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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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67

 イヴは「なかよしの森」を飛び出し、貴婦人をやっつけるために村へと走っていきました。

 それはさながら暴れ牛のようで、貴婦人はさしずめ赤い布といったところでしょうか。


 彼女はリリーの考えをなるべく大事にしようとしていたのですが、どうやら我慢の限界のようです。

 あの貴婦人には会った時から良い印象をもっていなかったので、なおさら抑えがきかなかったのでしょう。


 リリーたちが慌て追いついた頃には、貴婦人の上に馬乗りになって首を締めているところでした。

 ふだんの貴婦人は化粧で真っ白の顔をしているのですが、この時ばかりは紫色になっており、口から泡を吹いていました。


 締められるニワトリのような悲鳴をあげていて、このまま放っておけば本当に殺してしまうと思ったリリーたちは止めに入ります。

 イヴは力がとても強く、力ずくでは四人がかりでも相手にならないのですが、脇を掴んだらあっさり貴婦人を離しました。


 それでもなおイヴは襲いかかろうとして、逃げ回る貴婦人を追い回したりして……ひとしきりドタバタしました。

 いろいろあったのですが、一体どうなかったかというと……。


 リリーたちはまた「なかよしの森」にいました。


 シロが死にかけの貴婦人を介抱していたのですが、「最後に一度だけ、授業がしたかった……」と息も絶え絶えに言われ、情にほだされたシロが生徒になると言ってしまったのです。


 でも、リリーはシロを責めませんでした。

 むしろあとに続くようにして、リリーも生徒になると言ったのです。


 貴婦人は死ぬ直前まで首を締められたのに、反撃をしなかったということは、悪い人ではないと思ったからです。

 殺されかけたというのにまだ授業をしてくれるなんて、本当に自分たちのこと心配してくれてるんだ……とむしろ人柄に感動すらしていました。


 リリーとシロのふたりが生徒になると、なし崩しのようにミントとクロも生徒になります。


 でも、イヴだけは最後まで渋っていました。

 生徒にならずに授業を聞いてやろうと思っていたのですが、授業中は「なかよしの森」は生徒以外は入れなくなるということを知り、森の外から生徒になると叫んだのです。


 それで、結局……リリーたちは全員、貴婦人の生徒になってしまいました。



「さて、それじゃあ授業をはじめましょうか」


 大きな木の幹につけられた黒板。貴婦人はその前に立っていました。

 青空の下なのでちょうどいい木陰になっていて、まるで日傘をさしているように優雅です。


 机についたリリーたちを見回しながら、とても嬉しそうにしていました。

 さっきまで虫の息だったのがウソのようです。


「授業はあなたたちの心にある『もやもや』を取るためのものなんだけど、大きくわけて『ナゾナゾ』『道徳』『投票』の三つがあるの」


 それを聞いた新入生たちはざわめきます。


「ミント、ナゾナゾすきー!」


「ナゾナゾ、って、あの『上は大水、下は大火事』とかのナゾナゾですか?」


「なんでナゾナゾなんてやらなきゃいけないのよ。子供じゃあるまいし」


 シロとクロは黙って聞いていました。シロは真面目からくるもので、クロはいつものことです。


「ミントさんはナゾナゾが好きなのね、それはとってもいいことだわ。それと、リリーさんがとっても良いことを言ってくれました。そう、『上は大水、下は大火事』のナゾナゾをします。そしてイヴさんも良いことを言ってくれました。なぜナゾナゾをやるかというと、その後にやる道徳の授業にそなえて、頭を柔らかくするためよ」


 貴婦人はミント、リリー、イヴを順番に見ながら、うん、うん、うん、と頷いていきます。

 ミントは「わーい、ほめられちゃったー!」と大喜びです。リリーもまんざらでもありませんでした。


 ただ、つまらなぞうに頬杖をついているイヴだけは、褒められても全然うれしくないようで、


「前置きはいいから、さっさとやんなさいよ。下らなかったら承知しないわよ」


 懲りずに暴言を吐く始末でした。

 でも、貴婦人は怯えも、怒りもしません。むしろ、ピエロのようににっこりと笑い返します。


「じゃあ、さっそく楽しいナゾナゾをはじめましょうか、先生が問題を出すから、いちばん端のシロさんから答えていってね。今日は初めてだから、簡単な問題にしましょう。でも他の人は、答えがわかっても教えちゃダメよ。それと正解できたら、みんなで拍手してあげましょうね」


