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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
レインボーリップ・アドベンチャー
35/315

04

 休日で人気のほとんどない図書館。

 この閲覧席コーナーも普段は読書や勉強をする女の子たちでいっぱいなのだが、今は誰もいない。


 私は誰もいない早朝の寮で感じた、寂しいようなそれでいてワクワクするような、そんな妙な気分になりながら……館内で借りてきた地図を広げた。


「えっと……どこに探しにいこうか?」


 そして、みんなに尋ねる。


「生息地はツヴィートークからアイントークまでと書かれております」


 私が持ってきた図鑑を熱心にメモするシロちゃんが言った。


 私たちがいる街ツヴィートークはバスティドの西側にある。

 ここから遥か東……島の中央にあたる場所に、統治者である女王様がいる王都ミルヴァランスがある。

 さらにそこから東にずーっと行ったところにアイントークがある。


「なんだ、わりと広い範囲にいるんじゃない」


 イヴちゃんは地図上にあるツヴィートークに指を這わせ、島を横断するようにアイントークまでスーッとなぞった。


 私たちのいるツヴィートークが生息地の西端だとすると、東に向かって探せばいいことになる。


「とりあえず、東に行けばいいんだよね」


 とは言ってみたものの、それでも範囲が広い……もっと手がかりないかな。


 う~んと唸っていると、肩先くらいの高さで手を挙げたシロちゃんが、


「あの……果物のありそうなところを探すというのは、いかがでしょうか?」


 手の高さと同じくらい控え目な声量で提案してくれた。


「……くだもの?」


「レインボーハミングバードさんは7種類の果物を集めるそうですので……」


「そっか、料理本にそんなコト書いてあったね! なら果物の多そうなトコロを探そう!」


 地図に再び視線を戻すと、ツヴィートークから少し離れた北東の地点を指さす青白い手があった。


「……ツルーフの村?」


 指先の示している文字を読み上げると、


「特産品は果物」


 手の主、クロちゃんは抑揚のない声でつけ加えた。


「あっ、そっか!」


 ツルーフの村といえばたしかに果物がいっぱいある。

 それにここから近いので、いまから行けばオヤツの時間くらいには着くんじゃないだろうか。


「じゃ、ツルーフの村にいってみよっか!」


 私は勢いよく立ち上がり、皆に是非を問う。


「おおーっ!」


 拳と声を高くあげて賛同してくれるミントちゃん。


「おー」


 いつもの無表情、だけどちょっとスッキリした様子で同意してくれるクロちゃん。


「お、おおーっ」


 見よう見まねなカンジで続くシロちゃん。


 ……私はなんにもしてない気がするけど結論が出てしまった。

 やっぱり持つべきものは仲間だなぁと今更ながらに思っていると、


「ツルーフの村ぁ~?」


 そのひとりから物言いっぽい雰囲気の声が飛んできた。

 声の主を見ると、不機嫌そうな腕組み足組みでそっぽを向いていた。


「どうしたの、イヴちゃん?」


「あんまり気がすすまないわねぇ」


「えっ、どうして?」


 甘いものが大好きなイヴちゃんは果物も好きだったはず。

 なのに気が進まないとは……お腹でも壊してるんだろうか。


「ワタクシの庭園に、なにか御用かしら?」


 不意に、背後から声がした。


 振り向くと……そこには豪華な騎士(ナイト)ドレスに身を包む女の子が立っていた。

 イヴちゃんみたいな金色のツインテールだけど、リボンではなくて装飾の施された髪留めをしており、テールの部分はバネみたいにグルグル巻きになっている。


 いかにもお嬢様っぽい彼女は、自信あふれる腕組みポーズと優雅な笑みで私を見ていた。


「あ……アナタは、たしか……えっと」


 なんか長い名前だったのは覚えてるんだけど……誰だっけ?


