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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
リリーとゆかいな仲間たち
7/315

07

 ラカノンに着いたのはお昼をだいぶ過ぎたころだった。さすがに野菜で有名なところだけあり、そこら中に野菜が積まれてたり、干されてたりしている。家々は丸太を組んで作られており、どれも大きかった。犬を探してみたが、いなかった。


 ミランダさんのお母さんの家は村のはずれにあった。ちょうど外に日向ぼっこをしていたお婆さんがいたので、声をかけてみることにした。


「お婆さん、こんにちは」

「えぇ?」

 杖に手を置いて座っていたおばあさんは、耳に手を当てて聞き返してくる。どうやら耳が遠いようだ。


「お婆さん、こんにちは!」

 声を張って、再度あいさつする。


「あぁん?」

 お婆さんはなおも耳に手をあてたまま、こっちに顔を近づけてきた。私はすぅ、と息を吸い込んで、

「おばぁさんっ! こんにちはぁ!」

 ありったけの声量で叫んだ。


「なんだって?」

 ……わざとやってるんじゃないだろうか。最後の手段ということで、私は離れたところで見ていたみんなを呼び、おばあさんの耳元に並んでもらった。


 せーの、の合図で一斉に息を吸い込んで、

「「「「「おぉばあぁあぁさあぁあんんん! こぉおぉんんんにぃいちぃいわあぁあぁ!」」」」」

 五人で声をかぎりに、吠えた。


「…………」

 すると、少しの無言があって、


「ああ、はいはい、こんにちは」

 ようやくお婆さんは頷きながら応えてくれた。肩で息をしていると、

「何の用だい?」

 お婆さんは耳に手を当てたまま、次の言葉を待っていた。


 ……この会話のキャッチボールは相当キツい。腕の一本や二本なくなる覚悟の超剛速球を投げないと相手の所まで届かない。

 私は酸素不足でクラクラする頭で、声をかけたことを後悔しはじめていた。


「あら、ウチに何か用かい?」

 私たちの大声を聞きつけたのか、家の扉が開いてひとりのおばさんが出てきた。……どこかで見たことがあるような感じの人だった。


「あっ、こんにちは!」

 つい大きな声が出てしまう。


「あの、ミランダさんからの紹介で、ニンジン畑の警備に来たんですが」

「ああ! もうダメかと思ってたよ!」

 私のひと言に、おばさんの顔がぱっと明るくなった。すぐさまお婆さんの肩を叩いて、

「母さん、ウサギ追いの人だって!」

 身ぶり手ぶりしながら話しかけている。


「おお、そりゃありがたい! ささ、あがってくだされ」

 お婆さんは意味をすぐ理解し、家の中に招き入れてくれた。その反応の速さにびっくりしていると、

「母さんは耳は悪いけど目は良くてね、だから身体の動きで伝えるのがいいんだよ」

 おばさんが教えてくれた。


 家に入ってすぐのリビングに案内された私たちは、丸太を組んで作られた家が珍しくて、ついキョロキョロする。室内は木の香りでいっぱいで、私は思わず深呼吸してしまう。


 好きな匂いだったので、ひとりスーハースーハーしてたらイヴちゃんに肘で小突かれてしまった。


「あっ。あ、あの、依頼の内容を詳しく聞かせてください。あ、その前に、私はリリー、あ、いや、リリーム・ルベルムです」

 我に返った私は目の前にいる依頼人、お婆さんとおばさんに軽く一礼した。


「よろしくね、リリー。私はミランダの妹のチタニア。こっちは母のオベロンよ」

 愛称だと察したのか、にっこり笑って私をリリーと呼んでくれたおばさん。いや、チタニアさん。どこかで見たことある顔だなと思っていたが、思い出した。ミランダさんだ。ミランダさんがだいぶ痩せたらこんな顔になる、という感じの人だった。


 私はもういいやと思って他のみんなも愛称で紹介した。イヴちゃんは「イヴォンヌ・ラヴィエよ」と言いなおし、ミントちゃんはポニーテールと両手をぶんぶん振って挨拶した。シロちゃんは椅子から立ち上がって頭を下げ、クロちゃんは黙ったまま頷いた。


