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リリーの考えた「洗いっこダンス」。
それは小さくした石けんを、ほっぺた、胸、おへそ、太ももに貼り付けて、ペアとなった相手に踊りながらこすりつける、というものでした。
「この前の夏休みに客船に乗ったとき、ダンスしたでしょ? 見てたら身体をスリスリしてるダンスがあったから、それを参考にしたんだ」
リリーはさっそく、クロ相手に実践してみせます。
腰をクネクネと器用に動かして、クロとおヘソどうしを擦り合わせるリリー。
クロはすぐに意図を察し、鏡合わせをするかのように、平らな胸を押し当てて擦りつけました。
ようは自分の身体をスポンジがわりにするのです。
リリーとクロ、ふたりの身体の間から、モコモコの泡がたって滑りがさらによくなり……タコが絡みあってるみたいでした。
「……チークダンスね。そんなタコ踊りみたいなダンスじゃないんだけど」
「じゃあイヴちゃん、やってみせて!」
リリーにせがまれて、イヴはハァ、と大きな溜息をつきます。
アタシの身体に触るために、本当にいろいろ考えるのねぇ、と思っていました。
「じゃあ、シロ、こっちにきなさい」
「はっ……はい……かしこまりました」
手招きされて、シロはおずおずとイヴに歩み寄ります。
「この雨じゃ、隠さなくても見えないわよ」
イヴはそう言いながら、胸や股間を覆っているシロの手を取り、引き寄せました。
「す、すみませ……あんっ」
むにゅっと音がしそうなくらい、やわらかな胸がぶつかり合います。
「チークってのはね、こんな風に身体をくっつけあわせて、軽く揺れるくらいでいいのよ」
イヴはシロの腰に手を回して、身体を緩やかにスイングさせます。
「本当は同じ方向に動くんだけど……洗いっこにするなら、逆方向に動いたほうがいいわね……ほらシロ、恥ずかしがってないで、アンタも動きなさいよ」
「はっ……はひっ! はうぅぅ……!」
恥ずかしさと緊張でカチコチになっているシロが、ヤジロベエのように左右に動きます。
しかし不器用なシロは、イヴと同じ方向に動いてしまいます。
しょうがないのでイヴが逆方向に動きました。
イヴとシロ、ふたりのほっぺたが触れ、つるんとすれ違います。
ふたりとも胸が大きいので、すれ違うたびに、むにゅる、むにゅる、と大きく形を変え、あまった肉がぽよよんとはみ出していました。
イヴは身体を少し触られただけで、背筋がゾクゾクとなってしまうほどのくすぐったがりです。
でも、夏休みのダンスを踊ったときはイヴは平気でした。
本人曰く「ガマンしている」とのことだったので、リリーは「ダンスならガマンできるのか」と思い、今回もそれを狙ったのです。
もくろみは成功したようで、イヴはまんざらでもない様子で、シロとチークダンスを踊り続けています。
「ミントもやりたーい!」
「よぉし、じゃあ三人でやろっか!」
ミントにせがまれたリリーは、さらに変則的な「あらいっこダンス」を考えました。
ふたりでひとりを挟んでダンスを踊って、時間がきたら挟まれる人間を入れ替えるのです。
「きゃはははははは! おもしろーい! つるつるー!」
リリーとクロに挟まれて、ミントは大はしゃぎです。
「よぉーし、せっかくだからこのまま、イヴちゃんとシロちゃんも挟んじゃおっか!」
三人はイヴとシロに近づき、がばっと抱きつきます。
いきなり背中やお尻をグイグイと押され、びっくりしたイヴとシロは背中に氷を入れられたみたいな声をあげました。
「きゃあっ……はわわわわわっ……?」
「ひゃあっ!? なっ、何やってんのよアンタたちっ!? こんなのダンスじゃなくて、押しくらまんじゅうでしょうがっ!?」
「よぉーし、なら押しくらまんじゅうだ! ……おっしくっらまんじゅう、おっされてなっくな♪」
ひらめいたリリーはすぐに歌いだしました。仲間たちも後に続きます。
「おっされってなくなー!」
「押されて泣くな」
「おっ……おおお……おされて……泣かないで……ください……」
元気に歌うミントと、つぶやくようなクロ、流されるままのシロ。
その中でも加減を知らないのは、イヴでした。
「押しくらまんじゅうだったら、負けないわよぉっ!? こんのぉーっ!!」
どぉーん! とイヴのドンケツが炸裂し、次々と吹っ飛ばされていきます。
リリー、ミント、クロ……そしてシロまでもが、でんぐり返りの途中みたいな体勢で地面に転がりました。
全裸なのであられもない格好……でもリリーは怒ることもなく、起き上がるなり大きな声で笑いだしました。
みんなで入るお風呂が、やっぱりいちばん楽しいや……! と実感していたからです。
リリーにつられて、仲間たちも笑いだします。
イヴは仁王立ちのまま、空に向かって高らかに。
ミントは大雨に負けないほどの、太陽の笑顔で。
クロはいつもの無表情でしたが、どことなく嬉しそうでした。
シロは恥ずかしさのあまり顔が真っ赤っ赤になっていたのですが、おかしさもあって、泣き笑いのような顔になっていました。
……その様子を木陰で眺めていた貴婦人は、木をガンガン殴って八つ当たりをしていました。
「なんで……なんで……なんでいがみ合わないっ!?」
この『めぐみの森』の『きまりごと』を書いたのは、もちろん貴婦人です。
この村に迷い込んでくる冒険者パーティというのは、お互いの命を預けあった強い絆で結ばれてます。
モンスターと戦う場合などはそれが強力な武器になるのですが、意外と日常はそうでもなかったりするのです。
『ごちそうの森』の食べさせっこですら、これまでまともにできた冒険者はいませんでした。
それがさらにパワーアップしたのがこの『めぐみの森』だったのです。
いくら信頼しあっている仲間とはいえ、お互いの身体を洗う……しかも素手でやらないといけないのは、抵抗があります。
相手が恋人ならまだしも、そこに他の人間が混ざっていたりすると……ほぼ確実に、仲違いをはじめるのです。
でも、リリーたちは違いました。
まるでみんなが家族、みんなが姉妹、みんなが恋人みたいに……はしゃぎあってあらいっこをしたのです。
貴婦人は、全裸のリリーたちが掴み合いのケンカしている姿を想像していました。
でも……いま目の前にある光景は、真逆で……笑顔で頬を寄せ合っている姿でした。
「こ……こうなったら……アレを……アレをやるしかない……!!」
拳ひとつで木をメキメキと切り倒しながら、貴婦人はさらなる嫌がらせを決意していました。




