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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
リリーとゆかいな仲間たち
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 明るいところに出てクロちゃんも回復したようだったので、降ろして岩陰に隠れた。この階の様子を確認すると、昇降機のところ以外にリザードマンの姿はないようだった。

 その唯一のリザードマンですら、椅子から転げ落ちて地面で眠りこける始末だ。

 そのおかげで見つからずに来れたようなところもあるが、ここから先はもうちょっと用心しながら進んでいこうということになり、まずはミントちゃんが状況を偵察してくることとなった。


 姿勢を低くしたミントちゃんは壁にはりつきながら音もなく移動し、出口に繋がる階段をのぼっていった。


 しばらくして階段を下りてきたミントちゃんは、階段の中腹から手招きしてきた。肩に乗った藁人形も一緒に手招きしている。

 ……しゃべらない彼女というのはなんだからしくない感じがするが、この状況でいつもの声を出されても困る。手招きに従って岩陰から出て、なるべく音をたてないようにしながら彼女の元に向かった。

 階段をあがると、洞窟の出口前にでた。外を見ると、異様なほど明るい集落が遠方に見える。……荷物はあきらめて、逃げてしまいたくなる自分がいる。


「どうする? 洞窟から出て逃げちゃう?」

 みんなはどうなのか聞いてみると、

「このまま逃げるなんで冗談じゃないわよ!」

「ミント、かみどめがないとイヤ」

「釣竿……」

「あの……私もできましたら……タリスマンを……」

 満場一致だった。……もしみんなが「逃げる」を選んだら、みんなが逃げ終えるまで待って、荷物を取り返しに行くつもりだったけど、その必要はなさそうだ。


 私たちの荷物を持ったリザードマンは、ここからさらに階段をあがっていった。外壁に沿うように作られたのぼり階段は人工的に補強されているようで、等間隔に太い鉄骨が並んでいる。手入れはされていないようでどれも錆びていたが、リザードマンというのは見た目のわりに高い建築技術を持ってるんだなぁと思った。

 ミントちゃんの偵察のあと階段をのぼっていくと、途中に岩壁をくりぬいた通路があった。階段はまだ続いていたが、先にこの通路を調べてみることにした。

 通路の先を進むと大きな石扉が三つある広い空間に出た。中は鉄骨により過剰なほど補強されており、外壁の鉄骨につけられたかがり火と、真ん中の網に囲まれたところで大きな火が焚かれており、炎に照らされた鉄骨がオレンジ色に鈍く光って不思議な雰囲気を醸し出していた。


 通路と部屋の境目にある鉄骨の柱に隠れて、中の様子をうかがってみたがリザードマンの姿は見あたらない……扉の向こうにいるんだろうか。


「ミントちゃん、扉、見てきてくれる?」

「いいよ~、どれから?」

 また顔を出して今度は石扉に注目してみる。扉は中央、右側、左側と等間隔をあけて存在し、金属の取っ手と、かんぬき用のかすがいが打ち付けられていた。かんぬきの棒はかかっておらず、隣に立てかけられている。


「ん~、任せる」

 正直、違いがわからなかった。


「まっかせて!」

 適当な指示でも快活な返事をしてくれたミントちゃんは飛び出していくと、迷う様子もなく左側の扉に向かって駆けていった。

 素早く扉をよじのぼって天井との隙間に頭を突っ込んで、中に入っていく。藁人形は肩から落下したが、途中でフリルスカートを掴んで必死になってしがみついていた。


 ミントちゃんが左の扉に潜りこんだ直後、真ん中の扉が開いて中から一匹のリザードマンが出てきた。こんなに明るいのに松明を持ち、眠そうな眼をしながら右側の扉に向かって歩いていく。扉の前につくと大あくびをひとつして、重そうな石扉を開け中に入っていった。


「リザードマンって、あくびするんだ」

「そりゃするでしょ」

「お口、おおきかったですね」

「……」


 しばらくして扉から出てきたリザードマンは、今度は左側の扉に向かって歩いていく……まずい、そこにはミントちゃんがいる。中に入られたら、彼女と鉢合わせしてしまうかもしれない。


「どーしよう? 見つかっちゃうかも!」

「調べろって言ったのあんたでしょ、何とかなさいよ!」

「このままではミントさんが……!」

「……」


 イヴちゃん、シロちゃん、クロちゃんの視線が私に集中する。どうにかしてリザードマンの気をそらすか、中のミントちゃんに知らせないと! でも、どーしょう? ……どーしよう!

 声を出してオトリになる? いやでも、こっちにこられても困るし……。それとも四人がかりで、素手で挑んでみる? いや、その前に見つかっちゃうだろうし……。

 扉の前でまた大あくびをするリザードマンを見ながら、頭をかきむしった。なにかいい手はないか……なにか、なにか……まわりを見回して何か使えそうなものを探したが、まったくない!

 ……いや、まったくなくはなかった!


「ごめんクロちゃん、ちょっと貸して!」

 クロちゃんの手から片手杖をひったくると、身を乗り出して呪文を唱えた。


 リザードマンが扉の取っ手を持とうとした瞬間、バチンという音ともに静電気が走った。びっくりして手を離すリザードマン。眠そうだった眼が一気に開かれた。何が起こったのか理解できていないようで、扉に向かってシャーシャー威嚇をはじめた。

 すると……威嚇の音を聞きつけたのか、ミントちゃんが上からひょっこり顔を出した。視線を落としてリザードマンを見ている。

 リザードマンは松明で取っ手を二、三回小突いて安全を確認したあと、扉をあけて中に入っていった。扉が閉まると同時に、入れ違いで外に出るミントちゃん。彼女は近くに立てかけてあるかんぬき用の棒に飛びついて、持ち上げようとしていた。


「行こう、みんな!」


 ミントちゃんの意図を察した私は飛び出して、彼女の元へと向かった。身長の倍くらいあるその棒が倒れてきて、ミントちゃんが押しつぶされる直前でなんとか支えることに成功した。

 みんなで力をあわせて棒を持ち上げ、石扉にセットする。

 これで……リザードマンは閉じ込められた……はず。

 石扉が開かないことを不審に思ったのか、扉の向こうでゴンゴンと叩く音がした。石でできているせいで、それほど音は響かない。しばらくすると、その音すらしなくなった。


 この行為がいいのかわるいのか、まだわからないけど、

「ナイス! ミントちゃん!」

 とりあえず賞賛するとミントちゃんは、「エッヘン」と胸を張った。


 それと……今言うことじゃないと思ったけど、どうしても言っておきたかったので、

「静電気にはこういう使い道もあるんだから」

 イヴちゃんのほうをチラリ見る。


「たまたまでしょ!」

 唾が飛んできそうな勢いで言われたあと、

「……でも、ま……ちょっとは見直したわ」

 意外と素直に認めてくれた。


 「エッヘン」とミントちゃんの真似をして胸を張ってみせると、

「ほんのちょっと、ごく僅か、ミリ単位で見直しただけなんだからね! いい気にならないの!」

 捨て台詞が上乗せされてしまった。

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