「では、依頼の内容を詳しく聞かせてください」

 自己紹介を終え、私は改めて切りだした。ふたりを交互に見ていると、チタニアさんがオベロンさんの肩を叩いて、

「ウサギ追いのこと、私から説明するからね」

 両手を頭の上にやってウサギの耳っぽくしたり、両手を振って走るような仕草をしていた。


「おお、おお、そうしておくれ」

 通じたらしく、頷くオベロンさん。向き直ったチタニアさんが話しはじめる。


「ウチが育ててるニンジン畑があって……知ってるかい? 『ウサギまっしぐら』っていうブランドなんだけど」

 その言葉にミントちゃん以外、全員反応した。『ウサギまっしぐら』といえば口にできるのは王様くらい、といわれるほどの幻のニンジンとして有名だ。


「それはね、ちょっと変わった栽培方法をしてて……簡単に言うと魔法栽培なんだけど、さらに特殊で、明日の夕方あたりが一番おいしくなるんだよ」


 魔法栽培。土や水、飼料などに魔法をかけて栽培する方法。普通に育てるより成長が早くなったり、実りがよくなったりするらしい。大規模なものになると、日光すら魔法で作りだすところもあるそうだ。


「その一番おいしくなってるあいだに収穫しなきゃいけないんだけど、そのおいしくなる数時間前……今年だと、早朝くらいかねぇ、なぜだかいままで見向きもしなかったウサギどもがニンジンを狙って畑にやってくるんだよ」

 農作物を守るアルバイトにしては一日は短いな、と思っていたのだが、これで合点がいった。


「おいしくなるついでに、ニンジンからウサギを呼び寄せるフェロモンでも出てるのかねぇ」

 まさにウサギまっしぐら、というわけか。


「わかりました。明日の早朝から収穫のはじまる夕方まで、ニンジンをウサギから守ればいいんですね?」

 依頼書に書いてあった通りだったが、私は念のため復唱する。


「そうなんだよ、ツヴィートークに住んでるミランダ姉さんにふた月前くらいから依頼を頼んでたんだけど、全然音沙汰がなくてねぇ……この村はちょうど収穫期でどこも忙しくて、人手がなくてどうしようかと思ってたところさ」

 ミランダさんのうっかりミスの件は、黙っておくことにした。


「あ、そうだ、依頼書に書いてある『ニンジンの被害が多い場合は報酬を減額します』ってのと『ウサギは生死を問わず買い取ります』については……」

 私は依頼書を取り出して、隅に小さく書いてある文を指さした。


「えーっと、そうねぇ、ニンジンがウサギのせいで二十本くらいダメになってたら報酬から減らさせてもらうよ。あとウサギは捕まえたり、殺したりしてもいいよ。その場合、ウチが五百ゴールドくらいで買い取るよ」

 全体の規模がわからないので、二十本の被害が多いのか少ないのか見当もつかなかった。ウサギはまあ、買い取ったあと有効活用するんだろう。


 隣に座っているみんなを見ると、シロちゃんが何か言いたげな顔でおずおずしていた。察した私は視線を戻して、

「あの、ウサギは別に追い払うだけでもいいんですよね?」

 シロちゃんの代弁をした。


「ああ、それは任せるよ、こっちはニンジンさえ無事ならいいんだから」

 手をパタパタ振って言うチタニアさん。シロちゃんが安堵の表情になる。


「他になにか聞いておきたいことは……」

 再度みんなの顔を見るが、特になさそうだった。私は締めに入ることにした。


「依頼の内容はだいたいわかりました。畑の場所は明日の早朝ここに来たときに案内してもらう形でいいですか?」

「え? これからツヴィートークに戻るつもりなのかい?」

 驚いた様子のチタニアさん。


「うん、そのつもりです」

「今から帰って明日の早朝だと、大変だよぉ? 真っ暗な中で行き来するつもりかい?」

 視界の隅に映っていたクロちゃんの表情が、硬くなったように見えた。


「あ、そっか……でも、野営の道具は持ってきてないし……」

 想定外だった。往復するつもりだったので、キャンプ装備はほとんど持ってきていなかった。……どうしよう。


「いやいやいやいや」

 私の思考は彼女の言葉で遮られ、

「なんで野営なんてするんだい。ウチに泊っていけばいいじゃないか」

 さも当たり前のように言われてしまった。


「え、でも、迷惑じゃ……」

 こっちは五人もいる。しかも、ついさっき会ったばかりだ。


「気にすることないよ、ウチはふたりしかいないのにムダに広いし。ね、いいよね? 母さん」

 チタニアさんの身ぶり手ぶりのあと、

「おお、おお、ぜひ、泊っていってくだされ」

 しわをさらに増やす笑顔で、オベロンさんは賛成してくれた。


「じゃあ……せっかくだから、お言葉に甘えちゃおっか?」

 みんなを見ると、反対する者はいなかった。珍しくクロちゃんが顔を上下に振る勢いで賛同している。


「決まりだね、なら、空いてる部屋があるから案内するよ」

 チタニアさんは立ち上がりながら言った。

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