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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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 悪魔メラルド。魔界では有名なサキュバス。

 サキュバスというのは人間の男に淫夢を見させ、虜にしてしまうという悪魔です。


 でもメラルドは男に興味がなく、女の子が好きなのです。

 女の子を虜にして意のままに操り、珍しい財宝を集めていました。


 かつてリリーたちも、メラルドの淫夢にかかったことがありました。

 しかしリリーはその夢の違和感を感じとり、打ち破ったのです。


 数多くの女の子をモノにしてきたメラルドの淫夢術が、初めて破られたのです。

 この事実は、魔界で大きなニュースになりました。


 魔界に戻ってきたメラルドは、リリーのことばかり考えていました。

 その姿を見た仲間たちは、衝撃を受けました。


 「あのメラルドが、人間の虜になっている……!」と。

 悪魔たちは色めきたちました。その人間は誰なのかと探そうとしました。


 でもメラルドは、リリーが勇者であること以外は口外しませんでした。

 他の悪魔に手出しをさせたくなかったので、自分だけの秘密として仕舞いこんだのです。


 非情なメラルドにそこまでさせるのは、いったいどんな人間なのかと……ヴォーパルも興味を持つようになりました。


 ヴォーパルは、女の子が好きというわけではありません。

 でもメラルドと同じく、術を使って人間を陥れるというやり方をしていたので、その術を破った人間として気になっていたのです。


 そして想像していました。


 悪魔を虜にするほどだ、きっと息を呑むような絶世の美女で、知恵と勇気、気品や風格はもちろんのこと、伝説の勇者と呼べるほどの絶大なる力をも持ちあわせた、完全無欠の女なのだろう、と……!


 しかし……現実は違っていました。

 目の前にいる、メラルドを打ち破ったという勇者……リリーは想像とは真逆だったのです。


 勇者という以前に、冒険者というにも年端もいかない子供。

 ブサイクではないけれど、そのへんにいそうな村娘みたいな容姿。

 しかも一喝されただけで仲間の影に隠れてしまうという、情けない有様……!


「う……ウソだっ!」


 ヴォーパルはとても信じられませんでした、そして、認めたくありませんでした。


 そのへんの雑魚モンスターにもやられてしまいそうな、見習い冒険者の少女が……最強ともいえる悪魔を打ち破ったということを……!


「ウソだウソだウソだっ……! ぜぇったいにウソだぁっ!! 貴様らは、メラルドを打ち破った勇者から話を聞いて、知っていただけだろう!!」


 ヴォーパルは顔をブンブン振り、場の空気を滅多斬りにするみたいに前歯をビュンビュン振り回しました。


 目の前で狂ったように刃物を振り回され、リリーとイヴは思わず後ずさりします。

 最前線にいるクロは、すぐ近くを刃が掠めているというのに瞬きひとつしません。


 ぜいぜいと肩で息をするヴォーパルに向かって、事務的に告げます。


「メラルドの淫夢を破ったのがリリーかどうかは、今は問題ではない。ナゾナゾのほうは正解のようなので、次はこっちの問題」


 淡々と進行をするクロ。その姿に、リリーは違和感を感じていました。

 感情を表に出さないのはいつもと変わらないのですが、なにか急いでいるような印象を受けたのです。


「あの、クロちゃ……」


 心配したリリーは声をかけようとしましたが、クロの視線で遮られました。


「……もうじき。この問題で決める」


 それは短い言葉でしたが、リリーは理解します。

 そして「えっ」となりました。


「き、決めるって、クロちゃん……」


 クロはそのままヴォーパルのほうに向き直りました。

 そして変わらぬ調子で、問題をつぶやきます。


「……パンはパンでも、食べられないパンはなーんだ?」


 クロが「決める」と宣言した問題……それは、ナゾナゾの基本中の基本ともいえるものでした。


「「「ええっ!?」」」


 これには相手のヴォーパルだけでなく、リリーとクロも目を丸くします。


「ちょっとクロ、そんな問題でいいの!?」


 すかさずイヴが口を挟みます。

 彼女は今までのナゾナゾはひとつもわかりませんでしたが、この問題だけは知っていました。

 それほどに有名な問題なのです。


「もしかして、クロちゃん……」


 リリーは感づいていました。


 クロちゃんは、ヴォーパルのやった『悪魔のナゾナゾ』をやり返そうとしているんだ……! と。


 パンはパンでも、食べられないパン……。

 この問題は有名であると同時に、答えが複数存在するのです。


 しかしそんな簡単なことに、ヴォーパルが気づかないわけがありません。


「ふざけるなあっ! こっちの答えに応じて、正解を変えるつもりだろう! たかが人間が、悪魔向かって策を弄するなど……! もう我慢ならんっ! 反則負けとして、ウサギに……!」


 自分のしていたことは棚に上げて、ヴォーパルは激怒します。

 興奮のあまり、突風みたいな鼻息を出していました。


 クロは前髪を揺らしながら、手のひらで反論を遮ります。


「……この問題は、明確な正解が存在する。それもひとつのみ」


 クロの一言は起伏がありませんでしたが、キッパリとしていました。


「なにいぃ……!? そこまで言うなら、いいだろう……答えてやる……! だが納得できなければ、今度こそ、反則負けとしてウサギに変えてやるからな……!」


「構わない」


 頷くクロに対し、ヴォーパルは久しぶりの笑みを取り戻しました。


 問題の答えに納得できなければ、ウサギになってもいいと承諾させたのです。

 ということは……問題に正解する必要すらなくなったのです。


 不正解のあとにクロが述べる答えに、納得しなければいい……ただ、それだけでいいのです……!


「ク、クロちゃん、そんな約束して大丈夫なの……!?」


「ちょっと待ちなさいよ! 今のナシでしょ!?」


 仲間たちは今更ながらに事の重大さに気づき、取り消そうとします。

 しかしヴォーパルは嘲笑とともに一蹴しました。


「ヒャハハハハハハハハハ! もう遅いっ!! ナゾナゾ勝負において、いちど口に出したものは覆らんっ!! さあっ、答えてやるぞっ! ……パンはパンでも食べられないパン……それは……『フライパン』だあっ!!」


 クロはふるふると、首を左右に振ります。


「不正解。モンスターのなかには、鉄を食料とするものがいる。またフライパンも粉末状にして数回に分ければ、人間でも完食は可能」


「……じゃ、じゃあ、ジーパンとか?」


 おそるおそる答えるリリーに対し、またしてもクロは首を左右に振りました。


「不正解。毛織物を食料とする昆虫が存在する」


「……なら、腐ったパンとかかしら?」


 いぶかしげに答えるイヴに対し、またまたクロは首を振ります。


「不正解。腐ったパンは食後に悪影響が出る可能性があるが、可食」


「ええっ、じゃあ……」


 リリーはさらに答えようとしましたが、ヴォーパルが、ダアン! とテーブルを叩いたことで中断させられました。


「もういいっ! 貴様らの茶番はもうたくさんだ! さあっ、答えを言ってみろっ! 納得ができなければ、即ウサギとなる答えを……!!」


 クロはこくん、と頷いたあと、特にもったいつける様子もなく、答えを口にしました。


「「「……えっ……ええええええっ!?!?」」」


 それは……またしても敵味方をハモらせてしまうほどの、意外なものだったのです。

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