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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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 それからのツヴィートークまでの道のりは、さらに大変だったけど楽しかった。

 例の一件以来、クルミちゃんがさらに打ち解けてくれて、いろいろ協力してくれるようになったんだ。


 鍔の腕を使って魚を取ったり、高いところにある木の実を取ってくれるようになった。


 さらにクルミちゃんは、木の実を見つけるのが妙に上手という、意外な特技も発覚。

 主に食料確保の面で大活躍してくれたんだ


 クルミちゃんはもう私たちのことを『見習い三流冒険者』とは呼ばなくなった。

 私のことは『ドジ勇者』って呼ぶようになっちゃったけど……それはまあいいよね。


 川沿いを進んでいたので、水には困らなかった。


 シロちゃんが大量に持っていたハンカチで、身体を拭いてキレイにしたり、アライミの木の実を使って洗濯したり……サバイバルだけどなるべく清潔さも保つようにしたんだ。


 イヴちゃんはお風呂に入りたいとひたすら愚痴ってたけど、私はみんなで身体を拭きっこするのが楽しくて、こういう生活も悪くないな、なんて思っていた。


 そんなこんなで数日後……私たちはついに、ロストークの村まで辿り着いたんだ……!


 ツヴィートークからはそう遠くない村で、地元だと特に珍しくもない場所なんだけど……私たちの喜びはかなりのものだった。

 目に映るものばかりか、音や匂いまでもが懐かしく感じる。


 ズェントークを出発して、何日が経っただろう。

 最初のうちは指折り数えてたけど、途中で忘れちゃった。


 それにしても、長かった……! 私たちの冒険史上、最長なのは間違いない……!

 まさか修学旅行に行って、修学旅行以上の出来事をいくつも体験するだなんて……!


 思えば……いろんなことがあったなぁ……!


 私は村の入口で佇んだまま、思い出に浸りそうになっちゃったけど、


「ボサッとしてんじゃないわ、リリーっ! このまま一気にツヴィートークまで戻るわよっ!」


 とイヴちゃんから手を引っ張られて、それどころじゃなかった。


 私たちはロストークの村で休むこともせず、そのままツヴィートークへと向かったんだ。

 ロストークに着いたのは朝だから、このまま行けば昼にはツヴィートークに着けるはず。


 ツヴィートークに着いたら、まず何をしよう……!?

 学院の先生たちも心配してるはずだから、まずは挨拶……?


 いや……やっぱり姫亭だ……!

 姫亭で、みんなでお昼ごはんを食べよう……!


 だってここのところずっと、水と木の実と魚ばっかりだったから……!

 紅茶だ……紅茶が飲みたい……! それにサンドイッチ! それにそれにチョコケーキ!


 えーっと、それにそれにそれに……クルミちゃん!

 クルミちゃんにも姫亭の楽しさを、教えてあげたい……!


 ああっ……楽しみ……!

 早く、早くツヴィートークに着かないかなぁ……!


 私たちは歩きづめで、とても疲れてたんだけど……誰もが早足になっていた。

 きっとみんなも同じ想いなんだ。そうに違いない。


 早く姫亭で、みんなといっぱい、おしゃべりしたい……!


 旅してる最中、ヒマさえあればおしゃべりしてたけど、まだまだ全然足りない。


 もっともっとみんなと、いろんなこと、おしゃべりしたいんだ……!


 道は見慣れてるから、迷うこともない。

 このあたりは治安もいいから、モンスターもほとんどいない。


 あとはまっすぐツヴィートークまで進んでいくだけ……!


 そして……そしてついに、私たちのふるさとの街の影が、遠くに見えたんだ……!


 私たちは辛抱たまらなくなって、ついに走り出した。

 手を取り合って、横一列になって。


 先を急いでいたけど、争うわけじゃない。

 ゴールテープを切るのは、みんなでいっしょ。


 みんなでいっしょじゃなきゃ、嫌なんだ……!


 丘のようになっている坂道を、一気に駆け上がる。

 この丘を越えれば、ツヴィートークまでは、目と鼻の先……!


