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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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82

「魚屋で、8匹の魚が売られていました! そこに、こっそりとノラネコが近づいてきて1匹くわえていきました! さぁて……残った魚は何匹!?」


「9匹」


「ば……ばかなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


 即答されてしまい、ヴォーパルは顔面に大砲を受けたかのように、のけぞり倒れてしまいました。


 小さな魔法使い、クロをを倒すべく……悪魔ヴォーパルが放ったナゾナゾ。

 全身全霊をこめた『ひっかけ問題』は、息を吐くようにあっさりと打ち破られてしまいました。


「え? 答えは7匹じゃないの? なんで1匹咥えていったのに、増えてんのよ?」


 イヴは、ヴォーパルが望んでいた誤答を口にしました。

 その隣りにいたリリーは、苦笑しつつ教えてあげます。


「いやいや、違うよイヴちゃん。加えていったから、1匹増えて9匹になるんだよ」


「なんでよ? 咥えてったんだったら減るでしょ!?」


 襟首を掴んでくるイヴに対し、リリーは襟元にあるイヴの手を、ネコのマネをしながらパクっと咥えました。


「この、『咥える』じゃないんだよ」


 続けざまにイヴを抱き寄せて、ギュッとします。


「こっちのほうの、『加える』って意味なんだよ。ようは、ネコが1匹魚を置いてってくれたってこと」


 リリーの解説を理解した瞬間……イヴはクロみたいな真顔になり、動かなくなりました。

 かなりショックだったようです。瞳の光はすっかり消え失せています。


 しかも抱きつかれているにもかかわらず、跳ね除けようとしませんでした。


「い……イヴちゃん? おーい、イヴちゃん?」


 様子がおかしいと感じたリリーは身体を離し、イヴの肩を掴んで揺さぶりました。

 すると光沢が走るように、イヴの瞳に光が戻ったかと思うと、


「な……なんでっ……!? なんでネコがそんなことすんのよっ!?」


 逆にリリーの肩をガッと掴んで、激しく揺さぶってきました。

 イヴが呆然自失になったポイントは、ネコが魚屋に魚を置きにきたという点だったようです。


「た……たしかに……へ……変かもしれないけど……こっ、これは……ナゾナゾだし……」


 ガクガク前後に揺れながら、ビブラートのかかった声でリリーはなんとか答えます。


「それに普通、魚屋にこっそりノラネコが来たんだったら、盗んでくと思うでしょうが!? 汚いわよっ!」


「う……うん……そ……そうやって、間違えるのを狙った問題だし……」


「じゃあアタシは、それにまんまと引っかかったってこと!? くやしぃぃぃっ!!」


 そう……そうなのです。

 簡単に見せかけた問題を出し、誤答を狙う……それがヴォーパルの作戦でした。


 でも、クロにはまったく効きませんでした。

 それどころか、リリーにすら見破られていたのです。


 満を持した仕掛けが、あっさりと破られてしまったヴォーパル。

 彼女の屈辱は、計り知れないものがありました。


 しばらく倒れたまま、打ちひしがれていたのですが……リリーとイヴの雑談の間に、なんとか復活しました。


 震える手を伸ばして、起き上がろうとします。

 テーブルの端にガッと爪立て……表面をガリガリと傷付けつつ、身体を起こすヴォーパル。


「ぐ……ぐぐぐぐっ……!!」


 歯を食いしばりながら立ち上がろうとするその様は、クロのほうから見ると、がけっぷちから這い上がってくる怪物のようでした。


 普通の人間であれば、背筋が凍るような恐ろしい光景でしたが……クロは表情ひとつ変えず、むしろ蹴落とさんばかりに次の問題を出します。


「……いま、なんじ?」


 それは、恐ろしいほどにシンプルな問題でした。

 ナゾナゾとは思えないほど短い一言だったので、ヴォーパルは聞き返します。


「な……なにぃ……!? なんだとぉ……!?」


「いま、なんじ?」


 変わらない口調で、クロは問題を繰り返しました。

 どうやら、これが問題で間違いないようです。


「今、何時? だとぉ……? うむむむ……!?」


 ヴォーパルはテーブルにしがみつくようにして、考えはじめます。


 ちなみにこの時、リリーとイヴは何をしていたかというと……まだノラネコ問題でモメていました。

 いつのまにか、掴み合いにまで発展しています。といっても、イヴが一方的にリリーの顔をムニムニしているだけでしたが。


 そんな乳繰り合いをよそに、ヴォーパルは悩み続けます。

 答えを出すにあたり、大きな問題がひとつあったためです。


 この、水たまりに映る村においては、時間はいくつも存在するのです。

 今いる『ひみつの森』は夕方ですが、他の森は夜だったり、昼だったりするのです……!


