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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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43

 温泉からあがった私たちは木陰で服を身につけ、涼しい夜風を浴びながら広場に戻った。

 あとは寝るだけなんだけど、ここは屋根のついた作業場がいっぱいあるので、その軒下で寝ようかと考えた。


 だがその案には、イヴちゃん軍団から猛反対されてしまった。

 せっかく家があるんだからあそこで寝ましょう、と言われて、私たちは広場の中央にあるログハウスの様子を見に行くことにした。


 ログハウスは大家族が暮らせそうなほど大きくて、平屋だけど高床式。

 中二階くらいの高さの階段をのぼると、広々したウッドデッキが迎えてくれた。

 木製のデッキチェアが並んでいて、天気のいい日はここで寝ると気持ち良さそうだ。


 それはさておき、窓ガラス越しに家の中の様子を伺ってみる。

 室内は暗くてがらんとしていた。人の気配は全くない。


 両開きの玄関扉を押してみると、鍵はかかっておらず、すんなり開いた。

 「おじゃましまーす」と一応ことわってから中に入る。ぞろぞろとみんなも後に続く。


 部屋の中は暗かったが、鬼火を引き連れたクロちゃんたちがやってきてじょじょに明るくなる。

 暗いところが苦手なクロちゃんはいつも8個くらい鬼火を出すんだけど、5人いっぺんだったので合計40個の鬼火がやって来て、室内は昼間のように明るくなった。


 外の広場とは異なり、家の中はあんまり生活感がない。

 物が置かれてないせいだろう。壁に備え付けの棚とかはあるのに、中身は空っぽだ。

 泥棒でも入ったのかな? と思ったが、それにしても何も無さすぎる。


 だいぶ古いのか、歩くたびに床のフローリングがミシミシいう。

 けど、掃除はそれなりにされているようで汚くはない。汚いよりはマシだけど、なんか変なカンジだ。


 玄関ホールから奥に進むと広い部屋に出た。

 高い三角の天井には明かりとりの窓があって、ほんのり月明かりが差し込んでいる。

 家具はなにもない。床にはカーペットが敷かれており、その上には20枚のマットレスが整然と並べられていた。


 「カンガルードラゴンたちはここに寝てたのかしらねぇ」とイヴちゃんのひとりがつぶやく。

 私はマットレスにおさまって寝るカンガルードラゴンたちを想像し、なんとなく微笑ましい気分になった。


 モンスターというのは知能が高くなればなるほど、人間に近い生活をするようになるらしい。

 カンガルードラゴンたちはおそらくこの場所で野菜を育て、作業小屋で調理して、そしてもしかしたら温泉にも入って、この家で寝起きしていたんだろう。

 ほぼ人間の生活だ。カンガルードラゴン……もしかしたらドッペルゲンガーなのかもしれないけど、かなり知能の高いモンスターだと想像できる。


 雑魚寝部屋の隣にある部屋も見てみたが、倉庫のようだった。家具などが雑多に詰め込まれている。

 いまは暗くてよくわからないので、明日の朝にでも調べてみることにしよう。


 結局、家の中は怪しい気配もないようだったので、私たちはここで寝ることにした。


 リュックを持ち込んで、キッカラの村で買ったカエル寝袋を取り出して着込む。色とりどりのカエル人間が21匹。ちなみに私は青いカエルだ。

 普段であればカエルごっこを始めるところだったんだけど、お風呂あがりで眠かったので、さっさと寝ることにした。


 リュックのところにクルミちゃんを立てかけておこうとしたが、クルミちゃんは跳ねて私の胸に飛び込んできた。

 「特別に、いっしょに寝てあげる!」なんて言ってるけど、どうやら私と離れるのが怖いみたいだ。

 もしかしたら、温泉について来たのもひとりになるのが嫌だったのかな……と思ったりもしたが、離れ離れになったスキにドッペルゲンガーに奪い去られても嫌なので、肌身離さないことにした。


 私はクルミちゃんを胸に抱き、部屋の真ん中あたりに寝転んだ。

 すかさず黒いカエルたちが集まってくる。クロちゃんだ。


 なぜかクロちゃんは私と寝たがる。それは別にいいんだけど、5人にしがみつかれるとなかなか窮屈だ。

 両脇に2人、上にのしかかるようにして3人、掛け布団になったみたいに私を包み込んでいる。


 それに触発されたのか、緑色のカエル姿のミントちゃんたちは白いカエル姿のシロちゃんに甘えていた。

 5組の親子ガエルができあがる。シロちゃんの豊かな胸に顔を埋めて、そのまま眠るミントちゃん。


 赤いカエル姿のイヴちゃんたちは、我関せずといった感じでさっさと背を向けて寝入っている。


 私は薄れゆく意識の中、悔しさに唸った。

 うう……またとないチャンスだったのに。こうやって寝転んだリラックスムードのなかで、夜通しみんなでおしゃべりしたかったのに……でも、みんな疲れてるみたいだ……それに、クロちゃん布団が意外と心地よくて……ね……ねむ……。


 私は開閉式の落とし穴の上に立ってしまったかのように……見事なまでにストンと、眠りに落ちてしまった。


 私はいちど寝付くと、朝になるまでは少々のことでは起きない。

 寝返りをうってベッドから床に転げ落ちても、開けっ放しの窓から鳥とか猫が入り込んで暴れても、ひたすらスヤスヤ寝ている。


 それは自分の部屋じゃなくても変わらないんだけど……その日は寝ているときにくしゃみをしてしまい、途中で目が覚めてしまった。

 何事かと思ったが、誰かの髪の毛が私の鼻に入ってコチョコチョくすぐって、それでくしゃみをしてしまったと気付く。


 一瞬クロちゃんの髪の毛かと思ったけど違った。長くて青い髪の毛だった。

 半分寝ている頭で、青い髪……? と疑問に思う。

 イヴちゃんは金色だし、ミントちゃんはライトブラウン、シロちゃんは黒だし、クロちゃんはグレーだ。


 目をこすってよく見てみると……髪の毛の主は、私の隣で眠る知らない女の子だった。

 いや、女の子というより女の人。私よりもずっと年上っぽい大人の女性だ。


 ウェーブのかかった青いロングヘアに、ぼんやりと青白く光る肌。

 長い睫毛に通った鼻筋、そして薄い唇。整ったパーツに、引き締まった面長の瓜実顔。

 山小屋の中だというのに、場違いなほど美しい青い羽衣のドレスを着ている。


 神秘的ないでたちのおかげで、雪の女王様みたいな人だった。


 すっごく綺麗な人だけど……いったい誰? なんで私の横で寝てるの……?

 知らない人なのに……それどころか初めて見る人なのに……なぜか不思議と親近感がある。こんなに側にいるのに全然イヤじゃない。


 うーん、なんだかよくわかんないけど……私が寝ぼけてるだけかな。それかたぶん夢だろう。でないと説明がつかない。

 でも、ま、なんでもいっか、それよりも寝よう。


 その女の人は抱き心地が良かった。せっかく夢なら、と枕のようにギュッと抱き寄せる。

 おでこをコツンと押し当てて、瞼を閉じる。


 ほんのりあたたかくて、気持ちいい……私はそのまま眠ってしまった。

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