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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
リリーとゆかいな仲間たち
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「シャアァ!」

 リーダーらしきリザードマンの号令のもと、私たちは槍で背中を突かれ追いたてられながら、山道を移動した。

 水着のままでの山道の移動は辛く、靴も履かせてもらえなかったので足も痛かった。

 キャンプの荷物は先行するリザードマンたちが持っており、服や靴は全部あの中に入っている。……ママからもらった「勇者のティアラ」もあの中だ。あれだけは……何としても取り返さないと。


 あたりが暗くなってきたころ、リザードマンたちはおのおの火をつけた松明を手にした。全員が松明をかかげているので、陽の落ちた山道でもすごく明るくなった。

 足場の悪い森の中をしばらく移動したあと、岩山に沿うようにして家々が並ぶ集落へとたどり着いた。そこでもあちこちで火が焚かれており、夜だというのにお祭りでもやってるのかと思うほど明るく、暖かかった。

 そこはリザードマンの集落らしく、石造りの家々の窓からはトカゲ面の住人が顔を覗かせ、通りすがった私たちをシャーシャーと威嚇していた。


 集落から少し離れたところにある、岩山をくりぬいたような洞窟へと連れていかれた。入ってすぐ上り階段と下り階段で分かれており、私たちは下り階段のほうへと追い立てられた。

 そのとき荷物を持ったリザードマンたちは、上り階段のほうへ移動していったのを見逃さなかった。


 下り階段の先には真っ暗闇な通路と、木造の昇降機があった。全員昇降機のほうに乗せられて、ガラガラと音をたててさらに地下深くへと移動する。


 昇降機をおりた先には……はりつけにするような拘束具、石でできた斬首台、大量の針が刺さった等身大の布人形、さびたペンチやらハンマーやら尖った棒やら古びたムチやらが壁にかけられた場所についた。一面にカビくさい匂いが漂い、あたりには血がこびりついたような跡があちこちにあり、ここがなにをする所なのかはすぐにわかった。……わかったけど、なるべく想像しないようにした。


 早速ひどい目にあわされるのかと思って身を固くしたが、その場所は通りすぎて、薄暗い場所にある鉄格子の部屋に連れて行かれた。岩肌がむきだしで藁を敷いただけの粗末なその部屋……要するに牢屋に、私たち五人は入れられた。

 もちろん鍵をかけ忘れるなんてこともなく、しっかり施錠したリザードマンは、牢屋の目の前にある控え室みたいなところに入った。牢屋は薄暗かったけど、その控え室はこれまた大げさなくらい火が焚かれており洞窟とは思えないほどの明るさだった。


 控え室でひと息つくリザードマンを確認した後、私は藁の上に寝転び、

「……みんな、大丈夫?」

 天井を見上げながら、誰に言うでもない風の言葉を口にした。


「大丈夫じゃないわよ、あっちこっち痛いわよ!」

 岩壁によりかかったイヴちゃんが、こちらを見ずにボソボソ言った。


「キズだらけだよぉ~」

 シロちゃんの膝枕に顔を埋めるミントちゃん。


「タリスマンがあれば、治療してさしあげられるのですが……」

 シロちゃんは正面を向いたまま、膝上のミントちゃんを撫でている。


「…………」

 膝をかかえたまま、無言のクロちゃん。


 私たちはお互いを見ず、まるでひとり言のようなつぶやきで、会話を始めた。


「それにしても、どこもすごく明るいんだけど、なんで?」

「リザードマンは体温が低くなると動きが鈍くなる。それを防ぐために、火を焚いて一定の気温を保つようにする習性がある」

「なるほど」

「でも、ここさむいよ?」

「捕らえた敵を活性化させないために、意図的に気温を低くしているものと思われる。私たち人間は多少の気温変化ならば行動に支障はないが、彼らは自分たち以外の生き物も同じように影響を受けると思い込んでいる」

