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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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「ちょっとまてぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!」


 会場じゅうの視線が、怒声の方角に集まる。


 そこにはスポットライトを浴びる、クルミちゃんを誘拐したオジサンが立っていたんだ……!


「ソイツらは、オークション荒らしだっ! このオークションを、メチャクチャにしに来たんだ!」


 ステージの上から、私たちをビシッ! と指さすオジサン。


 私が「ええっ!?」となっているスキに、すでにイヴちゃんは椅子の上に立ちあがっていた。

 それだけでは飽き足らず、テーブルの上にまで登りはじめる始末。


「ついに馬脚を現わしたわね……! 聖剣泥棒のクセに、人を犯罪者呼ばわりするなんて……イイ度胸してるじゃないっ!!」


 オジサン以上の声量で、ビシイッ! と指をさし返すイヴちゃん。


 私はこうしちゃいられないと思い、彼女に続いてテーブルの上に登った。


「そ……そうだそうだ! クルミちゃんを返して!」


 しかし、この後に続く者はだれもいなかった。

 しん、と静まり返る会場内には、クルミちゃんのくぐもった声が響くだけ。


 しばしの沈黙を破ったのは、オークショニアさんだった。


『あっ、え……えっと……これは、いったいどういうことなのでしょうか……? ひとまず、お三方の言い分を伺ってみましょうか。まずはスーフ様、事情をご説明いただけますか?』


 クルミちゃんを盗んだオジサンは、スーフさんという人らしい。

 スーフさんは差し出された拡声棒を取ると、一気にまくしたてた。


『アイツらは私が授かった聖剣を狙っているんだ! そう! ツヴィートークの外でグリフォンと戦った時、ドサクサまぎれに私から聖剣を奪おうとした! 一度は追い払ったのに、こんな所まで追いかけてくるとは……本当にしつこいガキどもだ! おい、警備員! 早くあのガキどもをつまみ出してくれ!』


 イヴちゃんが「なんですってぇ!?」と袖まくりして向かっていこうとしたけど、私は羽交い締めにして止める。


「は、離しなさいよ、リリーっ! もうガマンの限界よっ! 一発ブッ飛ばしてやらないと気がすまないわっ!」


「お、落ち着いてイヴちゃん! ここで暴力を振るったら相手の思うツボだよっ!? ここはしっかり言い返さないと!」


 イヴちゃんは興奮して話ができそうもなかったので、私が拡声棒を受け取って異議申し立てをした。



『あっ……あのっ! 私たち、クルミちゃん……出品されている聖剣の友達なんです!


 クルミちゃんは、メリーデイズの街はずれの中にいる、洞窟の中にいて……私たちは偶然、そこに迷い込んで、彼女……クルミちゃんを見つけたんです!


 クルミちゃんは、いまステージに飾られてるみたいに、岩に突き立てられていて……とっても綺麗な剣でした!


 その時は、鞘がなくて、刀身がむき出しだったんですけど……私はキレイだな、って思って手にとってみたんです!


 そしたら岩から抜けちゃって……最初は抜けないだろうと思ってたのに抜けちゃって、そのうえいきなり喋りだしたから、とってもビックリしました!


 クルミちゃんは自分を、ミルヴァちゃ……女神様が作った聖剣だといって、女神様のところに戻りたいって言ったんです!


 だから私たちは、クルミちゃんを女神様に渡すために、旅をはじめました!


 本当はズェントークから転送装置を使って一気に戻るつもりだったんですけど、クルミちゃんは転送装置に乗ることをすごく嫌がって……しょうがないので歩いて戻ることにしたんです!


 ズェントークからツヴィートークまで歩いて戻るのは、すごく時間がかかると言われたんですけど……私たちは旅をはじめました!


 お金もなかったので、旅費はアルバイトをして稼ぐことにしたんです!


 最初に着いたのはキッカラの村で、私たちはそこでカエル捕りのアルバイトしました!


 沼でカエルを捕まえる仕事だったんですけど、カエルは素早くて、全然捕まえられなくて……でも、クルミちゃんが捕まえるのを手伝ってくれて、カエルをいっぱい捕まえられました!


