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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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「答えは……『ウサギまっしぐらで、おびき寄せた』……」


 ……リリーの立てた作戦はこうでした。


 まず、仲間を二班にわけました。

 生きているフタを捕まえる、リリー、イヴ、クロの班。

 ウサギを集めてくる、ミントとシロの班。


 実はリリーは仲間たちだけではなく、ウサギに変えられた人間たちとも一緒に逃げ出そうとしていたのです……!


 リリーたちは首尾よく、フタを捕まえることができました。

 特にトラブルがなければ、ミントたちを待つだけだったのですが……そこにヴォーパルがやって来たのです。


 ヴォーパルの邪魔は完全に想定外でした。

 リリーはどうしようかと迷っていたのですが……そこでクロが、ナゾナゾ勝負を申し出たのです。


 その勝負で、クロはヴォーパルと熱い攻防を繰り広げました。

 危ない局面もありましたが、それすらクロにとっては作戦のうちでしかなく……ミントが合流するまでの、時間稼ぎでしかなかったのです……!


 早く勝負をつけてしまうと、ヴォーパルのさらなる妨害にあうと読んでいたクロは、ギリギリまで決着を先延ばしにしました。


 「いま、なんじ?」のナゾナゾで正確な時間を知ったあと、あとどれくらいでミントが合流するかを計算していました。

 そして、合流まであと少しというところで……ダイヤモンドパンの切り札を出したのです……!


 クロの計算は、完璧でした。

 悪魔が前歯を失い、最も力を失っているタイミングにあわせて、ミントとの合流に成功したのです。


 ミントはリリーに教えられていた作戦どおり、『ウサギまっしぐら』を思い浮かべながら、『ごちそうの森』へと向かいました。

 『ごちそうの森』は思い浮かべたものが料理として出てきます。


 そこで、最高級のブランドニンジン……『ウサギまっしぐら』を手にいれました。

 このニンジンは、ウサギであるならばまっしぐらに向かわずにはいられないほど、ウサギを呼び寄せる力があるのです。


 ニンジンを持ったまま、ミントは森じゅうを走りまわり、ウサギたちを呼び集めました。

 普通の人間であれば、あっという間に追いつかれてしまうのですが、俊足のミントは逃げ切れるのです。


 そうしてミントは村じゅうのウサギを集めることに成功し、まさに今、リリーたちの元へとやって来たのです……!


「リリーちゃーーーんっ!! きたよぉぉぉぉーーーっ!!」


 無数のウサギを、笛吹きのように引き連れ、幼い少女が走ってきます。

 その手には、錦の御旗ように翻る、紐にくくりつけられたニンジンがありました。


「はぁ、はぁ、はぁ……おま……おまたせ……おまたせしました……!」


 そこからだいぶ遅れて、死にそうな顔でシロが続きます。

 シロは逃げ遅れた子ウサギを集めてくる役割でした。


 最初はたくさんの子ウサギを抱っこして、ミントの後を追っていたのですが……周回遅れとなり、ついには腕から飛び出した子ウサギたちから、先導される始末です。


 ちなみにリリーが、ミントとシロを分けたのには別の狙いもありました。

 ミントは落ち着きがなく、シロはウソがつけないので、生きているフタを捕まえるには適さないと思ったからです。


 ちょっとした予想外の出来事はあったものの、リリーの作戦は大成功……!


「よぉし! みんなーっ! この中に飛び込んでっ!!」


 リリーは生きているフタの木扉を、全開にして叫びました。


「さ……させるかあああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


 死に物狂いのヴォーパル。

 しかしその裂帛の気合は、すぐに断末魔へと変わります。


「させ……ぎゃああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」


 押し寄せてきたミント、そしておびただしい数のウサギたちに背中を踏みつけられていました。

 死にかけだったヴォーパルにとって、トドメとなるにはじゅうぶんな一撃……いや、一万撃となったのです。


 リリーたちも、ウサギの波にさらわれるようにして、水たまりの中に飛び込みました。


 ……。


 …………。


 ………………。


 ……どのくらい長い間だったかは、わかりません。


 でもリリーたちにとって、永遠のように時間の止まっていた村から……ついに逃げ出すことができたのです……!


 リリーたちが飛び出したのは、真っ暗闇の森のなかでした。

 冷たい空気で、村の外に出れたというのを実感しています。


 水たまりから、間欠泉のように噴出するウサギたち。

 空中で青白いオーラに変わり、タンポポの綿毛のようにふわふわと天にのぼっていきます。


 オーラの中には、様々な冒険者の姿があって……リリーたちに感謝するように、手を振っていました。


「わあーっ! きれーい!」


 ミントはオーラの美しさに、ウサギのようにピョンピョン飛び跳ねてはしゃいでいます。

 外に出られた解放感と相まって、リリーたちもつい見とれてしまいました。


 しかし、その余韻に水をさすように……リリーの足首が、ガシッ! と掴まれます。


「ひゃあっ!?」


 蛇に巻きつかれたような、背筋が凍る感触。

 リリーは気持ち悪さのあまり、腰を抜かしてしまいました。


 すっかり油断しきっていた、少女たちの目の前には……鼻から上だけ水面に出した、悪魔の顔があったのです……!


「リリーぃぃぃっ! たしかに貴様は、メラルドを虜にした勇者に違いないっ……! 今こそ、認めてやろうっ……! だから……だからこそ逃さん……逃さんぞぉぉぉぉっ……!! 魔界に連れ帰って……見世物にしてやるっ……! ウサギになったほうがマシだと思うほどの、最高の苦しみを与えてやるっ……!! 悪魔に刃向かって、タダですまないことを、骨の髄まで教えてやろうっ……!!!」


「まぁた、能書きをベラベラと……! 魔界に帰りたきゃ……ひとりで帰んなさいよぉっ!!」


 ……グシャアアアアアッ!!


「ぶぎゃああああああんっ!?!?!?」


 イヴが頭の上から落とした岩を、まともに食らったヴォーパル。

 やり過ぎのモグラたたきのように、水たまりの中に引っ込んでいきました。


 それでも手首は掴まれたままだったので、リリーは腰をぬかしたまま後ずさります。

 すると、ブチリというイヤな音とともにちぎれ、手首だけがリリーの足首に残りました。


「これでよし、っと! 前歯とウサギ、力の源をぜんぶ失ったアイツは、この岩を跳ね除けるだけの力は残ってないでしょ!」


 パンパンと手をはたいて、イヴはすっきりした様子で言います。

 そして、気づきました。


「……あら、リリーとクロ、悪趣味なアンクレットしてんのねぇ、そんなのどこで買ったのよ」


 イヴはフフンと笑います。


 ミントは「へんなのー!」と指さして、ケラケラと笑っています。

 シロは笑うどころか、心配そうにしていました。


 リリーとクロ、ふたりの足首には……まるでお揃いのように、干からびた手首があったのです。

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