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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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「あはははははっ! やめてっ! いーっひっひっひっひ! うっふっふ! やめてってば! えーっへっへっへ! おっほっほ! やめてやめてみんな!」


 カラーマリーの市場の大通りに、私の爆笑が駆け抜ける。


 私は足を食べ合うみんなにイカ焼きそばを食べさせてあげて、仲良くなるという芝居をするつもりだった。

 でもみんなはイカ焼きそばには目もくれず、私を押し倒してきたんだ。


 イヴちゃんから逆エビに固められて、よってたかって足の裏をベロベロ舐められる。

 右足をイヴちゃんとシロちゃん、左足をミントちゃんとクロちゃん。


 足を舐められるなんて生まれて初めての体験。

 それでも舌使いで、だいたい誰が舐めてるのかわかるのは、喜んでいいことなんだろうか。


 最初、みんなの舐めあいを外野で見ていたときは羨ましくすら思ったものだが、とんでもなかった。


 何とも言えない未知のくすぐったさが湧き上がり、背筋を駆け上がって脳天まで痺れる。

 特にお尻がムズムズしてたまらない。まるで虫が這い回ってるみたいだ。


 私は身体をよじらせ、手で宙をひっかき、ゾンビに足を食べられている人みたいに撮影スタッフに助けを求める。


 が……止めにはいってくれるどころか、「いいよいいよー! もっとやってもっと!」とけしかけてくるばかり。

 まわりの観衆も、子猫のじゃれあいでも見ているようにほっこりしていて、「がんばれー!」と声援を送ってくる始末。


 だ……ダメだっ! この状況……私の味方はひとりもいないっ!

 あ……いや、いた! ひとりだけいた!


 私は、携えていた聖剣を取りだす。

 柄のほうを頭にして、私を押さえ込んでいるイヴちゃんの足元にそっと忍ばせた。


「く……クルミちゃん! くすぐって!」


「オッケー!」


 聖剣のほうのクルミちゃんは、鍔が手みたいに自由に動かせるんだ。

 その手を使って、イヴちゃんの足をくすぐりはじめるクルミちゃん。


 精霊のほうのクルミちゃんも、イヴちゃんの足元にしゃがみこんでコチョコチョやっている。


「ぎゃっはーっ!?」


 イヴちゃんはガラの悪い蛮族みたいな悲鳴をあげ、私の身体から飛び退いた。


 私はチャンスとばかりに起き上がり、イヴちゃんと距離をとって対峙する。


「リリー……アタシたちばっかりに変なことやらせようとしても、そうはいかないんだから……!」


 手をワキワキさせながら、再び迫ってくるイヴちゃん。ノリノリで後に続くミントちゃん、クロちゃん。

 シロちゃんは申しわけなさそうな顔をしながら、これまた申しわけ程度に付き合っている。


 私は足元で這いつくばっている聖剣のクルミちゃんと、私の隣に立っている精霊のクルミちゃんに目配せした。


「……き、きっとイヴちゃんはまた私を押さえ込もうとしてくるはず。クルミちゃんはすばしっこさを活かして、イヴちゃんを撹乱して」


「へへっ、わかった!」


 ニッと笑って親指を立てる精霊のクルミちゃん。


 当初の撮影とはだいぶ違う内容な気もするけど、まわりは大盛り上がりだ。


「ユリイカ同士の対決! リリーチームが勝つか、イヴチームが勝つか、さあっ、どっちだ!?」


 実況みたいなことを始めるマルシェさん。


「俺はリリーチームを応援するぞ!」


「あたしはイヴチーム!」


 と口々に乗っかりはじめる観衆たち。


 市場の大通りはかなり広いのに、もう通り抜けるのも無理なくらいに人でいっぱいになっている。


 なんか……えらいことになっちゃってる……!

 でも、そんなことを気にしているのは私だけだった。


「……いくわよぉっ!!」


 号砲のようなかけ声とともに、飛びかかってくるイヴちゃん。

 空を漂うイカバルーンを揺らすほどに、ワアッ! と歓声がはじけた。


 ……くすぐりっこというのは、私たちパーティの基本的なスキンシップ手段のひとつだ。

 でもまさか、見世物として街の人たちの目を楽しませることになるなんて、思いもしなかった。


 パワフルなイヴちゃん、軽業のミントちゃん、庇護欲をそそるシロちゃん、幽霊のように神出鬼没なクロちゃん。


 そして秘かに幻聴の呪文を駆使する、狡猾な私と、私が腹話術で動かしてると思われているクルミちゃん。

 ハタから見ると、まるで悪い魔法使いみたいだ。


 バラエティに富んだ面々が、足を食べあうという謎の競技。


 それは通りを埋め尽くすほどの観客たちを、大いに盛り上がらせ……臨時の屋台までもが出張ってくるほどだった。


  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 それから、足どころか太ももまでベタベタになった私たち。