 そしてヴォーパルは、確信していたことがひとつだけありました。

 きっとこれは、ひっかけ問題であると……!


 悩んだ挙句、ある考えに至るヴォーパル。

 テーブルの下でこっそりと、懐中時計を開きました。


 ホットケーキくらいある、大きな懐中時計。

 文字盤には、真ん中に大きな時計がひとつあって……外周には、12個の小さな時計が並んでいました。


 まわりの小さな時計は、それぞれの森の時刻で、真ん中にあるのは外の世界の時刻を表しています。

 いま、外の世界は何時かと見てみると……真夜中の2時でした。


「わ……わかったぞぉ! 2時……2時だぁ……!」


 ヴォーパルは顔をあげながら、自信たっぷりに答えを口にしました。


 彼女は考えたのです。この森の時間ではなく、外の世界の時間……それこそが、答えであると……!


 しかし言ったあとに、大きな間違いを犯していることに気づきました。

 この村にいる、ヴォーパル以外の存在には、外の時間を知る術がないことに……!


 クロも間違いなく、外の時間を知らないでしょう。

 そして外の時間を知らないということは、正解が用意できない……したがって、それが答えになることは、ありえないのです……!


 ヴォーパルは、「しまった! 今のナシ!」と取り消そうとしましたが、それより早く、


「正解」


 とクロがつぶやきました。

 正解と聞かされて、ヴォーパルはキョトンとしていましたが……すぐに立ち直ります。


「せ……正解だとっ!? そ、そうか……や、やった! やったぞぉ! やっぱり……やっぱりだ! ひっかけ問題だったか!」


「……え? なんでいまが2時なの? 夕方じゃない」


 リリーの頬を両手でぐいぐいと広げていたイヴが、ふと手を止めて話題に加わってきます。


「ひょ、ひょれは、ひま、ひほひらかららよ」


 空飛ぶモモンガの皮膚みたいに、頬肉を引き伸ばされているリリーが教えてあげました。


「え? 何言ってんのよアンタ?」


「ひ、ひま、ひほひらから……ふぇ、はなひていふはん」


 リリーはイヴの腕に向かって、タップする動作をしました。

 それでようやく解放されます。


「はぁ、頬がビロンってなっちゃうかと思った……『いま』って2文字でしょ? だから、『いま、なんじ?』の答えは2字なんだよ」


「「……な、なるほどぉぉぉぉ~!!」」


 イヴは驚嘆の声をあげました。そしてヴォーパルも驚いていたので、図らずともハモってしまいました。


 ヴォーパルはあわてて口をつぐみます。

 自分が見当違いの考え方をしていたのが、バレたかと肝を冷やしました。


 特に、突っ込み屋のイヴが何か言ってくるんじゃないかとヒヤリとしたのですが、


「……って、そんなのわかるわけないでしょーがっ!!」


 そんなことよりもイヴは、リリーの耳を引っ張るのに夢中だったので、突っ込まれずにすみました。


「現在時刻は、2時……」


 ふと、秋の虫の音のようなつぶやきが耳に入り、ヴォーパルは声のしたほうを見やります。

 視線の先には、ブツブツとつぶやく黒いローブの少女がいたのです。


「現在時刻は、2時……」


 クロは自分に言い聞かせるように、つぶやき続けていました。

 その姿はまるで、自らの身体の内にある、体内時計を修正しているかのようでした。


 ま……まさか……コイツは……引っかけ問題と同時に、いまの外の時間を知るために、この問題を出したのか……!?

 この私が、外の時間を答えることを予想して……!!


 ヴォーパルはクロの真の狙いに気づき、戦慄しました。

 ついにクロは、悪魔を圧倒したのです。


 しかしそれは、悪魔の本気を解放させるきっかけにもなってしまいました。


 こうなったら……最後の……最後の手段を出すしかない……!

 『悪魔のナゾナゾ』……! どんな相手でも絶対に不正解にできる、禁断のナゾナゾを出す……!


 ヴォーパルはもう、クロから悩みを得ることをあきらめていました。

 どんな手を使ってでも勝つことに、意識を変えたのです……!

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