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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
レインボーリップ・アドベンチャー
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26 エピローグ

 駆け付けてくれたシロちゃんは、 私の顔を見てびっくりしていた。


 さんざんひっかいたのでさぞやひどいことになってるんだろう。まるでゾンビみたいになってるんじゃないかと思う。

 どんな有様なのか治療してもらう前に手鏡で確認してみたけど……たいしたことなかった。


 赤いひっかき傷がいくつか付いているだけで、別に皮膚がはがれたり肉が削げているカンジでもなかった。

 口のまわりを蚊に刺されまくったらこのくらいは掻くだろうってレベル。


 あのときの私は、なんだか凄いことをしてやるぞって気分だったからなぁ……。それでちょっと大げさに感じただけなのかもしれない。


 私のケガはたいしたことなさそうだったので、まずは倒れているイヴちゃんクロちゃんを治してもらうことにした。

 レインボーハミングバードたちは私たちのまわりをぐるっと取り囲むように止まり、治療を見守ってくれた。


 イヴちゃんは殴られまくったのかだいぶ顔が腫れていたけど、気を失っているだけだった。

 回復を魔法を受けて気が付いたイヴちゃんのトリモチを唇が伸びるかと思うほどおもいきり引っ張って剥がしてあげると、


「闘気術があれば、あんなヤツら楽勝だったのにっ!!」


 と拳と腫れた唇を震わせながら悔しがっていた。


 闘気術のせいかどうかはわからないけど、奇襲を受けたうえに闘気術も封じられたんじゃ二重に出鼻をくじかれたようなものなのかな。

 私もベルちゃんから教えてもらってなければたぶんあっさりやられていただろう。


 次はクロちゃん……と思っていたら、パチリを目をあけて何事もなかったように起き上がった。

 身体を起こしたはずみでトリモチがあっさり剥げ落ちた。「大丈夫? クロちゃん?」と聞くと、


「死んだフリをしながら唾液でトリモチの粘着力をなくし、外そうとしていた」


 淡々とした答えが返ってきた。


 やられたわけじゃなかったのか……なんとか魔法を使えるようにと彼女なりにがんばってたんだろう。

 勝手なイメージだけど、クロちゃんは死んだフリが上手そうなカンジがする。


 最後に私の治療を終えると、まわりで見ていたレインボーハミングバードたちは一斉に飛び立った。

 壊された古い巣箱にあった七色蜜の塊を次々とクチバシで砕いて、咥えて、私たちのところへと持ってきてくれた。


 私とみんなの両手は、七色蜜でいっぱいになる。


「これ……もらっていいの?」


 目の前で浮遊するハミングバードに聞いてみた。当たり前だけど返事はなかった。

 鳥たちは私たちのまわりを数回ぐるぐるまわったあと、新しい家へと戻っていった。


 落とし穴の中で見た絵本のとおり、新しい家のお礼なのかな。

 とりあえずそう思うことにして、ありがたく頂くことにする。


 私たちを心配して様子を見にきたティアちゃんパーティも合流して、一緒に喜びを分かち合った。


 それから屋敷に戻ってお風呂に入って夕食を食べたあと、馬車に乗って寮まで送ってもらった。

 二日ほどだったけど私たちのメイドとしての仕事はそれで終わりということになった。ほとんどお客さんのような扱いで、メイド長さんは別れ際なんだか不満なようなホッとしたような複雑な顔をしていた。


 寮の自室の戻ったときにはもう夜だった。

 明日は学校だけどすぐにでもリップづくりをはじめたかった。けどクロちゃんいわく七色蜜は一週間ほど水に浸けておく必要があるらしい。

 なのでその日は水を入れた瓶のなかに七色蜜の欠片を入れるだけにしておいた。七色蜜はかなり濃厚らしく蜜蝋(みつろう)にするにしても料理に使うにしても少量でいいらしい。