 クロちゃん以外はみんな紅潮した顔でグッタリしており、しばらく動けなかった。


 終わったあとは、サインを求めてくる人まで出てくる。

 でも撮影スタッフさんが遮って、「サインはダメです!」と追い払っていた。


 「別にサインくらいいいのに」と私はちょっと不服だったが……どうやら撮影スタッフさんなりの考えがあるようだったので、大人しく従う。


「ありがとうみんな! ユリイカの認知度が一気にあがったよ! さっすが伝説の仕掛け人!」


 とマルシェさんは嬉しそうだった。


 そのあと改めて、私がみんなにイカ焼きそばを食べさせるシーンを撮影する。


 あーんと開いているイヴちゃんの口に焼きそばを運んだり、ミントちゃんと一緒に一本の麺をくわえたり、指で具のイカをシロちゃんの舌に乗せたり、クロちゃんのほっぺたについたソースを舐めとる……なんてことをやらされた。


 私はまぁ、楽しかったんだけど……こんなのがポスターになったとして、見た人は本当に街に足を運んでくれるんだろうか? と終始疑問が渦巻いていた。


「よし、これでグルメのピーアール用ポスターは終わり! いい絵がいっぱい撮れたよ!」


 浮かない表情の私とは逆に、マルシェさんは満足そうだ。


 私はなおも、「これで食べたくなるのかなぁ?」と首を傾げていた。

 でも撮影を見ていた街の人たちは、イカ焼きそばの屋台に行列を作っていたので、たぶん悪くはないんだろうと思うことにする。


「つぎは、ファッションのピーアール用ポスターの撮影でーす! 移動しまーす!」


 手を高く掲げて、撮影スタッフさんたちを先導するマルシェさん。


 私たちもついていき、市場のひとつ隣にある、服や雑貨などを扱う通りに移動した。


「ここではリリーが選んだ服を、他のユリイカにプレゼントして、着てもらうというシーンを撮りたいんだ。リリー、いまから一時間ほどあげるから、服を選んできてくれるかい?」


「……私が選んじゃっていいんですか?」


「そのほうが自然な絵が撮れるからね、サイズもだいたいわかってるだろう? 店にはぜんぶ話をつけてあるから、お金は払わなくても大丈夫だよ」


「わかりました。みんなの服を選んでくればいいんですね」


 私はマルシェさんの指示に素直に従い、お使いに出ようとしたんだけど、


「変な服を選んだら、どうなるかわかってるでしょうね」


 イヴちゃんに肩をぐっと掴まれて、怖い顔で警告されてしまった。


 それから私は、あちこちの店を覗いてみんなの服選びをする。


 好きな色は知ってるんだ。イヴちゃんは赤、ミントちゃんは緑、シロちゃんは白、クロちゃんは黒。

 服の好みのほうもわかってる。わかってるんだけど……それで選んじゃうとつまらないんだよね……。


 なので私は、私が着てほしいという自分勝手なイメージで服を選んでみることにした。


 まずイヴちゃん。

 彼女は大人びていて、おしゃれでシックな感じだ。身につけているものも、お姫様だけあって高級品っぽいものばかり。


 真逆のファッションにチャンレンジしてほしいという思いを込めて……イカのイラストが描いてあるタンクトップと、お尻のところにイカのアップリケがある、一分丈の超ショートパンツにした。


 つぎにミントちゃん。

 彼女は動きやすい格好で、ミニスカートとかを好む。活発すぎるあまり、スカートがめくれちゃうからスパッツを穿いてるんだよね。


 ならロングスカートとかどうかなぁ、と思ったんだけど、裾を踏んずけたりして転ぶんじゃないかと思い……イカのイラストが描いてあるタンクトップと、お尻のところにイカのアップリケがある、一分丈の超ショートパンツにした。


 そしてクロちゃん。

 彼女は黒いローブをいつも羽織っている。ローブの下には制服とかパジャマとか、状況にあわせた格好をしてるんだけど……ローブだけはいつも標準装備。


 もっとラフな格好もすればいいのに、という願いを込め……イカのイラストが描いてあるタンクトップと、お尻のところにイカのアップリケがある、一分丈の超ショートパンツがいいと思った。


 最後にシロちゃん。

 彼女はいつも、新品みたいに純白なローブに身を包んでいる。新雪みたいに真っ白いから、ちょっとしたはずみで汚しちゃうんだけど……「洗えばよいですから」と気にしていない。


 でも、気にせず汚せるような格好もしてほしいから……イカのイラストが描いてあるタンクトップと、お尻のところにイカのアップリケがある、一分丈の超ショートパンツに決めた。


 あらら……図らずとも、みんな同じ服になっちゃった。

 しかも一箇所で揃ってしまったので、一時間どころか五分もかからなかった。


 でも、まあいっか。

 店員さんに服を包んでもらっている最中、私はみんなの喜ぶ顔を想像してひとりニヤニヤする。


 さらに、私が選んだのと同じ服の人形用のやつがレジ横に飾られてるのを見つけたので、クルミちゃん用にいいかなと思い、それも一緒に包んでもらった。


 私は六人分の服と、私の想いがたっぷり詰まった紙袋を抱きしめ、スキップでみんなの元へと戻った。

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