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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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76

 いまだに貴婦人は、『ひみつの森』にいました。


 シロのあとに、クロとミントと面談をしたのです。

 でも貴婦人にとっては、望んでいたような収穫はありませんでした。


 クロは貴婦人が何を言っても答えず、真顔のままでした。

 話を引き出せなかったので、リリーからの悪口を適当にでっちあげ「クロは暗いから嫌い」などと言ってみたのですが、聞こえていないかのように無反応でした。


 貴婦人は次にミントと話をしました。

 でも何を聞いても「んー、よくわかんなーい」という返事しか返ってきません。


 これまたリリーからの悪口を適当にでっちあげ「駄々をこねるから嫌い」などと言ってみました。

 でも、「ダダってなあにー? ……あっ、このツメ、キラキラしてるー! ちょうだい、ちょうだーいっ!」と話になりませんでした。


 ……というわけで、四人との話を終えた貴婦人は、ついにリリーを呼び出しました。


 目の前には、なぜか顔中が虫に刺されたみたいに腫れ上がっているリリーが座っています。

 貴婦人は、いきなり重病人を運び込まれた保健室の先生みたいに、戸惑いながら語りかけました。


「……えーっと、リリーさん? そのお顔はどうしたの?」


 リリーは先生以上に困惑した様子で、口を開きます。


「えっと……なぜかイヴちゃんが急に襲いかかってきて……押し倒されて鼻コスリをされちゃったんです……。やめてって言ってるのに、全然やめてくれなくて……。そしたらシロちゃんが走ってきて、助けてくれるのかと思ったんだけど……なぜかシロちゃんまで私に抱きついてきて、鼻コスリしてきたんです……。ふたりがかりでメチャクチャに鼻コスリされちゃって……こうなっちゃいました……」


「……そ、そう、災難だったわねぇ。あ……でもその原因……先生、知ってるかも……!」


 貴婦人はさも、思わせぶりな様子で微笑みます。


 元はといえばすべて貴婦人のせいないのですが、リリーはこれでもかというほど引っかかってしまいます。

 テーブルに両手をついて、「ええっ!? 教えてください、先生っ!」と立ち上がりました。



 すでに貴婦人との面談をすませている他のメンバーは、教室でリリーの帰りを待っていました。

 でも、しばらくして戻ってきたのは……なぜか貴婦人だけでした。


 貴婦人はすました様子で、「みなさんとお話できましたから、今日の特別授業はこれでおしまい。さぁ、帰ってもいいですよぉ。さようならぁ」と手を振ります。


 今日は普段とは違う授業だったようで、いつもやっている『ナゾナゾ』『道徳』『投票』はありませんでした。

 帰っていい、と言われたものの……残されたメンバーはリリーがいないので困ってしまいます。


「まったく……どこで道草食ってんのよ、アイツは……」


「もしかして、道に迷われてしまったのでしょうか……?」


「でも、まっすぐのみちだったよー?」


「……」


 待っていればいずれ帰ってくるかと思ったのですが……いくら待ってもリリーの姿は現れません。

 もしかしたら先に帰ったのかも……とイヴを先頭に、『なかよしの森』を出てみました。


 『ごちそうの森』を探してみましたが、どこにもいません。

 しょうがなくリリー不在のまま、ごちそうを食べました。


 そのあと『めぐみの森』を探してみましたが、どこにもいません。

 しょうがなくリリー不在のまま、あらいっこをしました。


 そして最後の望みである『すやすやの森』に来ました。

 リリーがノンキに、グースカと寝ている姿を期待したのですが……家の中はもぬけのカラでした。


 かわりにたくさんのウサギたちがいて、赤い瞳で見上げているばかりです。

 いつの間にか家はウサギに占領され、ウサギ小屋のようになっていました。


「わあ! ウサギさんがいっぱーい!」


 ミントだけは大喜びでしたが、イヴ、シロ、クロは顔を見合わせています。


「……リリーが行方不明になった」


 珍しくクロが、口火を切りました。


「行方不明かどうか、まだわかんないわ! アイツのことだから、どっかそこらで寝てるかもしれないでしょ!」


 足元に擦り寄ってくるウサギを、足で押しのけていたイヴが、イライラした様子で叫びます。


「あの……すみません……もしかして……ウサギさんに……あ、いえっ、すみません、なんでもありません」


 シロは自分の考えを述べようとしていましたが、途中で怖くなって、引っ込めてしまいました。

 しかし、他のメンバーには伝わったようです。


「リリーちゃん、ウサギさんになっちゃったのー?」


 両手いっぱいにウサギを抱っこしているミントが、無邪気に言いました。


「そんなわけないでしょ! 投票しないとウサギにはならないはずでしょ!?」


「投票でウサギになるのは『なかよしの森』での『きまりごと』。他の場所では、その限りではない」


「他の森では、違う条件で、ウサギになってしまう……ということでしょうか?」


「その可能性は考えられる」


「で、では……どうすればよいのでしょうか……?」


「ねーねー、どーするのー?」


「……」


 シロ、ミント、クロは揃って、イヴのほうを見ます。


 かつてリリーが行方不明となったとき、イヴがリーダーがわりになって仲間に指示を出しました。

 すでにイヴもリーダーを自覚しており、うつむいたまま何かを考えていました。


 しばらくして、キッと顔を上げると、


「……よしっ! もう一度、リリーを探すわよ! 今度は手分けして、すみずみまで! 私は『なかよしの森』を探すから、シロは『ごちそうの森』、ミントは『めぐみの森』、クロはこの『すやすやの森』を探して! それと、ウサギがいたら手当たり次第にキスしてみるのよ! いいわねっ!?」


 イヴはてきぱきと仲間に指示を出しました。

 仲間たちは揃って頷き、家から飛び出していきます。

 クロはさっそく足元のウサギを拾い上げ、口と口とを合わせていました。



 イヴは『なかよしの森』に着くと、手近なウサギの耳を掴んで、右手、左手と、それぞれで持ち上げました。


 小さなシルクハットを頭に乗せているウサギと、バンダナを首に巻いているウサギでした。

 この村にいるウサギたちはみんな何らかのアクセサリーを身に着けていて、おしゃれをしているのです。


 イヴはさっそくキスしようとしたのですが、鼻をヒクヒクさせている顔が近づいた時点で、ちょっとためらいました。


 イヴは、キスをしたことがありません。

 「動物相手のキスはノーカウントである」という思いはあるのですが、いざとなると、簡単には割り切れそうにありませんでした。


 それに、もし当たりだった場合……リリーとキスをしたことになるのです。


「そんなの、死んでもお断りよっ!」


 と、ウサギに向かって怒鳴りつけます。


「で、でも……アンタが、どうしてもっていうなら……まぁ、考えてあげないことも、なくもないけど……」


 しかし、ウサギは何も言いません。相変わらず、鼻を一心不乱に動かしています。


「……アタシ、何やってんだろ……」


 イヴは大きな溜息をひとつついたあと、気合を入れ直すようにキッ、と眉を吊り上げました。


「王女の初めてのキスを、これから捧げるんだから……! もし……ウサギになってるクセに、元に戻らなかったら……承知しないんだからね……!」


 せわしなく動く、ωみたいな形の口に向かって……王女は、唇を重ねました。

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