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「うおっ!?」
私は思わず後ずさってしまった。
全裸のシロちゃん、イヴちゃん、ユリーちゃん、クロちゃん、ミントちゃん……胸の大きい順に時計回りで並んだ彼女たちが、絡みつくような視線を私を送っていた。
「ど、どうしたの……? みんな」
なんだかみんな大人びてしっとりとした雰囲気を漂わせていて、思わずたじろいでしまう。
「あ、あれっ? なんで私も裸なの!?」
しかも、私も何も着てないじゃないか。ベッドに飛び込んだときは装備だけ外したはずなのに……。
私は寝相は良いほうじゃないタイプで、ベッドの上で寝たはずなのにベッドの下の隙間で目を覚ましたことがあるほど。
だけどいくらなんでも服を着て寝たはずなのに裸になってたなんてことは初めてだ。
もしかして……みんなから脱がされたんだろうか。
「リリーさん……」
暗闇に映える白い肌のシロちゃんがゆらりと動いた。
私の背後に回り込んで抱き着いてくる。
豊満な胸が触れる。リズムをつけるように押し当て、こすりつける。
つきたてのおもちが私の背中で弾んだ。
「し、シロちゃん?」
彼女らしからぬ扇情的な行動に面食らっていると、引き締まった身体のイヴちゃんがしなだれかかってきた。
「気持ちいいこと、しましょ……」
イヴちゃんは私の手をとると、そのくびれた腰にまわした。
「き、気持ちいいこと?」
答えを聞く間もなく、続けざまにユリーちゃんが抱き着いてきた。キズだらけの身体を添わせつつ、耳元に顔を近づけてきた。私の耳たぶに歯が当てられる。
「ひゃっ!? ユリーちゃんっ!?」
「いいだろ、俺の嫁なんだから」
問答無用とばかりに彼女は甘噛みを続ける。負けじとイヴちゃんも反対側の耳たぶを食みだした。
両方の耳たぶをはみはみされて、逃げ場のないくすぐったさに身をよじる。
み、みんな、一体どうしちゃったの……?
様子がおかしいにも程がある。
スキンシップは大好きだけど、こんなのは……違う気がする……。
らしくない。らしくなさ過ぎてなんだかモヤモヤする。
今度はクロちゃんが無言で私の胸に頬ずりしてきた。
うう……彼女からくっつかれるのは慣れてるけど……裸となるとだいぶ感じが違う。
「わたし……悪い子になっちゃう……かも」
ちょっと照れた様子で言いながら、おへそのあたりに顔を埋めてくるミントちゃん。いつもはポニーテールの彼女だけど、今は髪をおろしておりこの中ではいちばん大人っぽく見えた。
でも……私にとってはそれが決定打となった。
積み重なったいくつもの違和感が集まって、ハッキリとした形になる。
いままでモヤモヤしてたけど……ミントちゃんの一言で間違いないと確信できた。
「……あなたたちは誰? みんなをどこへやったの?」
ここにいるみんなはみんなじゃない。よく似たニセモノだ。
「どうしてそんなことを言うんですか?」
背後から手を伸ばしたシロちゃんが、私の頬に手を当てて横を向かせた。鼻先が付くくらいの距離に彼女の顔があって、悲しそうな瞳をしていた。
その潤んだ瞳に危うく飲まれそうになったが私はブルブル顔を振って正気を保つ。
「シロちゃん……普段のシロちゃんは半そでになるだけで恥ずかしがるのに、裸で全然恥ずかしがらないのは変だと思って……」
泥だらけになったあとの河の水あびでも、シロちゃんはスリップ一枚になっただけで失神しそうなくらい恥ずかしがっていた。
口に出してからその違和感の大きさに改めて気く。
私はさらに言葉を続けた。
「あと、イヴちゃん。イヴちゃんはすごいくすぐったがりなのに、腰を自分から触らせるなんてありえない」
やむなくくっついてくることはあったけど、それでも腰を触らせてくれることはなかった。
「ユリーちゃんの身体のキズはシロちゃんに治してもらったばっかりなのに、なんでまたキズだらけになってるの?」
きっとこのニセモノはユリーちゃんの身体がキズだらけなのは知ってたけど、それが今日治ったことを知らないんだ。
「クロちゃんは真っ暗なのが苦手だったはずなのに、平然としてる」
ぼうっと浮かび上がるみんなの身体以外は何も見えない真っ暗闇。
こんな状況でクロちゃんがいつも通りでいられるわけがない。
「ミントちゃんは……」
「いいじゃない、そんなこと」
最後の指摘は誰かの言葉で遮られた。
5人は示し合わせたように、舌をつかって私の身体を舐めはじめた。
「あっ……ひゃあっ!?」
毛穴から何か出てきそうなくらいゾクっとする。
耳の穴、うなじ、鎖骨、腋の下、おへそ……ナメクジのように這いまわる舌たち。
いままで感じたことのない、痺れるような感覚が全身を走る。
背筋が寒くなるようなそれは、身体の内から湧き上がる快感に変わった。
まるで春の海を漂っているような……まるであたたかいコーヒーに砂糖がとけていくような……身体がトロトロになるような気持ちよさ。
ああっ、もうホンモノとかニセモノとかどうでもいいかも……。
つい身を任せそうになって、メラルドさんの言葉が頭をよぎった。
……い、いや、ダメだっ。
私は竹っぽく生きるって決めたじゃないか。竹は簡単に曲がるけど、折れちゃダメなんだっ。
いまの感覚は朝ちょっと早く目覚めて、まだ時間があるから少しだけ二度寝しようってときの感覚に近い。抗うことは非常に難しい。
こんな時は……そうっ、無理矢理……無理矢理起きるんだっ!
「は、離して! やめて! 触らないでっ!」
私は睡魔を払いのけるように、みんなを押しのけてベットの上で立ち上がった。
それでもなおニセモノたちは私の足元にすがる。
その姿に仲間の面影はどこにもなかった。まるで亡者のようだった。
……なんてことだ。これが神の悪戯なら、私は神様にだって怒鳴りつけてやる。
「ねぇ、みんなをどこへやったの!? みんなを返してっ、みんなを返してーっ!!!」
訴えかけるように暗闇の空に向かって、声をかぎりに絶叫した。
その声とともに……私はがばっと起き上がる。
気が付くとまわりは暗闇なんかじゃなくて、薄暗い寝室だった。
裸のみんなは消えていて、私も普通に服を着ていた。
……な……なんだ……夢かぁ。
ホッとした私は大きく深いため息をついた。
いつになく変な夢を見ちゃった。……疲れすぎてるとそういうことってあるよね。
ふと他のベッドを見ると、布団をもこもこさせながら喘いでいる姿が見えた。
それもひとりだけじゃなくて、みんな。……これは、ただごとじゃなさそうだ。
私は起き出すと、隣のベットへ飛びついた。