 しかも、幻といわれる黄金のカエルまで捕まえることができて……なんと私たちは200万という報酬を手に入れたんです!』



 観客席から、ほぉぉ……と感嘆の溜息が漏れる。



『でも報酬はゴールドじゃなくて、ケロっていう地域通貨で、そのキッカラの村でしか使えなかったんです!』



 吐息はすぐに、どっとした笑い声に変わった。

 私は息継ぎをして続ける。



『しょうがないから、キッカラの村で豪遊したあと、旅を再開しました!


 次は、アルトスの街……そこではお祭りをやってて、催し物であるパン食い競争に参加したんです!


 パン食い競争の賞金が、本物のダイヤを使ったダイヤモンドパンだって聞いて、旅費になるかと思って……それにパン食い競争なら楽勝だと思ってたんですけど、とんでもない! 私の倍くらいある大人たちばっかりで、こりゃダメだ! って思いました!


 でも、仲間のみんなはがんばってくれて……特にここにいるシロちゃんがおいしいコッペパンを作ってくれて、同点優勝したんです!』



 私がテーブルの上から示すと、スポットライトがシロちゃんに集まった。

 観客席からも割れるような拍手が送られる。


 いきなりのことだったのでシロちゃんは仰天して、テーブルの下に隠れんばかりの勢いでうつむいてしまった。



『優勝をかけて争ったのは、アームレスリング……腕相撲でした!


 私たちは5人がかりでがんばったんですけど、途中から参加したクルミちゃんにくすぐられちゃって……私は負けちゃったんです!


 準優勝のダイヤモンドパン1年分を持って、私たちはクロッサード山道へと向かいました!


 ミントちゃんが見つけた別れ道……「えいゆうの道」へと進んだんですけど、そこで私たちはカンガルードラゴンに襲われたり、ドッペルゲンガーと暮らしたり、道中いろいろやりました!


 いちばん大変だったのは水たまりの中にあった村なんですけど、そこでは悪魔が支配してて……私たちは閉じ込められちゃったんです!


 でも、ここにいるクロちゃんが、悪魔にナゾナゾ勝負を挑んで……見事悪魔を倒せたんです!』



 次はクロちゃんに、スポットライトが集まる。


 クロちゃんは決戦席に座った時から微動だにしておらず、ずっと同じ姿勢で固まっていた。

 拍手を受けても、他人事のように前を向いたままだ。



『なんとかクロッサード山道を抜けた私たちは、カラーマリーの街へとたどり着きました!


 そこでは町長さんに頼まれて、ユリイカっていう観光ピーアールのキャラクターをやったんです!


 その頃には私は、クルミちゃんに宿る精霊の姿が見えるようになっていました!


 精霊のクルミちゃんは、聖剣の見た目と同じで、とってもキレイで……まるで絵画から飛び出してきたみたいな女の子だったんです!


 他の人にはクルミちゃんが見えないみたいだったので、ユリイカの観光ピーアールをやっているときは、私が積極的にイチャイチャしました!


 だって……クルミちゃんは私の友達だから、いっしょにユリイカになって、観光ポスターに写りたいなと思ったからです!


 ユリイカの最後は、みんなでウエディングドレスを着ました!


 本当はふたりしか着れなかったんですけど、せっかくだからみんなで着たいと思って、町長さんにお願いしたんです!


 そしたら報酬を減額していいなら、みんなでウエディングドレスを着ていいって言われたから、その条件を飲みました!

 みんなでウエディングドレスを着ての撮影は、とっても楽しかったです!


 でも、撮影が終わって、スカート湾を渡るための報酬をもらったんですけど……それがなんと、ただの足漕ぎボートだったんです!』



 再び起こる笑い。

 しゃべり続けの私の声はかすれてきていたけど、あと一息だと声を張り上げた。



『私たちは足漕ぎボートでスカート湾を渡りました!

 いくら漕いでもなかなか進まなくて、大変だったけど……夜通し漕いで、ムイースの街まで行ったんです!


 でも、そこでみんな安心しちゃって、つい眠っちゃって……気がついたら巨人の階段のある川のそばまで流されちゃってました!


