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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
レインボーリップ・アドベンチャー
44/315

13

「こんな悪趣味な部屋に呼び出して、一体何の用?」


 イヴちゃんはのっけから喧嘩腰だった。


 彼女はこの屋敷に来てからずっと機嫌が悪かったけど、池のほとりでお話して少しはマシになったようだった。

 でもティアちゃんの部屋に入った途端、また虫の居所が悪くなったようだ。


 シロちゃんの膝上で寝ていたふたりもその雰囲気を感じたのか、目を覚ました。


「ふぁ~っ、よく寝たぁ」


 起き上がって、大きく伸びをしたベルちゃんは、


「膝枕ってはじめてだったけど、すっごくイイね!」


 早速シロちゃんの膝枕を絶賛しだした。


「でしょぉ~!」


 膝枕常連のミントちゃんが嬉しそうに応じる。


 ふたりは同じタイミングで提供主のほうを見て、


「「サンキュー!」」


 太陽のような笑顔を同時に炸裂させていた。


「はっ……はひっ!? おっ、お……お粗末様でしたっ」


 シロちゃんはお礼を言われてびっくりして、あわてて頭をさげていた。


 ベルちゃんがこっちに気付くと、


「あ、リリー! やっと来た! 待ちくたびれて寝ちゃったよ!」


 庭で見たのと同じ、爽やかな笑顔を向けてきた。

 殺伐としかけていたところでベルちゃんの笑顔が見れて、ちょっとホッとしてしまう。


「ごめんベルちゃん。みんなが待ってたなんて知らなくて」


 もちろんその言葉はソファに座るベルちゃんに向かって言ったものだったが、反応したのはその先にいるティアちゃんだった。


「……ベルちゃん?」


 聞き捨てならぬ、といったいぶかしげな口調で割り込んでくる。


「へへー、いいでしょ? リリーがつけてくれたんだ」


 私のかわりにニコニコしながら答えるベルちゃん。そんな満面の笑顔で言われるとなんだか照れる。


「ちょ、いつのまに!?」


 ティアちゃんは急に大声をだして、書斎机にバンと手をついて勢いよく立ち上がった。

 目を見開いて、だいぶ動揺している。


 いまの話にそんなショッキングな要素なかったと思うんだけど……なにをそんなに驚いてるんだろう?

 なんて思っていたら、


「そんなことより、早く用件を言いなさいよっ!!」


 ほったらかし状態だったイヴちゃんがティアちゃん以上の大声で突っ込んできた。

 闘気術の使い手だけあって、彼女の声はよく響く。


 コホン、と咳払いをしたティアちゃんはすぐに落ち着いて、


「……お待ちなさい。フランフランさんがまだですわ」


 いつもの鷹揚とした口調に戻った。


 あっ……! それで思い出した……フランフランさんのこと、探すの忘れてた……!


「あの、そのコトなんですけど……」


 私はみんなを見渡しながら切り出す。再び注目が集まったので、書庫であったことをみんなに話した。

 おかしな出来事だったので信じてもらえるかわからなかったけど、ティアちゃんのパーティメンバーは納得しているようだった。


「あの子は人見知りがとっても激しいの」


 最初に反応したのはノワセットさん。


「ワタクシたちもパーティ結成当初は苦労しましたわ」


 しみじみ言うティアちゃん。


「フランフランはほっといてる間はイイんだけど、自分に意識を向けられてるとわかると逃げだすんだよねー」


 苦笑いのベルちゃん。


 ……そうだったのか。

 書庫で私がフランフランさんに声をかけたとき逃げられたのは、人見知りによるものだったのか。

 でも意識を向けられると逃げだすって……スズメみたいだ。


「でも小さい子は平気みたいなの」


「不思議だよねー」


「むしろ子供が相手だと、とてもお喋りになるみたいですわ」


 子供は平気……?

