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私たちを取り囲む、屋台を営む大人たち。
白い三角頭巾と、裾がフリンジみたいにヒラヒラになったエプロンでお揃いだ。
まるでイカに取り憑かれた人たちみたいだったけど、街の人と争うわけにはいかない。
イヴちゃんは争う気マンマンだったけど、なんとかなだめて投降した。
手配書が出てるくらいだから、また知らず知らずのうちになんかしちゃったのかなぁ……とドキドキする。
それでもあまり取り乱さずにいられたのは、指名手配されるのは二度目だからだと思う。
以前のように、スキを見て逃げ出すことも考えたんだけど……それはやめておいた。
罪状が思い当たらなかったからだ。
それにしても、私はまだ十三歳なのに、二回も指名手配されちゃうなんて……。
もはや高額賞金のかかった珍獣レベルだ……。
このまま衛兵に引き渡されるのかなぁ、それとも動物園で見せ物になっちゃうのかなぁ、などとアレコレ考えてたんだけど……私たちはカラーマリーの町長の家に連行されていた。
「さぁさぁ、どうぞ! こちらにお座りになってください!」
イカみたいな顔をした町長さんは、全然怒ってなくて……むしろ伝説の勇者に会えたみたいに、かなり興奮気味だった。
町長さん家にある、イカみたいに白くて長い食堂のテーブル。
そこに案内された私達の前に、次々と料理が運ばれてくる。
料理はどれも、屋台に並んでいたイカ料理だった……!
「さぁさぁ、どうぞ、遠慮なくお召し上がりになってください」
町長さんは勧めてくれたんだけど、私は手をつける気にはなれなかった。
でも、イヴちゃんミントちゃんクロちゃんは当然のように食べはじめる。
「人を犯罪者扱いして……どうせ何かの間違いだったんでしょ。無礼を詫びたいんだったら、こんなんじゃ足りないわよ」
「わぁい、イカいっぱーい! イカっぱーい!」
「……」
ガツガツとイカを口にするみんなを横目に、私は尋ねる。
「あの……私たちが何かしたんでしょうか? 手配書まで出てましたけど……」
すると町長さんはさも不思議そうに、イカみたいな目をクリクリさせていた。
「何かしたって……またまたご謙遜を! リリーさんたちのお噂は聞いておりますよ! 伝説の仕掛け人として……!」
町長さんは私の名前を知っていた。
でもそれよりも気になる言葉が飛び出したので、私は聞き返す。
「……伝説の、仕掛け人……?」
「そう! キッカラの村での、試食のからあげを使った客寄せ! 幻の黄金のカエルを捕まえるという、驚きの話題作り! 仕上げはカエルの格好をして豪遊し、村の魅力をあますことなく伝えた……!」
町長さんは、身を乗り出してまで熱弁する。
「そしてアルトスの街では、伝統のパン食い競争に参加……! 歴戦のベテラン参加者を相手に、観客を熱狂の渦に巻き込んだ……! そして潰れかけのパン屋を宣伝し、たった一晩で超人気店にのしあげた……!」
「んぐ、アタシたちの活躍を、ごくんっ、よく知ってるじゃない。はぐっ……コレ、おかわりちょうだい」
平らげた皿を突きつけながら、イヴちゃんが口を挟んできた。
町長はニコニコしながら皿を受け取り、おかわりを指示する。
それで私たちの背後に、授業参観みたいに屋台の大人たちが並んでいるのに気づいた。
みんな手に手に商品を盛った大皿を持ち、神妙な面持ちで私たちを見つめている。
町長は私たちのご機嫌を伺うみたいに、手をシャカシャカとこすりあわせはじめた。
「今やキッカラもアルトスも、大勢の観光客で賑わっています! それもリリーさんたちの仕掛けのおかげ……! 私はそんな偉大なるリリーさんたちを研究しているうちに、南東に向かって旅をしていると気づいたのです! その予想が正しいと信じ、きっとこのカラーマリーにもお立ち寄りになるだろうと思い……これを作ったのです!」
町長さんの手によって、バッと開かれる手配書。
『最重要指名手配』
というデカデカとした表題の下には、小さな文字で、
『伝説の仕掛け人の少女たちが、カラーマリーにやって来ます! 見た目は見習い冒険者ふうの子供たちですが、とても楽しそうにしていて、賑やかです。街を歩いては色々なものにチョッカイを出し、バカ騒ぎをするそうなのでとても目立つはずです。見かけた方は、すぐに町長まで御一報を! この街を救えるのは、彼女たちだけなのです!』
文字の下には……カエルの着ぐるみでコッペパンを口に咥え、街の大通りを闊歩している私たちのイラストがあった。
特徴をよくとらえていて、顔は似てるんだけど……格好と立ちふるまいがひどい。
「まったく……ごくんっ。手配書にするんだったら、はぐっ、もっとちゃんと描きなさいよ。もぐもぐ……リリーはともかく、んぐっ、アタシはこんなにバカみたいじゃないわよ」