 本当はムイースでアルバイトをしようと思ってたんですけど、もう通り過ぎちゃったから、このまま歩いてツヴィートークまで向かおう、ってことになりました!


 巨人の階段を歩いて渡る人はぜんぜんいないらしくて、大変だったんですけど……ロープを作って、それを使ってみんなで協力して、山登りをしました!


 でも……崖から降りている最中、クルミちゃんが急にロープを切っちゃったんです!

 私とイヴちゃんは崖下へまっさかさま!


 幸い、大きな木の実がクッションになって、助かったんですけど……クルミちゃんがなんでそんなことをしたのか、私はわかりませんでした!


 でも、私はクルミちゃんのことを嫌いになったり、責めたりする気にはなりませんでした!


 なぜかって、クルミちゃんはもう私の友達だったし、これまでの道のりで、クルミちゃんはもう私の仲間だと思っていたからです!


 クルミちゃんもそう思ってたみたいで、私たちとの冒険が終わりに近づいているのが嫌で、ロープを切ったんだと教えてくれました!


 だから……私は約束したんです!

 クルミちゃんを女神様の元に届けたときに、お願いしてあげる、って!


 これからも、たまにでいいからクルミちゃんと、こうやって……冒険させてください、って……!


 だけど……ツヴィートークに着く直前で、そこにいるオジサン……スーフさんがグリフォンに襲われていたから、助けようとして……でも、グリフォンは強くて、私たちはあっという間にやられちゃいそうになりました。


 でも、その時……クルミちゃんが言ってくれたんです!


 ボクを抜いて……グリフォンを倒そう、って……!


 それまでは、ボクを抜いていいのは女神様だけだ、って何があっても聖剣としては使わせてくれなかったクルミちゃんが……抜いていいって言ってくれたんです!


 私は、すごく嬉しくなって……ますますクルミちゃんが好きになりました!


 そして、あることを決意したんですけど……私たちはグリフォンにやられちゃって、一気にスタート地点であるズェントークまで戻されちゃったんです! ツヴィートークの目前まで来ていたというのに……!』



 「えええっ!?」と悲痛な声が観客席から漏れる。

 ふとハイソックスを掴まれたので、足元に視線を落とすと……シロちゃんのハンカチを握りしめたウェルトさんが、うるうるした瞳で私を見上げていた。



『ズェントークで復活した私たちは、置き去りにしたクルミちゃんを助けに、転送装置を使って一気にツヴィートークまで向かいました!


 でも……クルミちゃんの姿は、どこにもありませんでした……。


 私たちは手分けして、クルミちゃんを探しました。そして、見つけたんです……!


 このオークションに出品されているということを知った私たちは、ありったけのお小遣いをもって、ここに来たんです!


 クルミちゃんをなんとか取り戻して、自分たちの力で、女神様に届けるために……!


 そして私は、女神様にお願いするつもりだったんです……!


 クルミちゃんと……クルミちゃんと、たまにだけじゃなくて、ずっと……ずっと一緒にいたい、って……!


 聖剣の力なんて、どうでもいいんです! 私は、クルミちゃんとずっと一緒にいたい……!


 イヴちゃん、ミントちゃん、シロちゃん、クロちゃん……私たちの仲間として、ずっとずっと、ずーっと一緒に、冒険をしたいって……!』



 私はスーフさんの顔を、まっすぐ見つめた。



『お願いです……スーフさんっ……! クルミちゃんを私たちに返してくださいっ……!』



 そして、深々と頭を下げる。



『お願いです……!! お願いです……!! お願いですっ!! お金ならいくらでも払います……一生かかっても払いますから!! クルミちゃんを……クルミちゃんを私たちに返してくださいっ!! クルミちゃんはずっとひとりぼっちだったんです!! それなのに離れ離れになっちゃうなんて……そんなの可哀想……ううん、私が嫌なんです!! クルミちゃんの初めての友達として……ずっと一緒にいたいんですっ!! お願いします……!! お願いしますっ!!!』



 私は声をかぎりに叫んでた。

 そしていつの間にか、テーブルに頭を打ち付けるようにして、土下座をしていたんだ……!

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