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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
ふたりの勇者
65/315

08

 ローリングサンダー号はその名に恥じぬ雷鳴をとどろかせながら、垂直かと思うほどの急勾配を滑っていく。


 飛び降りている最中にもかかわらず爆風で追い打ちをかけられているような暴力的加速。

 あまりのスピードに内臓ぜんぶが口から飛び出し、空にぶちまけてしまいそうな感覚に襲われる。


 ケッターは轟音とともに激しく揺れ、地震のような衝撃が襲ってくる。

 身体が浮き上がり、あちこちに振り回された。ロープがなければ間違いなくどこかへ飛ばされていたであろう。


 かつてないほどの速さで流れていく景色、災害にでもあっているかのような乗り心地。

 私にできることは、ただ叫ぶことのみ。


 それも「キャー」とか「ギャー」とかいうのではなく、


「ウッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?」


 無意識のうちに腹の底から絞り出される大絶叫。


 イヴちゃんと共に魂の咆哮をあげながら、昇ったり下ったり、加速したり減速したりしているうちに声が枯れてしまっていた。

 でもしばらくして自我を保てるくらいにまで速度がおちてきて、悲鳴をあげる必要もなくなり、周囲の状況が把握できるようになってきた。


 いつの間にか風景は荒れ果てた草原に変わり、だんだんと緑が濃くなりつつある。

 この調子だと森に突入しそうな雰囲気だ。


 背後を見るとドライトークの街はすでに見えなくなっていた。

 あっという間に遠くまで来てしまったようだ。


 短時間で長距離いけるけど、積荷より酷い扱いを受けるという移動方法。

 ドライトークというのは本当に何からなにまでダイナミックなんだなぁと今更ながらにカルチャーショックを受けてしまった。


 ハードな異国の洗礼を受け、さすがのイヴちゃんもちょっとフラついている。

 シロちゃんは完全に目をまわしていた。酔っ払ったタコみたいな不思議な動きをしている。


「大丈夫、シロちゃん?」


「は、はひ……らいじょうぶ……れす……」


 呂律がまわってない。


 例によってクロちゃんミントちゃんはこたえてなさそうだった。クロちゃんは何事もなかったようにゆっくり瞬きをしているし、ミントちゃんに至っては「あーあ、もう終わっちゃったぁ」と物足りなさそうにしていた。


 ユリーちゃんは「このローリングサンダー号のスピードをもっと欲しがるたぁ、チビッコのくせに見どころあるな! よぉし帰りはもっと高い発車場からいくか!」などと勝手な約束をしている。


 不意に「あ」と声を漏らしたイヴちゃんは身体を傾けてユリーちゃんのほうを向いた。


「……ねぇユリー、ひとつ聞きたいんだけど」


「なんだよ?」


「このレールって一方通行で、向いから別のケッターがやってくるなんてことはないわよね?」


 それはさすがにないでしょ、と思っていたら、


「いや、たまにあるな」


 さらりと否定された。


「その場合どうすんのよ? どうやって止まるわけ?」


 そういえば……この乗り物ってどうやって停止するんだろう。車内を改めて見回してみたが制動装置らしきものは見当たらない。


「ケッターは止まらねーよ、来たやつをフロントにあるバンパーでブッ潰して通るまでだ」


 斜め上の回答だった。彼女は自信たっぷりに言いながらローリングサンダー号の前方を指さす。

 示されたフロント部は金属のフレームで覆われており、少々ぶつかっても大丈夫なようになっているみたいだ。


 なるほど、これならぶつかっても大丈夫……ってそうじゃない。

 気になったのは他のケッターと相対したときの対処方法が「相手を破壊する」という点についてだ。公共の交通機関とはとても思えないルールだ。


「ぶっつぶつにされたほうはどうなるの~?」


 ミントちゃんがピンポイントを突いた発言をする。舌足らずなのか「ブッ潰す」がうまく言えてないけど。


「さあな、負けたヤツのことなんか知らねぇよ。粉々になってどっか飛んでくんじゃねーのか?」


 出た、勝ち負け。

 ちょっと前まではユリーちゃんの個人的な悪癖だと思ってたけど、どちらかというとドライトークの風土に影響されたんだろうなぁと考えを改める。


 ブッ潰すのが許されているのだとしたら、この地方では敗者はどんな目にあわされても文句は言えないのかもしれない。

 まさに弱肉強食。ユリーちゃんが異常なまでに勝利にこだわる理由もわかる気がした。


 とはいえ……少なくともラマールまでは勝ち負けを意識しなくてもよい旅路になるよう祈りたい。

 せっかくイヴちゃんにおんぶしてもらってるんだから、到着までその感触を堪能していたかった。


「あーっ!? ぶっつぶつ! ぶっつぶつ!」


 突如ミントちゃんが飛び跳ねながら叫びだした。

 指さす方角から、レール上を滑ってくる何かが見えた。


「なにあの鉄のカタマリみたいなの!?」


 イヴちゃんの形容するとおり、鉄塊みたいなグレー光沢を放つボディに覆われたケッターがこちらに向かってきている。


「ゾウさんだ~!」


 ミントちゃんが動物園に来たみたいにはしゃぎだした。


 相手はローリングサンダー号の3倍くらいあり大きさ的にはたしかに象だなと思っていたが、よく見ると象のような耳と長い鼻を模したブリキ板と鉄パイプのようなものがデコレーションされている。


 ボディの側面には「アイアンエレファント号」とペイントされていた。

 ……ケッターに命名するのは一般的なのかな。


 お互いじゅうぶん目視できるくらいの距離だというのに、巨大鉄象は速度を緩める気配がない。

 さらにフロント部分が上に跳ね上がるように開き、口のようにパクパクと開閉しだした。トラバサミみたいな鋭い歯が見える。


 ……ブッ潰す気満々じゃないか!!