 ……それからの一週間は私にとっては待ち遠しかったけど、それ以上にいろいろあったので目まぐるしく過ぎていった。


 ノワちゃんが守衛さんたちと一緒に庭園のまわりを山狩りしたところ、いくつかの罠とコボルトたちの住処らしき洞穴を見つけたそうだ。

 穴の中にはたくさんのオレンジの皮やレインボーハミングバードの羽根、トラップツールなどがあった。


 コボルトたちはオレンジ好きなようで、それでオレンジ農家が集中的に被害を受けてたのかもしれない。

 ……今回のコボルトといい、以前倒したゴブリンといい、モンスターというのは果物が好きなんだろうか。


 なんにしてもコボルトたちはレインボーハミングバードが果物を集めるという習性を利用し、作物荒しの罪を着せようとしていたのではないだろうか。

 オレンジの樹のまわりに散らばっていた羽根は偽装工作の一環だったんだろう。

 

 さらには庭園内に罠をしかけて、それもレインボーハミングバードが仕掛けたように見せかけた。

 落とし穴のまわりにあった羽根を見てもいまいちピンとこなかったけけど、そう考えると納得がいく。


 ……コボルトたちにとって誤算だったのは、鳥は罠をしかけないということを知らなかったことだ。

 彼らは罠を仕掛けるだけの器用さと知能はあっても、鳥はどちらも持ちあわせてはいない。


 で、なんでそんなことをしたかというと……これは私の予想だけど、レインボーハミングバードを悪者にしたてあげて村の人たちに駆除してもらうと考えていたのかもしれない。


 それで村の人たちにレインボーハミングバードを倒してもらったあと、巣箱から七色蜜を取るつもりだったんじゃないだろうか。


 私の推理を聞いていたベルちゃんはポンと手を打って、


「庭で練習してたら茂みのとこから2匹の犬が顔出してこっちをじーっと見てるってコトがよくあったんだよね。またあの犬いるなぁと思うくらいだったんだけど、ありゃコボルトだったのかぁ」


 なにやら思い当たるフシを話してくれた。


 ……なるほど、どうりでコボルたちはベルちゃんソックリの攻撃をしてきたわけか。

 彼女の練習風景を見て技術を身に着けたんだろうなぁ。


 ティアちゃんは庭園の警備強化を宣言し、さらにはレインボーハミングバードの保護も約束してくれた。 


 それから、いっぱいもらった七色蜜をみんなで手分けしてツルーフの村の人たちにおすそ分けした。

 そのときついでにレインボーハミングバードの誤解を解くことも忘れなかった。


 私たちが……あ、いやいやレインボーハミングバードたちがコボルトを倒してから、村の作物被害はパッタリと止んだらしい。

 もともと果物を鳥が食べるのには寛大だった村の人たちはレインボーハミングバードを受け入れてくれるようになった。


 いろいろあったけど……めでたしめでたし、かな?