 頭の中の引き出しを全部をひっくりかえしても全然出てこない。

 えーっと、を繰り返していると……目の前の彼女はみるみる悲しそうな顔になっていく。


 それはまるで、苦労の末たどりついた宝物庫の宝箱が次々とミミックになっていくのを見る冒険者のようだった。

 ……ミミックの実物、見たことないけど。


 まずい。早く思い出さなきゃ……と焦っていると、


「……マンゴスティア・ツルーフ・ガルシニアですわ」


 さっきまでの自信が嘘のような弱った声で自己紹介してくれた。


「あ! そうだ! マンゴスティアさん!」


 それで一気に思い出した……彼女はイヴちゃんと同じ、いいとこのお嬢様。

 学院の成績も良くって冒険者としてのスキルも高いらしい。


 夏休みが終わったあと先生から教えてもらったんだけど、石版探しの課題を達成したこともあるそうだ。


「それで、えっと、庭園って……?」


 そんな相手にやや気おくれしながらも尋ねてみると、


「ツルーフは父がプレゼントしてくれた、ワタクシの庭園なのです」


 先ほどの落ち込みが無かったかのような優麗たる解説をしてくれた。


「ええっ!? 村をプレゼントって……すごい!!」


 図書館ということも忘れて大声をあげてしまう。

 さすがお嬢様……プレゼントも桁違いだ。


 私のリアクションに気をよくしたのか、フフンと鼻を鳴らすマンゴスティアさん。

 落ち込むのも早いが、調子に乗るのも早い……感情起伏の激しい人みたいだ。


「リリームさん、よろしければご招待してさしあげてもよくってよ」


 えっ、ご招待って……よくわからないけど、なんだかすごく魅惑的な響きだ。

 ぜひ詳しく話を……と思った瞬間、


「絶っ対イヤ!」


 ぴしゃりとした声に遮断された。

 もうガマンできないといった様子で立ち上ったイヴちゃんは、マンゴスティアさんと対峙する。


「アンタに借りなんか作りたくないわよ!」


 ひどい言いようだが、言われた当人は驚く様子もなく、


「あら、相変わらずはしたない大声ですわね。イヴォンヌさん」


 負けじと言い返す。


「アンタのソプラノに比べたらカワイイもんでしょ」


 すかさず応戦するイヴちゃん。


 内容はほとんど悪口だが、まるで流れるようなやりとり。

 ……このふたり、友達なのかな。


 イヴちゃんとマンゴスティアさんは無言でしばらく睨みあっていたが……その沈黙を破ったのは、


「では、こういうのはいかがかしら? 模擬パーティ戦闘でワタクシと勝負する、というのは」


 マンゴスティアさんの新提案だった。


「なんですって?」


「アナタがたパーティが勝利すれば……ワタクシの庭園で最高のおもてなしをさせていただきますわ」


「フン、勝った結果にすれば、借りにはならないって言いたいのね」


「そういうことですわ。ワタクシはアナタがたの強さに敬意を表し……謹んでご招待させていただく……ということですわ」


 やけにへりくだった表現だったが、口調は鷹揚としていた。


「ただし……アナタがたが敗北した場合、ワタクシの言うことをなんでも聞いていただきますわよ」


 なんでも言うことを聞く、って……それは聞き捨てならない一言だったが、


「アタシたちが勝ったら、もうひとつ条件があるわ」


 イヴちゃんはどんどん交渉を進める。


「なんですの?」


「庭園にいる間はアンタがアタシたちの専属メイドになって世話をするのよ!」


 伸ばしたひとさし指を、マンゴスティアさんの鼻先にビシッと突き付けるイヴちゃん。

 彼女的には決め台詞くらいのカンジなんだろうか。


 追加条件を聞いて一瞬押し黙るマンゴスティアさんだったが、


「……それで結構ですわ」


 覚悟を決めたように頷いた。


 ふたりの関係はよくわからないが、何やら心理戦のようなものが展開されているのは間違いなさそうだ。

 そしてその結果、マンゴスティアさんのパーティと戦うことになっちゃいそう。


「えっと、あの……イヴちゃん? すこし落ち着いて……」


 私はいったんイヴちゃんをなだめようとしたが、


「よぉーし、そうと決まったら今すぐ決闘よ! アンタのパーティ呼び出しなさいっ!」


 大見得を切る勢いで、イヴちゃんは最終決定を下した。

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