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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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 ミントちゃんが貯金箱がわりに使っている宝箱。

 中身を開けると、そこには千ゴールドくらいがちょこんと積んであるのを私は想像していた。


 しかし……出てきたのはその十倍、いや百倍はあるゴールド硬貨の山だった。


 私はかつて、鉱山のなかで初めての宝箱を開けたことがある。

 開けるまでは、金銀財宝が詰まった中身を夢見てたんだけど……その時の中身はただの石ころだった。


 まさか……夢にまで見た光景が、ミントちゃんの部屋にあっただなんて……!


 私は息をするのも忘れ、黄金色の山を見つめていた。

 みんなもしばらくはそうだったんだけど、いちばん最初に我に返ったのはイヴちゃんだった。


 「ちょっとミント! アンタまさか盗んだんじゃないでしょうね!?」


 イヴちゃんは泥棒猫を捕まえるみたいに、ミントちゃんの襟首を掴んで持ち上げていた。


「とってないよ! もらったの~!」


 子猫のようにぶらぶら揺れながら、にぱっと笑うミントちゃん。


「ウソおっしゃい! こんなにゴールドをくれるヤツがどこにいるっていうのよ!?」


「ほんとだよぉ~!」


 困った様子のミントちゃんに加勢したのは、意外にもシロちゃんだった。


「あ、あの……すみません、イヴさん。ミントさんのおっしゃっていることは本当だと思います」


「なんでアンタがわかんのよ!?」


 子供を叱る父親のようなイヴちゃんと、それを止める母親のようなシロちゃん。


「ミントさんはあまりお金をお遣いになりませんので、それでお金が貯まってしまったんだと思います」


 正確には遣わないというより、遣う必要がないといったほうがいいだろうか。

 店先で、「これ、ちょうだーい!」といって貰ってくるミントちゃんの姿を、私はよく見かける。


 私やシロちゃんが一緒にいるときは、かわりにお金を払おうとするんだけど……店の人は「いいよいいよ」と言って受け取ってくれないんだ。


 シロちゃんは続ける。


「それにミントさんは街の方々に、よくお小遣いをいただいているようです。最初はおもちゃ箱の中にお金を入れられていたのですが、貯金箱に入れてはいかがかと、わたくしがご提案したのです」


 ミントちゃんはお金が数えられないんだけど、お金は「キラキラしてるから」という理由から好きみたい。


 なのでたとえ10ゴールドぽっちでも貰うと、「ありがとうー!」と大喜びするので、街の人たちはよくミントちゃんにお小遣いをあげているんだ。


 彼女はそれを遣わずに、ずっととっておいたんだろう。


 シロちゃんの説明でようやく、イヴちゃんは納得したようだった。


「ミント、お金を貰ったときは、ちゃんとお礼を言ってるんでしょうね?」


「いってるよー! ありがとうー! って! おみやげもかったから、おれいにあげるのー!」


「お土産って……修学旅行の? 荷物は全部途中で置いてきちゃったでしょうが」


 私たちが持っていた荷物は、ぜんぶ水たまりに映る村に置いてきちゃったんだ。

 荷物を持っていると「村を出たい」という気持ちが水たまりにバレちゃうと思ったんだよね。


「あ、そっかぁ」


 しょんぼりするミントちゃん。


「まぁ、どれもこれも、あのバカ聖剣のせいなんだけどね。さっさと取り戻して、とっちめてやりましょ」


 イヴちゃんは、手のひらにパチンと拳を打ちつけた。


 それから私たちは、ミントちゃんの貯金箱のお金を手分けして数えた。

 小銭ばかりだったので大変だったんだけど、ぜんぶで30万ゴールドもあった。


 銀行に両替に行きたかったんだけど、もう閉まっている時間だったので、そのまま持っていくことにする。


 大きな麻袋に入れて、イヴちゃんが担いでくれた。

 なんだか銀行の金庫に押し入った大泥棒みたいに怪しい見た目だったけど、イヴちゃんなら大丈夫だろう。


 私たちのオークションの軍資金は、みんなの分をあわせて62万ゴールドにもなった。

 こんなに多くのお金を見たのは、私は生まれて初めてのことだ。


 なんだか、悪い事をしてるみたいでドキドキする。

 でも……これだけあれば、クルミちゃんを競り落とすことができそうだ……!


