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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
212/315

42

 木陰で服を脱ぎ、木の枝に引っ掛ける。

 風がヒンヤリしつつある季節に、こうして外でハダカになるのはやっぱり寒い。


 カエルの顔がいっぱい描かれた真新しいバスタオルを身体に巻き、小走りで湯気の方角へと向かう。


 ミントちゃんたち、私、イヴちゃんたち、クロちゃんたちの順で、池めがけて跳ねるカエルのように、温泉に飛び込んだ。

 途端、はぁぁぁぁぁ~っ、と心地よい息が漏れる。


 少し遅れて、着替えをしていた木陰からシロちゃんたちが出てきた。

 肩を抱きつつもじもじと恥ずかしそうに、石だらけの川原で転ばないようによちよちと慎重に歩きながら、みんなから少し遅れて湯船に浸かった。

 途端、はぁぁぁぁぁ~っ、と安らかな息が漏れる。


 私も、みんなも、言葉を忘れたように温泉の中で惚けている。まるで冬山の猿みたいだった。


 あったかいお湯は身体の内にじんわりと染み込んできて、かわりに疲れが溶け出してくみたいで……まるで全身をやさしくマッサージされてるみたいな快感だ。


 今日もいろいろあって大変だったけど、何とかなってよかった。

 何ともなってないような気もするけど、まあいっか。


 トラブルの一端であるクルミちゃんは湯船のふちに寄りかかったまま、剣とは思えないほどグニャグニャなっている。


「アンタ、剣のくせに温泉に入ってどうすんのよ」


 イヴちゃんがからかうように聞くと、クルミちゃんはもたげた柄頭をゆるゆると上げた。


「ボクくらいになると、温泉の良さというものがわかるんだ」


「ホントかしらねぇ、あとで錆びちゃって、この前みたいにエンエン泣いても知らないわよ?」


 ひたすらクルミちゃんにチョッカイをかけるイヴちゃん。彼女がご機嫌である証拠だ。


 ミントちゃんは早速泳ぎはじめていた。


 クロちゃんはタオルを使ってクラゲを作って遊んでいる。


 シロちゃんは温泉でも正座していた。それでもほっこりした顔をしているので、リラックスはできているようだ。


 みんなは自分なりに、温泉を楽しんでいる。どうやらかなり気に入ってくれたようだ。

 やっぱりみんなで一緒に入ってよかった……とつくづく思う。


 そして私はというと、みんなの身体に釘付けになっていた。

 もはや違いを見破ってやるなんて気はさらさらなくて、この記念すべき光景を脳に刻み込むのに必死だった。


 まず……イヴちゃんたち。

 ツインテールをほどいた金色の髪は羨ましいほどクセがなくストレート、時折吹く風になびき、金色のオーロラのように美しい。

 そして艶めかしい肩から鎖骨、贅沢に膨らんだ胸、そこからキュッとしまった腰……投げ出すように組んだ脚はスラリとしてて、まるで彫像みたいな芸術的なプロポーション。


 そして……ミントちゃんたち。

 ポニーテールをほどいた栗色の髪はふわふわで、まるでたんぽぽの綿毛みたい。

 凹凸は全然ないけど剥きたてのゆで卵みたいにツルンとしてて、小さなお尻はぷりっぷり。

 無邪気さも加わって、まるで羽根のない妖精のようだ。


 さらに……シロちゃんたち。

 髪が湯に浸からないように編みあげている。それがいつもは隠れているうなじがバッチリ見えてありがたい。

 全体的に色白でほっそりしてるんだけど、胸とか出るべき所は誰よりも飛び出ていてムッチリ、バスタオルの上からでもこぼれそうなほどになっている。なんだかお湯に浮かべたメロンみたいだ。


