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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
レインボーリップ・アドベンチャー
52/315

21

 みんなで庭師小屋までやってきた。私はさっそく小屋の扉をノックする。

 すぐさま「入っていいの」と中から声が聞こえた。


 扉を開けると……全身に糸がからまっているノワちゃんが床に転がっていた。


「ど、どうしたのノワちゃん!?」


 慌てて駆け寄る。


「……助けてほしいの」


 さんざん糸と格闘してきたのか、疲れた表情で助けを求められた。

 一体なにがあったらここまで糸まみれになるんだろう。まるでカイコのマユみたいになっている。


 テーブルの上にはフランちゃんが着ていたであろうレインボーハミングバードの着ぐるみが置いてあり、その横には木箱があった。

 箱は裁縫道具入れらしく、中にハサミもあったのでそれを使ってぐるぐる巻きの糸を切った。


「どうしたの? 巨大グモにでもやられたの?」


 呆れた様子のイヴちゃんが見下ろしながら問いかけると、


「破れたのを繕おうとしてたの」


 糸を払いながら立ち上がるノワちゃん。

 ……なんだ、裁縫をしてただけなのね。


 樹木の修復は樹医顔負けの腕前だったが、裁縫は自縄自縛するほど苦手だったのか。

 まぁ……私も得意なほうじゃないけど。


 シロちゃんにお願いして、着ぐるみの裂けたところを繕ってもらうことにした。

 その間、私はノワちゃんに質問する。


「あの、私とフランちゃんが落ちた穴のことなんだけど……ここの庭にはああいうのが他にもあるの?」


「あんなのは初めて見たの」


 口調は呑気だったが、即答だった。

 やっぱりそうか……この庭園に罠なんてあったら、庭師であるノワちゃんがほっとかないよね。


 シロちゃんの修繕が終わったあと、私はノワちゃんにレインボーハミングバードの着ぐるみを5着貸してほしいと頼んだ。

 ノワちゃんは「わかったの」と頷くと、小屋の奥にあるクローゼットみたいなところから着ぐるみを引っ張りだしてくれた。


「なぁに、これを着ろっていうの?」


 テーブルの上に並んだカラフルな着ぐるみを見ながら、イヴちゃんは顔をしかめた。


「うん。これを着ていけばレインボーハミングバードに仲間扱いしてもらえるかなと思って」


「そんなワケ……」


「ないの?」


「……ないこともないかもしれないわね」


 この着ぐるみは同じ動物相手なら仲間だと思ってもらえるって、ノワちゃんが言ってた。

 私も何度か巨大生物だと誤認させられちゃったけど、そのくらいには精巧にできている。


 イヴちゃんは一度ウサギの着ぐるみを着ている。

 その彼女が「ないこともない」というのであれば、やっぱり作戦としては「あり」なんだ。


 ポジティブにそう判断した私は、


「じゃあ、これに着替えてレインボーハミングバードのいる池まで行こう!」


 みんなに高らかに提唱する。


 「おおーっ!」と元気な返事をしてくれたミントちゃんは早速、「ミント、これがいい!」と着ぐるみを抱きしめていた。

 クロちゃんも言葉なく着ぐるみに手をのばす。


 イヴちゃんは一度着て効果を実感しているせいか、ブツクサ言いながらも赤いのを選んで着替えだした。


 あ……もしかして、シロちゃんはこういう格好恥ずかしがるかな?

