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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
レインボーリップ・アドベンチャー
33/315

02

 ママからの……荷物!!

 それだけで、私の心臓はドキドキ高鳴った。


 なんだろう、中身は……なんだろうっ!?

 一刻も早く、開封したくてたまらなくなる。


 荷物を縛る麻紐を解こうとしたが、慌てるあまり固結びになってしまった。

 引っ張ればなんとかなるかと思って紐をグイグイ引いてみたけど、ダメだった。


 ああっ、もうっ、ほどけない……そうだ! ハサミ!

 急いでハサミを……ハサミ、ハサミ……どこだっけ!?


 部屋の隅の机に向かい、両手を使って引き出しをいっぺんに開け、中を引っ掻き回す。

 ハサミなんて、めったに使わないから……まったく、こんな時に限って……って、あった!


 古い鉄挟。ちょっと錆びてるけど、いまは切れればなんでもいい。

 麻紐をチョッキンしようとしたけど、一回じゃ切れなかったので、何度もガシガシやってようやく切れた。


 急いで紐を引きはがす。次は包み紙。

 油紙の折り目に爪をたてて、バリバリっと破ると……!


 中からは飾りのついた木箱と、一通の封筒が出てきた。

 つい勢いあまってその封筒まで破りそうになっちゃったけど、ぐっとこらえて丁寧に封蝋をはがす。


 封入されている便箋を引っ張り出すと、羊皮紙のそれには乙女百合のイラストがあつらえてあった。

 私の一番好きな花。そして、その下には……見慣れたママの筆跡が。



 リリーム、元気でやっていますか?

 ママは元気です。


 昨日、夢を見ました。

 子供のころのあなたにリップを塗ってくれとせがまれる夢です。


 それで、大きくなったら秘密のリップの作り方を教えるって約束を思い出しました。

 ママもちょうどあなたと同じくらいの頃、リップを作りはじめたのよ。


 道具を一式プレゼントしますので、よかったら作ってみて。



 内容は、それだけだった。

 文章を書くのは苦手だと言っていたママの、手紙はいつも簡潔。


 差出人の住所は書かれていなかった。

 いま、ママは世界を救うためにあちこち旅をしているから、住所不定。


 でも……でもでも……。

 すっごく! すっごく嬉しいっ!!


 昨日の夜、私はママにリップを塗ってもらう夢を見た。

 それよりも前に、ママは私にリップを塗る夢を見たらしい。


 そして私との約束を思い出して、贈り物をくれた。


 ママは私のこと……忘れてなんかいなかったんだ……!!

 いや、忘れられてるなんて思ったことないけど、こうして実感できると身体がムズムズするくらい嬉しさがこみあげてくる。


 革と金属でデコレーションされた木箱の中を開けてみると……なかには天秤とお皿、アルコールランプ、リップを入れる木筒、液体やら粉やらの入った瓶、ガラスの計量コップみたいなのと軽量スプーン。

 そしてレシピ本っぽいのが入っていた。


 本を手に取り、中を開く。いろんなリップクリームのレシピが載っている。

 パラパラめくってみると……途中に一枚の紙切れが挟まっていた。


 そこにはママの筆跡で「特製リップクリームの作り方」とタイトルがつけてあった。


「これは……!」


 ひとりなのに、思わず声に出してしまった。

 これはまさしく、子供の頃に塗ってもらった……幸せな気持ちになれるリップのレシピに違いないっ!


 読んでみると……必要な材料のほとんどは箱のなかに揃っているらしい。

 ただ唯一……特別な蜜蝋(みつろう)が必要だというのがわかった。


 というか「蜜蝋以外は全部箱のなかに入れておいたので、蜜蝋だけ集めればOKよ」とズバリ書かれていた。

 特別な蜜蝋というのは「レインボーハミングバード」が作る蜜蝋だという。


 蜜蝋……? それに、レインボーハミングバードって……なんだろう?

 なんだか……よく……わからないけど……でも……欲しい!


 レインボーハミングバードの蜜蝋を手に入れて、ママのリップを作りたい! 今すぐにっ!!