「ちょっと! どーすんのよっ!?」


 責めるような声でイヴちゃんが叫ぶ。


 顔が見えないので誰に向かって言っているかはわからないけど……こうしてる間にもどんどん迫ってきている。早くなんとかしないと!!

 でも皆は対向車を見つめたまま固まるばかりであった。まるでメデューサに石にされたように。


 ………………3秒ほどの沈黙のあと、私が、動いた。


「ミントちゃん、みんなのロープを切って!」


「オーッ!」


 元気よく両手とポニーテールをあげたミントちゃんは篭手に仕込まれた鉤爪をシャキンと伸ばした。

 バレリーナのような軽快なステップで通りすぎながら、私たちを繋ぐロープを次々と切断していく。


 みんなはロープを腰に巻いているだけだったので切られた拍子にほどけて自由の身となったが、私とイヴちゃんはグルグル巻きになっているせいでロープはほどけず、みのむし状態のままだった。


 ……しょうがない、これは後でなんとかしよう。

 私はイヴちゃんの横から顔をひょっこり出して皆に号令する。


「ありがとミントちゃん! じゃあみんな、ぶつかる前に飛び降りて!!」


 走ってる乗り物から飛び降りるなんてかなり危険だが、衝突に巻き込まれるよりはマシだ。

 いまケッターは森の中を走ってるから、落ちても草木がクッションになってくれるだろう。


「何言ってんだ、俺のローリングサンダー号が負けるわけねーだろ! あんなガラクタ、百メートルはブッ飛ばせるぜ!」


 肩をそびやかして断言するユリーちゃん。その自信はどこからわいてくるんだろう。

 説得しようかと思ったが、遮るようにイヴちゃんが「バカっ!」と怒鳴った。


「こんな使い捨てみたいなやつで勝負になるわけないでしょ! さっさと撤退しなさい!!」


 ああ……今のは完全に火に油を注ぐセリフだ。ユリーちゃんの顔がかつてないほどに険しくなる。

 眉間のシワが寄り過ぎて眉毛の内側どうしがくっつき、外側はぐぐっと吊り上がった。


「うるせえ! 俺は絶対に降りねーぞ!!」


 眉全体をVの字型にしながら乗り捨てを断固拒否するユリーちゃん。フチにある金属の手すりを両手でしっかりと掴み、イヤイヤと首を振る。

 ……完全に駄々っ子になってしまった。


 も、もうっ……! こうしてる間にもあのでっかいのが迫ってきてるっていうのに……!


 状況を打破するべく、私はイヴちゃんに囁きかける。

 返事はなかったが、彼女は頷くように腰を低く落とした。


 私は私自身が使えるふたつの呪文のうちのひとつ「静電気の呪文」をユリーちゃんめがけて唱える。

 バチンという衝撃音とともに手すりに極小の稲妻が走った。


 次の瞬間「あいてっ」と手を引っ込めるユリーちゃん。

 それを号砲とするかのように、イヴちゃんは怒ったイノシシのごとく突進した。


 私とイヴちゃん、ふたり分の体重が乗った体当たりがユリーちゃんに炸裂する。


「どわあああーっ!?」


 勢いよく場外にすっ飛んでいくユリーちゃん。


「ごめんねユリーちゃんっ! 下で待っててーっ!!」


 落ちていくユリーちゃんに向かって私は叫んだ。彼女にこの声が届いていることと、落ちたあとの無事を祈りながら。


 よし、モタモタしてたらはぐれちゃうから私たちも急いで飛び降りないと。


「ミントちゃんクロちゃん、シロちゃんと一緒に飛び降りて!」


 私の指示にミントちゃんクロちゃんはすぐに賛同してくれて、満面の笑顔&無表情でシロちゃんを両脇からガシッと掴んだ。

 そのままユリーちゃんが吹っ飛ばされた方角に向かい、そこから飛び降りようとする。


 連行されるシロちゃんは困り顔でキョトキョト見回していたが、


「え? え? え? あ、あの? ええっ!? きゃあああああああーっ!?」


 絹を裂くような悲鳴を残し、3人はケッターから避難した。


 飛び降りるとなると一番時間がかかりそうなのはシロちゃんだと思ったから、一番時間のかからなそうな二人に任せてみた。

 あのコンビならやってくれるとは思ってたけど、まるで連れ立ってプールに入るみたいにさらっといっちゃったよ……うーん、想像以上のためらいのなさだった。


 って、感心してる場合じゃなかった。最後は私たちだ。

 前方をチラ見したつもりだったが、目を奪われた。鉄の象がローリングサンダー号の鼻先まで来ていたからだ。


 まるで高波に飲み込まれるように、私たちは影に覆われる。


「わあっ!? い、イヴちゃん! 飛び降りてえぇぇーっ!!」


 バンパーがひしゃげるのと、イヴちゃんが駆け出したのはほぼ同じタイミングだった。

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