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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
レインボーリップ・アドベンチャー
36/315

05 メイド

 窓の向こうには、果物のなる木あふれる庭が広がっていた。

 夢の中みたいにキレイなその庭園を見ながら、私は改めて現実をかみしめる。


 …………。


 結論からいうと、模擬パーティ戦闘は敗北した。

 というか、惨敗だった。

 さらにいうと、瞬殺だった。


 相手はマンゴスティアさんのほかに、アーチャー、魔法使い、モンクというパーティ構成。


 まずアーチャーの狙撃で呪文を唱えるヒマもなくシロちゃんとクロちゃんがやられ、魔法使いのマジックアローでイヴちゃんがやられた。

 マジックアローは誘導性があり、かわすのはまず無理とされている魔法弾。それをいちどに2発も撃ってくるものだからたまったもんじゃない。


 しかしもっと驚いたのは、ミントちゃんはその魔法弾をことごとくかわしていたこと。

 これには相手パーティもまわりで見ているみんなもかなりびっくりしていた。……結局はアーチャーとの連携攻撃でやられちゃったけど。


 最後に残った私はモンクの子に斬りかかったんだけど腕を取られ、投げ飛ばされ、抑えつけられ……それで、終わり。


 こっちは5人、相手は4人という人数差があるにもかかわらず、私たちは一撃も与える間もなく全滅させられた。

 しかも、マンゴスティアさんはいちばん後ろで指示出しをしているだけで、武器も抜いていなかった。

 実質5対3だったというわけだ。


 これはイヴちゃんには相当ショックだったようで、おねだりする駄々っ子みたいに床を転げまわって悔しがっていた。

 対照的にマンゴスティアさんは天に轟くほどの見事な高笑い。


 ハタから見てるとどっちも子供みたいで……ちょっと可愛いなと思ってしまった。

 なんだかマンゴスティアさんにも親しみが持てたので、これからは心の中限定でティアちゃんと呼ぶことにしよう。


 地面を七転八倒したせいで土まみれになったイヴちゃんをキレイにしたあと……早速ティアちゃんの『言うことをなんでも聞く』が発効した。


 勝ったティアちゃんの要求は「ワタクシの家でメイドとして働くこと」だった。

 これにイヴちゃんは全力で拒否していたが、そもそもイヴちゃんが勝った場合も似たようなことを要求していた点を指摘され、しぶしぶ承諾させられていた。


 それから私たちは馬車に乗せられ、ツルーフの村へと連れていかれた。

 村には何度か行ったことがあって、はずれに果樹に囲まれたステキな屋敷があるなあと思ってたんだけどそこがティアちゃんの家だった。


 屋敷は2階建てで大きく、馬車ごと中に入ったのでびっくりした。

 中の通路は馬車が通れるくらい広く、天井も高かった。

 馬車の通路は石畳になっていて、奥へ奥へと入っていくと吹き抜けの広い場所に出た。


 そこでティアちゃんから馬車から降りるように言われ、降りたところにメイド服を着た初老のおばさんが待っていた。

 ティアちゃんそのおばさんに「あとはよろしくお願いしますわ」とだけ言って去っていった。


 おばさんはこの屋敷のメイドを仕切っているメイド長さんで、


「これからあなた方には私の指導のもと、このお屋敷のメイドとして働いてもらいます」


 と言われた。


 私たちは……これからどうなるんだろう。

 蜜蝋(みつろう)が欲しかっただけなんだけど、なぜかメイドとして働くことになってしまった。


 でも、まぁ……いいか。

 目的の村には着いたんだし……少しづつだけど、前進してるよね。うん。


 …………。


 そして今……私たちはお屋敷の2階廊下で、外の庭園を眺めながら……窓ふきをしている。


 廊下には私のほかに、脚立に登って高いところの窓ふきをしているミントちゃん、飾ってある装飾品にハタキがけするイヴちゃんとクロちゃん、テキパキと床にモップがけするシロちゃんがいる


