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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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80

 夕焼けの『ひみつの森』で、悪魔ヴォーパルとナゾナゾ勝負をすることになったリリーたち。


「あのオバさん悪魔……どーせ弱いから、ナゾナゾでしか勝つ自信がないんでしょ」


「ちょ……イヴちゃんっ!?」


 余計な一言が止まらないイヴに、リリーは肝を冷やしました。

 挑発されたヴォーパルはというと、仕返すように長い耳をクネクネと、蛇みたいに動かしています。


「……その軽口……これを見ても、まだ叩けるかなぁ……?」


 そう言うなりヴォーパルは、人形みたいに首を捻って一回転させ、長剣のような前歯でひと薙ぎしました。


「はあっ!!」


 ……ビシュンッ!!


 風切音とともに三人の少女の前に、見えない壁のようなプレッシャーが襲いかかりました。

 リリーは思わず直立不動になってしまいます。


 ……ズドォンッ!!


 直後、何かが爆発したような轟音が、背後から襲いかかってきました。


 前からの鋭音と、後ろからの轟音に挟み撃ちされ、リリーはビクッとなって振り向きます。

 イヴはキッと勇ましく、クロは微動だにしません。


 するとリリーたちからかなり離れたところにあった、森の木々がスッパリと切れていて……メキメキとドミノ倒しになっていたのです。


「す……すごい剣圧……!?」


 リリーは神業を前にしたかのように、口をあんぐりさせていました。


 剣圧というのは、剣を振ったときに出る圧力のことで、剣術の達人のみが出すことができるものです。

 それはかまいたちのように鋭い風となって飛び、振った剣に触れていない相手も斬ることができるのです。


 リリーは剣術の授業で、先生が剣圧を出すのを見たことがあります。

 でもほんの少し離れた剣術練習用の人形に、傷をつけるくらいの威力でした。


 それでもリリーは手品を見たみたいにビックリして、自分もいつか剣圧を出せるようになりたい! と思ったのですが……ヴォーパルの剣圧は、それとは比較にならないほど強大だったのです。


 しかも、間にいるリリーたちには傷ひとつつけず、背後の樹木だけを斬ってみせたのです……!


「あっ……あんなバカみたいな威力の剣圧、ありえない……! トリックに決まってるわ……!」


 イヴは認めようとしていませんでしたが、明らかに動揺していました。

 額から汗をタラリとさせています。


 クロだけは、なおもヴォーパルを静かに見つめていました。


「……ナゾナゾ勝負」


 木々の倒れる音にかき消されそうなほどの声で、ボソリとつぶやきます。


「よぉし、ウォーミングアップもすんだことだし……やろうかぁ……!」


 ヴォーパルは、ニヤリと応じました。


 ……それからクロとヴォーパルは、ナゾナゾ勝負をするべく、あずまやの椅子に向かい合って座りました。

 リリーとイヴは、クロの背後について応援します。


「さぁ、やるのよクロ! こんなネズミ女、噛み殺しちゃいなさい!」


 イヴはけしかけるように言いながら、クロの背後から手を回し、目尻を吊り上げました。

 おそらく猫のつもりなのでしょう。クロはされるがままになっていましたが、


「相手はネズミではなく、ウサギ」


 突っ込むことだけは忘れませんでした。


「がんばってクロちゃん! ナゾナゾチャンピオンのクロちゃんなら勝てるよ!」


 リリーはクロの背後から、肩に手を置いて揉みほぐします。

 緊張して肩が張ってるかなと思ったのですが、全く凝っていませんでした。


 さらにリリーは応援しながら、頭のなかで考えを巡らせていたのです。

 フタを捕まえるまでは作戦のとおりだったのですが、ヴォーパルの乱入は予想外でした。


 リリーはいままで貴婦人のことを信用していたのですが、悪魔とわかれば話は別。

 ナゾナゾ勝負を受けてくれたものの、負けたとたんに襲いかかってくることも考えられるのです。


 そうなった場合、なんとかスキを突く方法はないか、得意の搦め手を挟む余地はないか……必死に考えていました。


「……ナゾナゾ勝負のルールについて説明する」


 クロは目を吊り上げられ、肩を揉まれながら、淡々と口を動かします。


「ナゾナゾ勝負は、こちらの三名と、そちらの一名のみで行うものとする。出題者側と回答者側に分かれ、交互に一問づつ問題を出し合って進めていく。回答者側はひとつの問題に対し、一度しか答えることができない。正解となる回答をした場合、出題権は回答者側に移る。不正解となる回答を出した場合で、出題者側の勝利とする。問題は回答者側に理解できる言語で出題せねばならず、回答者側は何度でも聞き返すことができる」