 生徒たちは先生から向かって右から、シロ、ミント、リリー、クロ、イヴの順番で並んでいます。

 最初に当てられたシロは、「は、はいっ」と緊張ぎみに背筋を伸ばしました。


「自分でくるくる回っている本って、な~んだ?」


 貴婦人はイタズラウサギのような弾む声で、ナゾナゾを出します。


 シロは絡めあわせた指をアゴに当て、瞼を閉じます。まるで祈っているかのように静かに考えはじめました。

 少ししてわかったのか、パッチリと目を開けて「あっ、は……はいっ」と小さく手をあげました。


「じ、辞典(自転)……でしょうか?」


「ふふふ、正解」


 貴婦人は嬉しそうに肩を震わせながら、手を打ち鳴らしました。

 リリー、ミント、クロも拍手。シロは、照れてうつむきます。


 イヴだけは頬杖をついたまま、そっぽを向いたままでした。


 シロは頭の良い女の子なのですが、ツヴィ女に入学した初めのころはナゾナゾを解くような発想力はほとんどありませんでした。

 リリーたちとパーティを組んでからはミントにつきあわされ、図書館でナゾナゾの本などを読むようになり、自然と慣れていったのです。


「じゃあつぎは、ミントさんへの問題ね。こげばこぐほど高くあがるものって、な~んだ?」


「えーっとねぇ、ブランコー!」


 ミントは両手とポニーテールをめいっぱい上げ、それでも上げ足りないのか立ち上がって答えました。


「はい、正解」


 パチパチパチパチ、と拍手に包まれ、ミントは花が咲いたような笑顔を見せます。


 ついさっきまで、『わんぱくの森』でブランコに乗っていた彼女にとっては簡単な問題でしょう。

 ミントは学校の勉強がまるでできない女の子なのですが、ナゾナゾは得意なのです。


「ではつぎ、リリーさんへの問題ね。歯磨きがキライな野菜はな~んだ?」


 リリーはすぐに答えがわかったので、得意げに胸を張りながら答えました。


「カンタンカンタン……白菜(歯臭い)!」


「はぁい、正解です」


 楽勝とばかりに両手を挙げたリリーは、手を振って拍手に応えます。

 リリーは学校の勉強は苦手ですが、ナゾナゾは得意なのです。


「つぎは……クロさんへの問題ね。たくさんだと切れるけど」


「トランプ」


 問題の途中でしたが、クロはまっすぐ前を見つめたままボソリと答えました。

 それも、考えて出した答えというより、すでに知っていることを口にしただけのようです。


 ちなみに問題は「たくさんだと切れるけど、一枚だと切れないものってな~んだ?」です。


「まぁ……正解!」


 貴婦人は驚いて、目をギョロリと見開きました。仲間たちもビックリしたようです。

 拍手に歓声が加わって、いままでで一番にぎやかになりましたが……クロは喜びも照れもせず、人形のようにぴくりとも動きませんでした。


「では最後、イヴさんへの問題。ある冒険者たちがそこに行くと、急にみんなブーツが気になりはじめました。さて、冒険者たちはどこにいるでしょ~か?」


 イヴは窓際に佇む猫のように外を見ていましたが、問題だけはちゃんと聞いていたようです。

 ツインテールを乱す勢いで振り向くと、キッと貴婦人を睨みつけます。


「なによ、そんなとこあるわけないでしょ……!」


 イヴは仲間たちの視線に気づき、途中で言葉を飲み込みました。


 彼女の席の手前側からクロ、リリー、ミント、シロ……全員が見ていたのです。

 それも全員、すでに答えがわかっているかのような表情で……!


「く……っ!」


 イヴは悔しさのあまり、歯を噛み締めました。

 仲間たちから「こんなのもわからないのか」とバカにされている気分になったからです。


 頭を使うことではあるので、相手がクロやシロならまだ納得がいくのですが、リリーとミントからそんな目で見られるのは耐え難い屈辱でした。

 ここはひとつ、スパッと答えて見返してやろうと、うんうん唸って考えはじめます。


 それはよそから見ていたら、頭のてっぺんから煙が出ているのではないかと思うほどの激しい悩みっぷりでした。

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