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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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 リリーたちを先導する貴婦人は、中央広場から村のはずれのほうに向かって歩いていきます。

 道すがらにあるちょっと小さめの家やレンガ塀、ウサギがちょこんと座っている低いベンチなどを見ていると、リリーはなんだか自分が巨人になったような気分になりました。


 しかし、ウサギの住む小さな家はいっぱいあったのですが、村人が住んでいそうな大きな家はどこにも見当たりません。


「あの、村の人たちはどこにいるんですか?」


 気になったリリーが尋ねてみると、


「この村には小径がいっぱいあってね、いろんな森に行けるのよ」


 振り向いた貴婦人は、そう言いました。

 言葉はやさしかったのですが、聞きたいこととは全然ちがう答えでした。


 気取った歩き方の貴婦人は、村のはずれにある小さな道を進んでいきます。

 『ごちそうの森』と書かれた札の立っている森に入っていきました。


「みんな、なにが食べたい? 食べたいものを思い浮かべてごらんなさい」


 前を歩いていた貴婦人は、リリーたちにそんなことを言いました。


 実をいうと、リリーはずっと前から焼き魚のことを考えていました。

 この旅を始めてから魚を口にしていなかったので、お腹が鳴ったときから魚を食べたいなぁとずっと思っていたのです。

 リリーのなかでは、カエルは魚のうちに入っていませんでした。


「ミント、おにくがたべたーい!」


 ミントは大声で口に出していました。

 その元気な姿に、貴婦人は口元を緩めます。

 長い出っ歯をデコレーションする宝石が、キラリ、と輝きました。


「ふふ、じゃあ食べたいお肉のことを思い浮かべててね」


「うんっ! うかべるー! ぷかぷかー!」


 そうして森の中を進んでいきます。


 森は庭園のようにしっかりと手入れされていました。木々と花にあふれ、とても綺麗でした。

 しかし、草木とウサギ以外の生き物の姿はありません。


 ウサギはそこかしこにいるのですが、それ以外の生き物は昆虫の姿もありませんでした。


 リリーはちょっと不思議に思ったのですが、それよりも、辿り着いた広場に心を奪われてしまいました。


 森の中にある広場は、大きな切り株のテーブルと、小さな切り株の椅子が五つありました。

 テーブルの上にはいろんなごちそうが、木のお皿にいっぱい盛られていたのです。


 肉や魚や野菜……ゴハンやパンや麺……果物やデザートにいたるまで、まるでバイキングのようでした。

 それに、温かい料理は出来たてのようにほっこりと湯気をたてており、冷たい料理は食べごろのようにひんやりとしています。


 まさかに森の中に、こんなにすごいごちそうがあるだなんて……リリーとミントはうわあーっ! とテーブルに駆け寄りました。

 後から続くイヴはあやしんでいます。シロはなんだか戸惑い気味です。クロはいつも通りでした。


「この森はね、食べたいものを思い浮かべて歩いていくと、それが食べられる森なの。テーブルにあるのはあなたたちが思い浮かべたごちそうだから、どうぞ召し上がれ」


「ほ……本当に食べてもいいんですか?」


 リリーは信じられませんでした。貴婦人に尋ねながら、夢ではないかと自分の頬をつねっています。

 食べたいと思い浮かべていた焼き魚が、すべてテーブルにあったからです。


 よく食べるモーサンの塩焼きはもちろんのこと、一度は食べてみたいなぁと思っていたプクと呼ばれる高級な魚までありました。


「もちろんよ。でもね、『きまりごと』は守らなくちゃダメなの。そこに書いてあるから、よく読んでから食べましょうね」


 貴婦人は仮面のようなにっこり笑顔をしたあと、テーブルの側にある立て看板を、赤い爪先でさしました。


 木でできた看板には、こう書かれていました。



 『ごちそうの森のきまりごと』


 一、ごちそうの森にあるごちそうは、テーブルにおいてある、まほうのハシをつかってたべましょう。


 二、まほうのハシをつかわずにごちそうをたべようとすると、ごちそうはきえてしまいます。


 三、ハシはただしくもちましょう。ただしくもたないと、ごちそうはきえてしまいます。


 四、ごちそうは、みんなでたのしくたべましょう。



「じゃあ、私は村にもどってるから、いっぱい食べてね」


 立て看板を眺めるリリーたちに、貴婦人はそう声をかけてから背中を向けました。

 来た道を戻って村に戻るように見えましたが、途中で木の陰に隠れてリリーたちの様子を伺いはじめました。


「なんだ、決まりごとなんていうから何かと思ったら……ようは箸で食べればいいだけじゃない、みんな、さっそく食べよう!」


 難しいマナーを守らないといけないのかと思っていたリリーはひと安心、先頭をきってテーブルにつきました。

 続いてみんなもやって来ます。


 テーブルにはたしかに木でできた箸がありました。これがどうやら、魔法の箸のようです。

 でも、魔法がかかっているとは思えない普通の箸でした。握るところが虹のような七色で塗られています。


「いただきまーす!」


 リリーはさっそくその箸で、目の前にある焼き魚の切り身を取ってみました。

 一口サイズのそれは焼きたてで、身はホクホク、皮はパリパリ。脂がキラキラと輝いて、実においしそうです。


「……ねぇ、これ本当に食べても大丈夫なの? 怪しさ爆発じゃない」


 しかし、イヴの一言でちょっと不安になり、口に入れる寸前で箸をおろしてしまいました。


「だ、大丈夫だよ……ねぇ? クロちゃん、なにかおかしなところある?」


 リリーが尋ねると、クロは首を左右に振りました。


「自分たちはすでに、強力な魔法の支配下にある。武器が駄菓子に変わったように、理解のおよばないことが起こりうる状況。したがって、自分にはこの料理が安全かどうかわからない。すべては、この空間の魔法を司る者次第」


「じゃあ、これを食べた場合、なにが起きてもおかしくないってこと……?」


 リリーのその問いに、クロはまた首を横に振ります。


「逆説的には食べなかったとしても、なにが起きてもおかしくはない。ただ『きまりごと』という制約が設けられていることから、自分たちを導く意図が感じられる」


「ははぁ、このワケのわからない『きまりごと』で、アタシたちに何かをさせたいってわけね」


 イヴはアゴに手をあてて、なるほどと唸ります。


「それは、いったい何なのでしょうか……? あっ」


 シロは驚いたような声をあげます。

 見るとそこには、箸で突き刺したミートボールを、口のまわりを汚しつつパクパク食べるミントがいたのです。


「おいしいー!」


 仲間たちの心配をよそに、ミントはごちそうの味に目をキラキラとさせました。


「ああっ、もう、ガマンできない! 食べなくても何あるかもしれないんだったら、食べちゃおう!」


 リリーは箸でつまんでいた切り身をぱくりと食べました。


「お……おいしいーっ!!」


 森のなかに、喜びの声がこだまします。


 ミントとリリーが食べてもなんともなかったのと、やっぱりお腹が空いていたので仲間たちもごちそうに手をつけました。


「うわぁ、うんまぁー!!」「これは……素晴らしいお味です……!」「……」


 かつてない味に目玉が飛び出しそうになっているイヴ、驚きの味に口を両手で押さえるシロ、いつもどおりのクロ。

 ごちそうは、どれも信じられないおいしさでした。


 さっきまでの疑り深さはどこへやら、リリーたちは夢中になってごちそうを頬張ります。


 しかし途中で、おかしなことに気づきました。

 魔法の箸が、ニョキニョキと長くなっていたのです。

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