 息を切らして頂上まで着いた私たち。

 そこで見たのは、さらに近くなったふるさとの姿ではなく、


「うわああああーーーっ! 助けてくれぇっ!」


 巨大なモンスターに襲われる、馬車の姿だったんだ……!


「ぐ……グリフォンっ!?」


 イヴちゃんが叫んだ。


 グリフォン。鷹のような上半身に、ライオンのような下半身……。

 そして象のように大きな身体を持つ、かなりの強敵……!


 グリフォンは風車みたいな羽根をばさっ、ばさっ、とはためかせながら、馬でもひと掴みにしそうな爪で、馬車を襲っている。


 馬はとっくに殺されていて、馬車の下に逃げ込んだおじさんを狙っているようだった。


「だ、誰か! 誰か助けてくれぇぇぇ!」


 おじさんは台風の中のボロ家にいるみたいに縮こまり、崩れされていく馬車にただただ震えている。


 そんな窮地を前にして、真っ先に動いたのは……我らが切り込み隊長。


「ぬぅんでりゃあああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」


 この旅の間、何度も聞いたイヴちゃんの闘気術。

 そのまま転がり落ちるような勢いで坂道を駆け下り、グリフォンめがけて走っていく。


 私は彼女ほどの迅速さはなかったけど、すでに心の準備はできていた。


「よし……! シロちゃんはイヴちゃんの背後について、回復魔法で援護してあげて! クロちゃんはグリフォンの背後について、ファイヤーボール! 無理はしないでね!」


「か……かしこまりました!」「了解」


「ねーねー、ミントはー?」


「ミントちゃんは戦わずにこのままツヴィートークまで行って、衛兵さんを呼んできて!」


「オッケー!」


 丘の上から散っていく仲間たち。

 私はイヴちゃんに合流して、共に戦うために走り出す。


 途中、腰のあたりから声がした。


「ちょ、ちょっとちょっとリリーっ!? 正気なのっ!?」


「えっ、正気って、なにが?」


 私は足を止めずに下を向く。

 すると、やめろと言わんばかりに私のシャツをぐいぐいと引っ張るクルミちゃんがいた。


「相手はグリフォンだよ!? ゴブリンやコボルトみたいな雑魚モンスターじゃないんだよ!? ミノタウロスやトロール並のモンスターなんだよ!? レベル6のリリーたちが勝てるわけないじゃんっ!」


「うん。グリフォンを倒すには、たぶんレベル40はいると思う」


「じゃあなんで戦うのさ!? あっという間にやられちゃうよ!?」


「倒せなくても、時間稼ぎくらいはできると思う。その間に、ミントちゃんが衛兵さんを呼んでくれれば……!」


「なんで時間稼ぎなんてするのさ!? 見つからないようにこっそり横を通り過ぎればいいだけじゃんっ!」


「それだと私たちは何ともないけど、おじさんがやられちゃうじゃない!」


「いーじゃん別に! 知らない人なんでしょ!? なんで知らない人を助けようとするのさ!?」


「知らない人だけど、モンスターに襲われてる人をほっとけない!」


「で、でも……それで死んじゃ、意味ないじゃん……! ツヴィートークまであと少しなんだよ!? ずっと帰りたがってたじゃん! それがおじゃんになってもいいの……!?」


「それは嫌だけど……でも……困ってる人を見捨てるなんて……できないんだ……! 私だけじゃない、きっとみんなもそう……! だから……負けるとわかってても、戦うんだっ……!」


「り……リリーのバカあっ! ドジ勇者のクセに、なんでそんななんだよぉぉぉっ……!」


 駄々っ子のように泣き叫ぶクルミちゃん。

 シャツを伸びるくらいに引っ張られてやり辛かったけど、私はグリフォンめがけて手をかざす。


「えぇーいっ!」


 ビシィィッ!


 私が唯一使える攻撃呪文、『静電気』……!


 グリフォンは爪でイヴちゃんの大剣をわし掴みにしていたんだけど、小さな稲妻が走った瞬間パッと離した。


 獲物を狙う猛禽類の瞳が、キッとこちらを向く。


「キエエエエエエエエーーーーーーーーーーッ!」


 そして、耳をつんざくような絶叫とともに、私に襲いかかってきたんだ……!

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