 みんなは黒いワンピースに白いエプロンドレスをあつらえた……いわゆるメイド服を着ており、その服装のイメージとはかけ離れた死んだ魚のような目で掃除をしている。

 ミントちゃんとシロちゃんだけは例外で、なんだか楽しそうだった。


 甲高い音がしたので見ると、私の横で高そうな置物のツボにハタキがけするイヴちゃんが。

 ハタキを乱暴に動かしているので、柄の部分がツボに当たってカンカン鳴っている。


「ねぇ、イヴちゃん」


 掃除というより打楽器を演奏しているかのような彼女に声をかけると、


「あによ」


 あからさまに不機嫌そうな反応がかえってきた。


「マンゴスティアさんとずいぶん親しいカンジがしたんだけど」


 「友達なの?」と続けようとした直前、


「誰がよ!!」


 大声で遮られた。


「アイツはね、戦争のときに一番うしろでふんぞりかえってるような家の人間なのよ!!」


 キッとこちら向いたイヴちゃんは、ハタキの柄の両端を持ってワナワナ震えている。


 ……それを聞いて、ふたりの関係が少しわかったような気がした。


 イヴちゃんの家は、戦争時代に最前線で活躍した貴族だって聞いたことがある。

 だから私たちパーティでも、イヴちゃんは先陣きって敵に突っ込んでいく。

 きっとそういう風に育てられてきたんだろうな。


 ここからは想像だけど……ティアちゃんの家は一番後ろで指揮をとって、戦争時代に活躍したんだろう。

 私たちと模擬戦闘したとき、ティアちゃんは一番後ろでパーティメンバーに指示を出していた。


 お金持ちの関係というのはよくわからないけど……家柄からくる不仲なのかな。


「ダイダイアダジダヂニガッダノモダンナルグウゼンダッデノニ」


 目の前のイヴちゃんは興奮のあまり歯を鳴らしながら何か言っている。

 歯ぎしりと同じくらいギリギリいってるハタキの柄は、彼女の力でアーチ状になっちゃってる。


 イヴちゃんの思い出し怒りはとうとうピークに達し、南国の鳥みたいな叫びとともにハタキをヘシ折ってしまった。


「ああーっ!?」


 とみんなで大騒ぎしていると、


「……なにをしているのですか?」


 いつのまにか後ろに誰かが立っていた。


 折れたモップをみんなで隠しながら振り向くと、メイド長さんが立っていた。


「まだ休憩時間ではありませんよ、早く仕事に戻りなさい。メイドたるもの……」


 初めて挨拶したときに聞かされた長いメイド講義がまた始まりそうだったので、私たちは一目散に掃除に戻る。


 がむしゃらに窓を拭いていると、映り込んだメイド長さんと目が合った。


「リリームさん。それと……キャットミントさん、あなたたちには別の仕事があります」


「は、はい! なんでしょ?」


 慌ててメイド長さんの方に向き直ると、


「敷地内にいるシトロンベルさん、ノワセットさん、フランフランさんを探してお嬢様の部屋に行くよう伝言してください」


 丁寧だけど厳しい口調で伝えてくるメイド長さん。

 要はお使いかな。お嬢様というのはティアちゃんのことだろうけど、他は初めて聞く名前だ。


「……えーっと、誰ですか?」


 我ながら気の抜けた声で尋ねる。

 メイド長さんの眉間のシワがさらに深くなったような気がした。


「お嬢様のご学友です」


 ゴガクユウ? あ、友達のことか。


「……あちらがシトロンベルさんです」


 さっきまで私が拭いていた窓に顔を向けるメイド長さん。

 視線を追うと……庭のすみっこでカカシ相手にスパーリングをする女の子の姿が見えた。


 あ……あの子はティアちゃんのパーティメンバーじゃないか。

 私を投げ飛ばして、抑えつけたモンクの人。


 今思い出してもアレは痛かったなぁ……でも、誰を探せばいいのかは理解できた。


「わかりました。ティアちゃ……マンゴスティアさんのパーティメンバーの人を呼んでくればいいわけですね」


 脳内限定の呼び名がつい出そうになったが飲み込んで、メイド長さんに確認すると「その通りです」と頷かれた。


 脚立の頂上にいるミントちゃんに声をかけると、跳躍したミントちゃんは空中で三回転くらいして私とメイド長さんの隣に着地した。


 彼女ならではの即席曲芸。

 私たちは見慣れているので何とも思わなかったが、メイド長さんは目を見開いて驚いている。


 「行こっ、ミントちゃん」


 メイド長さんのお小言が来そうな雰囲気だったので、ミントちゃんの手を引いてお使いに出発した。


 私とミントちゃんの背後からは、


「イヴォンヌさん、あなたは折ったハタキの修理です。庭師の所にいきなさい」


 メイド長さんからの次の指示が飛んでいた。

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