 決意を固め、勢いよく立ち上がったところで、


「まったく、遅いわよ!」


 背後から声がした。


 振り返ると、入口の壁に肘をついてこちらを見るイヴちゃんの姿。その後ろにはミントちゃんシロちゃんクロちゃんが覗き込んでいた。


「あっ、イヴちゃん……それに、みんな……」


「いつまでたってもこないと思ったら……なにやってんのよ一体?」


 寮の玄関で待ち合わせしてたこともすっかり忘れていた私は、


「レインボーハミングバード!」


 イヴちゃんに詰め寄った。


「なっ、なんですって?」


 なぜだか引かれてしまったけど私はめげずに、


「レインボーハミングバードのアレがいるの! 手伝って!!」


 さらに詰め寄った。


「レインボー……何?」


 いぶかしげな表情になるイヴちゃん。


「ママのリップを作らなきゃ! だから、お願い!」


 じれったくなった私はイヴちゃんの肩をがしっとつかんで懇願した。


「ちょ、ちょっと落ち着きなさいっ!」


 みんなが心配そうな顔で私を見ていて、取り乱していたことに気付く。

 ……とりあえず、みんなを部屋に招き入れ、事情を説明することにした。


 ちなみに私の部屋は靴を脱いであがるタイプ。

 東の大陸の文化らしいが、靴を脱ぐとなんとなくリラックスできるので気に入っている。

 靴を脱がないタイプの部屋のイヴちゃんは土足のままあがりこもうとしたので慌てて止めた。


 イヴちゃんは「なんでいちいち靴ぬがなきゃいけないのよ」などとブツブツ言いながらブーツを脱ぎ、他のみんなもそれにならった。


 その間、私は部屋の中央スペースを空けるべく片付けをし、靴を脱ぎ終えた人を奥から順番にママからの贈り物を囲むようにして座ってもらった。

 車座が完成したあと、その一角に陣取った私は子供の頃まで遡ってみんなに事情を説明した。


 頭の中がまだ整理できてなかったせいか、私の説明は時代をいったりきたりした。

 それどころか現実と夢もごっちゃになって、言いたいことは単純なのに、ワケがわからなくなりそうだった。

 我ながら下手だなと思ったりもしたけど……みんなは黙って最後まで聞いてくれた。


「……ふうん、大体わかったわ。アンタの母親が使ってたリップクリームを再現したいのね」


 対面でヒザを立てて座るイヴちゃんが、レシピの書かれた紙を見ながら言う。


 私は喋りすぎて喉がカラカラだったので、その言葉に黙って頷くと、


「そのためには、レインボーハミングバードさんの蜜蝋が必要なんですね」


 その横で正座していたシロちゃんが続けた。


「みつろう、ってなーに?」


 シロちゃんに膝抱っこされているミントちゃんがシロちゃんを見上げながら聞く。


「ハチさんのお家から取れるロウのことです。そのロウからロウソクやクレヨンができます」


 実は私も蜜蝋って何だろうと思っていたのだが、シロちゃんのわかりやすい説明で今理解した。

 ハチさんのお家ってことは、ハチの巣ってことか。……ハチの巣?


「でも蜜蝋ってハチが作るもんじゃないの? ハミングバードっていえば鳥のことでしょ?」


 ちょうど気になった点を突っ込んでくれるイヴちゃん。それに反応したのはクロちゃんだった。


「レインボーハミングバードはミツバチに似た性質の鳥。正六角形を並べた形状の巣を作り、花の蜜を集め、ハチミツを作る」


 クロちゃんは木箱の中にあった瓶を手にとり、天に透かしながら中身を確認している真っ最中だった。


「ふうん。じゃあその巣を取ってくればいいじゃない。簡単ね」


 イヴちゃんは事もなげに言い、背後のクッションに身をあずける。


「ミント、ハチミツたべたい!」


 元気よく両手を挙げるミントちゃん。同じタイミングで彼女のポニーテールも垂直にそそり立つ。

 飽きもせず瓶を透かし見るクロちゃんがそれを受け、


「レインボーハミングバードの蜜は貴重で、七色蜜という名前で珍重されている」


 さらに新情報をつけ加えてくれた。

 ……七色蜜。初めて聞いた。


「えっ、七色蜜って……ソイツから取れるの!?」


 いままでさほど興味なさそうなイヴちゃんだったが、急に起き上がって身を乗り出してくる。

 クロちゃんが頷いたの確認した瞬間、


「そういうことは早くいいなさいよ! 巣、取りに行くわよ!」


 まるで別人のようにやる気をみせたかと思うと、颯爽と立ち上がった。


 珍しい。いつもは一番最後に返事をするイヴちゃんが、率先して協力を申し出てくれた。

 ……というよりも、ハチミツが目的みたいだけど。


「ミントもいくー!」


 それに続き、宙に浮くような軽やかさで跳ね立つミントちゃん。

 

「私もお手伝いさせていただきます」


 ゆっくりと立ち上がるシロちゃんと、それと同時に音もなく立ち上がるクロちゃん。


 私は座ったままだったので、立ち上がったみんなに見下ろされる形となった。


「ほら、アンタが言いだしっぺなんでしょ!」

「はやくいこー!」

「がんばりますので、よろしくお願いいたします」

「…………」


 四つの手が差し伸べられた。

 その手をすべて握り返そうとして、自分の手がふたつしかないことに気付く。


 両手をつかってみんなの手をぐわっとひとつに束ねた私は、


「よぉし、みんな! よろしくねっ!」


 みんなに飛び込む勢いで起立した。

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