で、彼女がくすぐったがりであることがわかった。
再び私たちは顔を見合わせて頷きあうと、息のあった動きで彼女への攻撃を再開した。
右手をクロちゃん、左手をミントちゃんが引っ張って、ベッドの上で両手をハリツケにするような形で上から押さえつける。両手の自由を奪った後、腰のところに私が乗っかる。これでワキのラインは完全に無防備になる。
「や、やめなさい、ね、いい子だから」
覗きこむ私、ミントちゃん、クロちゃんを見ながら、いつになくたじろぐイヴちゃん。もちろんやめたりすることもなく、腰を挟みこむようにがっしり掴んでみる。
「あはぁっ!」
彼女は激しくのけぞった。掴んだまま、手を上下にスライドさせて、摩擦を開始すると、
「ひゃあーっ!」
絞りだすような引きつり笑いが部屋中に響いた。イヴちゃんは必死になってふりほどこうとするが、くすぐりのせいで力が入らないのか身体をくねらせるだけで終わっていた。
鎖かたびら越しに触っているのでじゃらじゃら音がする。しかし、鎖かたびら越しでこの反応ということは、彼女はかなりのくすぐったがりのようだ。……せっかくだから、いろんなところを触ってみることにした。
ワキのラインをすーっとなぞると、
「もう、ダメっ、ダメっ、あははっ」
胸を張るようにのけぞる。引きしまった身体の形がよくわかった。
次はマッサージするようにお腹のあたりをモミモミしてみる。
「あはっ、あははっ、あひゃあぁん」
わずかでも逃れようと、お腹を引っ込めた。柔らかいお腹だ。
あ、そうだ、思い出した。くすぐったがりの人は首筋とか弱いらしい。
「ちょっと首すじとか、さわってみて」
ミントちゃんとクロちゃんに言うと、ふたりは猫の首筋を触るような手つきで、イヴちゃんの首筋を撫であげた。
それは覿面だったようで、はじけたように頭をのけぞらせて、
「あはははぁははぁっ、やめへぇっ!」
笑いと悲鳴が混じったような声をあげた。その反応が面白かったのか、ふたりはイヴちゃんの顔をベタベタ触りはじめた。ミントちゃんは鼻をムニムニとつまみ、クロちゃんは耳の穴に指を出し入れしている。私はそのドサクサまぎれに胸を触ってみた。私より大きかった。
「ああーっ! もういやあっ!」
全身を触るだけ触られて、ギブアップ状態のイヴちゃん。顔を左右に激しく振りながら絶叫する。
「あ、あの……」
どうしていいかわからず、おろおろしていたシロちゃんは、
「イヴさん……大丈夫、ですか?」
顔を覗きこんで、おそるおそる声をかけた。
「大丈夫じゃないわよっ! アンタ、ボーッとしてないで、助けなさい!」
八つ当たりするような怒声を浴びせられ、シロちゃんの肩が縮こまった。
「えっ、でも、どのようにすれば……?」
うろたえながら尋ねている。
「リリー! リリーのワキをくすぐるのよ! 早く!」
もはや限界、といった感じのかすれた叫び声をあげた。
「は、はいっ」
シロちゃんは注文を取り違えたウェイトレスみたいに慌てたあと、大急ぎで私の後ろに回り込んだ。それでもしばらく悩んだような間をおいてから、
「あの……すみませんっ」
背後で謝る声がしたあと、私のワキの下がキュッと掴まれた。
「はうっ!」
総毛立つような刺激に襲われ、ついイヴちゃんの腰から身体をずらしてしまった。
イヴちゃんはその一瞬を逃さなかった。私の拘束から解放された両足の膝を抱えこむように丸めたあと、勢いをつけたヘッドスプリングで両手の拘束をもはねのけ、一気に起きあがった。そのまま、私を押し倒す。
「あっ……きゃあっ!」
押し倒された私が気づいた頃には、マウントポジションで見下ろすイヴちゃんの姿があった。
「さぁ、覚悟してもらおうかしら」
握りこぶしをつくって両手をポキポキ鳴らしている。
「あっ、まって! やあっ!」
一応制止をしてみたが、当然のように無視され両脇を掴まれて、ワサワサとくすぐられる。
「ふふ、あんまり、へへ、くすぐったく、むふ、ないもん」
強がってみせると、そこに、ミントちゃんとクロちゃんが加勢してきた。
「えっ、ちょ、あははは、やめ、ひひひ」
六つの手でくすぐられるのはさすがに苦しかったが、そのとき私は嬉しい気持でいっぱいだった。だって、今までふざけていても見ているばかりだったシロちゃんが、参加してくれたから。
私はなんとかもがいてミントちゃんを抱きよせ、私の上に腹這いさせた。すると狙い通り、次のターゲットはミントちゃんに移った。イヴちゃんはうつぶせにのミントちゃんの腰に馬乗りになり、ブーツを脱がせて足の裏をくすぐりはじめる。
「きゃはははははは!」
両手をバタバタさせて、ミントちゃんは楽しそうにくすぐりを受けていた。私は下敷きになっていたのでやや苦しかったが、下から加勢してくすぐってみた。
「きゃはっ! きゃははっ! きゃははははは!」
はしゃぐ子供のような反応。ミントちゃんの身体はふにふにで柔らかかった。胸は……ほとんどなかった。
しばらくミントちゃんの身体を揉んでいたが、さすがに重くなってきた。イヴちゃんをポンポン叩いて注意を引いたあと、クロちゃんを指さした。
「次はアンタよ!」
イヴちゃんは新しい獲物を見つけたかのように颯爽と飛びかかり、ミントちゃんもそれに続いた。
「…………………………」
想像はしていたが、クロちゃんはくすぐっても無抵抗、無反応だった。みんなでムキになって身体中をまさぐってみたが、まるでマッサージを受けているみたいにされるがままだった。彼女は痩せ気味で、胸は私よりは小さい感じだった。
クロちゃんへのマッサージにも飽きてきたころ、みんなの視線は自然とシロちゃんに注がれた。
「えっ……? きゃ!」
いつものパターンで、とばっちりを受けるシロちゃん。押さえつけてくすぐると、
「ああっ……どうか、どうか、おやめになってください……はぁ……っ」
弱々しい吐息まじりの声を出して懇願するので、なんだかイケナイことをしている気分になってしまった。胸はとても大きかったけど、気になっていたのは私だけではなかったようで、みんなここぞとばかりに触っていた。
ひとしきりのくすぐり合戦を終えて、完全にバテた私たちはベッドの上でぐったりとなっていた。
「くすぐられるのも、くすぐるのも……案外、体力つかうのね……」
天井を仰ぎながら独り言のように言うイヴちゃんに、みんなは黙って頷いた。