 チラッと彼女の様子を伺う。


 シロちゃんはミントちゃんの着替えを手伝ったあと、自身も橙色の着ぐるみを身につけ、


「いかがですか? レインボーハミングバードさんに見えますか?」


 羽根をパタパタさせつつよちよち歩きで私のところに見せに来た。

 着ぐるみに長いクチバシがついてるというのに、わざわざ口のほうにも短いクチバシをくっつけている。

 シロちゃんにしては珍しくはしゃぎ気味で、なんだかこの状況を楽しんでいるようだ。


 あ……わかった。彼女の恥ずかしさは格好云々よりも肌の露出に比例するのかもしれない。

 水着やドレスは恥ずかしがってたけど、それらに比べたら肌の露出は皆無に近い。


 まぁなんにせよ楽しんでもらえてるならいいか……なんて思っていたら、横からツンツンと突かれた。

 見ると、紫色のレインボーハミングバードが立っていた。


「……」


 正体はクロちゃんだった。水飲み鳥のごとく首を振ってクチバシを動かし、しきりに私を突いている。


「なに? クロちゃん」


「…………」


 声をかけると、無言の上目遣いで私を見た。

 ウサギの時と同じく格好について問われている気がしたので「かわいいね」と言うと頷かれ、その拍子に一回だけコツンと突かれた。


「ちゅんちゅん!」


 続けざまにミントちゃんが抱きついてきた。

 フランちゃんが着ていたのと同じ、緑色の着ぐるみを身にまとっている。


 ……もしかして、ミントちゃんは緑色が好きだってフランちゃんは知ってたのかな。


「ちゅんちゅん! みてみてちゅん!」


 それは鳴き声のつもりなんだろうか。なんだかスズメっぽい。 


「……レインボーハミングバードってそんな鳴き声ちゅん?」


 せわしなく動く頭をなでなでしながら、マネして聞いてみると、


「わかんないちゅん! ちゅんちゅん!」


「……ちゅんちゅん」


「ちゅ、ちゅんちゅん」


 感化されたのか、隣にいたクロちゃんシロちゃんも一緒にちゅんちゅん言いだした。

 イヴちゃんまでもが「バカなことやってないでさっさと着替えるちゅん!」などと言い出したのでそろそろ準備をすることにする。


 残った、というかみんなが私の好みを察して残してくれた青い着ぐるみを着用。

 せっかくなのでクチバシも口にはめた。


 青・赤・緑・橙・紫……準備完了した5匹の巨大レインボーハミングバード。

 ノワちゃんから「まだ他にも罠があるかもしれないから、気を付けるの」と見送られ、私たちは池に向けて出発した。


 着ぐるみを着るのは初めてだったけど……これはなかなか歩きにくい。

 列になってよちよち、よたよたとペンギンみたいに行進。


 途中シロちゃんがバランスを崩して倒れてきて、ドミノ倒しみたいになったけどなんとか池に到着することができた。

 例の巣箱は初めて見たときと同じ位置にあり、私たちは草陰から遠巻きに様子を伺った。


 この作戦は半分思い付きみたいなもので、成功するかどうかの保証はどこにもない。

 しかもこの格好で襲われた場合……間違いなく逃げられないだろう。


「……ホントに大丈夫かな?」


 色とりどりの仲間たちに向かって不安を漏らすと、


「まずは言いだしっぺのアンタが行ってきなさいよ」


「え、ええ~っ、ひとりで?」


 赤バードは容赦ない。


「……被害は最小限にとどめるべき」


「それはそうなんだけど……」


 紫バードは冷静。


「がんばってー、リリーちゃんならだいじょうぶだよ!」


「ひ、人ごとだと思ってぇ~」


 緑バードは楽天的。


「あの……私も一緒にまいりましょうか?」


「ほ、ホントに?」


 橙バードはやさしい。


「何言ってんの、アンタがやられたら誰がリリーを治すのよ」


 でも赤バードに遮られた。


 みんなが揃って私の決断を待っているようだったので、


「……ええい、わかった! 行ってくる!」


 私はカラ元気と共に立ち上がった。


 袖まくりをしようと思ったけど袖がなかった。

 せめてフリだけでもと思って羽根先で二の腕あたりをさすって気合いを入れる。


 仲間たちに見送られ、私は草陰から飛び出す。

 草をかきわけかきわけ、巣箱に近づいていく。


 ただでさえ歩きにくい着ぐるみなのに、草がからみついてきて更にままならない。 

 前に進むたびにガサガサと草が鳴る。


 その音に反応したのか、巣箱の穴から本物のレインボーハミングバードたちが顔を出した。


 複数のつぶらな瞳に見つめられて、私は固まってしまう。

 以前見た、蜂の巣をつついたみたいな光景が頭をよぎる。


 ……このまま進んで大丈夫だろうか?


 後ろを向くと、草の間から偽物のレインボーハミングバードたちが顔を出している。

 羽根をしっしっと動かし、さっさと行けと急かす赤バード。


 うぅ……イヴちゃんの鬼ーっ!!

 私は心の中で叫びながら、ままよとばかりに大きく一歩を踏み出した……つもりだったが、足に草が絡んでバランスを崩してしまう。


「どわあっ!?」


 豪快にすっ転んでしまい、勢いよくドッスンと地面に投げ出されてしまった。


「あいたたた……ひいっ!?」


 天を仰いだ私の目に映ったのは、巣箱から飛び出した……おびただしい数の小鳥。


「り、リリーーーーーーっ!!!!」


 草木を揺らすほどの絶叫とともに、猛然と草むらから駆け出る赤バード。後に続く緑橙紫バード。


 その叫びもむなしく、鳥たちはまるで花びらの嵐のように降ってきて……倒れた私の身体はひとたまりもなく飲み込まれた。


 や、やばい、終わった……!!

 ああ、あのクチバシに突かれて死ぬのって、どんだけ痛いんだろう……。


 私の視界が極彩色の羽根に覆われ、次々と重なり、塗りつぶされていく。……やがてそれは、暗黒へと変わった。

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