「ふぅ~ん」

「そんなことはどうでもいいでしょ! これからどうすんのよ?」

「にもつ、ぜんぶもってかれちゃったね」

「なんとかここから逃げ出して、取り返さないと……」

 言いながら、横目で控え室のほうを見ると……椅子に座ったリザードマンは早速眠りこけていた。


 私はゆっくり起き上がって鉄格子のほうに這っていき、錠前を調べてみた。


「これ、何とかして開けられないかな?」

 いちおうピッキングはできるが、はっきりいって得意ではない。盗賊であるミントちゃんのほうを見ると、

「ピンがにほんあれば、できるよ」

 専門家らしい頼もしい答えがかえってきた。


「……ピン、誰か持ってる?」

「このカッコで持ってるわけないでしょ」

 イヴちゃんから即答されてしまった。……身体検査がなかったのは、リザードマンたちからみても何も持ってないように見えたのだろう。


「かみどめがあれば、ピンあるのになぁ」

 降ろした髪の毛先をいじりながら、残念そうなミントちゃん。いつもポニーテールを留めている髪留めは、着替える際に外していたので今は手元にないようだった。


「…………」

 膝をかかえて揺れていたクロちゃんは、水着の胸の谷間から、おもむろに何か取り出した。見るとそれは伸縮式の金属の棒で、伸ばすと三十センチくらいの長さになった。


「何よ、それ」

 つまらないモノでも見るかのようなイヴちゃん。


「片手杖」

 抑揚のないその声を聞いて、みんなの注目が一気に集まった。クロちゃんはいざというときのために、胸に携帯用の片手杖を隠していたのだ。


「杖ってことは、魔法が使えるのね?」

「ナイス! クロちゃん!」

「すごいです!」

「やったぁ!」

 彼女の周りに集結する。


「……この杖では、私の魔法のほとんどを唱えることができない」

 注目されてもなお、淡々とつぶやく。


「なにが使えるのよ?」

 イヴちゃんの問いに対して一瞥したクロちゃんは、床に敷かれている藁を掴んだ。束にした藁の両端を、一本の藁で縛る。それを繰り返して、なにかを作りはじめた。


 黙って見ていると……一体の藁でできた人形が完成した。ただ手足の長さがまちまちで、かなりいびつな身体をしている。最後に仕上げとして自分の髪の毛を一本抜き、人形の腹部にズボッと押し込んだ。


「…………」

 片手杖と藁人形をそれぞれ手にしたクロちゃんが、なにやらゴニョゴニョと呪文を唱えると……藁人形が蠢くように手足を動かしはじめた。


「使役の魔法ね」

 藁人形を見つめながら、納得した様子のイヴちゃん。


 使役の魔法……命なきモノを、魔法によって操ることをいう。有名なところだとゾンビやゴーレムなどがあるが、それらは高レベルな魔法使いじゃないと無理だったりする。初歩としては紙切れや小さな人形などを操れるらしく、クロちゃんがやっているのはまさにそれだった。


「…………」

 もぞもぞ動く藁人形をしばらく見つめたあと、クロちゃんはそっと床の上に置いた。が、すぐにパタッと倒れた。

 うつぶせに倒れた藁人形は、生まれたての仔鹿みたいにヨロヨロと立ち上がろうとするが、アンバランスな身体のためかひたすらよろめくだけで、起き上がれそうな気配が全然ない。

 健気な彼のがんばりをしばらく見守っていたが、見た感じ魔力が足りないというよりも、人形の出来の悪さからきているような頼りなさを感じさせた。


 クロちゃんは藁人形を再び掴んで、ほどいて藁の束に戻したあと、

「作って」

 シロちゃんに手渡した。


「はっ……はいっ。人形さんをお造りすればよろしいのですか?」

 藁束を受け取ったシロちゃんがとまどい気味に言うと、クロちゃんは頷いた。


「かしこまりました。うまくできるかわかりませんけど……がんばります」

 シロちゃんは正座したまま、膝の上を作業場として藁人形の制作にとりかかった。すぐに完成したそれは、本人の謙遜とは裏腹にしっかりとした出来で、魔法をかけなくても自立するほどの完成度だっだ。


「髪の毛」

 続けてクロちゃんの指示が飛ぶ。シロちゃんは「は、はいっ」と返事をしたあと、サラサラの黒髪から一本をよりわけ、えいっ、と両手でひっこ抜いた。つまんだ長い長い髪の毛を、藁人形のお腹を撫でるようにして、やさしく差し込んだ。


「…………」

 クロちゃんによって再度命を吹き込まれた藁人形は、シャキッ!と元気に立ち上がった。それだけではなく軽快なステップまで踏みはじめて、まるで別人のような壮健さだった。


「作成者の愛情に比例して、使役の魔法は効果が大きくなる……らしい」

 生まれ変わった藁人形を見下ろしながら、クロちゃんはつぶやいた。「らしい」とは、彼女らしくない言葉づかいだ。


 シロちゃんの愛情がたっぷり込められた藁人形くんは、エネルギーを持て余すかのように拳闘演舞をはじめる始末で、

「で、コイツでどうするの?」

 動き回る彼に指先でチョッカイを出すイヴちゃんが聞いた。


「ピンを調達する」

 片手杖を牢屋の外に向けてかざすと、藁人形くんは颯爽と走り出していった。リザードマンが眠りこける控え室を通りすぎ、血まみれの部屋にたどり着くと、さびた針がいっぱい刺さった布製の人形によじのぼり、そこから三本ほど抜いて、再び牢屋へと戻ってきた。

 そしてまるで意思があるかのごとく、ミントちゃんにピンを二本手渡すと、残った一本を自分の腰に刺してまるで武器を装備したかのように振舞っていた。


 思わず拍手喝采したくなるほどの大活躍だったが、「おおーっ」という声だけでガマンした。ピンを受け取ったミントちゃんは彼をナデナデしている。


「ソイツをほめるのはあとよ、さっさと開けて」

 イヴちゃんに急かされて、

「はぁーい」

 ミントちゃんはしぶしぶ錠前にとりかかった。


「んにゅぅ~」

 鉄格子に頬をめりこませながら限界まで手を伸ばし、外側にある錠前をいじる。錠前に手を届かせるのに精いっぱいで、鍵穴が全然見えていないようだが大丈夫なのだろうか……と思っていたが、

「あいたよ~」

 あっさりとしたものだった。


 外れて落ちてきた錠前を、地面に落ちる寸前でキャッチしたミントちゃんが振り向くと、ほっぺたに鉄格子の跡がついていた。

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