 最後に……クロちゃんたち。

 グレーのおかっぱの毛先が湯気で頬に貼りついていて、なんだか寝ぼけ眼とあわさって小悪魔的な色っぽさがある。

 ふくらみかけの胸以外はストンとしてて華奢、ほっそりした首、小さな背中、控えめすぎるお尻……力いっぱい抱きしめたら折れちゃいそうなほど頼りない。

 まるで生きた氷細工のように冷たく、美しく、そして儚い感じがした。


 みんなをひととおり見終えた私は、世界中の財宝を手に入れたお金持ちのように、うぅ~ん、と唸っていた。


 こんなに素敵なものが、一箇所にこんなにいっぱいあっていいものなんだろうか。

 なんだか自然の摂理とかを無視しているようで、バチがあたっちゃいそう。


 もし私に美術の才能があったなら、すぐさま絵筆を取っていただろう。

 でも私は絵が下手なので、こんな素敵な光景すらも地獄絵図みたいになっちゃうんだよなぁ……。

 せめて忘れないように目に焼き付けて、心の中の額に一生飾っておこうと思う。


 うーん、それにしても……なんでこんなに心動かされるんだろう。


 昨日、パン食い競争のときに初めて男の人のハダカを見たけど、枯れた土地にいる農夫みたいなわびしい気分になった。

 逆に、みんなのハダカはほぼ毎日に見ているはずなのに、ぜんぜん飽きない。黄金色に輝く大豊作の麦畑にいるみたいな恵まれた気持ちになる。


 この気持って、なにかに似てる……そうだ、子供の頃にミルヴァちゃんの絵画や像を眺めていたときのものと同じだ。

 ミルヴァ様の丸みのある身体に、子供の頃の私は玩具よりも、お菓子よりも夢中になっていた。

 聖堂に朝からいて、ママが迎えにくる夕方まで眺めていたこともあった。


 なぜそんなに心奪われていたかはわからないけど……みんなの身体は、ミルヴァちゃんに匹敵するほど魅力的だということだ。

 理由はまだわからないけど……ずっと見てたらいつかはわかるかもしれない。


 だからこれからもずっと、みんなのハダカを見ていきたい。

 そしてもちろん、見るだけで満足するつもりもない。


 ふと私の前に、ミントちゃんが「ラッコさん~」と仰向けの姿勢で漂ってきた。

 私は「親ラッコ~」と言いながらたぐり寄せる。


 抱きしめたミントちゃんをお腹の上に載せて背泳ぎし「親子ラッコ」ごっこをする。

 ミントちゃんの肌は赤ちゃんみたいで、密着すると吸い付いてくるみたいにいい肌触りだ。


 全身でミントちゃんを堪能していると「あ! ミントもー!」と他のミントちゃんも集まってきて、次々に私の上に乗った。

 のしかかられて、私はお湯の中に沈んでしまう。もがいていると、誰かが引っ張りあげてくれた。


 シロちゃんたちと、クロちゃんたちだった。

 右手をシロちゃんたちが引っ張り、左手をクロちゃんたちが引っ張ってくれた。


 心配そうなシロちゃんたちの十の瞳と、淡々としたクロちゃんたちの十の瞳に見つめられる。

 私はそのまま、近くにいたシロちゃんとクロちゃんを抱き寄せ、頬ずりした。

 他のクロちゃんたちもこぞって頬を寄せてくる。他のシロちゃんたちもしてほしそうだったので、私は全員に頬ずりした。


 ……ああ……なんという幸せ。

 どこを見ても眼福だし、どこに触れても極上。

 まるで特等しか入ってないクジの箱に、手を突っこんでいるような気分。


 それと気付いたんだけど、ひとりと仲良くしていると、他の4人も来てくれる。

 きっとヤキモチを焼いてくれてるんだ。

 そりゃそうか、例えば私のニセモノがいたとして、そのニセモノとみんなが仲良くしてるのを見たら、私も! って思っちゃうもん。


 偽物が混じったおかげでみんなをよく観察するようになって、なんだかみんなのことが更に好きになったような気がする。なんとも皮肉な話だ。


「あっ! ホタル! ホタルがいるわよ!」


 イヴちゃんが川の対岸を指さす。


 見ると、輝きを放つ宝石のような粒が、無数に暗闇を舞っている。

 森の木々はホタルの光によってオーナメントのように彩られており、なんともいえない幻想的な風景が広がっていた。


「うわぁ……!」


 みんなは溜息のような歓声をあげる。


「ほーっ、ほーっ、ほーたるこいっ」


 一列に並んだミントちゃんたちが、カルガモの子供みたいにお尻を振りながら歌う。

 かわいいショーの始まりだったが、すぐに中断した。


「……つづき、なんだっけ?」


「あっちのみーずはにーがいぞー、こっちのみーずはあーまいぞー」


 私は歌いながら立ち上がり、ミントちゃんたちの列に加わる。


「ほーっ、ほーっ、ほーたるこいっ、あっちのみーずはにーがいぞー、こっちのみーずはあーまいぞー」


 いつの間にか、クロちゃんたちも一緒になってお尻を振っていた。


 ……そうなったら、やることはひとつしかない。


「しーっ、しーっ、シーロちゃんもこいっ」


 私は即興の替え歌を口付さみながらシロちゃんたちの手を引っ張った。

 シロちゃんたちは戸惑っていたが、ミントちゃんたちにも促され、おずおずと列に加わる。


 頬を染めながら、控えめにお尻を揺らすシロちゃんたち。


「いーっ、いーっ、イーヴちゃんもこいっ」


 次はイヴちゃんたちの手を引っ張ったが、彼女らは面倒くさそうに首を左右に振り、立ち上がろうとしない。

 力で立たせるのは無理そうだ。でもあきらめきれなかったので、私はイヴちゃんたちにお尻を向ける。


「こっちのおしりはあーまいぞー」


 私はイヴちゃんたちの目の前を左右に平行移動しながら、突き出したお尻をクイックイッと振ってみせる。

 彼女らは顔をそむけながらお尻を押し返してきたが、しつこくやっていると、とうとう吹き出した。


 笑っているスキに手をひっぱると、しょうがないわねぇ、という感じで立ち上がってくれた。

 どんけつ遊びのように鋭い腰つきでブン、ブンとお尻を振るイヴちゃん。


「ほーっ、ほーっ、ほーたるこいっ」


 私たちはそろってお尻をフリフリする。


 お尻を振っているだけなのに、みんなでやるとなぜかとっても楽しくて……私たちはいつまでも歌い、踊り続けた。

 気がつくと身体がすっかりふやけており、指がシワシワになっていた。

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