 そして一週間後の今日、七色蜜の準備ができたのでリップ作りをすることにした。

 巣箱作りの時と同じようにみんなとティアちゃんパーティも手伝ってくれた。


 場所はレインボーハミングバードの新しい家の側にある木陰。

 もう鳥たちとはすっかり仲良しだ。布の下敷きを広げて腰かけると、早速飛んできて私たちの頭や肩に止まった。


 あまり動かないクロちゃんが特に好評で、まさしく止まり木と化した彼女は黒いローブに鳥たちを鈴なりに身に着けていた。

 こんなに派手な見た目のクロちゃんを見たのは初めてかも。


 リップ作成の手順はクロちゃんが知っていたので、七色に彩られた彼女に指導を受けながら作業を行うことにした。


 まずは蜜蝋(みつろう)作り。

 これはお湯に七色蜜を入れて、ろ過すればいいだけでらしく簡単にできた。


 次にママのプレゼントに入っていた瓶の薬品を容器のなかで混ぜ合わせ、できたての蜜蝋(みつろう)を加え、アルコールランプで熱する。


 よく混ざった液体を、木筒の中に入れて……あとは固まれば完成。


 ……作るのは思ったより簡単だった。

 というか、レシピもあったしレインボークロちゃんが指導してくれたし、みんなも手伝ってくれたおかげなんだけど。


 固まるのを待っている間、シロちゃんが作ってきてくれたお弁当を食べようということになった。

 シロちゃんはフルーツも持ってきていて、レインボーハミングバードたちにも振る舞っていた。


 お弁当はティアちゃんパーティにも好評だったし、鳥たちも喜んでくれたようだった。

 モリモリ食べるベルちゃんと、ぎこちなく飛びながらフルーツをついばむ仔バードたちがなんだか微笑ましい。


 今日は天気もいいし、その下でみんなと食べるお弁当もおいしいし……もうほどんとピクニックだ。

 まぁ、シロちゃんがお弁当を持ってくるって聞いた時点でこうなるのは予想済。だから食後の紅茶はとっておきのを持ってきてるんだ。


 フランちゃんに魔法で火をつけてもらってお湯を沸かしてもらう。

 フルーツ香る庭で飲むお茶ということで、桃の紅茶を淹れてみた。


 シロちゃんが「これ、お茶うけに……」と七色蜜とツルーフの村の果物をいっぱい使ったフルーツタルトを出してくれた。

 リップ用と同時に水に戻していた七色蜜を使って、彼女がお弁当と一緒に朝から作ってくれていたらしい。


 これには「待ってましたっ!!」とイヴちゃんが一番喜んでいた。


 早速みんなで食べてみた。私は七色蜜を食べるのはこれが初めて。

 七色蜜はもともと果物をブレンドしたものだけど、それが新鮮なフルーツとあわさって……すっごく美味しかった。


 ひと口食べるとまずは果物のジューシィな歯ごたえ。弾けるような甘味と酸味が広がり、そのあとサックリした生地の食感。七色蜜のコクのあるまろやかな甘味が広がる。

 すごい……みずみずしい果物の甘さと、まったりとした果物の甘さ……10種類くらいの果物をいちどに食べてるようなものなのに、全然イヤなカンジがしない。


 私のなかのデザート史に間違いなく1位に輝く味……いや、お味だった。


 おやつタイムを終えてリップを確認すると、固まっているようだった。

 木筒の下から押し出すと、マーブル模様でキラキラ輝くリップが顔を出した。


 この色……この香り……まぎれもない。

 ついに……ついに待望の『ママのリップ』が完成したっ……!!


