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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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83

 クロとヴォーパルの、ナゾナゾ対決……戦いはクロが優勢になりつつありました。

 苦境に立たされたヴォーパルはついに、悪魔としての本領を発揮しはじめたのです。


「定規、消しゴム、ハサミ……この中で一番お金を貯めているのはだあれ?」


 次にヴォーパルが出した問題。

 それはクロの背後で聞いていた、リリーもすぐにわかるほど簡単なものでした。


「ハサミ」


 当然、クロは難なく答えます。

 しかしヴォーパルは満面の嘲り顔をつくると、蛇のように長い舌を垂らしつつ言ってのけたのです。


「ざあんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!! ハズレぇぇぇぇぇぇっ!!」


 これにはリリーもビックリしていました。


「ええっ!? 私もハサミだと思ってたのに……!? ハサミじゃないの!?」


 イヴは、目が点になっています。


「……なんでハサミなのよ?」


「ハサミは『チョキン』ってするでしょ? それと『貯金』がかかってるんだよ」


「ハサミは貯金しないでしょ……」


 呆れた様子のイヴを、ヴォーパルはビッ! と指さしました。


「その通り! 定規、消しゴム、ハサミ……どれも貯金などしないっ! だから正解は……『誰でもない』……!!」


 頬まで裂けた口で、悪魔はニタニタと笑っています。


 ヴォーパルが放った、『悪魔のナゾナゾ』……。

 それは相手の答えによって、正解が変わるものでした。


 クロが『ハサミ』と答えれば正解は『誰でもない』になり、『誰でもない』と答えれば正解は『ハサミ』になるのです……!


「ええーっ!? 選択肢があるのに、どれでもないなんて……そんなのずるっ……!!」


 リリーは抗議の声をあげましたが、途中で味方のクロの手によって遮られました。


「んぐっ……!? く……クロちゃん?」


 言葉を飲み込みつつ、驚くリリー。

 クロは、ヴォーパルを見据えたまま言います。


「……魔界に存在する、悪しき精霊が宿った大バサミ……『ブラッドシザー』が、貯金を趣味にしているのは有名な話。『モンスター名鑑』などにも書かれているが……同じ魔界に棲む悪魔であるならば、知っているはず」


 この言い分にはリリーの目が点になり、逆にイヴが乗ってきました。いつもとは逆です。


「あ……! アタシそれ知ってる! じゃあハサミで合ってるんじゃない!」


「ちょ……貯金するハサミなんて、いるんだ……」


「なに言ってんのよリリー、授業でも習ったでしょーが!」


「……そ、そうだっけ……」


 クロの反撃は、ヴォーパルにとって予想外でした。

 もちろん反論はあるだろうと思っていたのですが、それはリリーみたいに「ずるい!」と叫ぶくらいだと思っていたのです。


 その程度であれば、封じ込める自信はありました。

 しかしクロは……思いもしなかった実例を出してきて、答えを覆してきたのです。


 たしかにヴォーパルは、『ブラッドシザー』のことをよく知っていました。

 そして彼が、大の貯金好きであることも……!


 学校の授業でも取り上げられるような有名な悪魔なので、ヴォーパルはとぼけることができませんでした。

 そうなると、今度はクロの指摘に反論する必要がでてきます。


「ぬうっ!? ぬぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……!!」


 血みどろのような真紅の唇を震わせ、悪魔がワナワナと苦悩する様を……リリーは不安そうに、イヴは不敵に、クロは変わらぬ様子で見つめていました。

 しかし……ヴォーパルはいくら考えても、その言葉が思いつきません。


「せ……正解っ……正解……だ……! 正解は……『ハサミ』……だ……!」


 とうとうガックリと膝をついて、答えを変えざるをえませんでした。


「きゃーっ! やったやったクロちゃん! 一時はどうなるかと思ったけど……勝った、勝ったよぉぉぉっ!!」


 リリーは大喜びして、クロに頬ずりします。


 されるがままのクロは、嬉しそうでも、嫌そうでもありません。

 「……まだ、こちらの勝利ではない」と、いたって冷静を保っています。


「そ……その通り……! ちょっとくらい言い負かせたからといって、いい気になるなよぉ……! ぐおぉぉぉぉぉぉぉっ……!!」


 四つん這いのまま、顔だけあげて吠えるヴォーパル。

 その姿は地獄の番犬のようで、リリーは「ひいっ!?」とクロの陰にかくれてしまいます。


 リリーはただただ怯えているようにしか見えませんでしたが……その実、頭の隅で考えを巡らせていました。


 ……今回のナゾナゾは、明らかにヴォーパルが不正を仕掛けてきたもの。

 正解が『ハサミ』でも、『誰でもない』でも、ナゾナゾとしての筋は通っている。


 クロちゃんの搦め手のような反論がなければ、言い負かされていただろう、と……!


 きっと次も、同じような卑怯な問題を出してくるはず。

 その前に、なんとかして勝たないと……!


 そして……リリーは決意します。


「クロちゃん……次の問題、私に出させて……!」


 暗い山のようなローブの陰から、日が昇るように、リリーは立ち上がりました。


「構わない」


 クロはあっさりと認めてくれます。


「……なんだとぉ!? そんなの許されるわけないだろう!!」


 ヴォーパルは、いまにも飛びかからんばかりに唸っています。


「そちらがひとりで、こちらが三人であることは、開始前に確認したはず」


「ぬぐうっ……!? そ……そうだったか……! い、いいだろう……! さぁ……問題を出すがいいっ!!」


 悪魔はぐあっと立ち上がり、再びリリーたちを見下ろしました。

 リリーは一瞬ひるんでしまいましたが、イヴから「シャンとしなさい!」と背中をバンと叩かれて持ち直します。


「え、えーっと……じゃあ、いくね」


 リリーはこほんと咳払いをしたあと、出題をはじめます。


「私……リリーと、イヴちゃん、ミントちゃん、シロちゃん、クロちゃん……その五人でヤリ投げをして遊びました。いちばん飛ばずにビリになったのはだーれだ?」


 なんと、リリーが出してきたのは……仲間たちが登場するという、奇想天外なものでした。

 これには相手だけでなく、チームメイトまでもが目を見開いています。


「なっ……なにいっ……!? 貴様らのナゾナゾだとぉ……!?」


「な……なによそれっ!? アタシたちをナゾナゾにしちゃったのっ!?」


 声を荒らげるヴォーパルとイヴ。

 クロは何も言いませんでしたが、眠そうな瞼はいつもより持ち上がっています。


「さあっ、みんなが出てくる特製のナゾナゾだよ! 考えて考えて!」


 皆の反応にすっかり気をよくしたリリーは、仲間たちにすら考えることを促しました。


「……う……うう~ん」


 ヴォーパル、イヴ、クロ……そろってアゴに手を当て、シンキングタイムに入ります。


 この問題は……お話を読んでいるあなたも、考えてみてください。

 リリー、イヴ、ミント、シロ、クロ……五人の性格を考えれば、すぐにわかるはずです……!

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