 クロはスッと息継ぎをして、説明を続けます。


「回答者側は出題者側に対し、問題に対してのヒントは求めてはならないが、問題のなかに含まれる単語の意味などは質問可能とする。問題についての回答期限はないが、勝負中は出題者側も回答者側も、この森から出てはならない。勝負中は、お互いの要求である『相手をウサギに変える』『村を出る』行為をしてはならない。勝負中は、相手を脅迫、恫喝、誘導をしてはならず、相手の身体を傷つける行為をしてはならない……」


 クロは条文のような口調で読み上げると、改めてヴォーパルを見据えました。


「以上が、こちら側が提唱するルールの全文。異議があれば受け付ける」


「ほほう……こっちは一人なのに、そちらは三人がかりというわけか……!」


 長い前歯の下にあるアゴをさすりながら、ヴォーパルはさっそく異を申し立てます。


「人間の悩む姿を糧とする悪魔にとって、悩む人間が多いほうが良いはず。しかし人数的に不利だと考えるのであれば、一対一でもこちらはかまわない」


 冷静なクロの一言に、ヴォーパルは「チッ!」と舌打ちをしました。

 悩む人間が、多いほうがいい……彼女にとって、全くもってその通りだったのが気に入らなかったのです。


「まぁ……人数のほうは、それでいいだろう……! で、どっちが先攻なんだい?」


「そちらが出題者」


 クロから目で示されて、ヴォーパルは待ってましたとばかりに立ち上がりました。


「よぉし……! じゃあいくぞぉ……! 覚悟はいいかぁ……!」


 まるで相手を食い殺さんばかりの、おどろおどろしい口調で最初の問題が出されます。


「……冒険の必需品で、伸ばすと食べられるもの、それはなーんだ!?」


 イヴは「なによそれ!?」と顔をしかめました。リリーはすぐにわかったようで、顔を明るくしています。

 クロはというと、真顔のまま、


「地図」


 とだけ口にしました。

 「地図(ちず)」は伸ばすと「チーズ」になります。


「グフフフフ……! 正解! 最初は小手調べで、簡単なのにしてやった……! さぁ、次はそっちの番だ……!」


 ナゾナゾをするのが嬉しいのか、子供みたいに顔をほころばせるヴォーパル。

 でも悪魔なので、不気味でしかありません。


「……道端で拾っても、衛兵に届けなくていいもの、それはなーんだ?」


 クロは流れるような口調で、人間側の最初となる問題を出しました。

 イヴは「ゴミとか?」と首をかしげています。リリーは「あ、わかった!」と手をポンと叩きました。


「グフフ……簡単だ……! そちらも小手調べというわけか……! 答えは流しの馬車だ……!」


 『流しの馬車』……道端で手をあげると止めることができ、目的地まで乗せてくれる馬車のことです。


 決まったルートを走る『乗り合い馬車』と違い、目的地まで貸し切りとなるので割高なのですが、どんな場所でも行ってくれるので便利な乗り物なのです。


 流しの馬車に乗ることを、『馬車を拾う』ともいいます。

 もちろんそれで馬車を拾っても、衛兵に届ける必要はありません。


 クロは頷いて、「正解」とだけつぶやきました。


「よぉし、またこっちの番だな……! レベルをあげてやるから、覚悟しろぉ……! ……耳は長いがエルフじゃない、毛むくじゃらだがドワーフじゃない、身軽に跳ねるがホビットじゃない……! さて、なーんだ!?」


 この問題はさすがに難しかったのか、イヴは「そんな種族、いるわけないじゃない!?」と即座に考えるのをやめました。リリーは考え込んでいます。


「ウサギ」


 クロは特に悩む様子もなく、答えを口にしました。


「あ……そっかぁ! ぜんぶ種族を例にしてたから、てっきりそういう種族がいるのかと思ったけど……! なるほどぉ、引っかけだったのかぁ~!」


 リリーは思わず唸っていました。ヴォーパルの言うとおり、たしかにナゾナゾのレベルが上がっています。

 そしてその引っかけを、平然といなしてみせたクロに、心の底から感心していました。


「グフッ……! 正解! こうでなくては面白くない……!」


 しかしヴォーパルはまだまだ余裕があるのか、不敵な笑みを崩しません。


 そのうえ彼女にとっては、リリーとイヴの悩む姿はたまらない快感でした。

 授業と違って命がかかっているので、その苦悩は別格のようです。


 まるで力を吸い取ったかのように、身体をゾクゾクと震わせているヴォーパル。

 しかし、クロだけはいまだに悩んでいないようです。


 この悩みを知らない少女が頭を抱えたとき、はたしてどんな味がするのか……。

 ナゾナゾ好きの悪魔は想像しながら、舌なめずりをしました。

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