「よぉし! じゃあ塗ってみよっか! みんなもやるよね?」


 わたしの前でリップの先端を見つめていた16の瞳に向かって問う。


「アタクシはリリーさんの次で結構ですわ。塗ってくださいませんこと?」


「なんでアンタがリリーの次なのよ、それにもう専属メイドでもなんでもないでしょ」


「ミントもリリーちゃんのつぎがいい! ぬってー!」


「あたしも! 塗って、リリー!」


「……自分も」


「塗ってほしいの」


 反応を見るかぎり塗ってくれるようだったが、なぜかみんな私の次がいいということで私が最初に塗ることになった。

 さらにクロちゃんのアイデアで、私が塗ったあと私が他の誰かを塗り、また私が塗り、次の人を塗る……とすればみんな私の次に塗れるということで、それが採用された。


「じゃあせっかくだから……塗りっこしよっか!」


 提案するとみんなは、というか特にティアちゃんが賛成してくれたので順番に塗りっこするこにした。


 最初はミントちゃん。

 私は脚を伸ばして「じゃあ、膝に乗って」と言うと、


「うんっ!」


 ミントちゃんは元気な返事とともに私のヒザに飛び乗ってきた。


「なんでヒザに乗るのよ」


 すかさずイヴちゃんが突っ込んでくる。


「私はいつもそうして塗ってもらってたから」


 ママがリップを塗ってくれるとき、私はいつも膝の上に乗ってたんだ。


 まずはミントちゃんにリップを渡すと、まるでクレヨンで私の顔に落書きするみたいに楽しそうに塗ってくれたい。

 だいぶはみ出したんじゃないかと思うけど……そんなことよりも……潤った唇の感触に、私の中で何かが爆発した。


 ママとの思い出が水風船のように膨らみ、はじけ、溢れる。

 押しとどめられなくなったそれは涙となって、私の頬を伝った。


「リリーちゃん、ないてるの?」


「あ、な、なんでもない……つい懐かしくなっちゃって。塗ってあげるね、ミントちゃん」


 あわてて頬を拭い、リップを受け取る。

 ミントちゃんの小さな唇にリップの先端を当て、塗り込んであげると、


「……ふぁあ、きもちいぃ~」


 幼い顔をうっとりさせた。その反応もなんだか懐かしい。

 まるで昔の私を見ているみたいで、なんだか嬉しくなった。


 それから次々と私のヒザに座ってもらって塗りっこをした。


 ティアちゃんはキスするみたいに唇を突きだしてくるのを塗った。


 ベルちゃんは塗った瞬間「いいねー! これ!」といっていつも以上にテンションが高くなった。


 クロちゃんは気持ちよいのかいつも以上の薄目になった。


 フランちゃんは酔っぱらったみたいにトロンとした目をした。ちょっとドキッとした。


 シロちゃんは見ているだけだったが誘うと遠慮がちに塗ってくれて、塗らせてくれた。


 リアクションは様々だったけど……みんなは気に入ってくれたようだ。

 でも……みんながホワホワとしているなか、ひとりツンツンしてるのがいた。


「あれ? イヴちゃんはいいの?」


「あ……アタシはいいわよ別に」


「えーっ」


「えーじゃないの。…………ま、まぁ、アンタがどーしても、って言うなら、塗ってあげなくもないけど」


「どーしてもお願い! イヴちゃん!」


 私は即お願いした。だってこのリップ、イヴちゃんにも塗ってほしかったから。


「しょっ、しょーがないわねぇ、そ……そこまで言われて断ったらアタシの性格が悪いみたいじゃない……特別、特例、特赦で今回だけだからね?」


 なんだかいろいろ言いながら、イヴちゃんは私のヒザの上に腰掛けた。

 リップを渡すと「アンタ、唇テッカテカねぇ」なんて言いながらさらに重ね塗りしてくれた。


 イヴちゃんの唇にも塗ってあげると、彼女はほぅとため息をついたあと口元に笑みを浮かべた。

 このリップの良さがわかってくれたのが抱っこしようとしたら「調子に乗るんじゃないわよっ」と押し返された。


 押されたはずみで大の字に寝ころぶ私。


 イヴちゃんには拒絶されちゃったけど……身体の中からホンワカしてきて……とっても幸せな気分。

 まるでママに抱っこされているみたいで……心が安らぐ。


 なんだか……眠く……なってきちゃった。


「ふぁぁ……眠そうなリリーみてたらなんだかあたしまで眠くなってきちゃった……」


「ミントもぉ~」


「なんだか……あったかいの」


 みんなもアクビをしながら次々と寝そべる。見守っていたシロちゃんもミントちゃんベルちゃんコンビに引きずりこまれるようにして横になった。


 瞼を閉じる。誰かが腰に抱きついてきて、肩を枕に寄り添ってきた。たぶん……クロちゃんだ。

 すかさず反対側にも誰かが寝て、しがみついてきた。鼻息が荒い……たぶん、ティアちゃんかな。


 応えるように身体をくっつけると、もっと素敵な気分になった。


 私たちは頬を寄せ合って……幸せな気分に浸りながら……お昼寝をはじめた。

「レインボーリップ・アドベンチャー」完結です。

拙い文章を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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