 なるほど、そうか、それでミントちゃんとはあんなに盛り上がってたわけか。


 私は思わずウンウン頷いてしまった。

 ひとり納得しながらふとイヴちゃんのほうを見ると、


「…………」


 目が据わっていた。


「えっと、じゃあそろそろ用件のほうを」


 今にも爆発しそうだったので、私はあわててティアちゃんに促す。

 頷いた彼女は机から離れると、


「まずは……掃除と洗濯、ご苦労でしたわ」


 優雅な足取りと口調でこちらに近づいてきた。


 ……私は洗濯はやってない。掃除も窓ふきをやったただけだ。

 やったのはほとんどシロちゃんクロちゃんなんじゃないだろうか。


 ゆっくりと私の前まで歩いてきたティアちゃんは、またコホンと軽く咳払いをした。

 いよいよ用件かと待ち構えていると、


「わっ、ワタクシたちの専属メイドになっていただきますわ」


 なぜか緊張気味の、裏返り気味の言葉が飛び出した。

 さっきまであんなにエレガントだったのに、どうしちゃったんだろう。


 でも用件に関しては疑問はなかった。もともと私たちが勝ったときにはティアちゃんが専属メイドになるっていう話だったし、逆に彼女がそれを望んでも、おかしな話ではない。


「よ……よろしいですわね?」


 ティアちゃんの確認の言葉。しかし終わりかけのところに食い気味で、


「い!! や!! よ!!」


 イヴちゃんが、まるで爆弾が爆発したかのような轟声をあげた。彼女の隣にいた私は思わずビクッてなってしまう。

 ソファに座っていたシロちゃんは私以上にびっくりしたようで、まるで落雷でもあったかのように肩をすくめている。


「もういちどアタシと勝負なさい! 今度は1対1よ!」


 イヴちゃんは一歩前に出て、ティアちゃんにひとさし指を突き付けた。


「……ワタクシは忙しい身。結果がわかっていることにお付き合いするほど暇ではありませんの」


 イヴちゃんを一瞥もせず答えるティアちゃん。さっきまでの緊張は微塵も感じさせない。


「大丈夫、すぐ済むわ……今ここで叩きのめしてやるんだから!!」


 言うや否やボクシングのようなファイティングポーズをとるイヴちゃん。

 すごい剣幕だけど、ティアちゃんは一歩も引く様子はなく、


「素手なら勝てるとお思いになって?」


 身体を斜めに向け、同じく構えをとった。


「おっ? 異種格闘勝負?」


 対峙するふたりを見て、目を輝かせるベルちゃん。

 隣ではオロオロするシロちゃんと、キョトンとしているミントちゃん。


 クロちゃんとノワセットさんは興味がないらしく、チェスの続きをはじめた。


 えーっと、えーっと、どうすればいいんだろう?

 ……って、考えるまでもない!


 私は慌ててふたりの間に割って入った。


「ちょ、やめて! イヴちゃん! それに、ティアちゃんも!」


 イヴちゃんは構えを崩さす、ティアちゃんを睨み続けている。

 ティアちゃんはなぜか、ハッとした表情で私を見ている。


「……ティアちゃん?」


「あ……」


 しまった。つい心の中限定の呼び名が出てしまった。

 彼女は怒っている様子はなかったが、じっとこちらを見ているので何か言わなきゃと思い、


「えーっと、私が考えたマンゴスティアさんのアダ名なんだけど……ダメ?」


 私なりに刺激しないような言葉を選んだつもりだったけど……次の瞬間、ティアちゃんはものすごい勢いで背中を向けた。

 彼女の表情はわからなくなったが、


「あーっ、赤くなってるー」


 向こう側にいるベルちゃんがからかった。


 縦ロールのツインテールのスキマから見える耳の後ろが、真っ赤に染まっていた。

 ホントだ。赤くなってる……もしかして、怒ったのかな?


「ご、ごめんねマンゴスティアさん!」


 私はあわてて彼女の正面に回り込もうとしたが、逃げるように旋回され、また背中を向けられた。

 ああっ、やっぱり怒ってる……! どうしようか迷っていると、


「リリー、マンゴスティア……いや、ティアは怒ってるわけじゃないよ」


 ベルちゃんが私のつけたアダ名を採用しつつ、助け舟を出してくれた。


「ね、ティア?」


 ベルちゃんが背中に向かって問うと……ティアちゃんは無言のまま、こくこく頷いた。

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