それはイヴちゃんも食べながら突っ込んでくるほどだった。
私たちがカエルの格好をしていたのは、キッカラの村を出るまでの間だけだったし……コッペパンもたしかに、ハーシエルさんにもらって街の道端で食べたけど……。
このイラストだと、いつもこんな格好してるみたいじゃないか。
でも……これでようやく、街の人たちと、町長さんが私たちを探していた理由が飲み込めた。
「……私たちに、このカラーマリーの街の宣伝を手伝ってほしい……ということですか?」
私がおそるおそる聞くと、町長さんはハエのように擦っていた手を、ギュッギュッとした揉み手に変える。
「さすが、伝説の仕掛け人! お察しの通りです! この街はメリーデイズから来る観光客をメインターゲットにしているのですが、年々少なくなっていて……それを増やすためのお手伝いを、リリーさんたちにしていただきたいのです!」
「あの……でも、キッカラの時もアルトスの時も、私たちは別に宣伝しようと思ってやったわけじゃないんです。ただの偶然が重なっただけで……」
「またまたぁ、もうご謙遜はいいんですよ! ふたつの地域での観客誘致を、あれだけの規模でやってのけるなんて……偶然なわけがありません!」
私がいくら言っても、町長さんは信じてくれそうにない。
困ってしまって、どう言えば誤解がとけるか考え込む。
考えながら……もうせっかくだからと、目の前にあったイカの胴体にごはんを詰めた料理を口に運ぶ。
実をいうと、屋台で見たときから気になってたんだ。
「本当に、偶然なのになぁ……ん! これおいしい! シロちゃんも食べてみて、食べてみて!」
私は料理に手をつけようとしないシロちゃんに、同じものを食べさせてあげようとする。
彼女は戸惑っていたようだけど、個別で勧められたものは断らないタイプだ。
シロちゃんはおずおずと口を開いて、イカごはんを口にする。
「ありがとうございます……あっ、お、おいしいです……!」
「でしょ! えへへへへへ!」
悩んでいたのも忘れて、私はシロちゃんと微笑みあう。
すると、ダアンとテーブルを叩く音がした。
見ると、町長さんが私とシロちゃんをビシッと指さしていた。
「……そう! それです! 私は、リリーさんたちのそれを求めているんです……!」
「……えっ、私たちのそれ、って……?」
「その仲良しなところです! 聞きましたよ、イカ焼きの屋台でも、仲良くイカ焼きを分け合って……お客さんを呼び込んだと!」
「あ、あれは別に、呼び込んだわけじゃ……」
「いいんです! もう! 偶然でもなんでも……! あなたたちが楽しそうに、この街で遊んでいるだけで、それだけでもう一大アピールになるんですっ……!」
「は、はぁ……」
迷っている私に、グイグイくる町長さん。
「リリーさん、イヴさん、ミントさん、シロさん、クロさん……! どうか、どうか、この街の観光ピーアールに力を貸してください! 難しいことはなにもありません! この街で仲良く遊んでいただければいいだけです! 遊ぶお金はもちろんこちら持ちで! それに……もちろんお礼も用意させていただきます! リリーさんたちは南東に向かっているんでしょう? スカート湾を、客船に乗って渡れるくらいの旅費はお渡しします!」
ついには、ガバッとテーブルの上に伏す始末だった。
「う、うぅ~ん……」
私は腕組みして、唸ってしまった。
今までに例のない依頼だったので、引き受けても大丈夫かなぁと思ってたんだけど、
「まぁ、いいんじゃない? どーせこの街でもアルバイトを探すつもりだったんでしょ? 遊んでお礼がもらえるんだったら、ラクでいーじゃない」
イヴちゃんはあっさりとしたものだった。
「いーじゃない!」と揃って同意するクルミちゃん。
「それはそうかもしれないけど……みんなはどう?」
私は念のために、ミントちゃんシロちゃんクロちゃんの意見も聞いてみる。
「ミント、よくわかんなーい! でも、イカがたべられるんだったら、いいー!」
すかさず「もちろん、イカは食べ放題ですよ!」と町長。
「ならやるー!」とミントちゃん。
「あの……危険なこととか、恥ずかしいことはないんでしょうか?」
続けざまに「とんでもない! すでにこの街はご覧になったでしょう? 安全で楽しいことばかりですよ!」と町長。
「ありがとうございます。あの、それでしたら、お手伝いさせていただいても……」とシロちゃん。
「……」
クロちゃんは無言で頷いていたので、町長は拍子抜けしたようだった。
みんなは観光ピーアールの手伝いを、やってもいいという反応だ。
まぁ、たしかにアルバイトは探さなきゃいけなかったし、なんだか楽しそうな内容だし……それにもうこんなにご馳走にもなっちゃったし……。
「……わかりました、町長さん! お手伝いさせていただきます!」
承諾したとたん、背後からワッと歓声がしたので、私はちょっとびっくりしてしまった。