  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 日が沈んだあと、再び港のオークション会場を訪れた私たち。

 最初に来たときは人気(ひとけ)がなかったんだけど、すでに開場しているのか、庭には多くの人が集まっている。


 受付では隊長さんをはじめとする、犬を連れた門番さんたちが一列なって控えており、厳重な手荷物検査が行われていた。


 私たちの番になったので、受付の人にシルバーチケットを渡す。

 受付の人は、私たちが子供だったので不審そうな顔をしていたけど、隊長さんがアイコンタクトしてくれたおかげで無事中に入ることができた。


 ちなみに武器は持ち込めない決まりになっていたので、私たちの武器は受付で預かってもらうことになった。


 会場の中は、講堂のように大きかった。


 奥にはオークション品が飾られるであろうステージがあって、その手前には黄金の長テーブルがある。


 あのテーブルは、オークションの入札者が10人以下になったとき、あそこに移動して決着をつけるための席だとイヴちゃんが教えてくれた。


 黄金のテーブルの前はレストランみたいな空間になっていて、豪華に着飾った人たちが食事を楽しんでいる。

 いかにも身分が高そうだったり、いかにもお金があまってそうな人たち……あそこはどうやら、ゴールドチケットを持つ人が座る席のようだ。


 シルバーチケットの私たちはというと、椅子ひとつない立ち見席だった。

 まわりには小奇麗な服装の人たちがいて、立ち話をしながらオークションの開催を待っている。


 この人たちは決して貧乏というわけじゃなさそうだ。

 むしろ中流階級以上といえる、裕福そうな人たちっぽいんだけど……羨ましそうにゴールド席を眺める姿は、なんだかすごく格差を感じさせた。


「ねぇイヴちゃん、この人たちもオークションに参加するの? こんなにいっぱいいて、競り落せるかなぁ」


「目ぼしいものがあったら参加するでしょうけど、小金持ちにとっちゃオークションそのものよりも、上流階級とのコネクションを持ちに来てるヤツのほうが多いでしょうね」


「そうなんだ……クルミちゃんが目ぼしくないといいなぁ……」


 私は手を合わせ、「どうかみんな、クルミちゃんに入札しませんように」と祈った。


 しばらくして、ステージのほうにタキシードを着た老紳士が現れる。

 コホン、と咳払いをひとつしたあと、


『みなさま、大変長らくお待たせいたしました。それでは、ツヴィートーク港ベットオークションを開催したいと思います』


 金色の拡声棒を持ち、渋くて落ち着いた声を会場内に響かせる老紳士さん。


 あの人はオークションの進行役である、『オークショニア』だとイヴちゃんが教えてくれた。

 いよいよ、始まったか……! と私は居住まいを正す。


『本日は10点ほどのアイテムの競売を予定しておりましたが、急遽新たな目玉商品が追加され、12点となりました。これから1点ずつご紹介していきますが、落札を希望される方は、お手持ちの札を掲げながら、大きな声でお値段をおっしゃってください』


 12点……? 急遽持ち込まれたのはクルミちゃんだけじゃないんだろうか。


『落札を希望されている間は、札を掲げたままにしておいてください。落札希望者が10名以下になった場合、ステージ前の席へと移動していただきます。こちらの席で最終落札者を決定いたしますが、こちらの席で入札された場合、たとえ落札ができなくても入札額をお支払いただきますのでご了承ください』


 ちなみにゴールド席の人は、入札額を叫ぶのも札を掲げるのも、席にいる給仕さんみたいな人がかわりにやってくれるらしい。

 シルバー席の私たちは自分で入札額を叫ばないといけないんだけど、それはよく声の通るイヴちゃんにやってもらうことにした。


『それでは、さっそく1品目にまいりましょう。最初のアイテムは「女神と5人の天使たち」を発表して、一躍有名となった芸術家……クンストゥーの新作、はばたく女神、です……!』


 ステージに運ばれてくる、額に入った大きな絵画。

 翼を広げて大空を舞う、女神らしき少女が描かれたものだ。


 白い衣の女神は、黒い衣の天使と、緑の衣の天使を小脇に抱え、崖の上から飛び立っているところだった。


 雲ひとつない青空に広がる白き翼、白き翼になびく黒髪という、見事なコントラスト。

 その美しさのあまり、観客たちは目を奪われ「おおっ……!」を感嘆の声をあげていた。


 隣にいたシロちゃんも「わぁ……! 素敵です……!」と瞳を潤ませるほどに見入っている。


『この絵は、クンストゥーがモチーフを求めて旅している最中、実際に目撃した光景だそうです。数日前に完成したばかりのもので、本日の夕方、急遽このオークションに持ち込まれました。では、オーナーの方、どうぞ』


 舞台袖から、タキシードを着た小太りのオジサンが出てくる。


 忘れもしない、そのオジサン……。

 グリフォンに襲われ、荷馬車の下に隠れていたオジサンだったんだ……!

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